クラス代表決定戦③
違和感…………それを探るために俺は攻撃パターンを変える。
能力の特定。本来はそれをやりたいところだが、相手が全くと言っていいほどそれを見せてこない。
故にこちらから動いて探るしかない。
「距離をとってみるか…………」
背中を見せず、正面を向きながらバックステップで後ろへと下がる。
「何故下がるのですか」
「近接戦だと分が悪いと思ってな」
相手がジリジリと近づいてくるが、その分俺も後ろへと下がり距離を取る。
この訓練場は広い。幅広い能力に対応できるような環境だ。
故に少しの時間が経っても彼女が武戦を壁に追い詰めることはなかった。
「次は近距離で………」
そう呟き、俺は一気に踏み抜く。
先ほどとは違う。今度はただ考えず攻撃するだけではない。
右拳を放つと見せかけ、途中で腕を引く。そのまま身体を捻り、回転させ左足で蹴りを放つ。
「っ!」
シグレはそのフェイントに惑わされず身体を逸らし避ける。
ならば次だ。
蹴り終わった足を回転させながら全身を回転させ、姿勢を下げる。
狙いはシグレの足元。その勢いのまま振りぬく。
「これも………!」
シグレは少し後ろへと移動し回避する。
それでも俺はシグレの元に踏み込み右肘を貫く。
「………………く!」
だがそれもシグレは腕を使い、いなす。
その状況に少しの危機を感じ、少し下がり呼吸を落ち着かせる。
「……………ふぅ」
「何をした所で、私に攻撃は届かない!」
「じゃあ………当てるまで続けるだけだ」
身体のギアを一段階引き上げる。
シグレがこっちの間合いに入ったと同時、俺は最速のジャブを打つ。
「シュッ」
と空気を切り裂く音が鳴りながら彼女へと向かっていく。
だが彼女は避ける。身体を少し逸らすだけで俺の拳は空を切る。
ーーーー違和感
?…………この攻撃で俺は違和感を感じた。
ならばこの攻勢にヒントがある?
そのまま俺は構えていたもう一つの拳を使い、同じ速度のジャブを繰り出す。
またもやシグレは避ける。
ーーーー違和感
「じゃあ次は連続で!!」
身体全体を駆動させ、流れるような動きで左、右と拳の弾幕を張り巡らせる。
その攻撃はもはや通常の人間では視認できないような速度。
だが、それでも。彼女は後ろに下がらない。
拳の弾幕が当たる距離にいながら、その全てを掻い潜り虎視眈々と反撃の糸口を探っている。
このままだとどこかの隙で彼女の反撃を喰らってしまうだろう。
ならば…………さらにギアを引き上げる。
全ての攻撃のスピードが上がると共に時折足による蹴りも繰り出される。
「当たりません」
彼女の呟いた言葉は自信を帯び、その宣言通り全ての攻撃を避ける。
ーーーー違和感
やはり感じる。何故だ?何が俺をそう感じさせる?
未だ考えつかない。そう判断し先ほどの拳と蹴り弾幕の速度を変えず、軌道を変えることにする。
「これはどうだ」
その瞬間、腕の軌道が変わった。今までの俺は腕を真っ直ぐに直線上でしか出していなかったが、その軌道を動かしている最中のまま変える。
その拳は、シグレの姿を鮮明に捉えた。
流石にこれは避けきれない。
そう思った瞬間、シグレの身体が僅かに沈んだ。
「………………………?」
そして次の瞬間、俺の拳は彼女の頬を強く裂き、掠めていた。
完全に当たる軌道のはずだった。
はずだったのに………彼女は頬を避けられながらも避けた。
ーーーー違和感
「何故避けることができる?」
「鍛えてますから」
「………………………」
いや…………おかしい。
俺の前に放った攻撃は通常の人間………いや、能力者でも見ることができないほどの速度だった。
鍛えてここまでになる領域なのか?
それだけじゃない。俺は最初の攻撃とは違う。途中で軌道を変えたり、攻撃そのものをキャンセルしフェイントも混ぜている。決して単純なパターンではない。
それなのに、シグレは避ける。
まるでーー俺がどんな攻撃をするのか、最初からわかっていたように。
一つわかっていることがある。それは彼女が遠距離系の能力者ではないということだ。
俺は最初に距離をとってみた。だが、相手は少しずつこちらに歩み寄ってくるだけで攻撃はしてこなかった。
「……………………」
シグレの表情を見る。
特に焦っている様子はない。
彼女の双眸は、こちらをじっと観察しているように見える。
「もしかして…………」
そう俺は呟くと、彼女の眉が僅かに動く。
「なんです?」
「いや、なんでもないさ」
まだ、確証がない。
だからこそ、もう一度試すのだ。
俺はゆっくりと彼女の前へと近づいていく。
特に作戦などは決めていない。ただただ何も考えず、彼女の前へと立つ。
「何が狙いですか………!」
「さあな」
素早く右拳を出す。
彼女は避ける。
ーーー違う。
拳を引き、左へ体を捻る。
その瞬間、シグレは動いた。
「……………!」
俺が次に何を出すか、その瞬間に。
シグレの身体は俺の攻撃を始める時より先に動いていた。
左へ。俺の攻撃が向かう場所から、あらかじめ避けられるように。
「ッ貴方………一体何を………」
「…………」
彼女は驚いている。当然だ、今まで散々素早い攻撃を出しておいて今放った俺の攻撃は。
驚くくらい、遅かったのだから。
「………そういうことか」
「何がです?」
「少しずつ………分かってきた」
無論、まだ断定はしない。
だが一つ分かったことがある。
こいつは、俺の動きを見てから避けているんじゃない。反応じゃないのだ。
俺が攻撃をするという選択よりも前に、すでに回避することを決めている。
つまりーーーー
「未来を………見ているのか?」
「…………」
ほんの一瞬、シグレの表情は固まった。
だが、それだけで俺は確信を持てた。
「図星か」
「……………どうでしょうね」
彼女は笑って誤魔化す。
しかし、その声音は余裕のある様子ではなく焦っているように感じられた。
「なるほどな、未来を見る能力か」
「そうだと言ったらどうしますか?」
俺は少し笑い、答える
「厄介だな」
「未来を見る。そんなことが出来るのならこの試合の勝敗は見えるのか?」
「見えますよ。もちろん私の勝利です」
嘘だ。これは断言できる。
「嘘だな…………せいぜい未来は見れて一瞬。さっきの攻撃に引っかかったのがその証明だ」
一瞬先の未来を見る能力。
それなら今までの違和感にも説明がつく。
俺の攻撃を見てから避けているのなら、あの異常なほどの回避力は説明ができない。だが、前もって攻撃される未来を見ているのなら話は別だ。
どれだけ速くとも、攻撃が来る場所を事前に知っていれば避けられる。
「先程の攻撃、俺はあえて遅く繰り出した。それはお前の反応を見るためだ」
「……………それで?何が分かったんですか?」
彼女の額に汗が滲む。
「俺は想像上では素早く蹴った。だが、実際に放ったのは遅い蹴り。だからこそ、あの時混乱していたんだろ」
「ふふっ、バレちゃいましたか」
シグレは再び構えをとる。
その顔には先ほどの警戒とは違う。どこか嬉しそうな表情が浮かんでいた。




