最後まで秘めたるは奇襲の如く
意識が………薄くなってきた。
「いったい……俺はどうするのが正解なんだ……?」
彼は未だ迷っていた。相手を全身全霊で叩き潰すのか。それとも何とか相手の土俵に立ちながらも勝つべきか。
どちらにせよ彼は負けるつもりなど毛頭ない。
だが、勝ち方はどうにも心の中で迷うばかりだ。
「今の俺を見て、二人はどう思うんだろうな………」
武戦は………敵に敬意を称して正面から正々堂々戦うか………?
辰真が知っている武戦とは、入学試験で会った時の武戦でしかない。実際の所、武戦は相手によるとしか言えないのだが
シェイルは…………考えるまでもないか……武戦が歯が立たないと言っていた人だしな。うん………この程度苦戦するとも思えない。
分からない。結局何一つわからない。俺はどうするべきだ?誰かになぞって戦うべきなのか?
分からない………わからない……………
「うるさいなぁ姉ちゃん………大丈夫だよ…もう……緊張は無くなったよ」
その声がはっきりと聞こえた瞬間、辰真の体は強く反応し無意識に斧を持ち上げた。
「何だ……?体が勝手に………」
「別に容赦なんて僕は望んでいないよ。ここからはもう体が強張ったりなんかしない。前までの僕とは少し違うんだ………全力でやらないと君が病院送りになっちゃうよ」
「そうか………じゃあ望み通りにしよう」
彼の心は、ここで晴れた。
その瞬間、ぬるりと如月が下を這うように動き、辰真の前へと突き進む。
「またお得意のバリアか?さっきと変わってねえじゃねえか!」
「いや、変わっているよ」
「ガキンッッッ!」
その瞬間辰真が斧を振り下ろそうとしたが、その攻撃は最高速になる前に止められてしまった。
「な!?腕からじゃない………!?」
それはどう考えても如月碧から生じたものでは無く、地面からできた壁であった。
「別に………腕からしか壁を出せ無いなんて……言ってないよねぇ!!」
その隙を見逃さず、たとえ辰真が振り抜いたとしても当たらない位置に変え、心の中で唱える。
「解除」
そして辰真の真上で止められていた斧は動き始めるが、勢いが止められてしまったので一度振り下ろしてから再度振り抜くしかなくなった。
その隙を見逃さず、彼は拳を固める。
「貰った!!」
「いやマダだアァ!」
勢いを失った斧を無理やり力で方向転換し、彼の拳に照準を合わせる。
「左手がある!!」
だがそれは如月の左手によるバリアにそらされ、更に無理やり方向を変えた影響で手から斧がすっぽ抜けてしまった。
「沈んでくれ!!!」
そう声に出しながら彼は固めた拳を突き出した。
その瞬間ドゴッッッ!!という鈍い音が出され、辰真が後ろに吹き飛んだ。
感じていたのは確かな手応え。確実に相手は気絶しているだろうという確信。
そんなことを感じていた。今までこの戦いで、幾十もの拳を浴びせた。ヒットアンドアウェイであったら自分の圧勝であるはず。
だが、相手の姿を見るまでは油断はいけない。油断は………「隙あり」
「ゴフッ!?」
心の中で唱えていた瞬間、気づいたら彼の目の前に突如辰真が出て顔面を振り抜いた。
覚悟していなかったあまりの衝撃に思わず膝が抜け、しゃがみ込む。
「いったい………何が起きた?」
「俺の打たれ強さ………甘く見たな。そして執拗に顔ばかり狙っていたから予想できたぜ」
今まで如月碧は辰真に対して顔ばかりを狙っていた。これは彼がボクシングを習っていたからであり、そしてボクシングでは顎への攻撃が有効なのだ。
「そして………バリアを自在に作ることができるくせに貼らなかったのがお前の油断だ」
「ぐうの音も出ないね………」
だが以前として優勢は未だに僕だ。辰真は武器を失っている………さっきの拳だって力任せに振り抜いてきた。その隙はデカかったはずだ。
しかし………あまりにも威力が高い。どんな技術よりも力任せが一番怖いとはこの事か。
相手がまた距離を一瞬で詰めてきた時用に、壁をバレないように貼っていく。
自分の能力である透明な壁を作り出す能力というのは非常に便利だ。
だが、当然デメリットも存在する。
その一つとして自分の手から離れている壁というのは強度が落ちてしまうという事。
さっきの辰真の攻撃を防げたのは彼の斧が振り抜く前………ちょうど溜めを作っている間に壁を置いた事で防ぐことができたのだ。
そして二つ目…………手から離れている壁を作るにはクールタイムが必要なこと。
正直二つ目が大きい。さっきも生成をしなかったと言うよりできなかったのだ。
「敵から目を離すな…………!」
もう相手に武器はない。このまま順当にいけば自分が勝てるはずなんだ。
油断なんてしない。いつでも動き出せるように臨戦体制に入っておく。
でも何だろう…………何か忘れているような……………………………
そして辰真が飛び込もうとしてくる。
だが、先程設置した三枚の壁によってそれは阻まれる。
そしてその壁がどこまで続いているのかを探り、迂回して近づいてくる。
「大丈夫だ………四枚目のクールタイムは終わった。何も間違いは………」
…………あれ?今までで辰真の能力を見たことあったっけ?
そう考えた瞬間、ヒュッッッッと言う音が後ろから聞こえ、咄嗟に後ろを振り向いたら誰も持っていないのに斧が凄まじいスピードで迫ってくる。
これは当たったら致命傷になる!!!
「は!?何これ!?」
そう判断し、思わず腕をクロスさせガードをする。
例え腕をガードさせたとしてもその衝撃は凄まじく、ギャリギャリと削られている音が続く。
何とかそれを防ぎ切るも、
「俺の勝ちだ」
隙を全く見逃さず、辰真は後隙を全く考えない全力のパンチで如月碧を捉えた。
辰真ほどタフネスがない如月はその攻撃を喰らい、意識が消える。
そして、ついに勝者が決まったのだった。




