意識の狭間の戦い
「二人も吹き飛んだね」
「もうすぐ終わりそうです」
現在俺とシェイル。そしていくつかのクラスメートたちが体育館の観戦場から辰真対如月碧の試合を見ていた。
二人は激しい攻防を繰り返し、辰真の渾身の一撃を如月が全力で受けた事により体育館の地面が割れ、更に互いに吹き飛びそれぞれ壁をへこませた。
「そういえば、武戦は彼らの能力が分かりましたか?」
「まぁ、注意深く観察していれば大体わかったよ」
当人と直接戦っているなら気付きづらいと思うが、俯瞰してみると意外と分かりやすいことが多い。
ここで見ていたら、如月碧の行動の違和感に気づきやすかった。
「空気を固めているのか、はたまた強化した透明ガラスを使っているのかはわからないが」
「まぁ、透明な何かを具現化する能力といったところかな」
「私も同じ意見です」
―◇―
壁に激突した後、数秒の時を経て辰真は目を覚ました。
「く………う……痛……」
「一体何が起きたんだっけ……?」
起きた直後だからか少しだけ記憶を取り戻すのに時間がかかった。
「あぁ……そうだ!如月は!?」
例え戦っていた相手であっても相手に落ち度はないし自分にも落ち度はない。
だが、辰真は超重量の斧を如月に全力で振り抜いたのだ。
「流石に心配だな………」
少しふらつきながらも足を前へと進める。戦いの幾十ものメリケンサックによる拳は確実に辰真にダメージを与えていた。
目の前に見えた光景は最後の攻防により、煙が舞っている。
そして彼は見た。顔が血に染まり、目が白く見開いたまま歩いてくる如月碧の姿を。
「まだ……僕は………倒れ…ない」
みるからに満身創痍で、すぐに気絶してしまいそうな傷の損傷だ。精神力で無理やり体を動かしている。
「おい!大丈夫かよ!?」
そう声をかけるが彼の耳には届いていないように、前に足を進めてくる。
「…………………………………」
その瞬間、いきなり辰真の頬に一筋の血が滴る。
「な……危な………!」
蛇のようにぬるりと入ってくる拳が通り抜けた。
「おいおい……どうするよ…」
辰真は満身創痍の敵を追撃するほど心を鬼にすることができる人間ではない。だから今でも自分のことをほぼ意識がない状態で狙う如月を、斧でやり返そうとは思えなかった。
「ッッッく……!」
「意識が限りなく薄いのか!?何処から攻撃が来るのかが読めない!!」
「………………………………ここ……」
限りなく小さな声で発せられたと同時に繰り出された攻撃は辰真の腹へと突き刺さった。
斧を置いて戦うべきか?いや、いくら満身創痍だからといって相手の土俵で戦ったら痛い目を見るかもしれない。
く……何でいきなり攻撃が読みづらくなったんだ。何か前と違う事でもあったのか?そもそもこれは戦いじゃないか。なぜこんなことを考える必要がある?相手に全力を尽くして戦う。これが最も礼儀正しい行動じゃないのではないか?
思考がまとまらない!!
「グフッッ!!」
迷いが生まれ、辰真の動きは先程よりも悪くなっていく。それによりまた如月の攻撃を喰らってしまいよろめく。
実の所、如月碧の動きが変わったのは大した理由ではない。
ただ緊張がほぐれただけなのである。
如月碧はボクシングを習っていた。それは自分の能力と相性がいいから。他にも理由はあるのだが、自分の能力と良い効果をもたらすからと続けていた。
だが、能力者というのは珍しい。彼の通っていたボクシングジムにも当然能力者はいなかったのだ。
そして必然的に彼は同じ条件、つまりは非能力者としか戦うことができなかったのである。
命の危険を伴う戦いなどする事もなく、彼はこの能力者学園に通うことになった。
そして現実を知ってしまった。
自分の能力など周りと比べれば大したものではないのだと。
最初の入学試験で彼は数人の能力者と戦った。いずれも戦った相手は人の痛みなど気にしないような奴らばかりで必死に逃げ回った。
一人目は頭がおかしかった。
「ようやく能力を自由にぶっ放せるぜェェェェェ!!!!」
「全員俺のサンドバッグになりやがれェェェェェ!!!!」
二人目は様子がおかしかった
「誰だ!!この僕を!!こんなにも緑が多くてうっとおしい場所に送りつけた野郎はァァァ!!」
「お前かァァァァァァ!?」
三人目は姿も見ることができなかった
「え!?何あの弾幕………こっちに向かってくる!?」
「何とか能力で防御を………!」
そしてそれは着弾した瞬間大きすぎるクレーターを作り出した。
彼は自分が特別強い人間ではないと自覚している。
昔は周りが自分とは違い能力を持っていたことによって無意識に心が守られていたのだ。
だがそれはここに来てから無くなり、すっかり萎縮して消えてしまっていた。
それでも、彼はそこで諦めることなく進むことを決めた。
彼と姉の約束があるから。諦めそうになった時、悲しくなった時、苦しい時。決まってそんな時も姉との約束を思い出して前に進むのだ。
そう、ただ彼は緊張していただけだ。
敵が斧を持っていて自分が死んでしまうかもしれないと、緊張してしまっただけだ。
緊張により体が無意識に強張り、無駄な動きをしてしまっていたが、意識が薄くなった事により、それが無くなった。
「おい!いい加減目を覚ましなよ!!碧!!!」
頭の中にうるさい声が響いてくる。
「うるさいなぁ姉ちゃん…………大丈夫だよ…もう……緊張は無くなったよ」
そして如月碧の意識は覚醒する。彼の目は真っ直ぐと辰真に向けられ、両者の視線が交わった。
シェイル「辰真は何を躊躇しているのでしょうか」
武戦「…………情じゃない?」




