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観察

「トワ・シグレ?」と俺は呟く。自分の足りない頭で必死に過去の情報を探る。

結局、少し考えていたら思い出した。確か自己紹介で「私は武術に自信があります」と言っていた女性。

俺はその人の立ち振る舞いで大体のことは何故かわかる。実際彼女は何か武術に精通しているのだろう。だが、問題は果たしてそれが能力に関係があるのかと言うことだ。


能力にはスキルなどの概念はない。厳密に言えばスキルを使うことができる能力者も居るらしいが基本的には一つの能力を応用する形だ。能力を使いこなしたとして勝手に脳に新しい技が浮かび上がることはない。


「まあ自己紹介くらいで相手の強さが分かるわけもないか」とこれ以上は考えがつかなかったので体育館の観戦場所に戻る。一目見ただけで強者と分かったのはシェイルくらいだ。彼女は出会った時から体から危険信号が出るくらいには圧倒的な存在だった。


俺の試合は同時進行の二試合目だそうで、まだ一回戦が始まってい俺は敵の情報視察をしにいく。


一回戦目は辰真(たつま)悠木碧(ゆうきあおい)だ。単純に能力者同士の戦いが見たかったし辰真を応援するためにも空いている席に座る。

「武戦も辰真を見に来たんですか?」と当然のように俺の隣にいたシェイルはそう声をかけてくる。

「友達は応援したいしね。それに俺は能力がないから見てみたいんだ」

「お望みなら目の前でいくらでも見せてあげますよ?」

「殺戮ショーになるじゃん」

「私はそんな野蛮ではありませんよ」

そんな軽口をお互い言い合っている時にはもう試合が始まっていた。


さて、まずはお互いの様子見から始まっているようだ。ちなみに武器は持ち込もうと何でもありだが能力によっては邪魔になったりするかもしれないので、人それぞれだ。

当然辰真の武器は斧になるわけだが悠木が使っているものはずいぶんと小さいものだった。


「あれはメリケンサックですかね?」

「多分そうだと思う」


現在俺達が見ている場所は試合の邪魔にならないため一つ上の階にある観覧席であり、辰真達とは少し離れている。


「あ、辰真が動いた」


そう呟いた瞬間辰真の姿は見えなくなり「ガキンッ!」と言う音と共に風圧がこちらに届いた。


「凄いスピードですね。それに斧が体育館の地面に突き刺さっています」

「流石に威力が高いな。斧がとてつもなく重いのか辰真の力が強いのか分からないけど」


自分は能力者ではないので能力というものを詳しく理解できていない。

そういえば、シェイルは辰真の能力を知っているのだろうか?俺は前に斧に関係する能力だと伝えられたがそれがどう作用するのかが分からない。


「武戦は二人の能力がわかりますか?」とシェイルから話しかけられる。

「まだ分からない」

けど、それはこれから分かる。俺の特異体質である思考加速。まぁ圧倒的な集中力とでも言えるが意識をすれば俺の中で世界は止まる。


辰真の攻撃は結果から言えば悠木には当たらなかった。だが、これから考察できる情報は多々ある。まずは音の問題だ。先程俺たちの耳には「ガキン」と聞こえたが、これは明らかに体育館の地面に突き刺さった音ではない。

どちらかと言うと金属に当たったような音だった。

ならばそれは何処から?


「多分悠木の能力…………」


そう考えているうちにまたもや戦局が変わる。先程から辰真が前のめりの攻勢を仕掛けているが悠木はそれを軽くいなしていく。


「いなしているように見えますがだいぶギリギリですね」

「やっぱり威力を警戒しているのかな」


そう、悠木は軽々と動き回ってはいるが表情は明るくない。むしろピンチだと言っていいだろう。


「シェイルは悠木が何の能力を使っているか分かる?」

「まぁ十中八九攻撃系統の能力ではないでしょう。自己紹介の時もサポート系だと言っていましたし」


サポート系か…………範囲が広すぎて分からないな。


そう考えていたと同時に、「ドゴッ!」と言う鈍い音が聞こえてきた。

それは辰真がまたもや地を蹴り敵の前に迫ったと同時に先ほどとは違う大振りのスイングで攻撃しようとしたところを悠木が何らかの力を使いそれを防ぎ反撃として右ストレートを振り抜いたのだ。


「これは辰真は痛そうですね。メリケンサックが威力を底上げしています」


確かに辰真は痛そうだ。顔にクリーンヒットしたからか口から血が出てきてしまっている。


だが、悠木はこれで能力らしきものを使った。恐らくもう隠すことはないだろう。今まで彼が能力を使わずに戦っていたのは相手の観察をするためであり、勝率を少しでも上げるためだ。


きっとお互いに手の内は全く知れ渡っていない。まだ試合は始まったばかりなのだから。





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