ハッピーエンド?
「わあ!悪意を食べるってあんな感じなんですね」
「うむ。なんというか……凄いな?」
単に黒いのがなくなって穏やかになる、みたいなイメージだったのだけれど。
グレイの周りの黒い影がみるみる減っていくのと同時に、グレイの表情も変わっていく。
彼はふと怪訝そうな表情を浮べ、立ち止まった。
その目からは先ほどまでのギラついた危うさがすっかり消えている。
「あれ?」と胸に手を当て、首をかしげるグレイ。
今度はボクとジルをじっと見つめ、またしても「おかしいな」と小さく呟いているようだ。
その肩では小さな精霊が自慢げに胸を張っていた。
ボクはジルをチラリと見た。
ジルがコクリと頷き、グレイに足を向ける。
「どうかしたのか?」
「い、いや、なんでもないんだ。その……クリスくん、君は今、幸せ?君のいる場所は、君が望んだもの?」
今の彼からは以前感じた嫌な粘着きがない。
その質問は、とてもフラットなものだった。
ただ「思ったことをそのまま聞いた」とでもいうような。
ボクはにっこり微笑んで答える。
「ええ。大好きなジルと一緒なので、最高に幸せです!」
「そう。そうか……。幸せなんだね……。私は……勝手に……。
いや、なんでもない」
自分の言葉を噛み締めるように口にするグレイ。
「は、はい。ありがとうございます?」
「クリス君が幸せで良かった。卒業おめでとう」
彼はどこか切なげな笑みを浮かべ、「じゃあね」と去っていった。
「……何だったんでしょう?」
ふう、と息をついたボクに、ナイトが教えてくれた。
【悪意に呑み込まれたやつはああなる。悪意ってさ、拗らせた好意が元になってることも多いんだよ。
そうすると、悪意を喰ったときに、その好意もフラットなものに戻るんだ】
なんだかものすごく含蓄のあることを聞いた聞いたする。ナイトのくせに。
【あー!今俺のことけなしただろう!分かるんだからな!】
「ごめんごめん。ということは……」
ボクの言葉をジルが引き継いだ。
「私への嫉妬や悪意と共に、その理由であるクリスへの邪な想いも消えたということか」
【あたりー!じゃあ俺、ケイオスのとこ戻るから!後でなー】
あっという間にまた人混みの中に消えてしまったナイト。
唖然としたボクの肩をジルがそっと撫でた。
「いずれにせよ、あのままではグレイにも良くない。悪意と共にクリスへの気持ちも無くなって、グレイ本人はスッキリしたと思うぞ?」
「そうでしょうか?」
人の気持ちを好き勝手にいじってしまったようで、少しだけ罪悪感のようなものが……。
そんなボクにジルが力強く頷いた。
「ああ。そうだ。……叶わぬ思いを抱えたままでいるというのは、辛いものだからな。もし私なら、と想像するだけでも恐ろしい。
想いが通じ合った私たちは非常に運がいいのだと改めて実感した」
確かに!
「あのね、ジル。初恋って敵わないものらしいんです。でも、クリスの初恋は敵ってしまいました。ボク、最高に運がいいんですね」
「ふふ。それは私もだ。私は運がいい。こうしてクリスと出会い、想いを返して貰えたのだから」
そこからボクたちは二人で磁石みたいにくっついて、知り合いに挨拶をして回った。
途中でお父様とお母様が合流して、お二人が「ボクたちに紹介しておいた方がいいと思う方々」に紹介してくれた。
なんて紹介するんだろうと思ったら、お母様は素晴らしく便利な言葉を編み出していいた。
曰く。
「こちら、次代のクライスですの」
「母がお世話になっております。ジルベスター・クライスと申します」
「クリストファー・グリフェウスと申します」
ちょっとドキドキしながら挨拶をすれば、鷹揚な笑みが返ってきた。
「ああ、きみたちが!君たちの母上と父上から噂はかねがね。
ジルベスターくんは首席の上に剣術大会殿堂入りなんだろう?優秀なんだねえ」
「!そうなんです!あの、学園の武術大会をご覧になったことはありますか?あの武闘場でレイピアを天に翳すお姿!荘厳と言う言葉そのものでした!ああ、思い出すだけで胸が熱くなります……!」
「クリスったらもう!……ごめんなさいね。このようにクリスは婚約者であるジルが大好きなんですの」




