素行不良の伯爵家
ちなみにグレイこそがいわゆる「今代は素行の良くないものが多いため高位貴族控室から除外された伯爵家」のうちのひとりだ。
伯爵家には、例のクレイグ叔父と取引をしていた「ちょっと考えの甘い」家が多い。あの事件で、クレイグと深くかかわっていなかった取引相手はサッと手を引いたのだけれど。
ずぶずぶに癒着していた「クレイグの仲良し」たちは、クレイグの失脚と共に道を同じくしてしまったのだ。
お父様たちはその無表情で冷酷だと誤解されていたし、クレイグはそれを利用して自分の周囲に愛想良くふるまい気前よく散財していた。そせいで、クレイグの口車に乗って甘い汁を吸っていた「仲良しの伯爵」たちは、クレイグがおかしいのではなく「クライス公爵が冷酷だから弟を見捨てられるのだ」と思い込み、その間違いを正そうとはしなかった。
グレイも伯爵である自分の父親から何かしらの影響を受けていたのかもしれない。
彼はジェシーとボクの対決のときにジェシーの側についてジル批判をした、ジェシー新派のうちのひとりだったのだ。
「あんな冷酷な人と兄弟だなどクリス君が可哀そうだ」と周囲に触れ回っていたのだとクラスメートが教えてくれた。
クラスメートは「ジルベスター様がクリスを溺愛しているのなんて見ていたら分かるのにね」と笑ってくれたのだけれど、ボクたちと親しくない人の中にはそれを信じた人もいたみたい。
きっとゲームであの日ジルを糾弾していた人の中にもグレイがいたのだろう。あのまま放置していたらゲームのようになっていったのかもしれない。
そのことを知ったのはノートを拾って貰ったときよりも後なのだけれど。
そんな人が親切ぶってボクに近づいてきたことに、ものすごく腹がたった。
だからボクはグレイが嫌いだし、あれから必要以上には関わらないようにしていたの。
クラスも違うし、ボクの周りにはアイク様やシス様、ジルもいたから、特に近寄ってくることもなかったのだけれど……。
「私への批判もクリスへの邪な想いからだったのだろう。その私がクリスの婚約者だと知り、あやつも焦っているのかもしれぬ」
ジル曰く、実はボクに釣書が送られてくる釣書の中にはグレイからものものあったのだそう。
「婚約者代理の地位の許可をクリスにとっていたゆえ、当然問答無用で送り返したがな」
まさかあのボクのお披露目会でのお約束でそんなことが行われていたとは!
何もかもが初耳ですが?!
「……教えてくださっていたらもっと警戒したのに」
呆れたボクにジルが眉を下げた。
「クリスの意識に有象無象を残したくなかったのだ。ゆえに私が知っていればよいと思った。すまない」
「まさかのそんな理由!」
ボクが怒ったと思ったのか、なんだか叱られた犬みたいな顔でボクを見下ろすジル。ふふ、なんだかかわいい。
思わずよしよしと手を伸ばして頭を撫でる。
「えっと、心配しなくても、ボクの頭の中にはジルしかいませんよ?」
「そ、そうか。うむ。私の頭に居るのもクリスだけだ」
なんとなあく見つめ合ってえへへと笑いあっていると、鋭い視線を感じた。
グレイだ。
その表情からはいつもの「人好きのする笑顔」は消え去っている。
代わりに浮かぶのは、怒り、焦り、嫉妬……。
ボクではなくジルをじっと睨みつけていた。
その周りには……黒い影!
「ひえ!あれはダメです!」
思わずジルの袖をグイっと掴んでボクの背に隠した。
ジルの方が大きいから隠し切れなかったのだけれど。
「クリス!」
ジルもボクを隠そうとしたので、なんだか押し合いみたいになってしまった。
【なにしてるんだ? なあ、アイツ真っ黒なんだけど、あれ食べていい?】
突然の陽気な声に驚いてみれば、ナイトだった。
どうやらナイトもグレイの異変に気付いていたみたい。
【ジルに悪意が向かってるみたいだからさ。俺、食べてきていい? 】
妙に張り切って「ハイ!」と小さな手を挙げている。
「アレも食べられるの?」
【闇の精霊だからな。悪意とか嫌な気持ちとか、苦しみ、悲しみ、全部食べられるぞ? 】
ケイオスくんにくっついてその周りにある悪意を食べていた結果、クレイグやそのお仲間の伯爵たちからはもうあんまり黒いのが出てこなくなったらしい。
でもお仲間の息子であるグレイたちの悪意は、まだ食べていなかったんだって。
【一応許可とかいるのかと思って。にここにある黒いの、全部食べてもいい? 】
ボクとジルは顔を見合わせた。
うん。心はひとつ。
「お願いします! バクバクッと全部いっちゃってください!」
【あはは! りょうかーい!】
妙に軽い返事を残し、パタパタっとナイトが飛んでいく。
ナイトの動きを追っていると、ふとグレイと目があってしまった。
「クリスくん!」
ぱああ、と目を輝かせてこっちに来ようとしたところで……
【いただきまーす】とナイトが肩に止まってバクバクと食事を始めた。
「……?」
何かを感じたのか、グレイがその足を止める。
おかしいな、とでもいうかのように小さく首をかしげた。
それからボクをじいっと見つめたまま動かなくなった。
いったい何が起こっているんだろう。




