会場へ
見知ったもの同士、和気あいあいと過ごしていると、なんだか今日が「あの日」だってことを忘れてしまいそう。
チラリと隣に立つパートナーを見上げれば、気付いたジルが相好を崩した。
「どうした、クリス」
そっとボクの頬に手を触れ、顔を覗き込むジル。
「えっと、なんでもありません。ただ……あの、夢の中では今日が……」
言葉を濁したボクにジルが微苦笑した。
「ああ。私が断罪されたとかいう日か。……ふふふ。面白いものだな?」
「はあ?全然笑えませんよ!ボクの大好きなジル様がアイク様に……!!」
ジロリとアイク様を睨めば、アイク様がぎょっと目を剥いた。
「私?!いや、それは……例のほうの話だろう?私はジルを信頼のおける仲間だとおもっているし、親友だとおもっているんだが?」
心外だ、と膨れるアイク様にジェシーが味方する。
「もうさあ、ボクだってジル様に逆らおうなんて思ってないんだから。いいかげんそこから離れたら?
そもそもそっちのクリスはモブでしょ。ジル様がモブを選んだ時点でもう全く違う世界になってるんだってば!クリスが変えたの!……ボクだって今のこの感じ、けっこう楽しいって思ってるんだからさ」
最後の言葉はボソボソと早口だったけど、ちゃんと聞こえた。
「……ジェシーって素直じゃないよね」
「はあ?!ボクは自分に忠実ですけど?!」
「ああ。確かに前も今も自分の欲望に忠実ですよねえ……」
リョウにされた色々を思いだしてスンとなってしまった。
色々知っているミノくんも、ざっくりとボクの過去を話してあるジルも微妙な表情だ。
「い、いや、あの、その……それは悪いと思ってる。……ごめん」
珍しく慌てて神妙な表情で頭を下げたリョウに、思わず笑ってしまった。
ああ、本当に変わったんだなって思って。
ううん、違う。戻ったみたい。
ボクが大好きだったころの、ヒーローだったリョウに。
普段は偉そうにしているくせに、ボクが怒ると慌ててご機嫌を取ってきたりしょんぼりしたりするんだよね。
「……そうやってると、ジェシーも可愛いよね」
ぽそりと呟けば、ジルがビクリと身体を震わせた。
「こやつがか?!…………私とどちらが可愛い?」
「「「「ぶはっ!」」」」
笑い声が被って聞こえる。アイク様、シス様とリオ、ウエイン様だ。
ケイオスくんは必死で口元を押さえている。
「ふは!氷の令息も可愛くなったものだな。まさかジルの口からそんな言葉が出る日が来ようと……!」
笑うアイク様をジルがジト目で睨む。
「好きに言うがいい。私も必死なのだ。クリスは可愛い上に人たらしゆえ、気が抜けぬ」
拗ねたような声が無性に可愛くて。
「あのね、ジェシーの可愛いはネコとか犬に対する気持ちと同じなのですが、ジルへの可愛いは、愛おしいとか大好きとか胸が痛くなる可愛いなのです」
言って「きゅ」と手を握れば今日一番の可愛いジルの顔を見ることができた。
ジェシーが「ちょっとお!ボクをペット扱い?!酷くない?!」とかキャンキャン吠えているけれど、ちょっと静かにしてて!ジルの顔を目に焼き付けているところなんだから!
と。
「コンコン」
控室のドアがノックされた。
「失礼いたします。そろそろお時間です。大広間においで下さい:
時間のようだ。
スッとアイク様が「皇太子殿下」の顔になった。
「分かった。では向かうとしよう。
入場順だから、ケイオス、シス、ジル、私の順だな」
言ってその目を悪戯そうにくるりと回す。
「あーあ、私たち以外はみな婚約者同士か。みなパートナーを間違えるなよ?
クリス、落ち着いていくのだぞ?安心してジルに任せればいい。
ジル……私もクリスもジルが思っている以上にこの日を待ち望んでいた。今日こう言えることを嬉しく思う。遅くなったが、ジル婚約おめでとう。幸せになれ」
この中で唯一ボクの側の友達、リオが笑う。
「クリス、良かったな。ジル様を幸せにしてあげてね」
幸せになって、じゃなくって、幸せにしてあげて、というあたりが、リオらしい。
ずっと応援してくれていたものね。
初めて学園に入ったとき、知り合いのいないクラスで一番最初に話しかけてくれたリオ。
ありがとう。
ボクはリオに向かって繋いだ下を掲げて見せた。
「はい!ボクがジルを幸せにします!」
先頭は最初はカイザー様とルド。
ルドは王城なんて初めてのはずなのに存外落ちついている。「カイザー!太客を捕まえるぞ!」と張り切っていた。
この大らかさと精神は、さすが真・主人公だ。ルドならあざと系じゃない本来の「正しく主人公」になったんだろうな、なんてちょっと思ってしまった。本人は今の自分で満足そうなのだけれどね。
カイザー様もルドに影響されたのか「俺の父上が来ているからな。利用してバンバン上位貴族をモノにするぞ!」とルドと固い握手を交わす。
この二人が先頭にいるおかげで緊張が少し和らぐ気がする。
二番手はウエイン様とケイオスくん。
二人とも、まるで騎士団の凱旋のように、胸を張ってビシッビシッと歩いている。
ふふふ。こうしてみると脳筋同士とってもお似合い。
あんなにヤンチャだったケイオスくんがすっかり飼いならされている。
ウエイン様を尊敬して崇めていたものね。
その肩にはさりげなくナイトが。ケイオスくんが心配でついて来てたみたい。
ナイトはニヤリと笑ってボクに手を振った。
「久しぶりだなクリス!こいつはちゃんと俺がみてるから!」
なんだかいいお兄さんしてる。ケイオスくんに気付かれなくてもちゃんと守ってあげているんだね。
次のシス様とリオは、義兄弟での婚約者ペア。ボクと同じだ。
二人とも「クリスとジルに勇気を貰った」と言ってくれた。
ボクは何もしていないけれど、ジルに勇気を貰ったという気持ちはとってもよくわかる。
さすがジル。お友達の幸せまで運んでしまうとは。やっぱりジルは天使。
その次がボクたちで、ボクたちの後ろ、最後のトリがアイク様となる。
会場に向かいながら、後ろのジェシーが背中をつついてきた。
「もう!やめて!」
「あのさ。今さらだけど……ゆう、おめでとう。幸せになって」
……ほんとやめて。
涙がでちゃうでしょお!




