入場です
会場は保護者入り口と卒業生とそのお相手の入り口とに分かれていた。
保護者は先に会場入りしホールの両サイドで待機。
卒業生は一旦控室に集まり、下位貴族から順番に中央入り口から入場し、ホールの奥の壇上にいらっしゃる陛下の前で名を名乗って挨拶、後ろに戻って待機。
「学生の内は身分の差なく」という建前で過ごしてきたのだけれど、このパーティーからは一人前の大人として扱われるため、家格の低い順、つまり平民から順番に入り前で挨拶して後ろに下がる、これを繰り返していけば、最終的に陛下の一番近い場所が高位貴族になる、というわけ。
挨拶を済ませたら陛下から卒業祝いのお言葉があり、それがダンスパーティー開始の合図にもなる。
これが大まかな今日の流れ。
つまり、学生たちは入場時に両サイドから貴族たちに品定めされることになる。
婚約者がいない生徒の親は、親類兄弟をパートナーとした生徒を血眼になって探すし、使用人や側近、侍女などを求めている高位貴族は、下位貴族の生徒を真剣に品定めし青田買いする。
その一方で、ボクたちのような高位貴族の生徒は、その家門に連なる家や、取引先などから「付き合うにふさわしいか」「将来の見込みはあるか」を品定めされることになるわけだ。
当然「ダメな跡継ぎ」だと見なされれば、さりげなく距離を置かれたり、手を引かれたりする。
要するに「卒業祝いパーティー」と言いながらこの入場から生徒たちの貴族として、社会人としての戦いは始まっているのだ。
馬車の窓越しに見える王城は、ライトアップされてなんだか昼間の姿とは違い別世界のように見える。
キラキラと輝く夢の世界。噴水のしぶきが光に照らされ、まるでダイヤモンドが降っているみたいだ。
「ふわぁ……。なんて綺麗なんでしょう!」
「クリスは夜の王城は初めてか?」
「はい!昼間はアイク様に呼ばれて何度かお邪魔したことがあるのですが。
お兄様はお父様といらしたことがあるんですよね?」
「ああ。アイクと婚約していた頃にも何度か、な」
「夜のお城はなんだか星が降っているみたいですね」
そう言ってお兄様を振り返れば、夜空を宿した瞳がライトを受けてキラキラと煌めいていた。
「……わぁ……!ジルの瞳にも星が沢山あります……。とってもキレイ……」
「ふふふ。クリスの青空にも星がきらめいているぞ?」
そっと顔を寄せ、瞼にチュッとキスを落とされる。
ボワンと赤くなったボクにジルが笑う。
ああ、なんて幸せなんだろう。
先に到着したお父様とお母様が、馬車から降りた。
後ろのボクたちをチラリと振り返り目配せ。
小さく「頑張りなさいね」と口を動かし、会場入りしていった。
次はボクたちだ。
先に降りたジルがボクに向かって手を伸ばしてほほ笑む。
「さあ、クリス。おいで」
力強く握られた手。
ボクの腰をしっかりと支えてくれる腕。
そのすべてがボクに力を与えてくれた。
「ジル。ボクがんばりますね」
「クリスはありのままで十分素晴らしい。心配する必要などない。……そうだな、素晴らしすぎて懸想する輩がでぬか、その方が心配だ」
「ふふふ。それはジルのほうです」
「ならば、今日は私だけを見ているのだぞ?」
「勿論!ジルの晴れ姿なんですよ?一瞬たりとも見逃すつもりはありません!」
「ふは!私も一瞬たりともクリスの姿を見逃さぬようにせねばな」
クスクスと笑い合えば、気負っていた力が抜けた気がする。
さすがはジル!
「では控室に向かうとしよう」
ボクたちの他にも次々と馬車が到着し、見知った顔が降りて来る。
みんなドレスアップしていつもより少しだけ大人の顔だ。
ボクたちの姿を目にすると一様にギョッと目を見開くのが面白い。
分かる分かる。だって今日のジルはすっごく……なんていうか、セクシー。
大人の色気と可愛さがあふれ出ていて、目が勝手に引き寄せられちゃうんだよね。
でも、ジルはボクのジルなので!
ボクはそっとジルの腕に手を掛けた。
「どうかしたか?」
言いながらそっと手を繋ぎ直してくれるジル。
ああ、ボクはあなたが本当に好き。大好き。
「えへへ。なんでもありません」
今のボクは兄弟としてではなく愛し合うパートナーとしてジルの隣に並んでいる。
それがとても不思議。
でも絶対にこの場所を誰かにわたすつもりはないので!ジルがそう望めば別だけれど!
ジルに相応しい相手だと認めてもらえるように、頑張る!




