ジェシー
思っていたよりもすんなりと受け止めていただけた「夢の話」。
ほっとしたのも束の間。
アイク様は忘れてはおりませんでした。
「ところで、クリス。私の最初の質問の答えがまだだよ?あざと姫はジェシカ?彼に何を言われたの?彼もその夢に出てきたのかな?」
砕けた口調ではありますが、その瞳は雄弁です。「逃がす気はない」と語っております。
「あざと姫というのはなんの話だ?」
お兄様の空気が変わりました。
ああ、こちらも「逃がす気はない」ようです。
……まだどう話をしたらよいか纏まっていないのですが……。仕方ありません。
ボクは渋々口を開きました。
「……最初に言っておきますが、あくまでも夢の話です。そして、今の状況はその夢とは変わってきております。そういう前提でお聞きくださいね?」
これだけはしっかりと釘を刺します。
そもそもジェシーの中身はリョウになっております。確実にゲームのジェシーとは別物なのですが。
それはそれ。ゲームのジェシーを演じる気はあったようですし、リョウとしてではなくジェシーについて語ることに致しましょう。
「分かったよ。そういう心づもりで聞くから話をしてごらん?」
サラリと流したアイク様とは逆に、お兄様はうっそりと目をすがめ、腕を組みました。
これはお兄様のご機嫌がよろしくない時のポーズです。
「……その口ぶりでは、アレも夢に出て来ていたのか」
既にアレ扱い!
ご自分の断罪に関わるとご存じないはずなのに……。野生の勘というものなのでしょうか?
アイク様も苦笑しております。
「えっと、お兄様の仰る通り、ジェシーも夢に出てきたのです。あの……」
チラリとアイク様に視線を送れば、ボクが何をいうのか心得ているかのようにアイク様が肩を竦めました。
「アイク様とお兄様はまだ婚約されておりました。そこにジェシーが現れ……アイク様やウエイン様、イクシス様、皆さまジェシーの虜になるのです。それでジェシーを新たな婚約者とするために、その真偽を確かめずにジェシーの言うがままに『ジェシーに陰湿な嫌がらせをした』だとか『冷酷で人の心が分からないのだ』などといってお兄様を断罪したのです!お兄様が嫌がらせなんてするはずないのに!絶対にジェシーの誤解なのに!幼馴染で婚約者だったお兄様を疑うなんて、酷いです!アイク様の馬鹿っ!」
言っている途中で腹が立ってきて思わずアイク様を攻めてしまいました。
「いや、それ夢の話だろう?!私は違うからな?!」
「……もともとお前の好みはああいうタイプなのだからな。そもそも私が婚約者に据えられたのも、幼き頃の私の外見によるものが大きいのではないか?…………アレに誑かされ、古くからの友を裏切るとは……。婚約解消できて良かった。クリスのお陰だ」
心底軽蔑したといった風にアイク様をジロリと見やったお兄様。
ボクをそっと引き寄せ、頭を撫でてくださいました。
「だからそれは夢の話だろう?!」
アイク様は焦ったように顔の前て手を左右に振って必死で言い訳をされました。
「でもアイク様、ジェシーの外見はお好みですよね?」
コロリと手のひら返しで敵に回ったアイク様に、ボクがどれほどがっかりしたことか!
「出会って10年、婚約者の何を見ていたのですか!」と襟元を掴んで揺さぶってやれたら、とどれほどはがゆく思った事か!
じとー。
恨みがましいボクの視線にアイク様が目を彷徨わせ「……嫌いなタイプではない……かもしれない」と言いかけ、慌ててこう言い足しました。
「しかし、あくまでも外見の話だぞ?……あれは……論外だ。彼はクリスとジル、特にクリスに異常な反応を見せていた。クリスも様子がおかしかったが……その理由は先ほどの説明で理解できた。ジルが関わるとクリスはおかしくなるからな。だが、アレの反応の意味が分からない。敵意というよりも……どちらかというと執着のように感じた。
クリスはその理由を知っているのではないか?」




