可能性の世界
「夢にみたのは、たぶんifの世界線の話」、そう締めくくったボク。
お兄様とアイク様はどう思われたのでしょうか?
神妙な表情で何か考え込んでいらしたお兄様が、重々しくそのお口を開かれます。
「要するに……私とクリスは運命の相手だということだな」
「………は?いや、待って?この壮大な話の結論がそれなのか?」
思わず突っ込むアイク様。
えっと……正直言うと嬉しいのですが、アイク様の仰ることに完全同意です。
この世界には魔法も超能力もありません。
ブリードさんやアクアたちのことを思えば正確には「無い」と言い切ることはできませんが、一応そういうことになっております。
そんな中で「夢で未来を見た」って相当なお話だと思うのですけれども。
それをあっさりと信じ、さらには「ボクとお兄様が運命の相手」だとさっくりと結論付けたお兄様。
なんというか……それでよいのですか?!
嬉しさ半分、本当に受け入れて下さるのかという怖さ半分、何とも言えない表情で固まるボクを見て、お兄様がふっと口元を緩めました。
「つまりはクリスは私と出会う前から私のことを夢で見ていた。そして、私に好感を抱き、私が苦境に陥るのを見て胸を痛めてくれていた。そして実際に私と出会い、私が夢のように苦境に陥ることなきよう早くから私を救うため頑張ってくれていた。そういうことなのだろう?」
「えっと……ザクッと纏めればそういうことです」
うん。確かにそうなります。
前世のボクはイジメられていて、ゲームのお兄様が前を向いて立つお姿に救われたとか、そういうボクにとって大切なことはまだ言えませんけれど。
ジェシーについてどう伝えていいのかまだ分かりませんから。
ゲームの彼が「お兄様を陥れた」というのはあくまでもボクの側からみた見解であり、真実とは限りませんし。リョウについても完全にボクだけの事情なので、お兄様たちを巻き込むのもどうかと思うのです。
曖昧に頷くボクの肩をお兄様がそっと抱きしめてくださいました。
「クリス。私はこの話を聞いてとても嬉しく思った。
その夢の中の私が皆に冷酷だと誤解されていたというのは……間違いではないのだろう。実際にクリスト出会う前の私はそういう人間だった。というより……すべてにおいて諦めていたのだ。
それを変えてくれたのがクリスだ。
アイクの言う通りだ。夢と今の私には大きな違いがある。
クリス、君だ。君が側にいなかったから、夢の中の私は……感情を無くした無表情のままだったのだ。
君が私に感情を思い出させてくれた。表情を取り戻してくれた。
もう夢のようにはなるまい。つまるところ、クリスが私の運命を変えたのだな。それが良く理解できた。
……クリス、君が側に居てくれることを嬉しく思う。感謝する」
思わず涙が出てしまいました。
記憶を取り戻してからの、ボクの頑張りが実を結んでいたんだなと思って。
ボクはお兄様をあの運命からお救いすることができていたのでしょうか。
それなら……ボクが生まれ変わった意味があります。
「それは私も同意する。クリスと出会う前のジルは……正直嫌いではなかったけれど、私たちに決して気を許さなかったから。心に隔たりのようなものを感じていた。
最初はその外見が好みで婚約者になれて嬉しかったのだけれど……悪いけどすぐに違うと気付いたからね。ジルと私は……そのう……同じ側の人間なんだってね。せめて、良い友人となれたらと思っていたんだけど……それもなかなか難しくて。
クリスと出会ってからにジルはとても人間らしくなった。今の私は……ジルのことを親友だと思っている。
そういった意味でも、クリスは運命を変えたのだと思うのだが?
周りに対してのガードもいい意味で緩んだしな。今のジルが私は好きだぞ?」
「好き?!」
まさか、またお兄様を狙って……
「そういう意味ではない!友人としてだ 、!」
「ああ、良かったです!せっかく婚約破棄できたのに、またなのかと……!」
思わず口に出してしまったようで、とたんにアイク様が恨めしそうな表情になりました。
「私が好きなのは君だと言ったはずなんだがなあ、クリス?そして私を盛大に振ってくれただろう?それなのにまだ疑うのかい?さすがの私もへこむよ……」
「クリスは私のものなのだ。運命なのだからな。諦めろ」
「運命というのならば、私だってその夢に登場していただろう?つまり私も…
「ごめんなさい。運命はお兄様だけでアイク様はそのオマケみたいなものだと考えて頂ければ……。いや、むしろ……敵?」
「敵?!それはひどすぎるのではないか?兄弟そろって傷口に塩を塗り込むスタイルなのか……」
ガクリ、とアイク様が肩を落としました。
それを見たお兄様、一瞬目を丸くした後、
「……ふ……っふふ………っ、ふは……っ!アハハハハ!あ、アイク、お前……クリスに完敗ではないか…!フハハハハ!クリス、よくぞ言った!」
と大爆笑!笑いすぎて目に浮かんだ涙をぬぐっていらっしゃいます。
「え?嘘だろ?!ジルが……爆笑だと?!」
落ち込んだのも忘れ、あんぐりとお口を開けてお兄様を凝視するアイク様。ボクは爆笑するお兄様を見たことがあるのですが(何ならお会いしてすぐに大笑いされましたし)、アイク様は初めてだったみたい。
「笑うようになったのは知っていたが……こんなに大爆笑するジルは初めて見た……」
笑うと年相応なんだな、となんだか嬉しそうなアイク様。
「運命か……」
しんみりと呟き、ボクの頭をそっと撫で囁きました。
「《《世界をも》》超える愛だね」
え?世界?
一瞬ボクの前世のことを言っているのかとドキッとしましたが、そんなはずはありませんよね。
アイク様を見れば、いつもと同じお顔でうんうんと頷いております。
うん。
気のせい気のせい。………ですよね?!




