リョウ
あと数日寝ているように、と言われてしまいましたので、ボクは頭の中を整理することにいたしました。
「心配だから側にいる」と渋るお兄様には「大丈夫です。これ以上お兄様を休ませるわけには参りません。ボクの代わりに学園がどうだったか教えてください」と学園に行っていただき、ボクはお留守番中なのです。
本来ならジェシーは数か月遅れて入学してくるはずです。どうしてゲームより早く入学していたのでしょう。
ボクはともかく、アイク様たち攻略対象と接触するのはもっと後のはず。なのになぜもう接触してしまったのでしょう。
ボクが居たから?それともジェシーの中身がリョウだったから?
どちらにしろ、何の準備もなく出会ってしまいました。
ボクが居る時点でイレギュラーを想定しておくべきでした。悔やんでも悔やみきれません。
でも幸いなことに、今回のショックで前世の記憶を全部思い出しました。
あの三日間は、恐らくリョウのことだけでなく膨大な記憶が蘇った負荷によるものだったのでしょう。
脳がそれを処理し続けた結果、熱が出てしまったのだと思います。
ジェシーがゲームのままのジェシーであれば、ボクが対応できました。彼がどう行動するのか大体わかっていたからです。それを先回りして回避したり逆に利用してやれば、お兄様をお守りできたはず。
そしてアイク様たちのようにジェシーもゲームとは違っていたのならば、それはそれで仲良くなる道もあったのかもしれません。
でも、ジェシーの中身がリョウならば話は別です。
リョウはとても頭がいいのです。前世のボクはそれで嵌められたのですから。
親友だったのに平気でボクを裏切り孤立させたリョウ。そもそも彼がボクの何が嫌であんなことをしたのか、ボクを貶めて何をしたかったのか、記憶を全部取り戻しても分かりませんでした。
「周りから誰もいなくなって、ゆうには僕だけになればいい」とか言っていましたが、それでボクの周りから人がいなくなるようにボクを孤立させる意味が分からないのです。
だってそんなことされたら「リョウなんてキライ」「僕を裏切ったリョウにはもう会いたくありません」ってなるに決まっているでしょう?実際にボクはそうなりましたし。
頭がいいはずなのに、どうしてそんな考えになったのでしょうか。
ボクには彼の思考が全く理解できません。
「でもね。ボクにも絶対に譲れないものはあるのです」
前世では逃げて引きこもってしまいましたが、今のボクは違います。
逃げたりしません。しっかりとやり返します。
大切な人がいるから。守りたい人がいるから。ボクは強くなったのです。
お兄様に聞いた話から、リョウもボクが「ゆう」だと確信していると分かりました。それに、なぜかボクに「ごめんね」と言っていたようです。
まさか前世の自分の行いについての謝罪?
今さらでしかありません。だってボクはもう「ゆう」ではありません。クリスなのです。
でも、ジェシーとなったリョウがなにかしらボクに負い目のようなものを感じているのならば、好都合です。その分ボクに対してのガードは緩くなるでしょうから。
リョウはゲームなんて興味が無かったはずなのに、何故かこのゲームの内容を知っているようでした。「リョウ」である自分を隠して「主人公であるジェシー」を演じているように見えましたから。
その点で言えば、ボクが有利です。
なぜなら、ボクは本来ならばこのゲームの「モブ」です。ボクの情報はジルベスター様の設定資料の一文「父の再婚によりできた義弟がいる」のみ。つまりボクは、ゲームには登場しない、完全無欠のモブなのです。
恐らく本来のクリスは、公爵家への遠慮があってか、義兄とあまり関わろうとしなかったに違いありません。もしかすると、伯爵家でサイモン叔父さまと暮らしていた可能性もあります。とにかくお兄様との縁は薄かったのだと思います。
でも、ボクは違います。せっかく推しの義弟になれたのに、関わらないなんてことできません!そのままいけば断罪されるかもしれないお兄様をお救いすることこそ、ボクの使命なのですから!
こうしてボクが早くから積極的に関わったことで、少しずつ、確実にゲームの内容とは違う今となりました。
お兄様は以前は「無表情」だと認識されておりましたが、今では「弟に見せる笑顔が素敵」「冷たそうに見えてさり気なく優しいし、意外と気さく」だという認識に変わりました。「無表情からの笑顔」が萌えポイントだと言われており、生徒の憧れの的、愛されお兄様となっておるのです。
アイウとの関係も良好。お互いに言いたいことを言い合える仲であり、親友といえるくらいになっております。
今ならばあの三人が「お兄様ではなくジェシー側に付く」などということはないでしょう。
なんならもしお兄様が冤罪を掛けられたとしても、誤解を解いて回ってくれると思います。
ボクたちはこの10年でそう断言できるくらいには信頼関係を築いてきたのです。
たかが10年。されど10年です。お互いに笑いあい、励まし合い……はしていないかもしれませんが、とにかく同じ時を共有し友情と理解を深めてきたことは確かです。
リョウがゲームの内容を知っているのならば、ボクのように「ゲームと同じ」展開を予想していることでしょう。
彼にはまだこの世界の攻略対象アイウと触れ合ってはいませんから。彼らとお兄様、そしてボクの仲の良さは知らないはずです。
ぶつかったときのやりとりでそれなりに察しはしたかもしれませんが、ボクの10年の努力を舐めて貰っては困ります。ちょっとやそっとの横やりが入ったところでアイク様たちはどうにかなったり致しません。
つまり、ボクが気にすべきは「学園での評判」
こちらは「お兄様をまだよく知らない方々」、つまり高等部から一緒になった方々に気を付ければよいでしょう。
おかしな噂をばら撒かれたら、ボクもこれまでにお知り合いになった方々に力をお借りすればよいのです。
うん。
ちょっとだけ頭の中を整理したら、元気が出てきました。
前世のボクはゲームの中のジル様に元気を貰っておりました。
でも今のボクはその実物!本物のジル様のお傍にいて、毎日頭まで撫でて頂いているのです!
元気100倍、いえ、100万倍!絶対に負けません!




