ボク、アウトです!
眠ってしまったお兄様をそっとお布団に移し、ボクもその横にもぐりこみます。
ちなみに、移動はマーシャに手伝ってもらいました。
マーシャはいつもボクが「お兄様ってばとても可愛らしいのです」というと不思議そうにしていたのですが、ようやくお兄様のお可愛らしさを理解してくれたみたいです。
ボクの肩に顔を埋めすやすやと眠るお兄様を見て、目元を緩めておりました。
「うふふ。いつもしっかりしていらっしゃいますが、こうしてみるとジルベスター様もお可愛らしいですわよねえ?」
でしょう?お兄様はとってもカッコいいのですが、とってもとっても可愛らしいのです!
公爵家に来てから、ボクはしばらくお兄様と一緒に寝ておりました。
「キョウキュウカタ」で倒れるボクを心配し「慣れればよいのだ」と仰ったのがきっかけです。
そのまま当たり前のようにお兄様はボクと眠るようになり、ボクも最初はなかなか眠れず大変だったのですが、いつの間にかお兄様の胸が一番安心できる場所に。
大好きですから当然ながらドキドキもするのですが、それ以上にほっとするのです。
お兄様のシトラスの香りを嗅ぐだけで反射的にうっとりして眠くなってしまうほどには、定番の場所と化していたのですが……。
それが、ボクがお兄様の「姫」となりお兄様とアイク様の婚約が解消となったあの日から、ボクとお兄様は別々に眠ることになったのです。
お兄様曰く。
「クリスを抱きしめて眠る幸福を手放したくはないが……『婚約者の無い身となった以上、クリスと同じ床に入るべきではない』と言われてしまったのでな。
私としても……成長していくクリスと共に床に入りいつまでも冷静でいられる自信が無い」
ということなのです。
色々言葉を変えておっしゃっておりましたが、要するにボクも大きくなってきたのでさすがにベッドが狭いとかいうことなのでしょう。
「ボク、お兄様には蹴り落とされても腕でバシンとはたかれても大丈夫ですよ」
と言ってみたのですが、「クリスを守りたいのだ。その時が来るまで待っていて欲しい」と拒否されてしまいました。
それ以来、いつ新しい大きなベッドが届くのか、いつその時が来るのかとずっと待っていたのですが……。
なし崩し的に一人で眠るようになってしまっていたのです。
なので、お兄様とこうして二人同じベッドで眠るのは久しぶりです。
「ふふふ」
そっとお兄様に抱き着いて、その胸に頭を擦り付けてみました。
くんくん。
ほう……。
これこれ!この多幸感です!
じわじわーっと幸せが手や足の先まで広がっていくみたい。
すりすりすり。そうっと頬を寄せてみます。
あ、あれ?前よりの固くなった気がします!
ええ?!マッチョに磨きがかかっていらっしゃる?!
さわさわさわ。
ん?こ、これは……!腹筋がしっかりと割れている!前の割れ方よりももっとパキンです!
こうして触れてみると、その筋肉の素晴らしい隆起が良くわかります。
全体的に前はもう少しやわ揶揄った気が……でも今は固い。
もっちり?むっちり?うーん、違うどれもなんだかしっくりこない……
「!きゅう、っです!きゅうっとした筋肉!いつの間に!」
ん?
んん?
なんだか熱くなった気が……?
ドクン、ドクン、ドクン。
お兄様の鼓動がものすごく激しくなっております!!
「……クリス……そのう……何をしているのだ?」
「お、お兄様?目が覚めたのですか?」
顔をあげたそこには、耳まで真っ赤になったお兄様。口元を手で隠して困惑顔です。
「…?どうかされました……かーーーっ?!」
なんてこと!ボクったら、まるで痴漢です!
お兄様にすりすりし、臭いを嗅いで身体を撫でまわしてしまっておりました!
「ひゃああ!ち、違うんですっ!あの、あの、お兄様と寝るのは久しぶりだなって、いい匂いで気持ちいいなって、それで、それで、前よりも胸が大きくなっていらしたから……っ!なんか固くなってましたし……っ」
なんだか言えば言うほどドツボにはまっていくのはどうしてでしょう。
「クリス、もういい。大丈夫だ。……少し席を外す。すぐに戻る」
遂にお兄様はベリッとボクを引き剥がしてガバリと起き上がると、シーツを掴んで頭からかぶり、風のように素早く部屋から出て行ってしまいました。
後には取り残されたチカン、ではなくボク。
ああ……やってしまいました……。
しょんぼりとお布団の上に正座して待っていると、少し息を切らし目を潤ませたお兄様が戻っていらっしゃいました。ポタリ、と髪から雫が垂れます。シャワーを浴びていらしたようです。……ボクが触ったからでしょうか?
「……あー………居眠りをしてしまったようで、すまなかった」
いつもなら目を見てお話して下さるのに、目が合いません。すっかり嫌われてしまいました。
それはそうでしょう。目を覚ましたら弟が身体を撫でまわしていたのですから。
悪気はなかったとはいえ、やってしまったことはそういうことです。
余りの気持ち悪さに耐えきれず、大急ぎでシャワーを浴びるほどだったのです。
「……えと、その……ごめんなさい。あの、わざとじゃなくて、あの、前は一緒に寝てくださったのに、もうダメで、それで、それで、久しぶりで嬉しくて、あの……前よりも筋肉が固いなって、お兄様がマッチョになっていらしたので、それで…………凄いなって思っただけなんです………」
説明する声がだんだん小さくなってしまいました。
ああ。自分で言っていても、意味がわかりません。
「つまるところ……お兄様が大好きで、お兄様が大きくなられていたのが嬉しくて、でもボクの知らないお兄様なのがちょこっと寂しくて悔しくて。知りたいなって思っただけなのです……。ごめんなさい」
ものすごく情けないのですけれど、正直に言ってしまいました。
こんな情けない弟でごめんなさい。
ボクってばすごく甘えたで、狭量なのです。
無意識に「お兄様のことは何でも知っている」と思っていたみたいで、知らないお兄様に驚いてしまったのです。
「あの!ボク、部屋に戻りますね!もう元気になりましたので!えと、お世話になりました!」
泣きそうになって慌てて部屋から出ようとしたボクを、お兄様がギュッと捕まえました。
「クリス!」
「……あー……、すまない。少し驚いただけなのだ。嫌だったわけではない。むしろ……あー、ごほん、クリスを抱きしめて眠ることができて嬉しかったのだ。
だが、このような年齢になってまで弟に添い寝をして貰ったという自分が気恥ずかしくてな。それで、顔が見れなかった。……そういうわけだ。……ここに居てくれ。居て欲しい」




