大変なことになっておりました
話を聞いてびっくりです!
なんとボク、三日間も眠ったままだったのです!
しかも高熱を出していて、医師が喉を調べても問題はなく、肺の音を聞いても異常なし。「もしや頭でもぶつけたのか」「クリスのことだ、有り得る」と大騒ぎに。
外傷を調べてみるも、大したケガもなく……。
医師の出した判断は「異常なし」「原因不明だが、精神的なものが理由の可能性がある。数日で目覚めるのではないか」というもの。
遂にはお兄様、ブリードさんを抱えてボクの上に乗せ「クリスを治せ!できるだろう!」と言い出したのだそうで。ブリードさんがボクのペットのトカゲだと思っているお父様もお母様や使用人さんたちは
「冷静なジルベスターが……!クリスを心配するあまりトカゲにまで頼るなんて……」
「なんと麗しい兄弟愛なのでしょう……!」
と涙に暮れていたのだそう。
(ブリードさんの正体を知っているマーシャは「さすがジルさま!確かにブリード様なら……!」とジル兄様への尊敬の念が高まったと言っておりました。ブリードさんの正体を知る護衛さんたちは「手段選ばねえな。さすがだわ」と感心し、知らない護衛さんたちは「トカゲにまで!嘘だろ?!」爆笑したそうです)
ちなみにその時のブリードさんのお返事も「すぐ目覚めるだろう」だったのだけれど……。
お兄様は心配のあまりボクの側から離れなかったのですって。
そ、それは………それは本当に申し訳なかった!
まさか三日も経っているだなんて!しかも、熱まででていただなんて思いませんでした。
あのお兄様の表情にも頷けます。
みんなにもとても心配をかけてしまったのですね。
お見舞いの品かなにかでしょうか。ベッドの横には色々な花が活けられており、枕の横にはぬいぐるみが。
そして何故か……クッキー?
「……クリスは甘いものが好きだから、試しに口元に近づけてみたのだ。もしや匂いで目覚めないかと……」
恥かしそうに顔を赤らめ俯くお兄様。
きゅん!
どうやら本当に思いつく限りのことを試して頂いたようです。とても愛を感じます。
申し訳ないと思うのに、なんだか嬉しくなってしまいました。
ボク、お兄様の弟に慣れて本当に良かったです。
お医者さんを呼んで「もう大丈夫」との言葉を頂くと、ようやくみんなの顔に笑顔が戻りました。
「クリスったら、全く。キョウキュウカタにしても三日は寝すぎよ!熱まで出して……っ。もう少しお兄様に慣れなさいな」
お母様が泣き笑いでボクの頬をつねりました。
「い、いはいれふう…!」
今回のキョウキュウはいつもとは違うものだったのですが、それは言わないことにします。余計に心配させてしまいますから。
お兄様をチラリと見れば、お兄様も同じことを考えていらしたようで、小さく頷いてくれました。
「ティーナ、クリスが痛がっているぞ?なんにせよ、無事だったのだ。それでよい」
お父様が大きな手で少し赤くなったボクの頬を撫でてくれます。
お兄様やお母様とは違う、大きくて少しだけ固くなった手のひら。思わずスリ、と懐けば、反対の手でも反対側の頬を包んでくださいました。
「ふふふ。きもちいいです。お父様の手はとっても大きくて温かいです」
「目覚めてくれてよかった。クリスの笑顔や声のないこの三日は、屋敷が驚くほど静かで沈んでいた。クリスはこの家の太陽なのだ。もう心配させぬように気を付けて行動するのだぞ?無理はせぬように。何かあれば兄に頼りなさい。よいか?」
「はい!お兄様に頼ります!」
お父様とお母様はやさしくボクの頭をなで、つむじにキスしてくれました。
「もう何日かは大人しくしているのよ?なにが原因か本当のことはわからないのですもの。
ああ、そういえばアイク様もわざわざお見舞いに来てくださったのよ?後でお礼をお伝えしてね?」
「アイク様が!ええ?!それはご心配をおかけしました。会ったらお礼を伝えますね」
アイク様ったらとても義理堅い方なのですね。
ゲームの中と違い、こちらのアイク様は嫌いではありません。むしろ幼馴染としても、皇太子としてもそれなりの好意を抱いております。
ゲームの彼はきっとあざと主人公によって歪められてしまっていたのでしょう。うん。きっとそうです。こっちが本来のアイク様なのです。そうボクが決めました。
お兄様のお話では、アイク様たちが錯乱したリョウを強制退場させてくださったみたいですし、本当に感謝しかありません。
後で美味しいケーキをご馳走致しましょう。
「監視役に」とお兄様を残しみんなが居なくなると、お兄様から急に力が抜けました。
「お兄様?大丈夫ですか?」
「……だいじょうぶだ。クリスが無事で気が抜けてしまっただけだ」
へにゃりとほほ笑むお兄様。
全然大丈夫そうではありません!こんなに気の抜けた表情、初めてみました。
いつも完璧なお兄様なのに、なんだか庇護欲をそそります。
「……クリスこちらに……」
ふにゃふにゃしたまま、ボクに向かって両手を広げるお兄様。
な、なにこれ!かわ、かわ、かわいいっ!!
ボクのせいだというのが申し訳ないのですが、とっても可愛い!
余りの可愛らしさにギュウと胸が痛むなか、ボクはなんとか声を絞り出しました。
「え?…えと……こう、ですか?」
よじよじ。お布団からお兄様のお膝に移動です。
お兄様の満足そうな表情を見るに、これで合っていたようです。
ぽふっとお胸に顔を埋めると……ああ。お兄様の匂い。
どくんどくんお兄様の鼓動が聞こえ、とても落ち着きます。
ふうーっ。
お兄様の肩から力が抜けました。
「………よかった……」
小さな小さな声が聞こえ……
くたりとボクの肩にお兄様の重みがかかりました。
すー、すー……
……え?
「……お兄様?」
返事は安らかな呼吸音のみ。
え?ね、寝ていらっしゃる?
ぽん、とお兄様の胸元の小瓶からアクアが飛び出しました。
【あのねー、ジルってばぜんぜんねなかったの。ずっとクリスにおはなししたり、クリスのて、にぎったり、なでたりしてた。ねかせてあげてー】
【ボクもひやすのてつだったの!ほめてー!】
小さな頭を差し出すのでそっと撫でてみました。
感触はないのですけれど、ちゃんと撫でることができているのでしょうか?
えへへ、と嬉しそうなので大丈夫みたいです。
「ありがとう、アクア。お陰でお熱も下がりました。
お兄様ってばそんなにずっとボクを…?」
【そうなの。ままとかぱぱとか、みんな「だいじょうぶ」「ねなさい」っていったの。でも「めがさめるまでは」「めざめたらすぐわかるように」っていって、ジルのおへやにねかせてたー】
「それでボクはお兄様のお部屋にいるのですね」
【クリス、あいされてるねー】
「ふふふ。そうみたいです」
お兄様やみんなをすっごく心配させて、お兄様を泣かせてこんなに疲れさせてしまったボクが言うことではないのですが……
「………うれしいな」
リョウのことで冷え切った心が、今はとてもぽかぽかしています。
前世のボクは、ただ部屋に隠れて引きこもってしまいましたけれど。
今のボクにはたくさんの味方がいます。
大好きなお兄様がいてくれます。
ジェシーがリョウでも。
絶対に負けるつもりはありません。
自分のこともお兄様のことも守ってみせます!




