腹黒クリス?
まず初めに、ボクに嫌がらせをした人一人一人と向き合うことにしました。
これまではやり過ごしていたのですが、これからはきっちりと言い返します。
例のご令嬢には、念を入れて釘を刺すことに。
言葉は悪いのですが、いわゆる「クリスに手を出すとこうなるよ?」という見本となっていただきましょう。
ご令嬢のおうちはホーネット伯爵家の縁故であるロメイン子爵家。
ホーネット伯爵家といえば、お父様の弟のクレイグ伯爵です。
4年前、ボクのお披露目会でボクとお母さまを貶めるような発言をし、「クライス公爵邸立ち入り禁止」を言い渡された「望ましくない親戚」です。
ボクも「お父様とお兄様の敵」ということで、容赦なく大勢の前で「立場の違いをわきまえろ」を貴族的言い回しで伝えてしまいました。
要するに、ホーネット伯爵、クレイグ様は元々「長男だからと兄が公爵家の財産をすべて受け継ぐのはおかしい」「自分にも分け前を寄越すべきだ」と寄生虫のようなことをされていた方なのです。
あれ以来、縁を断たれたクライス家には恨みを持っているので、ロメイン子爵令嬢の上位であるホーネット伯爵家の協力は得られそうにありません。
そこでボクが手を借りることにしたのは、ホーネット伯爵令息のケイオスくんです。
実はこのケイオスくん、攻略対象の「赤髪ちょろ男」。
なのでいざピンク頭が登場した際は簡単に籠絡されぬようにしっかりと縁を繋いでおいたのです。
ケイオスくんも父親と同じくお披露目会でやらかしてくれましたが、その後ボクの要請に応えてきちんと謝罪してくれましたので、仲良くなりました。
伯爵家の中でも彼だけは公爵家への出入りを許され、時々両親に内緒で遊びに来ております。
この四年間で、ボクはケイオスくんに「あざとい子には注意」「会って早々、礼儀もわきまえず距離を縮めて来る相手には気を付けましょう」「耳に優しいことばかり言う人は信用してはだめです」としっかりと教え込みました。
その結果、今のケイオスくんはボクと同じ年齢ながら、まるで弟のようにボクに懐いてくれております。
一緒にお兄様の稽古を見守ったり、お兄様の素晴らしさを語り合う仲でもあります。
なのでここはケイオスくんに頼むことといたしましょう。
ロメイン子爵令嬢もさすがに令息ケイオスくんの顔と名前くらいは知っていることでしょう。
ご自分の家門のトップである伯爵家の次期当主なのですから。
そういうわけで、ボクはご令嬢に手紙を書き、それを「ロメイン子爵令嬢に『従兄弟のクリスから預かった』言って届けてくれる?」とケイオスくんに託しました。
ケイオスくんには手紙の内容も、彼女が嫌がらせをしてきたことについても何も話してありません。
なので彼はただ「いつものお茶会に来たら、知り合いへの手紙を託された」のだと思っています。
受け取ったご令嬢はきっと「どうしてケイオス様が?」と疑問に思うでしょう。
公爵家と伯爵家の仲が良くないというのは有名ですから。
きっとケイオスくんならばそんなことには頓着せず当たり前のように「先日クリスと茶を飲んだ際、頼まれたんだ。クリスと俺は親友だからな」くらい言うのではないでしょうか。
つまり、ロメイン子爵令嬢がまともな神経をしていれば「クレイグ伯爵とケイオス様の立ち位置は同じではない。ケイオス様は公爵家と近しくしているようだ」と察することでしょう。
そして「クリスはケイオス様に頼みごとのできる立場にある」のだということ、さらに「ケイオス様とクリスが親友だというのならば、ケイオス様はクリスに対する悪感情を良くは思わないだろうということ」に気が付くはずです。
リオにまで絡んできたところを見ると、非常に血筋にこだわる方のようですから、家門トップのご令息の威光には弱いはず。
ロメイン子爵令嬢の代でずっと付き合っていくのはクレイグ伯爵ではなくケイオスくん。ならばその不興を買うようなことは避けるのではないでしょうか。
ちなみに、両親やクレイグ伯爵にわざわざご自分の失態を伝えることもないでしょうから、ボクとケイオスくんのつながりがクレイグ伯爵に漏れる心配はありません。
ちなみに手紙にはこう書きました。
「ロメイン子爵令嬢様。
降りかかる火の粉を払うと決めました。二度目はありませんよ?
あなたが賢明な判断をされることを願って。
お友達やお仲間にもよろしくお伝えください。
クリストファー・クライス」
彼女はきちんとボクのメッセージを受け取ってくれたようです。
反クリスを声高に叫んでいた旗印が折れたことで、お兄様の学年のご令嬢からの嫌がらせは一気に無くなりました。
そして上級生の急変を見て何かを察したのでしょう。
次いで1、2年生からの嫌がらせもなくなったのです。
その代わりといってはなんですが、元アンチの方々からボク宛に様々な菓子折りが届けられました。
ワ、ワイロ?!
分かりやすい手のひら返しです。そこまで怖がられるとは思いませんでした。
ちょこっと釘を刺しただけですのに………。
ボクが激怒したのを見ていたリオとティムは、急にボクに媚びだした方々を見て何かを察したのでしょう。
こんなことを言っております。
「ラスボスはジルベスター様じゃなくってクリスだったか!」
いいのです。
お兄様や友人のためならば、ボクは喜んでラスボスになります!




