悪役クリス?
「リオ?ティム?授業に遅れちゃうよ?行こう?」
何故か動かないリオとティムの手を取ってもう一度促す。
「あ、ああ。ごめん。行こうか、クリス。怪我は無かったかい?」
早歩きで実験室に向かいながら、リオが気遣ってくれました。
「うん。ティムが助けてくれましたから!ありがとう、ティム!」
「いや、怪我が無くて良かったよクリス。意地悪をされたら言うんだよ?あと、リオと僕から離れないようにね。
クリスに何かあったら、僕もリオも命は無さそうからねー」
どうしてそんな遠い目を?
「大げさだなあ、ティムってば!
でも、ティムとリオも巻き込んじゃってごめんね?あの、無理だったら言ってね?ボクも頑張りますし、アイク様と公爵家の権力も最大限駆使しますから!」
「あはは!駆使しちゃうんだ?
うん。いいね、クリス。甘やかされているだけじゃなくて、現状をきちんと理解している。
さっきもかっこよかったよ?庇ってくれてありがとう。
クリスも怒ることがあるんだね。あんなことも言えるんだ、って少し驚いた」
珍しく茶化すこともない穏やかなリオの声に、そっと横に立つ長身を見上げた。
初めて会った時には「ちょっと軽い感じの人なのかな」って思ったんだけど(ごめんね。リオ)いつの間にかリオもボクの中で大切な友達になった。
だって、その軽そうに見える言動には、さりげない優しさや気遣いが溢れているって知ったから。
さっきだって、リオがあんな風に貶められたのは、ボクのせいでしょう?
リオはボクを庇ったからあんな目に遭ったのに。
全く気にしない顔で逆にボクにお礼をいうなんて。
ごめんね、って言いたいけれど言いません。だってリオはそんな言葉を求めていないって分かるから。
だから。
「ティムやリオがボクを守ってくれたみたいに、ボクだって二人を守りたいと思っているんです。
ちょっと頼りないかもしれませんが………。
大事な友達を貶められたら、ボクだって怒ります。当たり前でしょう?
遅くなったけど、リオ、庇ってくれてありがとう。二人が友達で良かった!」
本当のことを言います。
小さな嫌がらせはたくさんあるのです。
嫌味だって当たり前のように言われております。
でも、それ以上に温かな言葉をかけてくれる人たちがいて。
知らなかった方が「姫ちゃん」って声をかけたり、差し入れを下さったりして。
アイク様もお兄様もとてもやさしくて。
十分幸せでおつりが来るくらいなのです。
それに、これまでボクのことは何を言われても言い返さなかったのは、ボクにも非がある気がしていたから。
だってね。
単純に外から見て考えて欲しい。
伯爵家の子が、親の再婚で公爵家に入って。素晴らしくも美しい神のような義兄の優しさを独占しちゃっているのですよ?
オマケに血の繋がりもないくせに大切にされ可愛がられ、学園のヒエラルキーのトップに属する義兄の友人たちにも当たり前のように受け入れられ優しくされているのです。
本来なら同じ学園に通うことのない年齢にもかかわらず、飛び級までして。
学年も違うのにおそばにおいていただいている。
それを「弟だから」と温かく受け入れてくださっていた、学園の皆さんの優しさに助けられておりましたが………
一部の方々はさぞ面白くなかったことでしょう。
ただ、「兄弟仲が良い」だけなのにそれを口にするとご自分の狭量さを露呈してしまうことになるからこそ、見逃してくださっていたのです。
でも、今の状況はこれまでとは違います。
お兄様だけでなく「皇太子」であり「義兄の元婚約者」であるアイク様からも「姫」に指名され、特別扱い。
しかもその態度は明らかにこれまでの「婚約者の弟」に対するものとは違う、特別な相手に向けるもの。
つまり、悪意を持った見方をすると、ボクは「義理の兄に取り入り皇太子と親しくなった後で婚約解消させ、自分が皇太子の新たな婚約者になろうと目論むあざと令息」!
おまけに「高位貴族の子息を誑かして(イクシス様、ウエイン様、リオとティムです)ハーレムを作っている」ようにも見えてしまうのです!これはボクの被害妄想でもなんでもありません。実際にそう罵られたので、確かです。
ハーレムって、なに?ボク、まだ9歳なのですが?!
これって、どこかで聞いたような話ではありませんか?
そう、ボクの大嫌いな「ゲームの中のピンク頭」、あざと令息です!
令嬢かもしれませんが、どっちでも変わりません。
可愛らしく無害を装い、あざとさで周りを味方にし、お兄様を貶めたアイツです!
なんてこと!
ボクが望んだわけでもないのに、ボクが今いる立ち位置は、ゲームの中のピンク頭とそっくりなのです!
ピンク頭とボクとの大きな違いは、ボクには全く皇太子さまを攻略したいというつもりはなく、お兄様が幸せでいらして、お兄様をお護りできればそれでいいと思っていること。
そう、アイク様に対しては「どうしてボク?!」という困惑と「いい先輩」「優しい幼馴染」としての気持ちしかないのです。ボクの愛と尊敬の全てはお兄様に向けられているのですから。
それでもやはり、客観的に見て「ピンク頭と一緒なのかも」という立場はそれなりにショックです。それに、ボクを憎むアンチさんのことも理解できてしまうのです。
なのでボクはあえて言い返すこともなく「そう見えてしまいますよね。誤解を与えてしまって申し訳ない」という気持ちで大人しくしていたのでした。
でも、今日のことで考えが変わりました。
ボクが大人しくしていると、ボクを守ろうとしてくれる人たちが傷つけられることになるのですね。
愚かなボクは、ただ「ボクが耐えていれば穏便に収まる」のだと勘違いしておりました。
そんなボクの愚かさのせいで、リオが傷つけられてしまったのです。
あの時、リオの目に一瞬傷みが走ったのを見ました。
ボクは、友人を貶めたあのご令嬢も許せませんが、リオにそんな顔をさせたボクのことも許せません。
だから、心に刻みました。ボクはもう二度とボクの周りの人を傷つけさせたりしないのだと。
ボク、目が覚めたのです。置かれている状況は似ているかもしれませんが、ボクはピンク頭ではありません。単なるモブのクリスです。
ゲームのピンク頭が「自分の為に」行動していたのに対し、ボクはあくまでも「お兄様のために」「大切な友人のために」行動しているのですから。
最初から「ジルベスター様が全て」。
ならば、くだらない感傷に浸っている場合ではありません。
振り払う火の粉は払わねば!それが大切な人を護ることにつながるのですから!
それに、お兄様だけを護れればいいと思っておりましたが、間違っておりました。
大切な人を傷つけられたら、大切な人もボクも傷つきます。ボクが傷つけば、大切な人たちも、お兄様も傷つくのです。
だから、これからはもう自分もないがしろにしない。そう決めました。
でも残念ながら、ボク自身が使える力はまださほど強くはありません。
物理的にも、お兄様のように剣神でもなく、ウエイン様のようにムキムキしているわけでもありませんし。
いくら鍛えても筋肉にはならず、むしろ同年代の中でも弱い方なのですから。
なのでボク、なりふり構わないことにします。
使えるものはなんだって使います。
公爵家、という権力も。
アイク様という後ろ盾も。(これは元はと言えばアイク様の責任なのですから、責任はとってもらいます)
それと、前世チートによるこの世界の知識。ズルのようで良心の呵責を感じないでもないのですが、これは、ボクだけの唯一の武器なのですから。大切な人のためなら容赦なく使わせて頂きます。




