ボクにアンチが出来ました
ボクが「姫」になったことを、大半の方は好意的に受け止めて下さいました。
それにはやはりお兄様とボクが兄弟だということ、ボクと居るときのお兄様が表情豊かだということ(ボクと居る時のお兄様は一部の方にプレミアムジル様と呼ばれております)が大きいようです。
なんだかお兄様の傍に居てもいいですよ、ってお墨付きを頂けたようで、とっても嬉しい!
でも、当然ですが、ボクを快く思わない方もいらっしゃいます。
お兄様とアイク様は学園の人気トップ2。
お兄様だけならまだしも、アイク様が必要以上にボクを構うようになってしまったので、ボクはお二人の過激なファンからは「二股令息」だの「可愛い顔をして男を手玉に取る」だの言われております。
そう、実際にボクが一人になった途端、ボクに対して意地悪をされる方がいらっしゃるのです。
お兄様たちと居るときにはまたいいのですが、例えば移動教室などの際、忘れ物をして教室に取りに戻るときに廊下ですれ違った方に「実の兄弟でもないくせに偉そうに!」と睨まれたり、「あなたなどがお二人と釣り合うと思ってるわけ?図々しいわね!」と押されたり。
今のところ「体育館の裏に呼び出し」だとか、「放課後の倉庫に閉じ込められたり」みたいなことはないのですが、それなりに意地悪を言われております。
リオくんやティムが居るときにも、すれ違う人がボクにだけドンと肩をぶつけてきたりするので、たまに喧嘩になりかけてしまいます。
今日もすれ違いざまに足を引っ掛けられてしまいました。
実験室に行くには、三年生の教室の前を通らなくてはならないのですが……
(お兄様とお会いできればうれしいのですが、お兄様はこの時間は闘技場なのです。残念!)
三人でおしゃべりに花を咲かせているご令嬢の横を通った瞬間。
さっとボクの足元に、ご令嬢の足が伸びてきたのです。
「うわっ!」
「クリス!」
とっさに避けようとして転びそうになったところを、すかさずティムが支えてくれました。
さすがティム!ウエイン様に見込まれるだけのことはあります。
「まあ。騒々しいのね」
蔑むような視線でボクを嘲笑うこのご令嬢は、確か……武闘大会でお兄様を「ジル様」呼びをしていた方です。確か、お兄様と同じ学年。ボクを睨んでいらっしゃったのでよく覚えております。
明らかにわざと足を出したくせに、この態度。呆れてしまいます。
「貴方は確か……ホーネット伯爵家の遠縁にあたるロメイン子爵令嬢では?」
ボクが口を開くより先に、リオがボクを庇うようにご令嬢とボクの間に割って入りました。
そしてご令嬢に向かって皮肉気に唇の端を上げて微笑んでみせます。
「私はエリオス・アーシェントと申します。
クリスにわざと足を出されましたね?謝罪していただけますか?」
丁寧な口調ながら、目は全く笑っておりません。
そんなリオに対して、不遜な態度を崩さないロメイン様。
「あなた、先輩に対して口の聞き方がなっていないようね。今代の『姫』はお友達まで礼儀知らずなのねえ!
ねえ、エリオス様?アーシェントと仰られましたが、所詮は妾腹。イクシス様の恥にならないよう行動なさいな。
私はここに立っていただけ。言いがかりはやめて。私こそ、そこの粗忽な『姫』に足を踏まれてしまいましたの。謝罪するのはそちらでは?」
うわあ。すごい!
学園内は「身分は問わない」とはいえ、一歩外に出れば違う。
わざわざ相手の家名を上げたうえでアーシェント公爵家の次男であると告げたその理由を考えれば、こんな態度に出られるはずがないのに。
さすが、高位貴族であるジル兄様を勝手に愛称呼びするだけのことはありますね。とっても失礼。
くいっとリオの片側の眉が上がりました。
柔らかな笑みを浮かべるリオ。
ボクは知っています。この表情のリオは、かなり怒っているのです。
「リオ。ボクに言わせて?」
そっとリオの背に触れ、リオを宥めます。
リオ、嫌な思いをさせてごめんなさい。
この場はもともとボクのもの。なのでボクに任せてもらいますね。
そう、ボクだって怒っているのです。
ボクに対する嫌がらせだけならまだしも、リオのことまで貶すなんて!
とても許せるものではありません。
「驚きました。この学園にもこんな方がいらっしゃるのですねえ!
さすが、許しもなしに勝手に人の愛称を叫ばれる方は違います。ボクには全く理解できません。自分より立場が上の方を堂々と貶めるなんて!
ねえ、重要なのは彼がアーシェントを名乗るのを許されているということでしょう?宰相様がご自分の息子であると認め、イクシス様もそれを受け入れていらっしゃるということです。
それをあのように仰るなど、宰相様に対する挑戦と取られてもおかしくはないのですよ?
リオが《《わざわざ家名を挙げて名乗った意味》》をお考えになったほうがよろしいのでは?」
畳みかけるように告げ、にっこりと微笑んで見せます。
いつもお兄様に向けるものとは違う「貴族的な笑み」です。
「貴族の武器」とはよく言ったもの。
お兄様直伝の笑みで、この無礼なご令嬢を切ってみせましょう。
まさかボクが反撃するとは思っていなかったようで、かああっと真っ赤になって言葉を失うロメイン様。
その後ろで、ご友人の方々がそっと目をそらしました。
彼女たちも「まずい」ことは理解していたようです。
どれだけボクを舐めていたのですか?
友人を貶められて黙っているとでも?
これでも、きちんと伯爵家の教育を受けて育ち、公爵家の養子になってからは公爵家にふさわしい教育をうけてきたのですよ?
売られた喧嘩はしっかりと買わせていただきます。
うって変わって無邪気な笑みを浮かべながら言葉を続けます。
「ところで、あなたの足ってとっても長いんですね!
ボクの歩いていた場所とあなたが立っていると主張された場所とは、1メートル以上離れております。普通なら立っているだけで足が届くはずがございませんもの」
言いながらご令嬢の足元をチラリ。(ドレスなので足は見えませんが、パフォーマンスとして)
ハッと気付いたように口元に手を当て、大げさに眉をひそめて。
「まさか、男性のように足を大きく広げて立っていらしたのですか?
こんなことを言っては失礼かもしれませんが……ドレスでいらっしゃいますし、もう少しご令嬢としての恥じらいを持たれたほうがよろしいのでは?
あ!ごめんなさい!淑女としては、このようなことを言われるだけでも恥ですよね!
大丈夫です、ボク、誰にも言いませんから!
『無礼な相手であっても、こちらが同じところにまで堕ちてやる必要はない』って、お兄様が仰っておりましたし!」
クッ、と息が漏れる音が。
リオが口元を押さえ、クスクスと笑っております。
「……し、失礼。クリスの発言があまりにも的を射ていたのもので……」
「!!な、な……!なんてことを………!!」
怒りのあまりブルブルと震えたご令嬢がサッと手を挙げました。
すかさずティムが前に出ます。
「何をなさるおつもりで?」
1年生ながら初出場で武闘大会上位入りした男の顔はさすがに覚えていたようです。
ご令嬢はサッと青ざめ、ふらりと後ろに下がりました。
うん。残念だけど、もうタイムアウトです。
「《《ロメイン子爵令嬢、もう十分恥をさらされたでしょう》》?
すみませんが、ボクたちこれから授業があるのです。先輩も、あの……もうすこしきちんと授業に出てお勉強されたほうがよろしいと思いますよ?《《見逃すにも限度がありますから》》。
では、失礼致しますね。
行こう、リオ、ティム!」




