姫と呼ばれております
こんにちは。クリス改め、「姫」です。
そう、あれからボクは学園で「姫」もしくは「姫ちゃん」と呼ばれております。
お兄様のご活躍とアイク様のご乱心により「姫」としてのボクは必要以上に注目を集め、いまやこの学園でボクのことを知らない方はおりません。
お兄様とボク、アイク様は三人で一セットのような扱いをされているのです。
お兄様とでしたら、構いません。むしろ大歓迎です、ありがとうございます!
でもアイク様の「姫」は、正直とてもとても負担なのです。
馬車を降りるときだって、これまではお兄様のエスコートで降りるという幸福な推しのサービスタイム。
でもいまは……
「さあ、クリス。おいで?」右側からお兄様。
「クリス、気を付けてね?」左側からアイク様。
最初はどちらの手を取ればいいのか(心情的にはお兄様一択なのですが、そうもいきませんから)悩みましたが、今は右手をお兄様に、左手をアイク様に、ということで落ち着きました。
どうなんですか、これ?
なんだかボクが「人気の二人を従えた悪役令嬢」みたいではありませんか?
とてもとても身の置き所がなく、小さく身を縮めているのですが……
「クリス、髪が跳ねているぞ?」
美しい白魚のような指先でするりとボクの髪を撫でつけ、ふ、と優しく目を細めるお兄様。
あああ!眼福です!今日もお兄様は最高に麗しいっ!
すると反対側から
「ふふ。ネクタイが曲がっている。かわいいね?」
アイク様がネクタイを直してくださり、「これでよし」とそっとボクの頬に触れました。
「アイク!むやみに人の身体に触れるものではない。いらぬ誤解をされるぞ?」
ボクの身体を自分に引き寄せながらチラリと周囲の学生に目を向け、むっと唇を引き結ぶお兄様。
「その言葉、そのままジルに返すよ。いくら兄弟とはいえ、距離が近すぎではないか?」
口元に笑みを浮かべるアイク様、目が全く笑っておりません。
「さあ、クリス。こちらにおいで?」
そっと手を差し伸べられましたが……こ、怖いっなんだか怖いですっ!
「お、お兄様とボクはこれがよいのですっ!!近すぎませんしっ!だってボク、お兄様が大好きですのでっ!!」
ボクは思わずお兄様の腕にぎゅうっと抱き着いてしまいました。
「アイク、クリスが怖がっている。気を付けてくれ。
私たちのことは私たちが決める。クリスと私はこれでいいのだ。我が家のことにアイクが口出しするものではない」
ぽんぽん、とボクの頭を撫でながらアイク様に苦言を呈するお兄様。
そうですよ!ボクたちがこれでいいと言っているのですから、いいのです!
ふんふん、と鼻息も荒くお兄様の腕を抱きしめる。
アイク様には申し訳ないのですが、ここがボクの定位置ですから!
「………そうか。すまない。少し……やきもちをやいてしまった。
クリス、すまない。怖がらせてしまったか?
これに懲りず、たまにで良いから私の手も取ってもらえたら嬉しいのだが……」
しょんぼりと肩を落とし、ちらりと上目遣いをするアイク様。
う!アイク様の頭に、へにょりと垂れたワンコの耳の幻影がみえます……っ!
股の間に挟まれた尻尾の幻影まで……!!
ああ。なんでしょう。心が痛みます……。
ボクはそっとアイク様に手を伸ばしました。
「アイク様、行きましょうか」
今はね、これでお許しください。
だってお兄様と同じにはいきません。お兄様は特別なのですから。
それでも、お友達として幼馴染として、アイク様のことは信頼しておりますよ?
こうして二人にエスコートされて辿り着いたボクのクラス。
「では、クリス。また昼に」
「迎えに来るから待っていて欲しい」
甘い微笑みを残し、二人は去っていきました。
ま、毎日これ、疲れます………!
お兄様と二人、幸せに登校していた日が懐かしい……。
ぐったりと机に伏していると、「お勤めご苦労さん」「今日も頑張ってね!」と皆さんが飴やらクッキーやらをおいて行ってくれます。
これは「お布施」なのだそうです。
ボクのおかげで学園の人気ランキングトップ2に毎日会えるから、と色々なものをボクに差し入れしてくれるのです。
嬉しいけれど嬉しくないです……。
「うう……どうしてこんなことに………」
少しでも力を取り戻そうと、ぺり、とアメの包みをはがして一粒口に入れます。
ああ。甘い……レモンの爽やかな香りが口中に広がります。
疲れた心が癒されるようです。
と。
カタンと前の椅子が引かれました。
「おはよう、クリス姫。今日もお疲れみたいだね?」
クスクスと笑っているのはリオです。リオってばボクが苦労しているのが面白くて仕方ないみたい。
「あの二人がああなるなんて、さすがクリスだよねえ!友達になってよかった!毎日が楽しくて仕方ないよ。
兄上のことでアイク様を警戒しなくても良くなったし。クリス様々、だよね。
こう見えてクリスには感謝してるんだよ?」
はいこれ、と差し出されたのは、開店一時間前から並ばないと手に入らないという大人気店カリムの幻のドーナツの箱
!!
「うわああ!これ、どうしたんですか?まさか、リオ、並んだの?すごいですっ!!」
「ふふふ。すごいでしょう。これね、ボクの侍女に『君の分も買っていいから、並んで買ってきてくれる?』って頼んだんだ。持って帰りな?」
「!!こんなにたくさんいいんですか?やったあ!」
「ねえ、リオ。僕にはないの?僕だって朝から大変な目にあってるんだけど……」
同じくぐったりと机に伏せているのはティムです。
こちらはボクのように精神的にではなく、物理的、肉体的にお疲れなのでした。
そう、あれからティムは毎朝ウエイン様の朝練に付き合わされているのです。
「お前はまだまだ伸びる!」と満面の笑顔のウエイン様に言われて誰がお断りできるでしょうか。
ここで「嫌です」なんて言おうものなら、一気にしょんぼりし、しおしおウエイン様になるのです。
すると周りで様子をうかがっている武術部の皆さんが口パクで「コ・ロ・ス・ゾ?」「お前は何様だ?」と無法者のような視線を送ってきます。
この人たちなら、本当にやります。
脳筋ウエイン様の親派は、脳筋。力こそ正義なのです。
「ティム……大変だけど一緒にがんばろうね……」
そっと箱からひとつ取り出してティムの口元に。
ああ!一口で食べてしまいました!もったいない!
「もっとちゃんと味わってくださいっ!せっかくのカリムなのにいっ!!」
ティムも脳筋化してしまったの?!
もう絶対に分けてあげませんからねっ!!




