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純情恋模様  作者: karinko
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☆44話 記憶☆詩織side

『ごめん。あとは身内でおりたいねん…』


蒼さんの胸の中でしばらく涙を流し、やっとそれが落ち着いた鈴さんにそう言われて私は病院をあとにした。


1人うちに戻った私はリビングのソファに座り大きなため息をついた。


さっき見たことを思い出すだけで全身が震える。


……まだあまり信じられません。


目の前で私と同い年の女の子が亡くなるなんて。


しかも、その女の子は私の身近な人……鈴さんと蒼さんの大切な人で………


今まで『死』というものを身近に感じたことはなかった。


『死』というものはまだまだ先のことで、今の私には関係がないことだと思い込んでいた。


けど、違った。


私と同い年でも、死んでしまう人がいる。


私もいつか死ぬかもしれない。


そう実感すると更に小刻みに体が震えた。


ソファの上に寝転がる。


……死ぬってどういうことでしょう??


私がなくなるということ……


私という存在が消えるということ……


そう考えてふと思った。


…『死』が自分が消えるということならば、


私は一度小さな『死』を経験しているのかもしれない。


2年間高校生活を送ったという私は消えてしまった。


……私は消える瞬間、何を思ったんでしょうか??


きっと、『怖い、消えたくない』って思ったんでしょうね………


私はソファの上で寝がえりを打った。


でも……


彼女はまだよみがえる可能性があるかもしれない。


最近よく見る夢……


滝沢サンと私とがでてくる夢……


滝沢サンはそれが本当にあったことだと言った。


ということは、私はまだ記憶を取り戻す機会があるかもしれないということだ。


けど、彼女がよみがえったら私はどうなるんでしょうか??


私は消えてなくなってしまうんでしょうか……??


腕で目のあたりを覆った。


……そんなの、嫌です。


自分がなくなるなんて…そんな恐ろしいこと……


絶対に……


ピーンポーン


突然家のチャイムが鳴った。


慌ててにじみ出ていた涙をぬぐい、玄関へと走る。


「はい……!!」


尋ねてきた人物を見て、私は大きく目を見開いた。


「滝沢…サン……」


そこには急いできてくれたのか、息をきらして立っている滝沢サンがいた。


「…どうしたんですか??わざわざきてくださって……」


滝沢サンは私が帰ったあとも病院に残っていたはずだ。


だけど私がうちに帰ってからそう時間はたっていない。


ということは、彼はかなり急いで私の家まできてくれたことになる。


滝沢サンは大きく息をつくと笑った。


「…どうしても、おまえに伝えたいことがあったんだ」


それは私が滝沢サンに出会ってから一度も見たことがないようないつも以上にきれいな笑顔だった。


伝えたいこと…って、なんでしょう??


きっとそれがこの笑顔の理由。


「あ、とりあえずあがってください……」


私が言うと滝沢サンは首を振った。


「いや、ここでいいよ。今すぐに話したい」


滝沢サンはそういうとドアの前の階段に腰を下ろした。


私は戸惑いながらも隣に腰を下ろす。


「……オレさ、正直記憶をなくしたあとのおまえのこと、ちゃんと詩織だって思ってなかったんだ」


唐突に滝沢サンが話し始めた。


滝沢サンは私の方を見ずにまっすぐと前を見つめている。


「この子は詩織じゃない。詩織はもういなくなったんだ。この子はただ、詩織と同じ姿をしているだけ…そう思ってた」


ズキッ……


胸が苦しくなった。


……やっぱりそうだったんですね。


なんとなくそう感じてはいましたけど……


やはり、面と向かって言われると少し傷つきますね……


「でも、今日和泉に言われて分かったんだ」


滝沢サンはふいに私の方を見た。


間近でじっと見つめられ、さっきとは逆に心臓がドキドキと激しく鳴る。


「いくらオレとの記憶がなくても、おまえはおまえなんだって。以前と何も変わらない、詩織自身なんだって」


「………!!」


「和泉の大切な人は死んでしまった。けど、おまえは生きている。オレはそれに感謝しなくちゃいけなかったんだ」


滝沢サンはそう言うとふいに私を抱きしめた。


心臓がさらにはやく鳴る。


滝沢サンの香りを、すぐそばに感じた。


「……滝沢、サン??」


「ごめんな、詩織はまたオレのことを思っててくれたのに……。オレは簡単なことに気が付けなかった……」


私の気持ち…


気がついていたんですね……


なんとなく恥ずかしくて、私は赤くなった顔を隠そうと滝沢サンの胸に顔を押し付けた。


「今は前の詩織と混同してしまうかもしれないけど、きっとオレはまたおまえを好きになるんだと思う。だってさっきも言ったけど、おまえは確かに詩織なんだ。だから、オレは絶対またおまえを好きになるんだ」


……今までの不安がなくなっていくように思った。


滝沢サンは、今の私を好きになろうとしてくれている。


今まで滝沢サンと過ごしてきた私じゃなくて、今ここにいる私を。


「……ごめんな。変な話しちまって。でも、最後に一つ言わせて欲しい」


滝沢サンは私を抱きしめる手に力を込めた。


「あの時、死なないでいてくれてありがとう。……生きていてくれて、ありがとう」


…………


目から涙があふれていた。


私は、バカです……


ついさっきまで、あの事故で私は死んだものと思っていました……


だけど、滝沢サンはたとえ滝沢サンが好きだった『私』がいなくなっていても、私が生きているということに感謝してくれている………


それなのに、私はあのとき死んだだなんて……


なんてバカなことを考えていたんでしょう………


私はもう一度、滝沢サンが言ってくれた言葉を思い出してみた。


私は私。


滝沢サンとの二年間の記憶がなくても、私は私なんですね。


以前の私と今の私は何も変わらない、私自身だったんですね。


『もう……いいですか??』


どこからか声が聞こえた気がした。


私はうなずいた。


もう、怖くない。


だって、以前の私が戻ってきても、彼女は今の私と何も変わらないのだから。


突然大きな睡魔に襲われた。


私は抵抗せず、滝沢サンの腕の中で穏やかな眠りに身をゆだねた。




真っ暗。


何も見えない。


ここは…どこでしょうか……??


あたりをきょろきょろと見回していると、突然目の前に人影が現れた。


「…私??」


目の前にはまぎれもなく、私の姿をした女の子が立っている。


女の子はにっこりと笑った。


そしてゆっくりと私に歩み寄ってくる。


私もその女の子に歩み寄って行った。


私と女の子の体が重なった。


その瞬間、洪水のように失っていた2年間の記憶があふれだしてきた。


始まりは入学式。


行きたかった高校に合格した私は胸を弾ませて入学式に臨んだ。


そこで彼に出会った。


最初の印象は最悪だった。


目つきが悪くてすごく怖くて……


だけど、少しずつ彼を知っていくにつれてだんだん彼にひかれていった。


無愛想だけどとても優しくて……


照れ屋で、どこか人とは違っていて……


時折見せてくれる彼のとてもきれいな笑顔にドキドキした。


初めての気持ち。


人を、好きだという気持ち。


彼はそれを私に教えてくれた。


それから彼に告白して、お付き合いをすることになって……


辛いこともあったけど、その倍以上に幸せな時間があった。


今の私が思う以上に滝沢サンのことが好きだという気持ちが、その記憶の中にはあった。


記憶の中に、私が消える瞬間の記憶が残っていた。


その日は滝沢サンの誕生日。


前日にいきなりそのことを知って、慌ててプレゼントを買った。


はやく滝沢サンに会いたくて、急いで渡った横断歩道の真ん中で私は車にひかれてしまった。


体が重くて、私はもしかしたら死んでしまうのでしょうか?なんて考えた。


そして最後の最後に考えていたことは…


滝沢サンのこと。


怖い、消えたくないなんて気持ちじゃなくて、ただ滝沢サンのことを考えていた。


最後に会いたかったな、だとか、プレゼント、ちゃんと渡したかったな、だとか。


それほど、私は滝沢サンが大好きだった。


すべてを思い出しても、私は何も変わっていなかった。


記憶をなくしてからの私の記憶も、たしかにあって、私の一部となった。


やっと……


戻ってこられた。


さぁ、はやく彼に会いにいこう。


愛しくて、愛しくて仕方がない、あの人に。




私はゆっくりと目を覚ました。


「詩織!?」


焦ったような彼の顔。


うっとりするようにきれいな彼の顔。


「響くん……」


彼は大きく目を見開いた。


信じられない、といわんばかりの彼の頬にそっと触れる。


触れた手に彼……響くんのぬくもりが伝わってくる。


「おまえ…記憶が……!!」


私はうなずいた。


響くんが響くんの頬に触れている私の手をぎゅっと握る。


その手は少し震えていた。


「本当に……本当なんだよな……??」


「本当ですよ。全部、全部思いだしました」


響くんの目に涙があふれた。


ほとんど同時に、私の頬に涙が伝う。


「良かった……!!」


響くんは目を細めて、頬を緩めた。


とってもきれいで、大好きな笑顔だった。


私も笑った。


響くんが私を好きだと思ってくれている気持ちが心から感じられて、とてもうれしかった。


響くんがそっと私の体を引き寄せた。


私はそっと目を閉じた。


響くんの唇が私の唇に触れる。


前に鈴さんと蒼さんといった海でしたキスとは違う、温かくて愛おしいキス。


一度唇を触れさせただけで、響くんは私から顔を離した。


そして代わりにぎゅっと強く抱きしめる。


「……大好きだよ。詩織」


こんな風に率直にはめったに言ってくれない人だから、うれしくて、恥ずかしくて死んでしまうかと思った。


「私も…大好きです」


私もぎゅっと響くんを抱きしめた。


すごく、すごく幸せで、この時間が永遠に続けばいいのに、と思った。

ついに思いだしました!

…ついにというほど忘れてませんでしたけど(^_^メ)

やっとらぶらぶライフが書ける……!笑


どうでもいいですけど、この人達は公衆の面前でいちゃいちゃしすぎですね^^;

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