394 守るべきもの
その場にいる誰もが諦めかけた瞬間、光を纏った一本の矢が魔物の脳天を貫いた。
声も発せずに倒れる仲間を見て、ドグエラマントヒヒたちが声を上げながら威嚇する。
「れてぃちゃん! だいじょうぶ!?」
闇に溶けてしまいそうな真っ黒な狼の背に乗り、弓を持ったハルトが妖精のリュカと共に現れる。
その姿を見て安心したのか、レティの触手がしゅるりと緩んだ。
ハルトは狼の背から飛び降り、地面に倒れ込んでいるレティの下へと駆け寄る。
「……はるくん、……よかった……」
「れてぃちゃん! けがしてます! りゅかくん、おくすりを!」
《 うん! 》
ハルトが持っている見慣れない少し大きな鞄の中には、ポーションや包帯など、王宮にいた時には持っていなかったものばかり。
レティは不思議に思い、小さな声でどうしたのかと訊ねてみる。
「ぜんぶ、ぼうけんしゃさんが、くれました!」
「……くれた?」
訊き返そうとすると、リュカが魔法で薬を取り出しハルトに手渡す。
ハルトは落とさないようにそっと受け取ると、それをレティの傷に慎重に垂らしてみる。ぽたりと落ちたその一滴がじゅわりと傷口に広がり、その傷を徐々に修復していった。
「ハルト……!! 無事だったか……!!」
「ぶれんだちゃん! ぶれんだちゃんも、けがしてます……!!」
「私は大丈夫だ。これくらい、何ともない」
ハルトがレティの傷を治している間も、ブレンダは襲い掛かる魔物たちを倒していた。
だがそれも、ハルトと共に来た大きな狼が加わった事により負担が減り、驚くほど楽になる。
そしてあちらが狼を警戒して近寄ってこない間に、ハルトたちの下へと走ってきたのだ。
「レティ、ムリをさせてすまない……」
「……ん~ん、わたしが、わがままいったから……」
あの時、レティはブレンダにだけ呟いた。
『みんなを守りたいから、転移させる』と。
そして、『魔力がもう保てないかもしれないから、ブレンダの力を貸してほしい』と。
「……はるくん、あのね」
「うん、どうしたの?」
レティは小さな声で、ハルトたちと別れてから起きた事を途切れ途切れに説明していく。
ユウマとテオは一緒にいて無事な事。
けれど、ライアンとウェンディが魔物に襲われ大怪我を負った事。
そしてそれを治そうと、必死に治癒魔法をかけてくれているマイルズと共に、ここよりは安全であろう場所に転移させた事。
それを聞いたハルトは、また自分の中で言い表せない感情が生まれている事に気付く。
そしてふと、妖精の森で長老に言われた事を思い出した。
ハルトが顔を上げたのと同時に、リュカもまた、同じように顔を上げ口を開いた。
《 ……そのけが、なおせるかも…… 》
「──それ、ほんとう……!?」
レティはリュカの言葉を聞き、慌てて上体を起こす。だが、またふらりと倒れそうになったのを、ブレンダがしっかりと抱き止めた。
《 かくしんはもてないけど、かのうせいは、あるとおもう……! 》
その言葉を聞いて、レティ同様、ニコラも安心したのか声を出して泣き出した。
《 ……でも、いまここをはなれるわけには…… 》
ニコラは自分たちの後ろに建つ、教会を見つめる。
そこには脅える子どもたちがたくさんいる。
自分たちがこの場所を離れるという事は、その子たちを見放すという事だ。
ハルトとユウマ、メフィスト。そしてレティと過ごすようになって、妖精たちに子どもを見放すという選択肢は頭から完全に消え去っていた。
《 だいじょうぶ 》
《 でも…… 》
《 それに、もうすぐ……、きた!! 》
リュカの声が明るく弾む。その目線の先に浮かぶ、大きな影。
それと同時に、生き延びていた魔物たちの威嚇する声が大きくなる。
満月色の目を光らせ、まるで散歩をするようにゆっくりと、空高く羽ばたきながらただ静かに旋回する。
《 どう処分しようかと思ったが、塵も役に立つものだな 》
ホォーと一鳴きした瞬間、魔物たちの頭上から数多の鋭い枝が降り注いだ。
こまめに更新(*ˊᗜˋ*)
やっと物語が進んでいく……




