嬉しい君に
◇
「二人で帰る? 園田は別にいいけど、夕生は俺を待てよ」
教室の掃除や帰りの開放感などで、賑やかになった教室の中で朝臣はごねている。その朝臣の発言に夕生は振り返る。同時に園田は容赦なく言う。
「お前ねえ。だったら赤点とか取ってんじゃねえよ。夕生は一昨日まで風邪で寝込んでたんだから、お前に合わせてられねえだろ。大体、柚本いるだろ」
「柚本は学校の前から出るバスに直ぐ乗るから意味ない」
柚本健士はバレー部所属で、元主将。どうやら、状況的に今の剣道部内の朝臣の立場とよく似ているようだった。何がきっかけかは夕生は良くは知らないが、最近は親しくしているようである。どちらかと言えば、朝臣の方が受け身であるように見える。多分、力関係が同等かどうかを柚本の方が比べたがっている。
「寂しがりかよ」
園田は言った。
朝臣の赤点補習に言及する辺りが、園田の容赦のないところだと夕生は思う。唯でさえ、負けず嫌いなのにそこを突く。元々が無理して入ってきた高校だと朝臣は言っていた。だから着いていくのは大変そうではある。一方、夕生は実のところ勉強に関して何の苦労も無い。父親に無理に決められた感はあった進学先ではあったが、それは多くの選択肢があったからこそだった。
「俺ならもう、大丈夫だよ。待てる」
夕生は待つことにすると園田に言う。
「でもお前、今日学校でダラダラしてぶり返したら日曜日に街に出て服買いに行くこと出来なくなるかもだぞ」
テスト期間中に憂さ晴らしを兼ねて、柚本を加えて決めた話だった。その直後から気の緩みからか、熱が出た。園田の連続した正論に朝臣は観念したのか「それもそうだな」と言って溜飲を下げたようだった。そしてこう付け足した。
「風邪なんか引いてんじゃねえよ。ホントに。俺が辛いんだから」
「ともかく、だ。補習、頑張ってな」
辛いなんて言葉に、園田も少し面食らったようだった。夕生も自分が欠席した間が辛かったと言われるとは想像していなかった。俺も辛かったと言い返せれば、甘く積もった気持ちが解決されるのだろうか。……そういう意味では多分言ってないだろうなあと夕生は思い直す。
学校の敷地を出て駅の方向にしばらく園田と歩いた。
「あいつ、お前にすごいよね。まじでウケるわ。ハマりすぎだもんな」
あいつとは朝臣のことだ。園田が言うのも無理もない。今に他の人に言われるのも時間の問題かも知れない。
「面白くていいけどね」肯定しつつ、夕生は濁す。
「面白いと思ってんならいいけどさ。行き過ぎてパシリ見たくされてる時もあるだろ? うざくねえのかと思ってちょっと、ヒヤヒヤする。俺ならてめえうぜえって言うだけだけどさ」
「パシリに見える時もあるかもだけど、結構奢ってもらったりもしてるし。全然、イヤイヤとかそんなんじゃないよ」
むしろそれは喜んでやっていることだ。それは朝臣も分別がついていてわざとやっているのである。
「マジか。そんなに二人で盛り上がってるなんて、部活の他に何か共通の話題とかあったりするの?」
園田は純粋に疑問を感じているようだった。しかし、どこかでゲイやホモと噂されるのでは無いのかと恐れを抱く。実際にはそういう目で見てるのは夕生の方だけだ。
「共通の話題は沢山、普通にあるけど、それは皆も同じだと思うな」
「そっか。……朝臣、高校入ってからなんか少し変わったんだよ」
視線を少し上に定めると園田は言った。
「前はどんな風だったの?」それは興味深い話になりそうだと夕生は乗り出す。
「ああいうのが、高校デビューってのかなあ。もっと中学生の頃は地味だし、陰キャラってイメージしてた」
「陰キャラじゃないでしょう! 俺、入学式で見かけた時、こんな格好いいやつ居るんだってびっくりしたんだ」
思わず夕生はありのまま思っていたことを、勢いよく言ってしまった。すると園田は思い切り笑って「なるほど」と言う。ヤバイなと夕生はどう前言撤回するかと考えていた。
「お前か。お前みたいなのがそうやって、褒めたりさ。憧れを隠しきれない感じで接するから、あいつなりに嬉しかったというか、新しく始まった学校生活での不安みたいなのが払拭されてああなったんだな」
これにも夕生は焦る。
「待って。憧れを隠しきれないって、何かなあ? それに、お前みたいなのがってのも何なの?」
「だってお前って、剣道はまだ弱いけど実はメンタルもフィジカルも優秀だし、成績だって、あいつの赤点補習はお前やった方がいいんじゃねって感じなぐらいな余裕あって、それでいて普通にバカも言えるし……そういう優れた人に懐かれるっていい気分なんじゃねえのって俺は言いたかったんだけど」
懐いているってのは言い得て妙だなと、夕生は思う。だけど優れた人は言い過ぎだ。
「メンタルとかフィジカルとか成績とか、なんか、プロスポーツ選手の分析みたいに人のこと考えてるんだね」
「いや。わかりやすく言っただけ。でも本当はもっと単純な理由かも、俺みたいに」
「そうだ。どうして園田は朝臣と仲良くなったんだよ? 小学生の頃からでしょう。長いよね」
夕生は聞く。
「腐れ縁。出席番号順で良く前と後ろで……アレ。今の、お前もそうか」
「そうだよ。入学式でさ、前が見えにくいって思っていたら、朝臣が先に気がついて。『あーごめん。前見える?』が第一声だったかな」
今、思い出してもあの時は夢みたいな気分だった。あの時はあの時で良かったと思うと自然と顔がほころんでしまう。
「あいつ、番号近いやつ好きなんだな」
「す、好き?」
何とか、出席番号順ってことで話しが落ち着きそうだと夕生は思っていたのに、園田の何気ない一言に驚いた。浮ついた気分のせいだ。バカだなと思う。すぐ恋愛に繋げて考えるなんてまったくおかしな話だとわかっているのに。
園田は、何の意識もなく言った好きに対して戸惑っている夕生に気づいたようだった。
「ん?」
「何でもない!……じ、じゃあ朝臣って好きな人とかいたのかな? 今はどう、なのかな」
「それはしらん。お前、自分で聞けよ。俺はお前じゃねえかと思うけど」
白状させられるのかと思った夕生は動悸が激しく鳴った。しかし、園田の言い方も表情もそんな緊迫したものや、何かを暴くような危険な雰囲気は皆無だ。微かに笑っているのはどう解釈したら良いのだろうか。
「あ、あ、そうそれはびっくりするねえ」夕生はなんとか冷静ぶって言葉を吐き出した。
「冗談だよ」
「冗談くらいわかるよ、ちょっと乗っちゃったんだよ」
何となく、園田に試されているような気がした。園田に知られてその先、どう思うかまでは手の届かない範囲になる。だから知られるのは怖い。まだ誰にも内面の正体を知られたくないと夕生は気もそぞろで、歩いた。駅の構内にはドラッグストアの商品が通路にはみ出しているのが見える。
「あいつはマセガキだし、面食い。あいつが可愛いって言ってた先輩なんて、今アイドルだからね」
園田が言った。夕生はそれはそれで、聞きたくないという気持ちになった。好きな人についての答えが始まる。まずは冗談を噛ませたということだ。何の他意のない冗談の確定。やっぱり現実はそうだよなという心の声が聞こえた。
「アイドルって誰? 俺は昔のアイドルなら大体わかるんだけどなあ」
夕生は知りたくない癖に聞いた。
「ミーティアってグループの三和美羽ってわかる?」
「ミーティア……聞いたことあるかも」
調度、ドラッグストアの前を通りかかった。アイドルが数名集まった若者向けのシャンプーのポスターが三枚ほど横に連続して吊るされていた。園田がそれを見て指を差す。
「あ、これこれ、こいつらの……」
そこで園田がそれきり曖昧になった。挙句「どんな顔だったかわかんなくなった」
そう言って笑った。
「そんなことある?」
「化粧のせいかなあ」
整形かも知れないよ。と付け足そうと思ったが辞めた。まじまじとそのポスターを眺めると園田は思いつきのように言った。
「それよりこの女、お前に似てるな」
「三和美羽がわかんないからって、無理やりネタを捻り出すこと無いからね。園田」
小馬鹿にするように夕生は言うと、園田は食い下がって来た。
「ちげえし。目の感じとか全体的の雰囲気が似てる」
「わかった。もういいよ。園田」
「いや、いや。お前の二重の幅の感じ凄いって」
その後、園田が自らの目に対するコンプレックスを白状しだした。笑ってはいけないが笑ってしまった。それを軽く詫びると、その方が良いんだと園田は言った。そして互いに別々のホームへと向い帰路に着いた。
帰宅して、夕生は居間のソファに座ると母親と兼用しているタブレット端末で三和美羽を検索することにした。その時、検索キーワードに整形を加えた。すると、さっき園田が夕生と似ていると言っていた顔の女が出てきた。画像には大きく美羽の変遷と書いてあった。ご丁寧に、整形の疑いのある部分には丸で囲ってある。
「顔? 顔なの……?」
いや、関係ない。この顔になったのが最近なら、顔が好みって線は消えるはずだ。
そう思うといつからこの顔なのか、ということで検索の沼にはまり込んでいた。真相はますますわからなくなった。
顔なんかどうでもいい。篠井朝臣もごく普通の男子だということがただ、突き刺さっただけだった。
夜になって帰宅した母親の恵美に、三和美羽と自分が似ているかと聞いてみた。恵美はアハハと笑う。そして冷蔵庫から飲み物を取り出すと言った。
「似てるかもね。だってわたしも似てるってこの間ね、職場の人に言われたもの。自分では全然思わないけど、言われるとあんたの方が似てるかも。でもねえ……」
「でも?」
「この子、こうやって色々書かれているけど、少し痩せて垢抜けただけね」
恵美の言葉はどこか確信めいていた。女を長くやっていると思うこともあるのだろう。
夕生はため息をつく。まず整形を疑う自分はやはり意地悪だし、嫉妬を覚えたからだ。心のなかで、本当はこの顔の癖にと罵って、アイドルグループだかなんだか知らないが、朝臣には似合わないと嘲笑いたかった。
「やっぱり女の人って変わるものなのかな」
「男もけっこう変わるわよ。あんたは小さい時からあんまり変わってない分、あとで急にオジサンになるかも。それだとお母さんショックだなあ。でも、この間見せてくれた写メの男の子はいい男になりそう」
それは朝臣のことだ。俺もそう思うと心のなかで大きく頷いた。好きな人が褒められるのは嬉しい。それは母という安全な人物からの賞賛だからだともわかっている。
「写メっていうの、もう古いから気をつけてよ」
夕生は忠告の口調になる。折角、若く見えてもそれでは台無しだと思う。本人は息子の自分には隠しているつもりらしいが、年下の恋人が居ることも知っている。
「あっ、そうだっけ。写メって言ってた?」
「言ってたよ。そうだ、明後日皆でちょっと街に遊びに行ってくるよ」
今のソファから立ち上がって、夕生は言う。
「また服ばっかり買うなら、少し手持ちを何とかしなさいよ」
「それは母さんに言われたくないね」
そう軽口を叩くと、二階の自室へ向った。
◆
「なに。夕生が和田先輩に似てるから、友だちになるってちょっとキモいだろ。大体、気が付かなかった。そんなこと」
男子4人がやっと入ったファーストフード店で朝臣は歯に衣着せぬ物言いで、否定した。
和田先輩とはアイドルグループ、ミーティアの三和美羽のことである。本名は和田美羽という。朝臣は、入学式で夕生を見た瞬間のことを思い出していた。確かに、普通よりかなり美少年寄りだなという印象だった。それは今も変わらず、今日などは特に周囲からの視線がある。それは夕生がそんな風貌で、どこかのショップ店員みたいな雰囲気だからだろうと思う。毎月何冊もファッション雑誌を買っているらしい。
「それならよかったけど」
そう言って夕生は少し横に向いてストローを咥えた。どことなく棘がある。
「なんでちょっと怒ってんのさ?」朝臣は思わず聞く。「怒ってないけど」
「……俺が勝手に色々園田にバラされて恥ずかしいんだけどな。やっぱり園田を先に帰らせて、夕生は俺を待つべきだった」
夕生の機嫌については一旦、流しつつ朝臣は言った。
「それは俺が居たんだからいいだろう、篠井よお」一緒に連れ立ってきた柚本が言った。赤点補習も一緒だった。そして柚本は園田に聞いた。
「なあ。園田。で、篠井はその先輩に告ったりしたの?」
「してねえし、なんで園田に聞くんだよ」
朝臣は素早く否定した。
「してなかったっけ?」園田は半分笑って、フライドポテトを喰らい続けた。嘘をついている。篠井朝臣を追い詰めて面白がっている。
「園田。てめえ……柚本くん。告白するとかしないとかそういう感じになってないから、してないんだよ。話しかける機会も無かった。そんな目立つことする度胸もないし」
何故か酷く追いつめられた気分で、朝臣は否定に躍起になった。
「ふうん。でもさあ、ネットとかで画像とか記事とか見たりするの?」
柚本は再び聞いた。「しないよ、ないない」朝臣は即座に答える。
「忘れてるもん。でも、そうだなあ。ネットとかテレビとかは意図せずいきなり目に入ったりするとびっくりするときはあるな……」
「びっくりするって、ドキッとするってこと?」
そこで夕生が確認するように聞いた。
「うん……そうかなあ」
確信を突かれた気がして、朝臣はゆっくり頷いた。
「それって引きずってるんじゃねえの? 忘れてるって言うけど」柚本が聞く。
「そういうんじゃないな。えーっと、引きずるってのが、まず俺はあまり良くわからないな。柚本くんにはそんな経験あるの?」
朝臣は反撃するように聞いた。すると意外な言葉が返ってきた。
「俺は中学の時に彼女いて、受験を期に別れたからわかるよ」
「ああ、大人なんだね。中学生で既に大人の階段登ったんだ」朝臣はやんわりとふざけると、園田がなんかその言い回し聞いたことある。とコッソリ呟く。
「ねえ、生々しい話しが始まるなら苦手だから、音楽聞くよ」
夕生は身体を横に向けると、イヤホンを両手に持って言う。一同は黙った。夕生の方をまじまじと見る。
「真の大人の男は人の嫌がるようなことはしない。安心しろ」
柚本は言った。
「イケメン……だ」夕生は柚本の方を見た。耳に付けかけたイヤホンを下げる。その一連の言動に朝臣は思わず舌打ちした。大体、さっきから夕生の態度は何なんだろうと思う。全然、俺の方を見やしない。朝臣は夕生の前に手を伸ばすと、テーブルをノックしながら言った。コンコンと高い音が鳴った。
「こっち向けよ。夕生」
「なに。ドルオタ」やっとこっちを向いたと思ったら、罵ってくる。
「ドルオタ?」
「だって凄くね? 原石発掘する側の目を持ってたってことでしょ。相当だよ」
「そんな大袈裟なもんじゃないよ。夕生。お前こそどうなの?」
生々しいと表現していたが、おそらく恋愛の話しが全般的に好きじゃないということなのだろうなと朝臣は思っていた。だが、これくらいの質問ぐらい答えて欲しい。どうせ自分は大人でもないわけだから、聞いても変ではない。
「……俺は、俺は好きな人とは仲良くなりすぎちゃって、そこから先に進むことはないって諦めてる」
「それは立派な強みだと思うよ。諦めるなんて勿体無い」柚本が言った。
「強みかな」
そう繰り返した夕生は、なんの表情も浮かべてはいない。そのせいか、さらに柚本は急き立てるように言う。
「強みだって。どう考えても、このドルオタより現実的な距離持っていられるんだし、あとは相性とか、さじ加減みたいなもんだよ」
柚本は隣から、朝臣の強く肩を叩いた。
「俺をドルオタ呼びするのは勘弁してくれ」
夕生の話しの方が余程生々しいと朝臣は思った。
現在進行系的に、悩んでいるように思えた。それも一筋縄では行かない深刻さが伺える気がした。可哀想にも取れるが、それでいい。そんな面倒くさい状況で、女なんか作るなと思う。どんな女なんだ。誰だ……
「出よう。俺、まだ何にも買ってねえ」園田が言った。
それから園田の買い物に付き合った後、「すみません、ちょっといいですか」そう言ってカメラマンの男が朝臣に近づいてきた。一歩遅れて編集と思われる男が説明した。とある有名雑誌のファッションスナップを撮りたいとの話だった。
「え、俺ですか……」
別にオシャレでもなんでもない。今朝だって、服を買いに行く服がないという状況に悩んだ程だった。朝臣は思わず、夕生の手を引いて男に言った。
「俺より、こいつのほうがマシじゃないですか」
「ああ。連れの子も可愛くていいけど、全体像が甘すぎるんだよね。趣旨としてはもう少し大人っぽい方がいいから。君は背が高いし、大学生?」
男は慣れた口調で早口に言った。
「高校生」
それに対して男たちは確認しあっていた。「じゃあいいね。いい、あの子は…の……」 そこに、夕生が突然、割り込むようにして言った。
「あの! やっぱりこいつ、格好いいってことですよね!」
その言動に朝臣は驚いていた。そんなこと言って一体何になるんだ。案の定、少し呆れが入った返答をされている。「うん、格好いい」
だが朝臣はその流れに、結局は悪い気がしなかった。断りの文句が浮かぶ間もなく、撮影が終わって。あっという間に名刺を渡されて、カメラマンと編集の男は雑踏の中に消えていった。すると夕生が満足気に言った。
「なんか、俺、嬉しい」
「お前可愛いくていいって」
少し照れくさかったが、朝臣は言う。夕生が笑った。「そう言えば、掲載されるのいつなのか聞いた?」
「聞いたような気がするけど、どうだっけ」今にして、少し舞い上がっていたと思う。まだ手に持っていた名刺を見る。
「それ貸してくれる? 俺、電話して聞いてみる」
「やけに乗り気だよな。夕生」
「まあね。でも朝臣は電話するの嫌でしょ?」
「うん」確かに面倒くさかった。確認しなくても、ファッション雑誌を複数買っている夕生がどのみち見つける気がする。そう思った通りに朝臣は言った。
「見つけるのじれったいからさ、その前に聞いておくでしょ。載らない可能性もあるし、載ってもすごい小さいかもだし。サイズの話までしてなかったよね?」
「それはしてねえな。小さく載る分には、いいけど。っていうか、小さいほど良い」
朝臣の萎縮した言葉のせいか、夕生がものすごく笑った。何か吹っ切れたように、機嫌が良くなった。
「そんなにおもしろいこと言ったつもり無いんだけどな」
それから、ずっと夕生のテンションが上がったままだった。帰りもその勢いで、夕生は色んなことを喋り倒していた。月曜日には少し喉が枯れていた。朝臣はその声のほうがいいねと冷やかす。その枯れた声で夕生は朝臣に報告する。
「掲載は次の次の号だって。大きさは雑誌ではこのぐらいで……」
夕生は手でその大きさを示して見せた。
「それじゃよくわかんないよ」
「わかるじゃん」
少し笑って言うと、こうも意地悪く付け足した。「大きさを気にしても、電子書籍で拡大するからあまり意味がないよ」
「そんな拡大して見ようとするなんて、夕生だけだろ」やり取りを目の前で聞いていた園田が言った。
「……そんな、俺は別に見ないよ。いや、一回は……ごめんごめん。三回ぐらいは見るかもね!」
「認めやがった」
園田の言葉は妙に冷静だった。朝臣はやはりスナップの件については断るべきだったのではと思い始めていた。
何か、ことが動くような妙な予感だけが残った。
回想でした




