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辺境の町にて。

 暖かな太陽光が、辺境の小さな町に降り注いでいる。

 こんもりとした廃材の丘の上、小型核融合炉を中心に自然と人が集まってできた町だった。町の中心では市場が開かれていて、明るく賑わっている。目抜き通りにはたくさんの屋台や露店が軒を連ね、多くの人々が行き交っていた。ひとりの青年がその中を歩いている。マルキスだった。

 彼はとある露店の前で足を止め、シートの上に並べられている商品をしげしげと眺めまわす。

「何かお探しで?」

 椅子に腰かける老店主が快活に笑った。マルキスは彼に笑いかけ、首を振る。

「いやぁべつに、見ない顔だと思ったからね。商売は順調かい?」

「一昨日町に入ったばかりですよ。ここは安心して商売できる町だと聞きまして、みっつ隣の町から用心棒を雇ってきました」

「それは大変だったでしょう。私はここの自警団の団長で、マルキスといいます。今日は非番ですがね」

 マルキスはにこやかに頭を下げる。店主は目を丸くして会釈を返した。

「あんれまぁ、お若いのに立派な方だ。お世話になります」

「いえいえ、私のような若造が年配の方をお守りするのは当然ですよ」

「いやはや今どき珍しい方だ。なぜ自警団に?」

 マルキスは少し考える。

「恩返し、ですかね」

「恩返し?」

「ええ、私は昔旅をしてましてね、あるとき悪漢に追われてしまったんですが、そんな私を助けてくれたのがこの町の人だったんです」

「ほう、それはそれは……」

 老人は神妙な顔であごひげを撫でた。

「おじいさんは何を売ってるんですか?」

 マルキスが露店の前に屈み込む。シートの上に並べられているものは様々で、銃や弾薬、服や日用品、雑貨や薬品などだった。

「その辺から拾ってきたジャンクが主です。なにか欲しいものはありますか?」

「これはなんです? この、アンプルに入ったナノマシンは」

「ああ、そいつは掘り出し物ですよ。いやお目が高い。医療用ナノマシンの一種です。打った人間の自己治癒力を高めるんです。しかも効果は一生もの。お買い得ですよ」

「へぇ、そんなすごいもの、どこで?」

「ここから南に80キロくらい行ったとこですよ。墜落したばかりの宇宙船がありましてね、カプセルは全部ぐしゃぐしゃで、中もだいぶ荒らされてましたが、医薬品パックが一個だけ無事だったんです」

「ああ……あれか」

「ご存知で?」

 マルキスは頷く。

「2週間くらい前に墜落したやつですよ。たまたま近くを通ってたんだ」

「そうなんですか。誰か、生き残りはいましたか?」

「……いや、いなかった。女の子がひとり居たが、怪我をしていてね。町に連れ帰る前に死んだよ」

「あぁ……いや、すいません」

 老人はバツが悪そうに頭をかく。マルキスは自嘲するように笑う。

「気にしないでください。これをもらうよ、いくらですか?」

 マルキスはさっきのアンプルを指差した。老人が値段を言い、マルキスは「ちょっと高いな」と苦笑いしつつも金貨を数枚渡す。

「また来てくださいよ、マルキスさん」

 老人の言葉に青年は笑顔で返し、露店の前から歩き出す。穏やかな気持ちで視線を上に上げると、爽やかな緑色の空が広がっている。いつもの黒く分厚い雲がまったくない、珍しい晴天だった。

「気持ちいいなぁ……」

 そうひとりごちたマルキスは、まだ昼食を食べていないことに気がついた。冷たく心地よい風を頬に感じながら道を行き、カフェに入った。そこで店主の女性と和やかな会話を交わし、熱いコーヒーを一杯と、おいしいサンドイッチをゆったりと味わう。帰りに、同じサンドイッチをひとつ包んでもらって、彼は帰途についた。

 町外れにある小さな建物がマルキスの家だった。地面に突き刺さった小型宇宙船の残骸を利用した建物は2階建てで、防衛設備も充実しているうえ、シャッターの閉まったガレージまである。周囲に他の建物は無く、静かだった。

 マルキスは玄関をくぐると鍵をかけ、上着を脱いだ。そしてサンドイッチとアンプルを持って床にかがむ。絨毯の下に隠し扉があった。

 ハシゴを下ると、短い廊下の先に錠前のかかった鉄扉がある。マルキスはポケットから鍵をとりだし、扉を開けた。扉の先は闇だった。部屋の中には異臭がこもっていた。血と汚物と精液の臭いだ。

「やぁ、起きたかい? エリィ」

 部屋の電気を点けたマルキスは奥へ向かって声をかける。部屋の最奥の壁には、ひとりの少女がいた。

 エレノアだった。彼女の細い首には金属の首輪がはめられていて、太い鎖がそれと壁を繋げている。服は様々な体液のあとで汚れた薄いキャミソールのようなものだけ。体には血のにじむ無数の包帯が巻かれていて、包帯がないところには青や赤のあざができている。比較的無傷なのは首から上だけだったが、両目の下にはどす黒い隈ができていて、瞳には力がなかった。

「お腹空いただろ? 昨日から何も食べてないんだから」

 マルキスはにこやかにそう言いながら部屋の片隅にある机に近づく。机の上には小さなナイフや小さなのこぎり、幾本もの長い針やペンチ、トンカチ、メリケンサック、ライターや鞭、細い鎖や縄、何本かの薬瓶と注射器、そして使いこまれたカメラが綺麗に整頓されて置いてある。彼は丸椅子を持ってエレノアの前に戻り、腰かけた。

「ほら、サンドイッチだ。新鮮なトマトとカリカリのベーコン、みずみずしいレタス。美味しいよ」

「う……あう……」

 彼が見せた包みにエレノアは震える手を伸ばす。彼女の指が包みに触れそうになった瞬間、マルキスはそれを引っ込めた。

「その前に、やることがあるだろ?」 

 笑顔を見せてマルキスは言う。エレノアは手を引っ込め、力なくうなずいた。

「お願い……します。私に、マルキスさんの……を……ください」

 するとマルキスは興奮に体を震わせ、椅子に座ったまま足を開いた。エレノアの手が彼の下半身にのびた。




 マルキスがズボンを上げ、ベルトを締める。彼の前では傷だらけの少女が地面に這いつくばり、吐き気と戦いながらサンドイッチを貪っている。

「だいぶ慣れてきたね。はじめのころは下手だったのに」

 爽やかに笑いながら、マルキスはまた机のところに戻る。彼は注射器と薬瓶を手にとった。

 それを見たエレノアがびくりと身を強張らせ、震えはじめる。目は恐怖に見開かれ、奥歯がガチガチと鳴りはじめる。

「い、いやだ、やめてくだ、ください、おねがいします、やめて」絞り出すような声だった。

「うーん、そうは言っても、そろそろきみも飽きてきたしなあ。今までは皮膚を剥いだり針を刺したりするだけだったけど、そろそろダイナミックなやつもやりたいし」

「やべでくださいっ! なんでも! なんでもしますから! 痛いのはやめでくださいッ!」

「ははは、なんだ、まだ元気じゃないか。わかったよ、痛くしないから」

 彼は再び丸椅子に座り、ポケットからさっき買ったアンプルを取り出す。

「これね、自然治癒力を高めるナノマシンらしいんだ。だから多分うっかり動脈いってもなかなか死ななくなるんじゃないかなあ。こっちは麻酔。ほら、準備するから腕を出して」

「いやっ……! いやぁ!」

「黙れよクソガキ」

 マルキスは少女の頬を蹴りぬいた。

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