表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/32

ユリシーズ 対 スマイル

「……終わったね」

 ユリシーズがスマイルに向きなおった。スマイルはどこか楽しそうな顔でうなずいた。

「パパ、死んじゃった。残念」

「……悲しくないの?」

「悲しいよ。でもユーリィとあの人はパパが死んで嬉しいんでしょう? それにパパも死ぬ直前に笑ってた。みんな笑顔、幸せがたくさんだよ!」

 スマイルは声をあげて笑おうとして傷の痛みにうめいた。荒い呼吸を聞きながら、ユリシーズは悲しげに目を伏せる。

「キミはほんとうに、他人の笑顔のためならなんだってするんだね」

 少年の軽蔑に彼女は気づかない。

「そうだよ。だって私はスマイルだもん」

 スマイルはにっこり笑って両手を広げた。

「ほら、ユーリィ、いいよ。私を殺して?」

 ユリシーズは彼女を見下ろす。満面の笑みの向こう、瞳の奥に狂気の光が輝いている。

「……なんだって、そう死にたがるんだ……おまえが殺した人間は、誰も死にたくなんてなかったはずだ。おまえだけ死にたいときに死のうだなんて、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ!」

 少年は怒鳴った。広大な空間に声が響き渡る。彼は片手の銃を座ったままの少女に向けた。

「じゃあ殺さないの? ユーリィは今まで何のために旅をしてきたの? 私を殺して、殺人の快楽に酔いしれるためでしょう? 天国の家族もそれを望んでいるよ? それとも……私に射精して情が移った?」 

 挑発的に口端を吊り上げる少女。少年には、彼女が自分を殺させるためにそうしているのがはっきりわかった。彼は怒りと憎悪に顔を歪め、奥歯を鳴らす。銃を撃てば確実にスマイルは死ぬ。しかしそれは彼女への敗北だった。

「殺せぇええッ! ユーリィイッ!」

 アングレカムの怒声だった。彼女も苦痛と血にまみれて、怒りに瞳を燃やしている。

「私たちは今までどうして生きていたッ! そいつを殺すためだッ! そいつを殺すために何人巻き込んだ!? そいつを殺せば、そいつに殺された奴らも喜ぶ! 殺せ、殺せ! 殺せええ!」

「そうだよ! 私はたくさんの人に恨まれてるから、私を殺せばみんな笑顔になるよ! さぁ、殺して、ユーリィ! ユリシーズ・ヴィクトル・ハルトマン!」

 スマイルとアングレカムの殺意の合唱。ユリシーズはその真ん中で、銃を片手に激しい衝動と戦っていた。

 少年は銃を少女に向けた。少女は歓喜する。女は凶暴な言葉を投げかける。ユリシーズは、決断した。

「僕は、僕は殺さない!」

 叫びに、ふたりは静まりかえる。スマイルは落胆してため息をつき、アングレカムは失望に絶句していた。

「ふざけるな……ユリシーズ……!」

 アングレカムは床に左手をついて立ち上がろうとする。彼女の右足から血が溢れ、彼女は激痛にすっ転ぶ。だがアングレカムの目は一瞬たりともスマイルから離れない。

「おまえが殺さないなら、私が殺す!」

「――だけど、生かしもしない!」

 ユリシーズが叫んだ。ふたりが疑問の表情をした直後、銃声が起こった。

「痛あッ!?」

 スマイルの右の膝頭が大きくえぐれていた。ドレスのスカートが真っ赤に染まり、綺麗な足を多量の血が滴る。

 もう一度銃声があった。今度は左の膝が破壊された。

「いだあぁああ! いだ、いだい……いだい!」

「膝を壊した。もう、キミは一生立てないよ」

「ひぐ、なんで、えっぐ、なんで、ぞんな……!?」

 滂沱の涙を流しながら椅子の上で体を丸め、スマイルはうめく。

「……ダメだ、笑顔になんかなれないよ、こんなの」

 ユリシーズはそう言って目を伏せ、スマイルに背を向けた。そしてアングレカムに歩み寄り、彼女のそばに屈み込む。

「応急処置するから、ちょっと我慢してね」

「ユーリィ、おまえ……」

「僕は彼女を殺さない。だけど生かしもしない。運が良ければ、誰かに助けてもらえるかもね……ああ、ちょっと待って」

 少年は淡々と語りながら、アングレカムのサバイバルナイフを抜く。そしてスマイルのところへ戻った。

「指があると床を操って逃げちゃうかもしれない」

 その言葉に、スマイルは恐怖に目を見開く。彼女は青ざめ、唇を震わせながらかすかな声を漏らす。

「や……やめ……許して……おねがい……」

「いやだ」

 少女の絶叫に、アングレカムは目を背けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ