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アングレカム 対 ミンチメイカー

「――あとはキミの知っているとおりだ。私たちはあの船に乗っていた人間を皆殺しにし、そして自爆させた。そのうちキミと私の乗った脱出艇だけがこの惑星の重力に捉えられ、墜落したというわけさ」

 ミンチメイカーはそうして話を締めくくった。ユリシーズは神妙な顔をして彼の話を聞いていたが、終わると静かに目をつぶり、そして開いた。

「……わかりました。ありがとうございます」

「非難しないのか? キミの家族を殺したのは私だぞ」

「しません。だって、今から僕たちも同じことをするんだから」

 ユリシーズは隣のアングレカムを見上げた。

「お願い、アンジィ」

「離れてろ」

 アングレカムは小さくうなずいてユリシーズの前に出た。ユリシーズは数歩後退する。

「今の短い説明でも上では1年くらい経ったはずだ。さっさとやるぞ」

 アングレカムがミンチメイカーを睨んだ。

「ああ、はじめよう」

 ミンチメイカーも臨戦態勢をとった。

 ふたりは数メートルの距離で睨み合う。ミンチメイカーは散弾銃を携えているが、アングレカムは無手だ。

 ユリシーズは彼らから離れ、大回りでスマイルのところへと歩いていく。彼女は微笑んだまま、ずっとコンソール前に座している。

 ユリシーズがスマイルの隣に立った。スマイルは少年を見上げると指を鳴らす。すると床が盛り上がり、新たに椅子が形成された。

「どうぞ」

「ありがとう」

 ユリシーズはスマイルの隣に腰かけた。ふたりは並んで、ミンチメイカーとアングレカムを眺める。

「ねぇユーリィ。ユーリィは私が死んだらうれしい?」

「うん。とても嬉しい」

「そっかぁ……」

 照れくさそうにスマイルははにかむ。

「死んでもいいよ、ユーリィが笑顔になれるなら」

「そうか」

 ユリシーズは拳銃を抜いてスライドを引いた。だがそれ以上は何もしない。

「アンジィたちが終わったら、キミを殺すよ」

 状況が動いた。

 先にしかけたのはアングレカムだった。彼女は床を蹴って一気に間合いを詰めようとする。ミンチメイカーは向かってくる彼女に散弾銃を向けた。

 彼が引き金を引く前に、アングレカムが袖の下から放ったのは投げナイフだった。ナイフは回転しながらミンチメイカーに向かっていく。全長25センチの金属板がブーメランのように自分に向かって飛んでくる様は、いかにいくつもの修羅場をくぐってきた男といえど、一瞬注目してしまうほど恐ろしい。そうして目線が自分から外れた瞬間を狙って、アングレカムは素早くライフルを抜いて発砲した。

 弾丸は床から生えた壁によって防がれた。だがそうして生えた壁が邪魔になって、ミンチメイカーも長い銃を構えられない。彼は身を屈めて横っ飛びに転がり、頭上のナイフを避けた。アングレカムは舌打ちする。

 ミンチメイカーが片膝をついた姿勢で散弾銃を撃った。狙いは正確だったが、穴だらけになったのはアングレカムのマントだけだった。彼女は地面にべったりと伏せていて、両手にライフルと拳銃を構えていた。

 乱射するアングレカム。銃弾はすべて地面から生える壁に防がれるが、ミンチメイカーも攻撃できない。彼は悪態をついた。

「邪魔だ!」

 叫んだ彼は床から壁が伸びる瞬間、その上に足をかけ、押し上げられて高く跳び上がった。

 意表をつかれたアングレカムは素早く仰向けになるが、それよりもミンチメイカーが銃をかまえて撃つほうが早かった。

 散弾の鉛玉がアングレカムの右肩に食いこんだ。しかし彼女は歯をくいしばって悲鳴をあげない。代わりに左手の銃で撃ち返す。ミンチメイカーの左耳がえぐれた。

「ぐぉっ!?」

 ミンチメイカーは着地したが、痛みと耳鳴りに動きが数秒止まる。アングレカムはその間に立ち上がり、自分たちが降りてきたエレベーターのある柱の影に走り込んだ。壁に背を預け、流血する傷を押さえる。ポーチから鎮痛剤を取り出し、首筋に打ち込んだ。

「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ふぅ、ふぅ、ふぅ……」

 激しい呼吸を少しずつ落ち着かせながら、少し顔を出して様子を窺う。ミンチメイカーは片手で耳を抑えつつ、慎重な足どりで回り込もうとしていた。アングレカムは素早く両手の拳銃とライフルの残弾を確認するが、地上で暴れたせいでどちらも残り少ない。その上右腕が痺れていて、正確な射撃はできそうになかった。

(あの防御壁、あれをなんとかしなければ)

 アングレカムは考える。だが彼女にアイデアが浮かぶより先に、いきなり走り出したミンチメイカーが柱を回り込んだ。アングレカムは反射的に彼を撃つ。防御壁が地面から伸びてふたりの間を分断しようとするが、ミンチメイカーはそれよりも速く移動し、影から飛び出して散弾銃を構えた。

 発砲するミンチメイカー。だが銃弾はアングレカムには当たらない。ミンチメイカーの銃は発砲直前に、銃の真下の床から生えた防御壁によって上へと弾かれていたのだった。アングレカムはそれを狙い、二丁の銃の発砲タイミングを少しだけズラしていた。

「鬱陶しいッ!」

 苛立たしげにミンチメイカーが叫ぶ。彼の持っている散弾銃はポンプアクション式で、一発撃つごとにハンドグリップを引いて次弾を装填しなければならない。1秒にも満たない短い時間だが、その間ミンチメイカーは無防備になる。その隙を逃すアングレカムではなかった。アングレカムは彼に向かって突進し、左手の拳銃を撃ちまくる。

(この空間の防御壁は発射された銃弾を感知してミンチメイカーを守るものだ。ということは、こちらが撃ちつづけている限りは壁が邪魔になって相手は攻撃できないし、近づけば近づくほど壁の反応が追いつかなくなって防御がギリギリになり、さらに相手を妨害できる!)

 彼女の予想のとおり、アングレカムが近づくほど防御壁はどんどん余裕がなくなり、ミンチメイカーの体により近いところに現れるようになる。彼は地面を蹴って後退し続けるが、当然後ろ走りよりアングレカムのダッシュのほうが速い。ミンチメイカーの額に冷や汗がたれる。

 アングレカムは左手の拳銃のスライドが上がるとそれを捨て、腰の後ろからリボルバーを抜いた。リボルバーのマグナム弾はミンチメイカーの目前に現れた防御壁にめり込む。破片が男の頬に当たった。

 ミンチメイカーは覚悟を決めた表情で足を止め、逆に真正面から銃をかまえて迎え撃つ。ふたりの距離は、防御壁が活躍するには近すぎた。

「来いッ!!」

 男が散弾銃をしっかり構えてアングレカムを狙った。女は不可解な行動に出た。

 彼女はリボルバーを高く放り投げる。ミンチメイカーは動じない。今、彼の集中力は目の前の女の息の根を確実に止めるためにその全てが注がれている。アングレカムもまた同様だった。彼女は右手のライフルを左手に持ち替えた。

 危険な直感にアングレカムは前のめりになり、体を捻りながら前方に倒れこむ。同時に放たれた散弾が、彼女の体を削いでいく。

 血みどろになりながらもアングレカムが狙ったのは、しかし敵ではない。空中に放り投げたリボルバーだった。ライフル弾はリボルバーの弾倉を撃ち抜く。直後、暴発したマグナム弾がミンチメイカーの肩口を上から貫いた。

「がふひゅっ!?」

 男が吐血して崩れ落ち、壊れたリボルバーが散らばった。アングレカムも床に倒れた。

「ぐうぅ、あアッ!」

 脂汗を流しながら苦痛に顔を歪めるアングレカム。彼女の右膝から下は散弾よってボロ雑巾になっていた。

「アンジィ!」

「来るな!」

 駆け寄ろうとしたユリシーズをアングレカムが怒鳴りつける。

「まだだ、まだ死んでない……!」

 恐ろしい形相で男を睨む。

 ミンチメイカーはまだ生きていた。彼の左肩から侵入した弾丸は片方の肺と横隔膜と肝臓を貫き、腰後ろから抜けたらしい。赤黒い血が、床に倒れ伏す彼の下から広がっている。

 蒼白な顔をあげた男の口からは、ひゅうひゅうと苦しげな呼吸音が漏れている。だが彼はそれでも震える手で散弾銃を持ち上げようとしていた。

 アングレカムも床に倒れたままライフルを男に向けようとする。あまりにも痛々しい光景に、ユリシーズは下唇を噛みしめていた。

「死ね……!」

 アングレカムが先に銃口を男に向けた。その瞬間、ミンチメイカーは、たしかに笑った。 

 銃声が起こって、ミンチメイカーの眉間に穴があき、後頭部が弾けた。

 男は死んだ。

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