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剣刃乱舞・その4

「姫さんは今一キャラが弱いな」


「そ、そんな事を言われましても…」


「語尾にニャ、とかつけてみるか?」


「に、ニャ、ですかニャ?」


「可愛いなぁこのボケ姫様。あと忍、世界最高権力者を玩具にしないの」

『王都』からの帰路の途中、近道ということで入り込んだ裏路地で突然『ファランクス財団』のボディガードとの交戦になった大上さん。私は剣や体技に関してはほとんど素人ですが、間近で目撃しているにも関わらず2人の動きをほとんど捉えることが出来ません。

 目にも留まらぬ攻防を一進一退に繰り広げる両者がようやく動きを止めたのは、それぞれ同時に大技らしきものを繰り出し、相打ちとなった時でした。


 「…無限斬刀まで、か」


 「ったく…まだやる気かよ?」


 「質問に、まだ返答が返ってきていないのでな」


 相手の黒いコートの男性が再度刀を構え、大上さんもそれに合わせてゆっくりと刀を向ける。そうして、再びぶつかり合おうとした時に…不意に頭上からこちらに向かって影が落ちて来ることに気が付きました。


 「ひゃああああああああ~」


 頭上どころか、もっとずっと高いところから落ちてきたのでしょう。それなのに随分間延びした緊迫感の無い口調で大上さん達の丁度間にくる地点に落ちてきたのは私もよく知る人物、マキナさんでした。


 「あイたたタた…あ、マスター」


 「…何やってんの、お前」


 「すいマセん。例の通り魔サんと接触出来タのでスガ…結構強カッたデす。あ、もチロんマスター程でハ無いでスけど」


 ついさっきまでの緊迫していた空気を完全に台無しにする暢気さでマキナさんがゆっくりと立ち上がり、パタパタと着物に付いた汚れを叩き落としてます。…一応マキナさんが落ちてきたと思わしき真横のビルを見上げてみると、服が汚れたでは到底済まない高さに思えるんですけど…。


 「…ん?」


 黒コートの男性が刀を鞘に納めているのに気づいた大上さんがマキナさんから彼に視線を変えてそう尋ねると、黒コートの男性はそのまま背を向けて歩き出しました。


 「何だ、もう終わりでいいのか?」


 「…興が削がれた」


 「そりゃ残念」


 「そうだな」


 黒コートの男性は一度だけ振り返ると大上さんの軽口に応ずるように小さく頷いて…。


 「続きは、次の機会だ『孤狼(ベオウルフ)』」


 そう一言だけ残して、そのまま振り返ることも無くそのまま立ち去っていきました。

男の姿が完全に私たちの視界から消えてからようやく大上さんがふぅ、と大きく肩を落としてた溜息をつきます。


 「正直二度と御免なんだがな」


 「マスターマスター、ワタシも頑張リまシた。頑張りまシタよ?」


 「はいはい偉い偉い。で、負けたのか」


 「負ケてまセんよぅ!」


 「…あの」


 このままでは私一人蚊帳の外になりそうなので、お二人の漫才が始まる前に質問がある意思を挙手でアピールします。


 「通り魔とか、一体何のお話でしょうか?出来れば説明して頂けると嬉しいのですが…」


 「そんな事言ったか?聞き間違いだろ」


 「さっキ『王都』でマスターが仕事を依頼さレたんデすよ」


 「マキナ?」


 「いふァイ、いフぁいフぇふ。まふヒャー」


 余計な事をと、マキナさんの頬っぺたをにょーん、と引っ張る大上さん。まあ、いつもの事ですし、この人がこういう人だというのも分かっているつもりですけど…。


 「お話、してもらえますよね?」


 「…面倒くせっ」


 「あイたたタ…、マスター、どウせなラ引っ張ラれるヨり撫で撫デされル方ガ嬉しインですけド」







 「ふぅぅぇええ~……」


 センリの至福に満ちた鳴き声を聞きながら飲むお風呂上りの牛乳はまた格別だね。しかもこう、瓶っていうのが憎い!『王都』の中枢である『塔』の大浴場に何で瓶入り牛乳が置かれてるのかは一体誰の趣味なんだろう、って疑問はあるけど、まぁ今は別にいいや。


 「『遠征祭』でも温泉入ったけど、やっばり思い切り足伸ばして入れるお風呂って良いよねぇ」


 「え?足を伸ばせないお風呂ってあるんですか?」


 「…思わぬところでカルチャーギャップがあったよ…」


 それもそうか。センリはこの世界に来てからほとんど『塔』で生活してるんだから、あの高級リゾートさながらの超絶大浴場が当たり前なんだね。…ほんのちょっぴりムカッとしたから脇つつこう。


 「にゃんっ、くすぐったいですよシャルさん」


 「あはは、にゃん、だって」


 「はふぅ~…やっと離して貰えました…」


 センリとじゃれてたところにフラフラになったモプシーが上がって来た。うわ、もうほとんどのほせてるじゃん。とりあえず新品フワッフワのタオルを頭から被せてワシャワシャしてあげよう。

 …うーん、モフモフの娘をモフモフのタオルでモフモフすると、こう…時を忘れるよね。モフモフでモフモフをモフモフしてモフモフ。うん、モフモフがゲシュタルト崩壊してモフモフ。


 「あふ、わふっ…しゃ、シャルさん、わたし一人で拭けま、すっ…」


 「まぁまぁ、ちっちゃい子が遠慮しないの」


 「わたっ、わたしっ、23歳ですっ…ですっ」


 「あの、シャルさん…?」


 モプシーの頭と耳をタオルでモシャモシャしてるのに夢中になってきたところでセンリが哀れな子兎に助け舟を出してきた。


 「えっと、その、私も…やらせていただいても?」


 あ、違うこれ助け舟じゃない、増援だ。


 「うん、どうぞどうぞ」


 「さ、されるがままにされているわたし自身の意志は!?わたしの意思は!?」


 「では、モプシーさん。よろしくお願いしますね?」


 「ウサッ!?」



 一頻りモプシーをモシャモシャしてから、広大なお風呂とモプシーモフモフを堪能してすっかり火照った体を冷ます為にバルコニーに出るとひんやりとした風が心地よく吹いてきた。


 「ふわあ~…もう、ここでお布団敷いて寝ちゃいたい…」


 「か、風邪引いてしまいますよ?」


 「冗談だってば。まぁ実際敷いたら絶対寝ちゃうだろうけど」


 トコトコと私の後を追うようにやってきたセンリが、両手に1本ずつ持っていた牛乳瓶の片方を私のほうに差し出してくれたのでありがたく受け取る。おや、センリはフルーツ牛乳派かぁ。


 「ありがと。すっかり寛がせてもらっちゃってるね」


 「いえいえ、私もお友達をお招きするのは生まれて初めてですから。喜んで貰えているのでしたら何よりですよ」


 お友達、か。私自身、自分が面識の浅い相手に対しても若干馴れ馴れしい傾向があるのは自覚してるけど、センリの方も私のことをもう友達と認識してくれているのが、素直に嬉しい。リップサービスかもしれないけど、多分こんなほにゃ、とした顔でフルーツ牛乳を抱えて夜風を堪能している娘に他意は無いと思う。


 「モプシーは?」


 「もうお部屋に戻りました。夜更かしが出来ない体質だそうですよ」


 「本当に23歳なのかなぁ…もうこんな時間から眠くなるって健康的すぎでしょ」


 たまに一緒に寝る時もモプシーはすぐ眠っちゃうし。寝てるモプシーをクッション代わりに抱えながら撮り貯めしたアニメ見たりゲームしたりなんていうのもよくある事だよ。


 「仲が良いんですね、皆さん」


 「そりゃあね。ウリとは付き合いも長い親友だし、モプシーはカワイイしマキナさんはノリも良いし」


 「羨ましいです。お友達が沢山いて」


 そう言って、ちょっとだけ寂しそうに笑うセンリ。『神姫(ティアマト)』。オルドの最高権力者なんてご大層な肩書きがついてるけど、センリだって好きでこの世界に来たわけじゃないし、全く知らない世界で知り合いも居ない中祭り上げられてこんな籠みたいなところでずっと1人で過ごしてるんだよね…。


 「…センリだってもう私の友達だよ?だからきっとセンリもすぐウリ達とも仲良くなれるよ」


 「そう、でしょうか」


 「ウリはちょっと硬いところあるからしばらくぎこちないかもしれないけど面倒見もいいし世話好きだしね。モプシーはさっきみたいにモフモフしてあげればいいんだし、マキナさんに至ってはあの人忍以外の人に関しては地位とか身分とかも全然興味ないっぽいし」


 「個性的な方々なんですね…でも、そうですね。仲良くなれたら、嬉しいです」


 センリはそう言うと今度は嬉しそうに微笑んで…それから一瞬、何かを思い出したように表情を曇らせた。見逃しても良かったんだけど、気づいちゃったし気になったんで「どうしたの」と聞いてみる。


 「シャルさんは、おおがみさんとも仲が宜しいんですよね?」


 「…いやぁ、仲が良いかと聞かれると凄く返事に困るよ?」


 思いがけない名前が出てきたね。あ、でもセンリって『TNN号』の一件から何か忍を気にしてるみたいだったっけ。見た感じ惚れたとか懐いたとかって感じじゃあないっぽいけど。


 「そりゃ仲が悪いって訳でも無いと思うけど、ろくにお互い信頼関係も無いし友達って訳でも無いし…アイツは私の世話係っていう仕事ってだけで、ねぇ?」


 「なんだか、よくわかりませんけど複雑なんですねえ」


 「自分で言いながらよく分かんない関係だと思うよ」


 そりゃまあ、毎日掃除洗濯ってくれてるし毎回美味しいご飯作ってくれるし時々オヤツも出してくれるし、何度も助けられた事もあるから感謝の気持ちは当然無くは無いよ。

 それと同じくらいかそれ以上に毎日虐められたりからかわれたりおちょくられたりポンコツ呼ばわりされてるから素直に感謝の気持ちを示す事は絶対無いけどね?


 「何だか、ちょっと羨ましいです」


 「正気?なら上げようか?お勧めは絶対出来ないけどさ」


 忍が神姫様のお付かぁ…うん、全然想像できない。初日で無作法者として投獄される気がする。

いやいや案外アイツ要領いいし外面も取り繕うから上手くやるのかも?何となく、センリと並ぶSP姿の忍を想像してみて…何故かちょっとムカついた。













 『鋼桜(アイゼンキルシュ)』は退けたものの、直後に目撃した『孤狼(ベオウルフ)』とブレードの立ち合いにはついその場から離れる事も忘れて目を奪われてしまった。

 『ファランクス財団』の用心棒、ブレードの練度の高い技の数々にも、それを全てかわす『孤狼(ベオウルフ)』も、両者とも尋常ならざる技量の持ち主だということが遠巻きにも見て取れる。

 『獣化』まで使ってようやく『鋼桜(アイゼンキルシュ)』を追いやる程度の今の自分に、あの2人を相手にどこまで通用するだろうか。


 (それでも、やるしか無い…元より後戻りする事も、他の選択肢も無いのだから…)


 「…もしもし」


 〔やぁ、調子はどうかなシキョウ殿〕


 「…スザク会長」


 〔おや、如何した?随分疲れたような声に聞こえるが〕


 「…『孤狼(ベオウルフ)』が剣舞祭に参加するそうです」


 極力声を聞きたくない相手からの、実に嫌なタイミングの連絡についこちらもいつも以上に言葉に棘を持ってしまう。そう報告すると電話口に微かに息を呑む気配が伝わってきた。それだけでもほんの少しだけ、溜飲が下る心持ちになる。


 「彼と直接は対していませんが、『孤狼(ベオウルフ)』の右腕『鋼桜(アイゼンキルシュ)』と交戦しました」


 〔ほぉ、かの『狼の盾』とな。…して、どうだったかな?〕


 「『奥の手』を使って、ようやく五分五分…といったところでしょうか」


 〔それはまた随分と弱気よの。『狼』は更に難敵ではないか〕


 「…ご心配なく」


 〔成る程、まだ見せぬ手がある、という事か。…ふむ、こちらの方からも『孤狼(ベオウルフ)』に関しては多少手を打っておこう〕


 「…分かっているとは思いますが、もしこの件が済めば本当に父を…」


 〔盟約は守るよ。お主はお主のなすべき事を。…では、また連絡する〕


 相も変らぬ、都合のいい言葉ばかり…。それでも、そんな薄っぺらい口約束に縋らなければならない自分に何より腹が立つ。


 「もう少し、もう少しだけお待ちください…必ず、この手で助けて見せます、父さん…」







 「そんな事が…」


 途中の思いがけない襲撃もあり、ウリを送るついでに俺達も学園に一旦戻ることになり、その道中でざっとウリにもフウや『局長(ワイズマン)』からの依頼内容を伝える事にした。

 学園に戻る、と一応ポンコツ(シャル)にはメールしたが返ってきたのは「勝手にすればいいさ」という淡白な一文だけだった。


 「てっきり通り魔が襲ってくると思ったが、まさか『財団』が来るとは流石に思いもしなかったな」


 とは言え、どうもあの男…ブレードとか名乗ったアイツは『財団』の意思ではなく個人的な理由で襲い掛かってきたみたいだが…。やはり、目当ては『真影流」なんだろうなぁ…面倒臭ぇ。


 「『ファランクス財団』も今回の『剣舞祭』に関与している、と?」


 「さぁ、どうだろうな」


 今のところそこまでは分からん。今気になっているのはフウからの依頼の内容だ。

通り魔の目的もその背後組織も分かっているのに騎士団が動かない理由…パッと思いつく理由は2つ。

1つ、証拠が無い。…だがこれはちょっと考えにくいな。そこまで分かっているのだからそれなりに調査もされているんだろうし、最近不祥事もあるが騎士団は基本的には優秀だ。

ならば2つ目。騎士団の方に、動く事ができない理由がある。…多分こっちだ。わざわざ『局長(ワイズマン)』まで出張ってきたぐらいだしな。


 (思いつくのは犯人、もしくは犯人の関係者が騎士団と関係しているので身内の不祥事になるから。後は…)


 「あ、マスター。学園ニ着きマしタヨ」


 考えをまとめる前にバスが目的地に止まり、ドアが開く。降り損ねるとこのまま駅まで行っちまう。どっちにしろ情報が全然足りないので今考えても意味が無い。


 「ったく…面倒ごとばっかり押し付けてきやがるな、あの細目タイガーは…」


 「まぁマぁ、カタリナの無茶振りに比べレば良心的でハ?」


 「そりゃな。アレに比べたら『ロキの尖兵』すら慈善事業団体に思えるわ」


 「…どんな方だったんですか、お2人のギルドのマスターさんは…」


 どんな方、と聞かれても困るんだが。アレを上手く説明するには一晩では足りない上にアイツの恐ろしさは実害を喰らって見なければ分からないだろうし。


 「ああ、そうだウリ。情報室は使えるか?」


 「ええ、それは当然、一般開放していますから」


 「なら後で使わせてくれ。ちょいと調べたいことがあるしな」


 「もう、今日はこんな時間ですし、明日にしてはどうですか?事務室で使用許可を貰って来ることを忘れないようにしてください」


 ああ、そういえばそんな手続きが必要なんだったっけかな。いろいろ規制しておかないと学園のPCでネトゲに勤しむ輩だの投稿小説サイトに応募する輩だのがいるらしい。

 俺のそんな「面倒臭い」というオーラを感じ取ったかのようにウリがはぁ、と溜息をつきながら。


 「…生徒会室にもPCは置いてありますから、明日いらして下さい」


 「そうか、助かる」


 「いいえ。…それで、どうするのですか?その依頼は」


 ウリは言葉には出さないが「シャルの保護者という立場をお忘れなく」と視線で釘を刺しているような感じだ。


 「フウの事だ、こういう話を持ってきた時点で断りようがないように仕組んでるんだろうよ」


 今の俺の立場上、俺が依頼を断れないようにするには…おそらくあの野郎、ポンコツ(シャル)をも巻き込んでるんだろうな。

 …相も変わらず、いけ好かない手口ばっかり使いやがる。


 「アイツの掌で踊るつもりはねぇし、出来るだけの事はやっておくさ」






 「それじゃ、お邪魔しましたー」


 「はい、またいつでも遊びにいらしてくださいね」


 「いやぁ、流石にそれはどうなんだろ」


 翌朝、わざわざ『塔』の入り口までセンリと瀬葉さん、そしてツキノさんが見送りに出てきてくれた。いくら私でもそんな軽々しく何度も何度もオルドで一番厳重な場所に遊びに来れないよ?


 「うぅ…まだ眠いです…です」


 「モプシーは夜更かしさんやなぁ。そんなんやから背も胸もちみっこいままなんちゃうん?」


 「なかなか寝かせてくれなかったのはツキノさんじゃないですか…だからお酒が入ったツキノさんは嫌なんです、ずーっと絡んで絡んで離してくれなくて…」


 ブツブツと愚痴を漏らすモプシーだけど、実際口で言うほどツキノさんを嫌ってる訳じゃないんだろうね。この世界(オルド)での身元保証人って聞いたけどこうして傍目に見てると気心の知れた間柄って感じ。こういうモプシーは珍しいから新鮮だね。私にはまだまだ警戒心があるというか距離があるというか…下手したら私より忍のほうが懐かれてるかもしれないぐらいだよ。


 「じゃあ、行こっかモプシー」


 「あ、は、はい…ツキノさん、ウルスさんに何か伝言は…」


 「無いっ。ヨコスカ港に沈めっちゅーとけ」


 「伝言無いのかあるのかどっちなんですか?」


 そんなこんなで、姿が見えなくなるまでひらひらと手をふってくれてるセンリ達と離れ、『王都』を出ると学園に戻るために学園行きのバスが出る乗り場を目指す。


 「どうだったモプシー。久しぶりの保護者との再会は」


 「…疲れました、戻ってお布団に入りたいです…お風呂にのんびり入りたいです…忍さんのご飯が食べたいです…」


 「あー、ずーっとツキノさんにベッタリくっつかれてたもんね。よっぽど嬉しかったんだね、モプシーに会えて」


 「…もう少し、自重してくれると嬉しいんですけど、あの人も…」


 こうして愚痴りまくるモプシーもまた珍しいなぁ、なんて思いつつ2人並んでテクテクと繁華街から外れた住宅街を歩いていく。


 (期待はしてなかったけど、やっぱり迎えに来ない気だね、あの性悪狂犬…お世話係失格じゃない?)


 そりゃあね?『王都』を出たら車の前に立っていて「お迎えに上がりましたお嬢様」とかやれなんて言わないよ。実際そんなことやられたら逆に鳥肌立つよ。

 そんな事をボンヤリ考えながら歩いてると、不意に隣のモプシーの方からこれまた珍しく声をかけてきた。


 「…シャルさんは、凄いですね」


 「えっ?どうしたのさ藪から棒に」


 「い、いえ…、だ、だって、『神姫(ティアマト)』様相手にあんなすぐに打ち解けて…お友達になって…」


 「あー、それは単に私が身分とか立場とか気にしなさすぎるだけだと思うけど」


 誰かさん風に言えば「馴れ馴れしい」の一言で済みそうだけどね。でもしょうがないじゃない、こういう性分なんだからさ、昔っから。


 「でも…ひゃっ!?」


 モプシーの言葉を遮っていきなりちょっと乱暴な運転で私達の真横に車が止まる。黒塗りの、こんな人通りも車の往来も少ない道で露骨に不自然に。

 まさか噂の『ロキの先兵』?私の後ろに素早く隠れるモプシーを隠すようにしながらいつでも目の前の風景を吹き飛ばせるだけの魔術の術式を構築していくと、ドアが開いてこれまた露骨に怪しいスーツ姿の男達が降りてくる。


 「シャルトリュー・コラットさんでお間違いないですね?」


 スーツを着ているとは言え、顔中傷だらけだったりやたらと頭に剃り込み入ってたりよくナラシテイの大仏様かって思うぐらいのパンチパーマだったり、そんなあからさまにアッチ系の男が、3人。早速背後であわあわ言いながらガタプルし始めるモプシーはさておき、こいつらの目的はどうにも私みたいだね。


 「だったら何?吹き飛ばしていいの?」


 「い、いやいや誤解しないでいただきたい。危害を加えるつもりは一切ありません」


 軽口のつもりで言っただけなのにやたら過剰に怯えるガラの悪い男達。いまいち目的が見えなくて私が首を傾げてると男の一人がスーツの襟に止めてあるバッジを見せながら、仰々しく腰を下ろして頭を下げてくる。


 「自分ら、茶釜組のモンでございますコラットさん。その節はウチらの下のモンがとんでもないご迷惑をおかけしまして…」


 「…あ、ホントだ。見覚えがあると思ったら」


 確かに、この人たちのスーツについてるバッジは茶釜組…昔私の発明品や術式の利権を狙ってあろうことか私自身ではなくウリに危害を加えた許すまじヤクザ組織だ。

 まあ、そのあと当然ギタギタに痛めつけてやったし、最近も忍の悪魔のような脅迫…もとい交渉で飼い殺しみたいな状態になってるけどね。詳しくは過去作参照。


 「で、何の用?今頃報復しにきたっていうなら隣の県まで飛ばしてあげるけど」


 「いやいやいやいや!ですからそんなつもりは毛頭ありませんので!」


 我ながらやりすぎってぐらい暴れたからねぇ…今でもこんなに恐れられちゃってるんだ?でも、ウリにあんなことしたんだし気の毒だなんて全然思わないけどね。


 「ウチのオヤジ…茶釜社長が是非に、コラットさんにお願いがあるそうで…お手数だとは思いますが、何卒お時間いただけないでしょうか…」


 いかついチンピラさんたちがあんまり低姿勢で私を怖がってるもんだから後ろからモゾモゾとモプシーがゆっくり顔を出して、振り返った私と目が合う。


 「ぶっちゃけ私はあのタヌキに会いたくないんだけど。用事って何?」


 「さ、さぁ…俺らはただの使いっぱしりですから詳しいことは何も…なぁ?」


 仲間たちと顔を見合わせて頷き合う茶釜組の組員さんたち。こういう時こそアイツがいたら話が早いんだけど…。なんだろ、ここで断っても後々が面倒なことになりそうなだけだし…いざとなったら今度こそオルドの地上から滅ぼしちゃえばいいしね。


 「はぁ…わかった。でもお昼前には帰りたいからね?」


 「あ、ありがとうございます!ささ、では車に…あ、そちらのお嬢ちゃんも」


 「わ、わたしシャルさんより年上ですっ!」





 「開いてまっせー」


 『王都』にシャルとモプシーを置いたまま一足先に学園に戻ってきた翌日。ウリに言われた通り早速生徒会室を訪ねることにした。ドアをノックすると帰ってきた呑気そうな返事の言う通り、特に鍵もかかっていない扉は簡単に開けられた。


 「おー、何かお久しぶりですなあ大上さん」


 「確かに」


 生徒会室に一人寂し気に佇んでいたのはこの学園の生徒会副会長、出雲稲荷。ズボンから盛大に突き出したフッサフサの9本の尻尾と頭の上に生えた獣耳から一目瞭然の通り、妖狐だ。

 生徒会という肩書ではあるものの、あのお堅いウリの部下とは思えないほどノリが良く個人的にも割と嫌いではないヤツだ。同じ細目でもどこぞのギルドの陰険ドグサレスカタン虎野郎とは大違いってもんだ。


 「…あれ、会長サマはいないのか?」


 「ええ、今日はまだですわ。まぁあの人めっちゃ朝弱いんでもうちょい時間かかると思いますわな」


 「生徒会長がソレでいいのかよ…」


 部屋を見回しても目当てのウリ助の姿がないので尋ねてみればコレだ。試しに稲荷にPCの使用を聞いてみるが


 「すんません。会長がおらんとロックが外せないんですわ」


 「面倒くせぇ…」


 「そんなら直接会長迎えに行ってきたらどうです?」


 「おいおい…ポンコツだけじゃなくて寝坊助生徒会長の世話までしろってのかよ」


 「でも、このままじゃ埒あかんでしょ?」


 「そりゃそうだが…」


 まあ、確かにここで渋っていても仕方ない。俺が溜息をつくとそんな様子に俺が諦めたと察した稲荷が手近なメモ用紙にササッとウリの部屋への地図を描いて渡してくれた。おお、意外と達筆。


 「ボクとしても会長に早く来て欲しいんで。頼んますわ大上さん」


 「…仕方ないか。んじゃ、ちょいと寝坊天使を引きずり出してくる」


 「はいな、お茶でも淹れて待ってますわー」


 稲荷に見送られながら生徒会室を後にし、学園敷地内の学生寮へと向かう。ちなみに校内からなら徒歩で大体10分。俺やシャルの自宅からなら5分弱といった距離だ。そのせいか休日は頻繁にこっちに顔を出してくるんだよな…あの天使娘。

 何度か足を運んだこともあるので特に迷うこともなく学生寮エリアに到着。特徴的な青と赤の建物が目の前にそびえたつ。寮というよりちょっとしたマンションだな、これ。こんなに金をかけられるならもうちょい俺への報酬に色をつけてくれても良いと思うんだが。


 とりあえずウリの部屋を訪ねようと女子寮に近づくと入り口前で警備員を兼任する管理者に声をかけられた。学生証を見せるまで絶対アレは不審者を見る目つきだったよな…。

 ともあれ、女子寮に侵入成功。とは言ってもあまり長いする気も意味もないのでさっさと部屋を探すことにする。…早速何やら周囲の好奇の視線が集まってきたし。

 まあ、そりゃ女子寮に紳士とは言えども俺みたいな男がウロついているんだから、怪しむのも当然か。

…おいそこの女子、何で今写メ撮った?


 (ウリの部屋は……面倒臭いな、最上階かよ…)


 稲荷が書いてくれたメモに改めて目を通す。ウリの部屋は7階。そしてこの寮は7階建て。最上階にお住まいとは流石は生徒会長様。良い御身分で。

 最上階の部屋を使っている生徒はほとんどいないので部屋もすぐに見つかった。ドア横のプレートにもしっかりと「ウリ」と表記されてるし間違いない。ってかアイツ一人部屋かよ。父親が理事長だからって贔屓されすぎじゃないか?


 (まあ、正直どうでもいいんだが)


 インターホンを鳴らす。…反応無し。もう1度、2度と押しても反応が全くないのでコンコンとドアを直接ノックしてみる。反応全く無し。

 もしかして留守なのか?だとしたら入れ違いじゃねえか、面倒臭い…。なんて思いながらも今度はドアノブを引っ張ってガタガタ音をたててやろうとしてみると、ガチャリとドアそのものが開いた。


 「…何て不用心な」


 鍵もかかっていないドアを開いて部屋の中を覗き込んでみる。気配はするので居るとは思うんだが…。


 「おーいウリいるの…」


 「…」



 まあ、鍵が開いてたからといって勝手にドアを開けてしまったこっちにも1割ぐらい非はあると思うが、いくら何でもドアに鍵かけずにそんな格好で年頃の娘さんがウロウロしているとは思わないだろ。

つまり俺は悪くない。あんまり悪くない。オーライ?



 「…」


 「まあ、何だ」


 湯上りらしい、濡れた髪の毛や体に水滴を残したまま頭からタオルをかぶっているだけのウリと視線が真っ向から重なり合ったまま、咳払いを一つ。


 「シャルよりデカいんだな」


 「いいから閉めて下さいっ!」


 場を和ませようと言ったジョークにも食い気味にウリがその手に光の弓を具現化させ始めたので慌ててドアを閉め部屋の外に避難。数秒してから、ドア越しに室内から叫んでいるのか暴れているのか大きな音が響いてくる。


 「…何か、前にもこういうのあったような…」


 「オドレお嬢に何しくさったんじゃコルァァア!!」


 何となくデジャヴを感じていたところに今度は女子寮というこの場に俺以上に場違いなドスの聞いた怒鳴り声。振り返ると既に見知らぬ男の拳が俺の鼻先にまで迫ってきていた…。






 信じられません!何ですかあの人はっ!

 …それは確かに、鍵をかけるのを忘れていた私にも非はあるでしょうけど…。

 普通はああいう状況だったら慌てて外に出るなり目をそらすなりするでしょう!何をあんなボーッと、興味なさそうに…いえ、それは別に興味を抱いてほしいという事ではありませんが、あそこまで薄いリアクションをされるとこちらも一応年頃な訳ですし、女のプライドというものも人並みにある訳で…。


 「ああ、もうまったくもう…!」


 先程の来客の際でもまだ頭がボーッとしていたのでシャワーを浴びたのですが、お陰様でバッチリと目が覚めました。

 しっかりと体を拭いて、普段通り学園生徒会の赤いブレザーに袖を通してから姿見でしっかりと服装をチェック。はい、問題なしです。

 …あの人の事だからどうせドアの外でしれっとした顔で待ってるんでしょうね。もう少し文句を言いたいところですが聞く耳は持たれないでしょう。生徒会室に来てくださいと言っておきながら寝坊したこちらにも非はありますし。


 「…お待たせして申し訳ありません。では、行きましょ…」


 何となく外が騒がしいな、等と思いながらドアを開けて外で待っているであろう大上さんの姿を案の定確認して、声をかけます。


 「お、お嬢!お逃げ下せぇ!こいつぁヤバいですぜっ!あっしが囮になっている隙にどうか、どうかっ!」


 「…変わった知り合いだな。…彼氏か?」


 私の部屋の前での騒ぎの元凶2名はどちらも見知った顔。片方は当然のごとく大上さん。そしてその大上さんに腕の関節を捩じりあげられて通路の床に押し付けられている人は…。


 「はぁ…」


 本当、この人と出会ってからこうして溜息が出る回数が飛躍的に増えた気がします。どうしてこう、この人は不要なトラブルをいつもいつも引き起こしてしまうんでしょうか…。


 「大丈夫ですから、その手を放してあげてください。…文福さん、この人は大上忍さんです」


 「んなっ!?で、では、コイツ…じゃなくてこの兄さんが、あの『孤狼(ベオウルフ)』っ!?」


 「大上さんも、放してあげてください。この方は…ええっと、その、一応知り合い、なので」


 「何か煮え切らない言い方だな…彼氏か?」


 「違います!そもそもいませんし!」


 「そんな大声で自慢げに言い切らんでも」


 そう言いながら無造作に捻りあげていた相手の腕を放す大上さん。痛めつけられたもう一方の「知り合い」は捩じられていた腕をさすりながら大上さんに向き直るとペコリ、と頭を下げてます。


 「紹介しますね。こちらは文福さん。…あの『茶釜組』の部長さんです」


 「ああ、若頭か」


 「あの、人が折角言葉を選んでいるんですから台無しにするのはやめてもらえませんか?」

 

前回の更新から2か月近く…すいません。SSサイトにハマってしまってます

登場人物も増えてきましたし回毎にメインに据えるキャラチョイスに悩むところです。そう言いながら今回もまた色々な方面の勢力が企んでいるのでややこしいことになりそうです。


今回初登場なのは茶釜組若頭…もとい部長職の文福さん。まぁ詳しい紹介は次回に。



鉄壁の警備体制を誇る『王都』ですが何といっても一番の目玉警備システムは「どこでも落とし穴」。怪しい人物を察知すると警備室の機材を操作し目標の足元をパカッと開いて奈落の底にあっという間に突き落とすという画期的なシステムです。

ちなみに落ちた相手は地下に張り巡らされた無駄に長い通路をすさまじいスピードで滑り落されゴミ処理施設に一直線という身も心も色んな意味でボロボロになるシステムです。


システム設計者Sさん(仮名)「えっ?何か面白いかなー、って」

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