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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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お土産

中休みに入って最初の朝、クロードは学園の門へ向かった。

昨日までなら教本やノートを持って授業へ向かっていた時間だったが、今日は肩に小さな鞄を掛けているだけだった。

門の近くには、すでにノーゼスが立っていた。

「おはよう」

「おはよう」

クロードが近づくと、ノーゼスは学園の方を見る。

「エクリアまだだな」

「まだ時間前だよ」

「分かってる」

そう答えながらも、ノーゼスはもう一度そちらを見た。

少しして、学園の中からエクリアが歩いてくる。

「おはよう」

「おはよう」

「今日はちゃんと前の日に決めたな」

ノーゼスが言うと、エクリアは少し眉を上げた。

「前に私がそう言ったからでしょ」

「覚えてたのか」

「言った本人なんだから覚えてるわよ」

「俺は忘れてた」

「でしょうね」

クロードは二人を見て笑った。

三人は門を出て、学園のある一角から街中へ向かった。

休日の通りには朝から人が多く、開いたばかりの店先にも少しずつ客が集まり始めている。

「クロードは何買うんだ?」

歩きながらノーゼスが聞く。

「家へのお土産」

「それは昨日聞いた」

「まだ何を買うかは決めてないんだ」

エクリアがクロードを見る。

「人数も多いのに?」

「うん」

「それで今日中に決まるの?」

クロードは少し考えた。

「たぶん」

「たぶんなのね」

大きな通りへ出ると、道の両側に日用品や小物、菓子などを扱う店が並んでいた。

クロードは店先の品を眺めながら歩く。

何から選ぼう。

そう考えた時、ふと光哲だった頃のことを思い出した。

実家へ帰る時は、どんなものを買っていただろう。

光哲の家族は父と母、それから妹の四人だった。

妹がまだ実家にいた頃には妹の分も買っていたが、結婚して家を出てからは帰省の土産といえば父と母の二人分がほとんどだった。

二人なら好みもそれなりに分かっていたし、それほど迷った覚えもない。

けれど今は違う。

父上がいる。

母さまもいる。

そこまでは普段の姿を思い浮かべれば、まだ何とかなりそうだった。

けれど父上には、母さまのほかにクラリッサ様とセレナ様もいる。

普段はそれが当たり前になっているのに、お土産を選ぶとなると一人ずつ考えなければならない。

さらにブライン兄さま、ザナン兄さま、アルト兄さま。

そしてイリア。

クロードは頭の中で一人ずつ数えた。

「……多いな」

思わず声に出た。

「何が?」

ノーゼスが振り返る。

「お土産を買う人」

「何人いるんだ?」

「結構いる」

「だから何人だよ」

「数えると余計に大変そうだからいい」

「もう数えた顔してるけど」

エクリアに言われ、クロードは少し笑った。

しかも光哲だった頃には兄はいなかった。

今は兄が三人もいる。

家族には違いないが、兄さまたちとずっと同じ屋敷で暮らしてきたわけでもない。

何を使っていて、何を欲しがっていて、何をもらえば喜ぶのか。

知っているようで、考えてみると知らないことも多かった。

「これは手ごわいな……」

「お土産が?」

「うん」

「食べ物にすればいいだろ」

ノーゼスがすぐに答えた。

エクリアが横から見る。

「あなたは最初から考える気がないでしょ」

「みんなで食えるぞ」

「自分も食べられるものね」

「それも大事だろ」

クロードは二人のやり取りを聞きながら、近くの店へ入った。

父上のことを考えながら品物を手に取り、使っているところが想像できなければ棚へ戻す。

別のものを見つけて、今度は少し考えてから選んだ。

母さまの分では、以前贈った万年筆のことを思い出した。

あの時は母さまがよく書きものをしている姿を見て選んだ。

今回も普段の母さまを思い浮かべながら、別のものを選ぶ。

クラリッサ様とセレナ様では、予想していた通り時間がかかった。

「さっきから何回戻してるの?」

エクリアが聞く。

「どっちがいいか分からなくて」

「使っているところを考えてみたら?」

「考えてるんだけど、それでも分からない」

「じゃあ大変ね」

「うん」

「だから食べ物に――」

「ノーゼスは少し黙ってて」

「なんでだよ」

結局、何軒かを見比べてから二人の分も選んだ。

イリアの分では別の意味で迷った。

昔、人形を渡した時にはとても喜んでいた。

けれどあの頃よりイリアも大きくなっている。

今なら何を喜ぶだろうと考え始めると、なかなか決まらなかった。

「あれは?」

エクリアが一つを指す。

クロードはしばらく見る。

「喜ぶかな」

「妹なんでしょ?」

「うん」

「クロードの方が分かると思うけど」

「だから迷ってるんだよ」

ノーゼスが少し離れたところから二人を見る。

「まだ決まらないのか?」

「イリアの分だから」

「じゃあ待つ」

ノーゼスはそれだけ言って、近くの商品を眺め始めた。

クロードはもう一度棚へ向き直り、しばらく迷ったあとで一つを選んだ。

次は兄さまたちだった。

ブライン兄さまの顔を思い浮かべる。

ザナン兄さまのことも考える。

二人とも家族ではあるが、クロードが幼い頃から王都にいる時間の方が長かった。

一緒に食卓を囲んだことも、話したこともある。

それでも毎日顔を合わせていたわけではない。

「兄へのお土産って難しいな」

「そうなの?」

エクリアが聞く。

「何が好きなのか、あんまり知らないんだ」

「だったら本人に聞けばいいのに」

「それだとお土産じゃなくならない?」

「別にいいんじゃない?」

クロードは少し考えた。

それも間違ってはいない気がする。

けれど今回は、自分で選んで持って帰りたかった。

何軒かを回り、悩みながらブライン兄さまとザナン兄さまの分を選んだ。

そして次は、アルト兄さまの分だった。

クロードは店先に並んだ品を見ながら、少しだけ考えた。

アルト兄さまなら、本かな。

そう思うと、昔のことが浮かんだ。

まだ文字も読めなかった頃、アルト兄さまが持っていた歴史の本を見せてもらった。

隣に座って本を開いてもらい、昔のことや地図のことを教えてもらった。

文字が読めるようになってからも、分からないことがあるとアルト兄さまに聞いた。

金属について書かれた本を探した時にも、一緒に本を探した。

「本がいいかも」

クロードは本を扱っている店を探し、ノーゼスとエクリアと一緒に中へ入った。

棚には何冊もの本が並んでいた。

歴史について書かれたもの。

知らない土地について書かれたもの。

物語らしい題名のもの。

クロードは背表紙を目で追いながら、棚の間をゆっくり歩いた。

昔なら、アルト兄さまが何を読んでいるのかもう少し分かった。

同じ屋敷にいて、顔を合わせて、話すことができた。

今は違う。

少し前に家から届いた知らせにも、アルト兄さまが戻ってきたとは書かれていなかった。

今も屋敷にはいない。

何年も会っていない。

今はどんな本を読むのだろう。

何に興味を持っているのだろう。

クロードには分からなかった。

一冊を手に取る。

すでに読んだことがあるかもしれない。

棚へ戻し、別の本を見る。

それも持っているかもしれない。

「……どれがいいんだろう」

本を眺めているうちに、クロードはふと学園のことを思った。

アルト兄さまも、本当なら王立学園へ通っていた。

もしあの時いなくならなかったら、今頃は同じ学園のどこかにいたのだろうか。

校舎の中ですれ違うこともあったのかもしれない。

食堂で顔を合わせることもあったのかもしれない。

中休みになった今日だって、一緒に街へ出ることがあったのだろうか。

こうして隣で本を見ながら、家へのお土産を選ぶこともあったのかもしれない。

クロードは少しだけ顔を横へ向けた。

少し離れた棚ではエクリアが本を見ていて、ノーゼスはすでに店の外へ目を向けている。

アルト兄さまはいない。

分かっていたことなのに、本来あったかもしれない今日を考えると胸の奥に小さな重さが残った。

クロードはもう一度、本の並んだ棚を見る。

アルト兄さまへ何かを買うことまで、なくす必要はない。

帰ってきた時に渡せばいい。

いつになるのかは分からない。

それでも、その時まで取っておけばいい。

クロードはしばらく考え、それから一つ思いついた。

「新しい本なら、まだ持ってないかも」

棚から離れ、店員のところへ向かう。

「すみません」

「はい」

「最近出た本ってありますか?」

店員は少し考えてから、店の奥にある棚へクロードを案内した。

「新しく入ったものなら、この辺りですね」

「ありがとうございます」

並んでいるのは、どれもクロードの知らない題名だった。

これならアルト兄さまも、まだ持っていないかもしれない。

一冊を手に取る。

表紙と題名を見て、少し考えてから戻す。

次の本を見る。

今のアルト兄さまが気に入るかどうかは、やっぱり分からない。

それでもクロードは何冊かを見比べた。

その中から一冊を選び、店員のところへ持っていく。

包んでもらった本を両手で受け取る。

少しだけ重さのある包みだった。

帰ってきたら渡そう。

クロードはその包みをしばらく見つめた。

「あれ食べてみよう」

ノーゼスの声が聞こえた。

クロードが顔を上げる。

いつの間にか店の入口まで行っていたノーゼスが、通りの向こうを指していた。

そこには食べ物を売る店があり、焼けた肉の匂いがこちらまで流れてきている。

「今?」

エクリアも顔を上げる。

「うまそうだろ」

「本を見に来たんじゃなかったの?」

「クロードはもう買っただろ」

クロードは手の中の包みを見る。

それから大切に鞄へしまった。

「僕も食べたい」

「だろ?」

ノーゼスが嬉しそうに店を出ていく。

「本当に二人とも食べ物を見つけると早いのね」

エクリアが呆れながら後を追った。

クロードも二人のところへ戻った。

三人で食べ物を買い、そのまま通りを歩いていく。

ノーゼスは食べ終わる前から次の店を見ていた。

「今度は何?」

エクリアが聞く。

「あれもうまそう」

「まだ食べてるでしょ」

「あとで食う」

「今日はお土産を買いに来たのよ」

「これも土産にできる」

「今食べてるじゃない」

クロードは笑った。

そのあとはノーゼスとエクリアの買い物にも付き合った。

ノーゼスは最初に言っていた通り食べ物を見る時間が長く、エクリアは何軒かを見比べてから買うものを決めていた。

クロードも時々自分の荷物を確かめる。

父上たちへのお土産。

兄さまたちへのお土産。

イリアへのお土産。

アルト兄さまへ選んだ本も入っている。

三人が学園へ戻る頃には、朝より荷物がずっと増えていた。

「明日は俺、先に帰るからな」

ノーゼスが言う。

「うん」

「私はノーゼスより後になると思うわ」

エクリアが続ける。

「僕はその次の日」

「じゃあ明日もまだいるんだな」

「うん」

エクリアがクロードを見る。

「見送りに来る?」

「行くよ」

「俺も?」

ノーゼスが聞く。

「ノーゼスは先に帰るでしょ」

「あ、そうか」

「自分の予定でしょ」

三人は笑いながら寮へ向かった。


◇


翌朝、クロードはノーゼスを見送るため門まで来ていた。

エクリアも一緒だった。

昨日は三人で街を歩いていたのに、今日はノーゼスの荷物が足元に置かれている。

「じゃあ、行ってくる」

「うん」

「また後期にな」

「またね」

エクリアも手を上げる。

「休みだからって魔法の練習ばかりしないでよ」

「なんで俺に言うんだ?」

「クロードに言ったのよ」

「僕?」

「あなたもよ」

エクリアがノーゼスを見る。

「俺は何もしてないだろ」

「だから言ってるの」

「どういう意味だよ」

ノーゼスが言い返したところで、出発する時間になった。

「じゃあ今度こそ行く」

「うん」

「またな」

ノーゼスは最後にそう言って離れていった。

クロードとエクリアは、その姿が見えなくなるまで見送った。

「行っちゃったね」

クロードが言う。

「私もあとで帰るけどね」

「うん」

「クロードは明日でしょ?」

「そう」

二人はそこで一度別れ、それぞれ寮へ戻った。

クロードは自室へ戻ると、昨日買ったものを机の上へ並べた。

着替えをまとめ、家へ持ち帰るものを分け、お土産も一つずつ鞄へ入れていく。

アルト兄さまへ買った本は、他の荷物に押されないよう場所を空けて入れた。

荷造りを続けていたクロードは、途中で手を止めた。

鞄の中を見る。

何か足りないような気がする。

明日から乗る馬車を思い浮かべる。

家までは2日かかる。

「……お菓子あるといいかも」

口に出した途端、それはかなりいい考えに思えた。

長い間馬車に揺られていれば、途中で何か食べたくなるはずだ。

昨日買ったお土産を開けるわけにはいかない。

「買ってこよう」

荷造りを一度止め、クロードは外へ出る支度をした。

昨日は三人で歩いた道を、今日は一人で街中へ向かう。

同じ通りなのに、隣に二人がいないだけで少し違って見えた。

クロードは菓子を並べている店を見つけて足を止める。

馬車の中で食べるなら持っていきやすいものがいい。

一つ選ぶ。

隣にあった別の菓子も気になって手に取る。

二つを見比べた。

どちらか一つでも十分な気がする。

けれど家までは2日ある。

「……2日あるし」

クロードは両方買うことにした。

そのあともう一つ気になるものを見つけた。

手を伸ばしかける。

買ったものが入った袋を見る。

少し考える。

もう一度菓子を見る。

「……これもいいか」

結局、それも買った。

店を出たところで袋の中を見ると、最初に考えていたよりずっと増えていた。

「まあ、2日あるから」

今度は誰に聞かれたわけでもないのに言い訳して、クロードは学園へ戻った。

自室へ戻り、買ってきた菓子を荷物へ入れる。

奥へしまおうとしてから、また手を止めた。

馬車の中で食べるのに、取り出せなければ意味がない。

菓子だけはすぐ取り出せるところへ分けて入れる。

「これでいい」

荷造りを再開しているうちに、エクリアが帰る時間が近づいた。

クロードは手を止め、もう一度門へ向かった。

朝にはノーゼスの荷物があった場所に、今度はエクリアの荷物が置かれている。

「来たのね」

「見送るって言ったから」

「そうだったわね」

エクリアが少し笑った。

クロードはその荷物を見る。

「ノーゼスの時も思ったけど、変な感じだね」

「昨日まで毎日一緒にいたからでしょ」

「60日あるんだよね」

「そうよ」

「長いな」

「終わればまた学園に戻るわ」

「うん」

エクリアは少し間を置いてからクロードを見る。

「次は負けないから」

「また言ってる」

「何度でも言うわよ」

「分かった」

「その返事が軽いのよ」

クロードが笑うと、エクリアも少し笑った。

やがてエクリアも出発する時間になった。

「じゃあ、また後期に」

「うん」

「クロードもちゃんと帰ってきてね」

「エクリアも」

「当たり前よ」

エクリアはそう答えて離れていった。

クロードは一人でその姿を見送った。

朝にはノーゼスがいた。

少し前まではエクリアもいた。

今は二人とも帰っている。

クロードも明日にはここを出る。

門から寮へ戻る道が、いつもより少し静かに感じた。


◇


自室へ戻ると、クロードは残っていた荷物をまとめた。

机の上や棚も確かめ、置いたままになっているものがないか一つずつ見ていく。

昨日買ったお土産は入っている。

アルト兄さまの本もある。

今日買ったお菓子は取り出しやすいところに入れた。

着替えも必要なものもそろっている。

もう一度確かめてから、クロードは鞄を閉じた。

「できた」

ようやく全部終わった。

クロードは部屋を見回す。

しばらく使ってきた机があり、何度も教本を開いた椅子があり、その上でたくさんの記録を書いてきた。

中休みが終われば、またここへ戻ってくる。

けれど明日からしばらくは家で過ごす。

クロードは準備を終えた鞄をベッドのそばへ置いた。

明日は、自分の迎えが来る。

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