六環球
1限目の授業を終える鐘が鳴ると、教室のあちこちで教本を閉じる音が重なった。
次の2限目と3限目は身体鍛錬になっている。
クロードも机の上を片づけ、ノーゼスやエクリアたちと一緒に教室を出た。
運動場へ着くと、先に来ていた身体鍛錬の講師が18人を待っていた。
ワズカー・ニタカリマスは全員が集まったのを確かめると、大きく胸を張った。
「よし!」
その声だけで、少し離れていた生徒まで顔を上げる。
「今日は最初に、お前たちの今の身体を測る!」
ワズカーは腕を組んだまま18人を見回した。
「速いやつもいれば遅いやつもいる!」
「遠くまで跳べるやつもいれば、遠くまで投げられるやつもいる!」
「今できないことがあっても構わん!」
そこで腕をほどき、右手を握った。
「だが記録をごまかすな!」
急に声がさらに大きくなった。
「できたことも、できなかったことも正しく見ろ!」
拳が胸の前まで上がる。
「そして正しく生きろ!」
クロードの横でノーゼスが小さく口を開いた。
「朝からすごいな」
「いつもあんな感じだよね」
クロードが答えると、前にいたエクリアが振り返った。
「身体鍛錬の時は特にね」
最初の測定は短い距離を走るものだった。
数人ずつ並び、ワズカーの合図で端から端まで駆け抜ける。
クロードの番が来ると、隣にはカイル・ノルディアとタンガ・ロバースが並んだ。
「構えろ!」
クロードは片足を少し後ろへ引く。
「走れ!」
3人が地面を蹴った。
最初に少し前へ出たのはカイルだった。
クロードも腕を振って追うが、途中で横を見る余裕はなくなる。
前だけを見て走り、そのまま線を越えた。
勢いを落としながら数歩進み、振り返る。
ワズカーがそれぞれの記録を読み上げ、近くにいた生徒が紙へ書き込んでいた。
クロードは自分の記録を聞いてから、息を整えながら列へ戻った。
「どうだった?」
次を待っていたノーゼスが聞く。
「カイルの方が速かった」
「そこじゃなくて、お前の記録」
「前に測ったことないから分からない」
「ああ、そっか」
そのあとも組を入れ替えながら測定は続いた。
ザナトス・アルマイナが走り終えた直後に自分の記録を聞き返し、その後ろではガレス・ヴァンデルが次の組へ並ぶ。
ミナ・シーズルノとヤンナ・チャウンがほとんど同時に線を越え、少し遅れてピア・マールコも走り抜けた。
全員が終わると、今度はその場からどこまで跳べるかを測った。
地面へ引かれた線の前に立ち、助走をつけずに両足で踏み切る。
クロードも腕を振って跳んだ。
着地した瞬間に身体が前へ傾き、慌てて両腕を広げる。
「危なっ」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、マミヤ・シーナが少し笑っている。
「手をついたらそこまでになるよ」
「分かってる」
「今つきそうだった」
「つかなかったから大丈夫」
次に跳んだレクシア・オルフェリアは着地したあと少しだけ後ろへよろけ、ワズカーが足跡を確認して距離を測る。
リーゼ・シュトラールがその様子を見ながら自分の番を待っていた。
最後は決められた重さの球を投げる測定になった。
遠くへ投げればいいだけではなく、線を越えずに投げなければならない。
ナーン・チャッティが大きく腕を振った直後、足が線を踏みかけて慌てて止まる。
「今のは?」
ナーンが振り返る。
ワズカーが足元を見る。
「踏んでいない!」
「よかった」
「だが自分で分かっているなら次は余裕を持て!」
「はい!」
「正しく投げろ!」
「はい!」
さらに後ろでトルト・オーコルーが笑った。
「何でも正しくなるな」
「聞こえているぞ!」
ワズカーの声が飛んできて、トルトの笑いが止まる。
クロードも球を受け取り、線の前へ立った。
手の中で重さを確かめてから腕を引く。
前へ踏み込み、投げる。
球は弧を描いて飛び、地面へ落ちて何度か跳ねた。
「そこだ!」
ワズカーの声に合わせ、近くにいたミズー・キレーナーが落ちた位置を見る。
ラン・シャーサーも自分の番を終え、腕を軽く回していた。
全員の測定を終える頃には、運動場へ来た時よりも身体が温まっている。
ワズカーは記録をまとめた紙を見てから顔を上げた。
「これが今のお前たちだ!」
何人かが自分の結果を思い返すように互いを見る。
「次に測った時も同じとは限らん!」
ワズカーは紙を閉じた。
「伸びるなら正しく伸びろ!」
少し間が空いた。
ノーゼスがクロードの方を見る。
クロードもノーゼスを見る。
「正しく伸びるって何?」
「分からない」
2人が小声で話している間にも、ワズカーは元気だった。
「よし、休んだら次だ!」
2限目を終える鐘まで少し時間が残っていたため、それぞれ水を飲みながら身体を休める。
やがて鐘が鳴り、短い休みを挟んで3限目になった。
ワズカーに連れられて移動すると、運動場の別の場所に大きな6角形が描かれていた。
6つの辺の中央には、それぞれ小さな門が置かれている。
柱と横木だけで作られた単純な門で、走りながら球を通すには狙わなければ外れそうな大きさだった。
中央には1つの球が置かれている。
クロードは6角形の周囲を見回した。
「今日はこれをやる!」
ワズカーが中央の球を持ち上げる。
「《六環球》だ!」
ノーゼスがすぐに門を数えた。
「6個ある」
「6角形だからね」
クロードも外周を目で追う。
ワズカーは球を片手に持ったまま説明を始めた。
「6人で1組、全部で3組だ!」
「2組が中で戦い、残った1組は審判!」
「審判は6人、それぞれ1つの門とその周りを見る!」
ワズカーが門を順番に指した。
「戦う2組は1つおきに3つずつ門を守る!」
クロードは手前から順番に見ていく。
守る門の隣には相手が守る門があり、その隣にはまた自分たちの門がある。
普通の競技のように、片方だけを攻め続ければいいわけではないらしい。
「球を持って進めるのは6歩まで!」
ワズカーは実際に6歩進んで止まった。
「それまでに味方へ渡すか、相手の門を狙え!」
「相手が守る3つの門のどれかへ球を通せば1点!」
「先に6点取った組の勝ちだ!」
クロードは指を折った。
6角形。
6つの門。
6人。
6歩。
6点。
隣で同じことを考えていたらしいノーゼスが言った。
「6ばっかりだな」
「ほんとだ」
エクリアも笑った。
「名前まで六環球だものね」
「そして押すな!」
急にワズカーの声が大きくなる。
3人ともそちらを見る。
「掴むな!」
さらに大きくなる。
「転ばせるな!」
ワズカーは球を持ったまま全員を見回した。
「魔法も使うな!」
何人かが頷く。
「球だけ見て走るなよ!」
今度は6角形の外へ腕を広げた。
「外で魔物が正面から来てくれるとは限らん!」
「右も左も後ろも見ろ!」
「自分がどこにいて、味方がどこにいて、相手がどこにいるか考えて動け!」
球を中央へ戻す。
「それと審判!」
今度はまだ決まってもいない審判へ指を向けた。
「友達だからと判定を曲げるな!」
「嫌いなやつだからと厳しくするな!」
「見たものをそのまま判定しろ!」
胸を張る。
「正しく生きろ!」
今度は何人かが笑った。
ワズカーは全く気にせず、3組の名前を読み上げ始めた。
第1組は、クロード・アインハルト、ガレス・ヴァンデル、ピア・マールコ、ナーン・チャッティ、レクシア・オルフェリア、ミズー・キレーナー。
第2組は、エクリア・ファインザード、ザナトス・アルマイナ、カイル・ノルディア、ベン・ジャスター、タンガ・ロバース、ラン・シャーサー。
第3組は、ノーゼス・ダグドラスタ、マミヤ・シーナ、ヤンナ・チャウン、ミナ・シーズルノ、トルト・オーコルー、リーゼ・シュトラール。
「最初は第1組と第3組!」
ワズカーの声に、クロードとノーゼスが顔を見合わせた。
「いきなりか」
ノーゼスが笑う。
「同じ組じゃないね」
「今日は敵だな」
「うん」
「第2組は審判につけ!」
エクリアたちが6つの門へ分かれていく。
ザナトスはクロードたちが狙う側の門の1つへ向かった。
クロードが自分の位置を確認していると、そのザナトスから声が飛んでくる。
「クロード!」
「なに?」
「俺のところ狙ってこいよ!」
クロードは門を見る。
「そこが空いてたらね」
「空いてなくても来いよ!」
「なんで?」
「なんでって……」
ワズカーの声が重なった。
「位置につけ!」
クロードはすぐ中央へ向き直った。
「おい!」
ザナトスがまだ何か言っていたが、もう球の方を見る。
中央を挟んでノーゼスが少し身体を低くした。
その横にはマミヤがいる。
クロード側ではガレスが中央へ寄り、ナーンが少し右へ開いた。
ピア、レクシア、ミズーもそれぞれ周囲を見る。
「始め!」
球へ向かって何人も走った。
最初に触れたのはガレスだった。
けれど同時にノーゼスも手を伸ばし、球が2人の間から横へ転がる。
「こっち!」
ピアが声を上げた。
クロードが拾うより先に、ピアが球を取った。
そのまま3歩進み、右へ投げる。
「ナーン!」
「はい!」
ナーンが受け取る。
すぐ前にはリーゼが回り込んでいた。
ナーンは進路を変え、レクシアへ球を渡す。
球が人から人へ動くたび、全員の向きも変わる。
クロードは空いている場所へ走った。
正面に見えていた門は第3組が守る門だ。
狙える。
けれどその前へトルトが戻ってきた。
クロードが右を見る。
別の門がある。
そちらも狙える。
ただしミナが近い。
左を見る。
さらに別の門。
「どこ見てんだよクロード!」
外からザナトスの声が飛んできた。
クロードはそちらを見なかった。
今はレクシアが球を持っている。
「クロード!」
レクシアが投げる。
クロードは受け取り、前へ出た。
1歩。
2歩。
ノーゼスが正面から来る。
「通さないぞ」
「じゃあこっち」
クロードは左へ向きを変えた。
ノーゼスもついてくる。
3歩。
4歩。
左の門へ投げようとしたところでヤンナが前へ戻った。
クロードは腕を止める。
5歩。
「あと1歩だぞ!」
今度はザナトスが大きな声で言った。
それは分かっている。
クロードは門ではなく、少し後ろにいるミズーへ球を投げた。
ミズーが受け取る。
クロードはそのまま別の方向へ走る。
「聞いてんのか!」
「聞いてる!」
返事だけして走り続ける。
「だったら何か言えよ!」
「今言った!」
ザナトスの声が後ろへ遠ざかった。
ミズーからガレスへ球が渡る。
ガレスが門へ投げた。
球は柱の外側を抜けた。
「外!」
その門を担当していたカイルが判定する。
第3組が球を拾い、今度は攻守が逆になった。
ノーゼスが受け取る。
クロードがそちらへ寄る。
ノーゼスは正面へ来ると思ったのか、一瞬だけ身体を右へ向けた。
けれど球は反対側へ飛んだ。
マミヤが受け取る。
「あっ」
クロードが振り返る。
マミヤの先には別の門がある。
ピアが戻るが間に合わない。
マミヤが走りながら投げた。
球が門の間を通る。
「入った!」
エクリアが両腕を上げた。
「第3組、1点!」
ノーゼスが笑いながら中央へ戻る。
「クロード、俺ばっか見てただろ」
「うん」
「素直だな」
「ノーゼスが持ってたから」
「だからだよ」
クロードも中央へ戻る。
今度はノーゼスだけを見ないようにしようと思った。
中央から再開される。
次は第1組が先に球を取った。
ナーンからレクシアへ渡り、レクシアがクロードへ投げる。
今度は受け取る前に周りを見る。
正面にはノーゼス。
右にはリーゼ。
左の門の前には誰もいない。
クロードは球を受け取るとすぐ左へ走った。
「そっちか!」
ノーゼスが追ってくる。
1歩。
2歩。
3歩。
門が近づく。
小さい。
止まって投げれば入りそうでも、走りながらだと位置が揺れる。
4歩。
クロードは球を構えた。
「外すなよクロード!」
門の横にいるザナトスがまた声を上げる。
クロードは門だけを見る。
5歩目で投げた。
球が柱へ向かう。
少し右へずれた。
硬い音がして柱に当たり、外へ跳ねる。
「外!」
ザナトスがすぐ判定した。
そして続ける。
「ほら外した!」
クロードはもう跳ねた球を追っていた。
「おい!」
反対側から第3組のトルトが球を拾う。
クロードも走って戻る。
「無視すんな!」
「今試合中!」
「知ってるよ!」
ザナトスの声を背中で聞きながら、クロードはトルトの進む先を見る。
球はヤンナへ渡った。
さらにリーゼへ動く。
今度はミズーが先回りした。
リーゼが投げる。
途中でガレスが手を伸ばした。
球が指先に当たり、地面へ落ちる。
すぐ近くにいたピアが拾う。
「こっち!」
ナーンが右から呼ぶ。
ピアが投げる。
クロードも別の門へ走る。
何度か球が行き来するうちに、少しずつ周りが見えるようになってきた。
球を持っている人だけを見ると、反対側が分からなくなる。
門だけを見ると、近くの相手を見失う。
自分が球を持っていなくても、立つ場所を変えるだけで相手が動く。
クロードが右へ走るとノーゼスがついてくる。
その分だけ中央が空く。
そこへレクシアが入った。
「レクシア!」
ピアから球が飛ぶ。
レクシアが受け取って、そのまま中央から反対側へ向きを変えた。
第3組の何人かがそちらを見る。
今度はナーンの前が空いた。
「こっち!」
レクシアがすぐ気づいて球を渡す。
ナーンは2歩進んで投げた。
球が門の間を抜ける。
「入った!」
今度はベン・ジャスターが判定した。
「第1組、1点!」
「よし!」
ガレスが声を上げた。
クロードも中央へ戻る。
門の外からザナトスがこちらを見ていた。
「今の、お前何もしてないじゃん」
「走ったよ」
「点取ったのナーンだろ」
「うん」
「だったらもっと悔しがれよ」
「同じ組が取ったから嬉しいけど」
ザナトスが黙った。
クロードは中央へ向き直る。
「おい、話終わってないぞ!」
もう再開の合図が出た。
試合が進むにつれて点は交互に増えていった。
第3組が3点取れば、第1組も追いつく。
ミナが空いた門を見つけて走り、ミズーが慌てて追いかける。
マミヤの投げた球をピアが途中で触り、そのこぼれ球をトルトが拾う。
ガレスが力を入れて投げた球は横木へ当たり、跳ね返ったところをリーゼに取られた。
クロードがノーゼスを追っている間にヤンナが逆側へ走り、今度はナーンの声で気づいて戻る。
「クロード、後ろ!」
「分かった!」
振り返る。
その時にはもう球が飛んでいる。
「遅いぞ!」
なぜか審判のザナトスまで言ってくる。
「分かってる!」
クロードは返事だけして走る。
「だったらもっと早く動け!」
「ザナトス!」
近くの門を担当していたエクリアが声を上げた。
「あなた審判でしょ!」
「審判してるだろ!」
「だったら審判しなさいよ!」
「してる!」
クロードはそのやり取りを聞きながら、少し笑った。
けれどすぐ目の前へ球が来て、笑っている余裕はなくなる。
受け取る。
ノーゼスが来る。
今度は真正面から行かない。
右へ1歩。
左へ切り返す。
ノーゼスも動く。
クロードは球を持ったまま別の門を見る。
そちらにはマミヤがいる。
反対はリーゼ。
どちらも空いていない。
「5歩!」
ザナトスの声が飛ぶ。
クロードは6歩目へ入る前に後ろへ投げた。
ガレスが受け取る。
「クロード!」
ガレスがすぐ返す。
もう1度受け取った時には、ノーゼスの位置が少しずれていた。
今度は門まで道がある。
走る。
1歩。
2歩。
3歩。
ノーゼスが追ってくる。
4歩。
クロードは門へ投げた。
球が2本の柱の間へ向かう。
今度は当たらない。
そのまま向こう側へ抜けた。
「入った!」
担当していたザナトスが両腕を上げる。
クロードは走る速度を落とした。
「第1組、5点!」
ザナトスの判定は迷わなかった。
クロードは門の向こうへ転がった球を見る。
「入った」
「見れば分かる!」
ザナトスが言った。
「さっき外した分くらい取り返して当然だろ!」
「うん」
「だからその『うん』やめろ!」
クロードは中央へ戻る。
「おい!」
後ろからまだ聞こえる。
「クロード!」
「次始まるから!」
「分かってるよ!」
第3組も5点だった。
次にどちらかが入れれば終わる。
ワズカーが全員を見回す。
「再開!」
中央の球へ何人も走った。
最初に取ったのはノーゼスだった。
クロードが近づく。
ノーゼスはすぐにマミヤへ渡した。
マミヤからリーゼへ球が動く。
第1組がそちらへ寄る。
リーゼが投げるふりをして止めた。
ナーンが前へ出る。
その瞬間、反対側でトルトが走った。
「そっち!」
クロードが声を上げる。
ミズーが振り返る。
リーゼからトルトへ球が飛んだ。
トルトが受け取る。
1歩。
2歩。
門へ向かう。
ミズーが前へ入った。
トルトが止まり、後ろへ投げる。
そこにはノーゼスがいた。
クロードも戻る。
ノーゼスが球を受け取る。
「来たな」
「そっちも」
ノーゼスが笑う。
1歩。
クロードが前へ入る。
2歩。
ノーゼスが右へずれる。
クロードも動く。
3歩。
4歩。
ノーゼスが球を持ったまま左を見る。
クロードもつられて少しだけ視線を動かした。
その瞬間、ノーゼスが反対へ投げた。
「えっ」
球はミナへ飛んでいた。
ミナの前にある門には誰もいない。
ピアが走る。
間に合わない。
ミナが受け取る。
1歩。
2歩。
そのまま投げた。
球が門を通る。
「入った!」
カイルが両腕を上げた。
「第3組、6点!」
ワズカーの声が響く。
「そこまで!」
走っていた生徒たちが次々に足を止めた。
クロードも息を吐く。
すぐ近くでノーゼスが両手を膝についていた。
「勝った」
「最後、完全に引っかかった」
「左見たろ」
「見た」
「じゃあ俺の勝ちだな」
「うん」
ノーゼスが笑った。
第1組の何人かも悔しそうにしながら中央へ戻ってくる。
ガレスが最後の門を見る。
「あと1点だったのにな」
「次あるよ」
ピアが答えた。
「次は審判だけどな」
ナーンが言って、第1組の何人かが笑う。
ワズカーが手を叩いた。
「入れ替われ!」
「次は第2組と第3組!」
クロードたち第1組は、さっきまでエクリアたちがいた6つの門へ分かれる。
クロードは自分の担当する門へ向かった。
外へ出る途中で、反対からザナトスがコートへ入ってくる。
すれ違うところでザナトスが足を止めた。
「次、ちゃんと見てろよ」
クロードも止まる。
「見るよ」
「絶対だぞ」
「審判だから見ないと駄目でしょ」
ザナトスの眉が動いた。
「そういう意味じゃない!」
「じゃあどういう意味?」
ワズカーの声が飛んできた。
「早く位置につけ!」
クロードはすぐ自分の門へ向かった。
後ろでザナトスが何か言った気がしたが、もう振り返らない。
第2組と第3組が中央へ集まる。
ノーゼスはさっきの試合を終えたばかりなのに、そのまま自分の位置へついた。
エクリアも反対側で構える。
ザナトスは中央の球を見ながら少し身体を前へ倒した。
「始め!」
ワズカーの合図と同時に、ザナトスが飛び出した。
さっき審判をしていた時とは違い、今度は最初から勢いよく球へ向かう。
ノーゼスも同時に走る。
球を先に取ったのはザナトスだった。
「よし!」
そのまま前へ出る。
1歩。
2歩。
ノーゼスが正面へ入る。
ザナトスはすぐエクリアへ球を渡した。
自分はそのまま別の門へ向かって走る。
エクリアがカイルへ渡し、カイルから再びザナトスへ球が戻る。
クロードは自分の門の前で球の位置を追った。
今度は中にいた時より広く見える。
誰がどの門へ向かっているのかも分かりやすい。
けれど、自分の担当する門へ近づけば今度は判定へ集中しなければならない。
ザナトスがこちらへ走ってきた。
前にはヤンナがいる。
「どけ!」
「どかないよ!」
ヤンナが進路へ入る。
ザナトスが右へ切り返す。
1歩。
2歩。
3歩。
クロードは門とザナトスの足を見る。
4歩。
5歩。
ザナトスが投げる。
球が小さな門へ向かう。
柱の内側を抜けた。
クロードはすぐ両腕を上げた。
「入った!」
ザナトスがこちらを見る。
「見たか!」
「見たよ」
「どうだった!」
クロードは門を見る。
「ちゃんと入った」
ザナトスの顔が少しだけ止まった。
「それだけかよ!」
「審判だから」
クロードは中央へ戻される球を見る。
「次始まるよ」
「分かってる!」
ザナトスは走って中央へ戻っていった。
次の得点は第3組だった。
さらに第2組が取り返す。
球が6角形の中を何度も行き来する。
外から見ていると、中にいた時には気づかなかった動きも見えた。
球から離れている者が、次に空きそうな門へ先に走っている。
今は何もしていないように見えても、その動きにつられて相手が1人動けば別の場所が空く。
クロードは自分の門だけでなく、中央や隣の門の方も見る。
その途中でザナトスがまたこちらへ来た。
今度は球を持っていない。
けれどクロードの門の近くまで走り、相手を1人引きつける。
その隙にエクリアが別の門へ走った。
ベンがそちらへ球を出す。
第3組が慌てて戻る。
「あ」
クロードはさっき自分が中にいた時のことを思い出した。
球を持っている相手だけを見ていると、別の場所が空く。
ザナトスも自分が点を取るためだけに走っているわけではない。
そのザナトスが一瞬こちらを見た。
クロードも見る。
ザナトスが何か言おうと口を開いた。
その直後、ノーゼスが投げた球をタンガが奪った。
ザナトスはすぐそちらへ向きを変える。
クロードも球へ視線を戻す。
試合はそのまま続いた。
第2組が5点。
第3組が4点。
次の再開で、ノーゼスたちは同点を狙って前へ出る。
マミヤからミナへ球が渡る。
ミナの前へランが入った。
今度は同じ組同士なので、そのまま横へ開く。
第2組は空いた場所へ次々に動いた。
ミナが別の門を狙おうとした瞬間、カイルが球へ手を伸ばす。
指先が触れた。
球が地面へ落ちる。
そこへザナトスが走り込んだ。
拾う。
「行くぞ!」
そのままクロードの担当する門へ向かってくる。
ノーゼスが追う。
1歩。
2歩。
ザナトスがさらに前へ出る。
3歩。
ノーゼスが横から近づく。
4歩。
ザナトスは球を構えた。
クロードは門を見る。
5歩。
投げた。
球が真っ直ぐ飛んでくる。
柱の間を抜ける。
「入った!」
クロードは両腕を上げた。
「第2組、6点!」
「そこまで!」
ワズカーの声が響いた。
ザナトスはその場で拳を握った。
「よし!」
ノーゼスが息を吐きながら足を止める。
エクリアやカイルたちも中央へ集まり始めた。
ザナトスだけは門の外にいるクロードを見た。
「見たか?」
「見たよ」
「最後のやつ」
「入った」
「そうじゃなくて!」
クロードは首を傾げた。
ザナトスが何か言いかける。
その前にワズカーが手を叩いた。
「よし、最後だ!」
全員がそちらを見る。
「第1組と第2組、入れ!」
クロードは審判の位置からコートを見る。
反対側ではザナトスがもうこちらを見ていた。
「今度は中で相手だからな!」
クロードは門の横を離れながら答えた。
「うん」
「その返事やめろって言ってるだろ!」
クロードは笑いながらコートへ入った。




