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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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混ぜる

それから次に魔法実習があった日も、クロードは残してもらっている防護壁の間に立っていた。

《放つ》で前へ向けた雷が途中から右へ逸れる。

クロードは左へ《曲がる》へ移った。

青白い光は正面へ戻りかけたものの、的の右端を外れて壁へ当たる。

「遅かった」

ノートへ短く書き込み、次の準備をする。

少し離れた場所では、ノーゼスも自分の課題へ取り組んでいた。

前より《印》の流れに迷うことは減っているが、毎回同じようにできるわけではない。

エクリアも水と風を切り替えながら練習を続けている。

ガンザスは実習場を歩き、生徒たちの様子を順番に見ていた。

クロードのところへ来ることもあれば、そのまま別の生徒のところへ向かうこともある。

二限続いた実習が終わる頃には、クロードのノートにも新しい記録がいくつか増えていた。

的へ戻せた雷もある。

間に合わず壁へ外れた雷もある。

途中で枝分かれして、どちらへ戻せばいいのか迷ったものもあった。

終わりの鐘が鳴り、クロードは右手を下ろした。

周囲では生徒たちがそれぞれ片づけを始めている。

クロードもノートを鞄へ戻そうとして、少し離れたところにいるノーゼスへ目を向けた。

ノーゼスは片づけへ向かわず、ガンザスが作った土壁の前に立っていた。

壁の正面を見たあと、横へ回る。

今度は根元を見る。

クロードは鞄を持ってそちらへ歩いた。

「また見てるの?」

「うん」

ノーゼスは壁から目を離さない。

「前より作れるようにはなったんだけどさ」

壁の側面へ手を伸ばす。

触れる寸前で止めて、自分の手を見た。

「これくらい丈夫にするにはどうすればいいんだろ」

クロードも壁を見る。

最初にノーゼスが作ったものは、壁というより低い土の山だった。

それから高さを作り、崩れた場所を見るようになり、根元へ土を足すことも覚えた。

前よりずっと壁らしい形にはなっている。

けれどガンザスが作ったものとはまだ違う。

「先生に聞いてみる?」

「聞く」

ノーゼスはすぐに答えた。

片づけを終えたエクリアが二人のところへ来る。

「何してるの?」

「壁」

「また?」

「今度は丈夫にしたい」

ノーゼスが答えると、エクリアも壁を見上げた。

「先生の?」

「うん」

ちょうどその時、少し離れた場所で生徒の片づけを見ていたガンザスがこちらへ歩いてきた。

「三人で壁見てどうしたー?」

「先生」

ノーゼスが振り返る。

「ちょっと聞いていいですか?」

「いいぞー」

「前より壁は作れるようになったんですけど、もっと丈夫にするにはどうすればいいですか?」

ガンザスは残してある壁を見る。

それからノーゼスへ視線を戻した。

「今はどうやって作ってる?」

「土を集めて、高くして、崩れそうなところに足してます」

「根元も?」

「前より広くしてます」

「じゃあ、それで作った壁はどこが弱い?」

ノーゼスが少し黙った。

「……分かりません」

「なら先にそこだなー」

「そこ?」

「丈夫にしたいなら、何が丈夫じゃないのか見ないとなー」

ガンザスが壁の端を軽く叩く。

土壁はほとんど動かなかった。

「厚くするってやり方もある」

今度は根元を見る。

「下を広くするのもある」

ノーゼスもガンザスの視線を追う。

「でも、それだけが答えかは自分で比べてみろー」

「作って?」

「作って」

ガンザスが笑う。

ノーゼスは少し考えたあと顔を上げた。

「放課後、ここ使っていいですか?」

「いいぞー」

「やった」

「ただし疲れたら終わりだからなー」

「はい」

ガンザスはクロードとエクリアも見る。

「お前らも残るのか?」

クロードがノーゼスを見る。

「僕は見たい」

エクリアも少し考えてから頷いた。

「私も少しなら」

「じゃあ片づけはちゃんとして帰れよー」

「はい」

三人の声が重なった。


◇


放課後になると、三人は再び一年生用の魔法実習場へ向かった。

昼間の授業で使われた跡は片づけられ、地面もほとんど元へ戻っている。

ガンザスの防護壁だけは変わらず残っていた。

ノーゼスはその少し離れた場所に立つ。

「まず作る」

「うん」

クロードとエクリアは邪魔にならないところまで下がった。

ノーゼスが《印》を組む。

足元の土が動いた。

以前のようにただ横へ広がるのではなく、中央へ集まりながら少しずつ持ち上がっていく。

端が崩れ始めると、ノーゼスは一度手を止めた。

崩れた場所を見る。

そこへ土を寄せる。

今度は根元にも少し多めに土を残した。

クロードは黙って見ていた。

前より早い。

一度で完成するわけではないが、どこへ土を持っていけばいいのか迷っている時間が短くなっている。

ノーゼスは何度か手を止めながら形を整えた。

やがて小さな土壁が出来上がる。

以前より高い。

横から見ても薄い土の板にはなっていない。

エクリアが横へ回った。

「前より厚い」

「だろ?」

ノーゼスが少し嬉しそうに答える。

クロードも横から見る。

「根元も広くなってる」

「先生の見たから」

ノーゼスはガンザスの壁を見る。

同じ大きさには程遠い。

それでも最初の頃とはかなり違っていた。

ノーゼスは自分の壁へ近づいた。

「で、どこが弱いんだ?」

上の端へ指を当てる。

少し押す。

土がぱらぱらと落ちた。

「あ」

もう一度、少し横を押してみる。

今度は表面の土がまとまって崩れた。

「ここ?」

「上の方は崩れやすそう」

エクリアが言う。

ノーゼスは根元も押してみる。

こちらはすぐには崩れない。

「下は平気」

「土が多いからかな」

クロードがしゃがんで見る。

ノーゼスも隣へしゃがんだ。

「じゃあ上も厚くする?」

「やってみたら?」

ノーゼスが立ち上がり、再び《印》を組む。

壁の上側へ土を足す。

少しずつ厚くしていく。

途中で片側が重そうに膨らみ、端が落ちた。

「あー」

エクリアが笑う。

「増やしすぎじゃない?」

「まだそんなに増やしてない」

「落ちたじゃない」

「落ちたけど」

ノーゼスは崩れた場所を見る。

もう一度土を寄せるが、今度は広げすぎないように止めた。

少し休んでから上端へ手を当てる。

さっきよりは崩れない。

もう少し力を加えると、表面がぼろっと落ちた。

ノーゼスが眉を寄せる。

「厚くしても落ちる」

クロードは落ちた土を見た。

細かい土が足元へ散っている。

ノーゼスが作った壁の形そのものは前よりずっと良くなった。

けれど土は土のままだ。

押せば崩れる。

クロードはしゃがんだまま、足元の土を少し指でつまんだ。

さらさらと指の間から落ちる。

以前、雨のあとに触った土の感触が頭に浮かんだ。

乾いた時とは違い、塊になって靴へ付いていた。

「水……」

「ん?」

ノーゼスが見る。

クロードは指に残った土を落とした。

「水を混ぜたらどうなるんだろ」

「水?」

エクリアもこちらを見る。

「うん」

クロードは土壁へ目を戻す。

「濡れた土って、乾いた土よりまとまるよね」

ノーゼスが足元を見る。

「雨のあとみたいな?」

「うん」

少し考えてから続ける。

「粘土みたいに、もっと固まらないかな」

エクリアが首を傾げた。

「水を入れたら粘土になるの?」

「そこまでは分かんない」

「分かんないの?」

「全部の土が粘土になるわけじゃないと思う」

クロードは壁の端を見る。

「でも、変わるかもしれない」

ノーゼスがクロードとエクリアを交互に見る。

「じゃあ入れてみる?」

「少しだけ」

クロードが答える。

「いきなり壁全部に入れたら、崩れた時分かんなくなるから」

ノーゼスが頷く。

「端だけ?」

「うん」

二人の視線がエクリアへ向く。

エクリアが一歩下がった。

「私?」

「水」

ノーゼスが言う。

「それは分かるけど」

エクリアは壁を見る。

「どれくらい?」

クロードとノーゼスが黙った。

「……少し?」

ノーゼスが答える。

「少しってどれくらい?」

「ちょっと」

「同じじゃない」

クロードが思わず笑った。

「最初は本当に少しでいいんじゃない?」

エクリアはまだ納得していない顔をしていたが、右手を上げた。

水属性の《印》を組む。

掌の前に小さな水の塊が現れた。

「これくらい?」

「それでも多くない?」

ノーゼスが言う。

「じゃあ減らす」

水の塊が少し小さくなる。

エクリアは壁の端へ近づけた。

「入れるよ」

「うん」

水が土の上へ落ちる。

表面の色が変わった。

そのまま下へ染みていく。

「おお」

ノーゼスが顔を近づける。

「まだ?」

「まだ分かんない」

クロードも覗き込む。

ノーゼスが《印》を組んだ。

濡れた部分の土を少し動かそうとする。

乾いた時と同じように寄せる。

表面の一部が動いた。

そのすぐ横は残った。

「あれ?」

ノーゼスが手を止める。

もう一度動かす。

今度は濡れた土が小さな塊のまま動き、その横の乾いた土だけがぱらぱら落ちた。

「変」

「何が?」

エクリアが聞く。

「いつもと違う」

ノーゼスはもう一度動かそうとして、途中で止めた。

「動かしにくい?」

クロードが聞く。

「なんか揃わない」

ノーゼスは濡れた部分を見る。

「土だけの時は、こっちへってやったらもっと一緒に動く」

「水が入ったから?」

「分かんない」

三人で壁を見る。

エクリアが濡れた場所へ指を近づけた。

「もうちょっと入れる?」

「待って」

ノーゼスが止める。

「先にこれやる」

指で濡れた表面を押した。

土が少しへこんだ。

けれど乾いた部分のようにぱらぱらとは落ちなかった。

ノーゼスの目が少し大きくなる。

「落ちない」

クロードも指で触れてみる。

湿った土が指先に付いた。

「まとまってる」

「じゃあ水入れた方がいい?」

エクリアが聞く。

「もうちょっと試したい」

ノーゼスが答えた。

「今度はもう少し広く」

「水も増やす?」

「少し」

「また少し?」

エクリアが笑う。

ノーゼスも笑った。

「じゃあ、さっきよりちょっとだけ」

「それなら分かる」

エクリアがもう一度《印》を組む。

今度はさっきより少し多めの水を作った。

ノーゼスが壁の隣に小さく土を集める。

「こっちでやろう」

「壁じゃなくて?」

「いきなり壁で失敗したら嫌だから」

クロードが頷く。

「その方がいい」

ノーゼスは小さな土の塊を作った。

エクリアがその上へ水を落とす。

一か所へ水が集まった。

「あ」

土の表面が沈む。

水が多く入ったところだけ柔らかくなり、形が崩れた。

ノーゼスが慌てて土を寄せようとする。

濡れた土が動き、そのまま横へ広がった。

「ああっ」

小さな塊が低く潰れる。

エクリアが水を止めた。

三人とも黙って見る。

「……入れすぎた?」

エクリアが言う。

ノーゼスが指で触る。

柔らかい土が指へべったり付いた。

「たぶん」

クロードも触れてみる。

さっきの湿った部分とは全然違う。

「粘土?」

ノーゼスが聞く。

クロードは指に付いた土を見る。

「いや」

「違う?」

「たぶん泥」

エクリアが吹き出した。

ノーゼスも自分の指を見て笑う。

「じゃあ失敗じゃん」

「水が多いと駄目って分かった」

クロードが言う。

「さっきのは?」

エクリアが壁の端を指す。

最初に少量だけ水を入れた場所はまだ形を保っている。

ノーゼスはそちらへ戻り、もう一度指で押した。

少しへこむ。

けれど乾いた場所ほど簡単には崩れない。

「こっちは違う」

「水が少ないから?」

「かも」

ノーゼスは乾いた場所も押して比べる。

乾いた表面からは細かい土が落ちた。

濡らした場所は形が少し変わるが、まとまったまま残る。

エクリアも横から見る。

「水が多いとぐちゃぐちゃで、少ないとまとまる?」

「今のところは」

クロードが答える。

ノーゼスは最初の壁と、横で潰れた泥の塊を見比べた。

「もう一回やる」

「今度はどれくらい?」

エクリアが聞く。

ノーゼスは少し考えた。

「最初と同じくらい」

「分かった」

今度はノーゼスが先に小さな土の塊を作る。

エクリアは最初と同じくらいの水を出そうと、手元を見ながら量を整えた。

「これくらいだった?」

クロードも見る。

「たぶん」

「たぶん?」

「ぴったりは分かんない」

「じゃあやってみる」

水が土へ落ちる。

ノーゼスはすぐには動かさず、染みていく様子を見た。

少し待ってから《印》を組む。

土を寄せる。

今度も乾いた時とは動き方が違う。

一度で揃わない。

濡れたところだけ塊になり、乾いたところが遅れて付いてくる。

ノーゼスが眉を寄せた。

「やりにくい」

「やめる?」

エクリアが聞く。

「まだ」

ノーゼスは一度手を下ろした。

少し考えてから、今度は一気に動かさず端から少しずつ寄せていく。

濡れた土と乾いた土が混ざる。

完全には揃わない。

それでも何度か繰り返すうち、小さな塊の色が少しずつ近くなっていった。

「混ざった?」

クロードが聞く。

「たぶん」

「たぶんばっかりね」

エクリアが言う。

「初めてなんだから仕方ないだろ」

ノーゼスが答える。

形を整え、小さな壁のように立てる。

さっきの泥ほど柔らかくない。

乾いた土だけで作ったものより、表面の粒も落ちにくく見える。

ノーゼスは指で押した。

少しへこむ。

もう少し押す。

端が小さく欠けた。

「崩れた」

エクリアが言う。

「でも」

ノーゼスは乾いた方の小さな塊も押す。

こちらは表面から土がぱらぱら落ちる。

二つを見比べた。

「違う」

クロードもしゃがむ。

水を混ぜれば粘土になるわけではなかった。

水が多ければ泥になる。

けれど少量を混ぜた土は、乾いたままの土とも違う。

「壁全部でやったらどうなるかな」

ノーゼスが呟いた。

エクリアが濡れた土の付いた指を見る。

「その前に、水の量をちゃんと揃えないと駄目じゃない?」

「うん」

ノーゼスは素直に頷いた。

「あと混ぜるの難しい」

「私もどこにどれだけ入れればいいか分かんない」

「じゃあ二人とも練習だね」

クロードが言う。

ノーゼスとエクリアが同時にクロードを見る。

「クロードは?」

エクリアが聞いた。

「僕?」

「見てるだけ?」

クロードは少し考えた。

「水を入れたらって言った」

「それだけ?」

ノーゼスが笑う。

クロードも笑った。

「じゃあ崩れ方見る」

「それさっきからやってる」

「じゃあ記録する」

「それもクロードが好きなやつじゃない」

エクリアが笑った。

ノーゼスはもう一度、小さな湿った土の塊を見る。

それから自分が作った壁へ目を移した。

「もう一回だけやりたい」

「水少なめ?」

エクリアが聞く。

「うん」

「分かった」

エクリアが右手を上げる。

ノーゼスも《印》を組む準備をする。

乾いた土だけを動かしていた時とは違う。

エクリアもただ水を出せばいいわけではない。

二人は互いの手元を見ながら、今度はさっきより少ない量から始めた。

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