↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/229

沿わせる

数日後、クロードはゴルダの工房にいた。

作業台の上には、布を敷いた上に鉄の球が置かれている。

「できてるぞ」

ゴルダが顎で示した。

クロードは両手で鉄球を持ち上げた。

腕へずしりと重さがかかる。

軽いとは言えないが、自分で運べる重さには収まっている。

そのまま両手の中でゆっくり回す。

どこから見ても外側は丸く、大きな穴も溝もない。

「中は言った通り減らしてある」

ゴルダが鉄球を指で軽く叩いた。

「ただし、形を保つのに必要なところまで薄くはしてねえ」

「はい」

クロードは表面をもう一度見る。

欲しかったのは、雷が走れる丸い外側だった。

「ありがとうございます」

「礼は試してからにしろ」

「作ってもらったことには変わらないので」

「そうかよ」

ゴルダが鼻を鳴らす。

クロードは代金を払い、鉄球を抱えて工房を出た。

その日はそのまま寮へ持ち帰った。


◇


翌朝、クロードは鉄球を両手で抱えて教室へ向かった。

魔法実習まで寮へ取りに戻る時間はない。

なら、朝から持っていくしかなかった。

教室の扉を開ける。

中へ一歩入ったところで、近くにいた生徒がクロードを見た。

正確には、その腕の中を見た。

「……なにそれ?」

その声につられるように何人かが振り向いた。

「鉄?」

「丸い」

「重そう」

「クロード、それ何持ってきたの?」

次々に声が飛んでくる。

少し離れた席から立ち上がる者までいた。

クロードは鉄球を抱えたまま自分の席へ向かう。

「鉄の球だよ」

「それは見れば分かるよ」

どこかから返ってきて、周りから笑いが起こった。

「なんで鉄の球なんか持ってきたの?」

「魔法実習で使うから」

「これを?」

「何するの?」

クロードが席へ着く頃には、何人かが机の近くまで来ていた。

通路へ転がらないよう鉄球を机の下へ置く。

床へ置いた途端、一人がしゃがんで覗き込んだ。

「触っていい?」

「いいけど、持ち上げるなら気をつけて」

「そんなに重いの?」

「軽くはないよ」

その横からノーゼスも覗き込む。

「できたんだな」

「うん」

エクリアも鉄球へ目を向けた。

「ちゃんと持ってこられる重さになったのね」

「中を減らしてもらったから」

「どこから中を減らしたの?」

近くにいた生徒が聞く。

「作り方はゴルダさんに任せたよ」

「中、見えないの?」

「見えない」

「なんで?」

「外を丸いまま使いたかったから」

「何に?」

また別の声が飛んでくる。

クロードが答えようとしたところで、少し後ろから声がした。

「朝から何騒いでんだよ」

ザナトスが人の間から鉄球を見る。

一瞬だけ黙った。

「……なんだよ、それ」

「鉄の球」

「だから、それは見れば分かるって」

今度はさっきより大きく笑いが起こった。

ザナトスが少し嫌そうな顔をする。

「なんでそんなもん学校に持ってきてんだ?」

「魔法実習で使うんだって」

近くにいた誰かが先に答えた。

ザナトスの視線がクロードへ向く。

「それを?」

「うん」

「何すんの?」

「雷を当てる」

周りにいた生徒たちが少し静かになった。

「雷?」

「この球に?」

「うん」

「なんで?」

クロードは机の下の鉄球を見る。

「雷そのものを丸くするんじゃなくて、丸いものの表面を走るか確かめたいんだ」

「表面?」

「雷ってそんなことできるの?」

「まだ分からない」

その答えに何人かが顔を見合わせた。

「分からないのに持ってきたの?」

「分からないから試すんだよ」

「ああ……」

分かったような分からないような声が返ってくる。

ザナトスだけは眉を寄せたままだった。

「お前、まだ《丸くする》できてないだろ」

「うん」

「なのに今度は鉄の玉?」

「《丸くする》の練習もするよ」

「じゃあ先にそっちできるようにしろよ」

「それはそれでやる」

「ほんと変なことばっかやってんな」

ザナトスはそう言いながらも、もう一度鉄球を見た。

その時、教室の扉が開いた。

入ってきた教師の姿に気づき、集まっていた生徒たちがそれぞれの席へ戻っていく。

「あとで触らせて」

戻り際に声だけ残した生徒もいた。

クロードは机の下を確認する。

鉄球はそのまま動かずに置かれている。

授業が始まってからも、最初のうちは時々そちらを見る者がいた。

けれど時間が経つにつれて、教室はいつもの空気へ戻っていった。

やがて魔法実習へ移動する時間になる。

クロードが机の下から鉄球を持ち上げると、今度は近くの生徒が道を開けた。

「それ、実習場まで持ってくの?」

「うん」

「やっぱ重そう」

「朝も持ってきたから大丈夫だよ」

朝ほどの騒ぎにはならなかった。

それでも何人かの視線を連れたまま、クロードは鉄球を抱えて教室を出た。


◇


実習場へ着くと、生徒たちはそれぞれの練習場所へ向かい始めた。

クロードも鉄球を抱え、いつも雷を使っている他の生徒たちから離れた場所へ向かう。

鉄球を置いたところで、後ろから足音がいくつか近づいてきた。

振り返る。

朝から鉄球を気にしていた生徒たちだった。

「それ、もう使うの?」

「雷当てるんだよね?」

「どんなふうになるんだろ」

一人が鉄球を覗き込み、もう一人もその後ろから顔を出す。

さらに別の生徒までこちらへ歩いてくる。

その様子に気づいたガンザスが声を上げた。

「おーい、お前ら近づいてくるなよー」

近づいていた生徒たちの足が止まる。

「危ないからなー」

ガンザスがクロードと生徒たちの間へ歩いてくる。

「見たいのは分かるけど、ちゃんと自分の魔法に集中しろー」

「えー」

「見たかったのに」

不満そうな声が上がる。

「見るための授業じゃないぞー」

ガンザスが手を振る。

「ほら、戻った戻ったー」

生徒たちは鉄球を何度も振り返りながら、それぞれの練習場所へ戻り始めた。

ザナトスも少し離れたところで鉄球を見ていた。

「そこまでして何が出るんだよ」

クロードを見ると、それだけ言って自分の場所へ戻っていく。

さらに向こうでは、すでに自分たちの場所へ移動していたノーゼスとエクリアがこちらを見ていた。

ノーゼスが追い返されていく生徒たちを見て笑っている。

エクリアも口元へ手を添えながら笑っていた。

クロードは二人を見てから、目の前の鉄球へ戻る。

ガンザスが鉄球を持ち上げ、両手の中で向きを変えながら表面を見る。

「きれいに丸くなってるなー」

「ゴルダさんに作ってもらいました」

「中も減らしたんだったな」

「はい」

ガンザスは表面をもう一度確かめ、クロードへ返した。

クロードは鉄球を受け取る。

「先生、すぐ始めていいですか?」

「まだだー」

クロードの手が止まった。

「まず全員見て回る」

ガンザスが実習場へ視線を向ける。

すでにあちこちで魔法が使われ始めていた。

「お前のは残りの時間で見るから、それまでいつもの練習してろー」

クロードは鉄球を見る。

早く試したい。

けれどガンザスが見ているのは自分だけではない。

「……分かりました」

「勝手に始めるなよー」

「はい」

ガンザスはそのまま他の生徒たちの方へ歩いていった。

クロードは鉄球を邪魔にならない場所へ置き、右手を上げる。

組むのは《丸くする》ための《印》だった。

少ない雷を出す。

手元へ集め、形を作ろうとする。

青白い光が揺れ、丸くなる前に枝分かれした。

乾いた音を残して消える。

クロードは右手を見る。

まだ丸くならない。

少し休んでから、もう一度試す。

今度も形を作る途中で崩れた。

周りでは、それぞれの生徒が《空中浮遊》や《静止》に取り組んでいる。

ガンザスは一人の生徒のところで止まり、浮かせた魔法の様子を見る。

少し話してから次の場所へ向かう。

別のところでは《印》を確認し、手元を見ながら何かを伝えている。

クロードも自分の練習へ戻った。

雷を出す。

集める。

形を作ろうとする。

崩れる。

一度休み、また試す。

何度か繰り返すうちに、鉄球へ目が向いた。

まだガンザスは戻ってこない。

クロードは小さく息を吐いて、もう一度右手を上げる。

待っている間にも、できることはある。

それからもしばらく《丸くする》を繰り返した。

失敗するたびに同じではなく、早く崩れる時もあれば、少し形を作りかけてから枝が伸びる時もある。

雷を消し、右手を休ませていると後ろから声がした。

「クロードー」

振り返る。

ガンザスがこちらへ歩いてきていた。

「待たせたなー」

クロードはすぐに鉄球を見る。

「やっていいですか?」

「そのために来たんだろー」

「はい」

四角い鉄板を試した時にも使った絶縁板が用意される。

その上の浅い受けへ鉄球を置くと、球は小さく揺れてから止まった。

表面の大部分は隠れずに見えている。

クロードは少し離れた位置に立つ。

近くに残ったのはガンザスだけだった。

離れた場所からこちらを気にしている生徒はいる。

けれど誰も近づいてはこなかった。

「前と同じで、少ない量からなー」

「はい」

素材は同じ鉄。

外側は、角のある板から丸い球へ変わった。

まずは実際に雷がどう動くかを見る。

クロードは右手を上げた。

少ない雷を鉄球へ向ける。

青白い光が表面へ触れた。

すぐには消えない。

丸い面に沿って横へ走る。

クロードは目で追った。

雷は表面を這いながら少し回り込んだ。

その途中で一本の枝が外へ伸びる。

パチッと音がして、光が表面から離れた。

残った雷も少し走ったところで消える。

クロードは右手を下ろした。

「角がなくても出た」

「出たなー」

ガンザスも鉄球を見ている。

四角い鉄板では、角の近くから外へ出たことがあった。

だから角がなければ変わるかもしれないと思った。

けれど鉄球には角がないのに、雷は外へ飛び出した。

それでも全部がすぐに離れたわけではない。

途中までは確かに、丸い表面を走っていた。

クロードは一度右手を開いて力を抜く。

少し待ってからガンザスを見る。

「もう一回いいですか?」

「いいぞー」

クロードは再び右手を上げた。

雷の量は変えない。

細い光が鉄球へ触れ、表面を走り始める。

やがて一本の枝が外へ伸びようとした。

クロードはそこへ意識を向ける。

以前、雷を散らさないよう意識した時には、広がり方が少しだけ変わった。

外へ出ようとするところを抑えたらどうなる。

光が揺れる。

一本はそのまま外へ飛び出した。

けれど別の一本は、すぐには離れなかった。

丸い表面へ残り、そのまま這っていく。

「……残った」

雷は止まっていない。

丸くなったわけでもない。

動き続けながら、鉄球の表面を走っている。

最初より長く回り込み、やがて外へ飛んで消えた。

「長くなった」

「ああ」

ガンザスが頷く。

「全部じゃないけどなー」

「はい」

全部ではない。

それでも変わった。

クロードは消えた場所をしばらく見つめる。

もう一度同じようにやれば、同じことが起きるだろうか。

少し休んでから右手を上げる。

「もう一回やります」

「体は?」

クロードは腕の重さと呼吸を確かめる。

「大丈夫です」

「じゃあ量は増やすなよー」

「はい」

三度目の雷が鉄球へ触れる。

今度は早い段階で何本かに分かれた。

一本はすぐに外へ飛ぶ。

もう一本も少し走ったところで離れた。

クロードは残った枝を見る。

外へ出ようとする光を抑える。

一本が表面へ残った。

けれど、さっきほど長くは続かない。

途中で飛び出し、そのまま消えた。

「違う」

同じようにしたつもりでも、同じところまでは走らなかった。

二度目は長かった。

三度目は短い。

外へ出る場所も違う。

クロードは鉄球を見つめた。

もう一度見れば、何か分かるかもしれない。

右手を上げる。

「もう一回――」

「クロード」

ガンザスの声で止まる。

「はい」

「そこまでだー」

クロードは鉄球を見る。

「でも、さっきと違って」

「見てたぞー」

「だったら、もう一回だけ」

「最初に言っただろー」

ガンザスが実習場の方へ顎を向ける。

「残りの時間で見るって」

クロードもそちらを見る。

いつの間にか、他の生徒たちは片づけを始めていた。

ガンザスが全員を見て回っている間、自分もずっと《丸くする》を練習していた。

鉄球を試し始めた時には、もう授業の後半だった。

「もう時間だー」

「……はい」

クロードは右手を下ろした。

やっと試せたのに、まだ分からないことばかりだった。

二度目と三度目の違いも確かめたい。

外へ出ようとする雷をもっと抑えられるかも試したい。

それでも授業は終わる。

ガンザスと一緒に鉄球を片づける。

「次も持ってきていいですか?」

「授業の内容を先にやって、それから時間があればなー」

「分かりました」

持ってきてはいけないとは言われなかった。

それなら、また試せる。

ガンザスが実習場全体へ声を張る。

「よーし、そこまでだー」

残っていた魔法も順番に消えていく。

「《空中浮遊》と《静止》は、ここで一区切りな」

何人かが顔を上げる。

「まだうまくできてないんですけど」

離れたところから声が飛んだ。

「できてないなら、これからも練習しろよー」

ガンザスがいつもの調子で返す。

「次はまた魔法基礎だ」

「次は何やるんですか?」

今度は別の場所から声が上がった。

「それは授業で聞けー」

小さな不満の声に笑いが混じる。

クロードは自分の右手を見る。

他の生徒たちは《空中浮遊》や《静止》の実習まで進んだ。

自分はまだ《丸くする》を成功させていない。

授業が先へ進んだからといって、それができるようになったわけではない。

《丸くする》はこれからも練習する。

けれど、それとは別に一つ進んだ。

クロードは片づけた鉄球を見る。

雷を丸くできなくても、丸いものの表面を走らせることはできた。


◇


その夜、クロードは寮の自室で机に向かっていた。

鉄球は机の脇の床に置いてある。

ノートを開き、四角い鉄板を描いたページを見返す。

その隣の新しいページへ鉄球を描いた。

『鉄の球』

その下へ書く。

『角がなくても外へ出た』

少し間を空ける。

『表面を走った』

クロードは鉛筆を止めた。

二度目に見た雷を思い出す。

外へ飛び出そうとする枝を抑えた時、一本だけすぐには離れなかった。

『外へ出ようとする雷を抑える』

『少し長く表面を走った』

続けて三度目を思い出す。

同じようにしたつもりでも、二度目ほど長くは残らなかった。

『毎回同じではない』

クロードは鉄球の絵を見る。

雷を丸くしたわけではない。

雷は動いたままだった。

それでも丸い表面を走ることはできた。

「もっと残ったら……」

小さく呟く。

そこで、一つの名前が頭に浮かんだ。

雷を蓄えやすいと聞いた鋼。

クロードは鉄球の絵の横へ書く。

『雷鳴鋼』

普通の鉄でも、雷が表面を走ることはあった。

外へ出ようとする枝を抑えた時には、少し長く残ったこともある。

なら、雷鳴鋼ではどうなるのだろう。

クロードは最後に一行を書き足した。

『雷鳴鋼なら?』

その文字をしばらく見つめる。

答えはまだ分からない。

だから確かめてみたい。

クロードは鉛筆を置き、ノートを閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。