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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』  作者: 黎明の星


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小さな工房

『石の記録』をつけ始めてから、クロードの石拾いは少し変わった。

以前は見たことのない石を見つければ、それだけで木箱へ入れていた。

今は拾った場所を覚え、似た石が周囲にもないかを探し、部屋へ戻れば色や形、手触りを紙に書く。

文字はまだ拙い。

書いている途中で自分でも読みにくくなることがあり、翌日に見返して首を傾げることもあった。

それでも記録が増えていくのは楽しかった。

一度調べたことを忘れても、紙を見れば思い出せる。

何より、二つの石を比べるときに以前の記録が役に立った。

ただし、すぐに問題も出てきた。

「……足りない」

机の上には石が三つ並んでいる。

どれも庭で拾ったものだ。

見た目だけなら違いは分かる。

だが、それ以上となると途端に難しくなる。

重さは厨房の天秤を借りれば比較できる。

硬さも爪や石同士を使えば大まかには分かる。

しかし、それだけだった。

もっと調べたい。

そのためには道具がいる。

そしてクロードは、エリスが言っていたことを覚えていた。

職人なら作れるかもしれない。

問題は、どこに職人がいるのかだった。

「母さま」

朝食を終えたあと、クロードはエリスを見上げた。

「なあに?」

「職人に会いたい」

エリスの手が止まった。

「何の職人?」

「細い容器を作れる人」

「石を調べるための?」

「うん」

覚えていたらしい。

エリスは少し考えた。

「ガラス職人かしら」

「ガラスあるの?」

「もちろんあるわよ」

クロードは思わず周囲を見回した。

窓にはガラスが使われている。

今まで何度も見ていた。

前世ほど透明ではなく、僅かに歪みや気泡がある。それでも向こう側は十分見える。

あまりにも日常の中にあったため、改めて意識していなかった。

「これ作った人?」

「窓を作った人とは違うと思うけれど、ガラスを扱える職人なら領内にいるわ」

「会える?」

「クロード一人では駄目よ」

「母さまと行く」

即答すると、エリスが笑った。

「私も一緒なの?」

「うん」

「仕方ないわね」

そうして数日後、クロードは初めて屋敷の外へ出た。

もちろん生まれてから一度も外へ出たことがないわけではない。

家族と近くへ出かけたことはある。

だが自分から目的を持って、領内の町へ向かうのは初めてだった。

馬車の窓から外を眺める。

道の両側には畑が広がっている。

ところどころに家があり、人が働いていた。

荷車を引く者。

畑を耕す者。

籠を抱えて歩く者。

屋敷の中で本を読んでいるだけでは見えなかった世界だった。

クロードは窓に張りつくようにして外を見る。

「あれなに?」

「水車よ」

「あっちは?」

「麦畑ね」

「あの煙は?」

「工房じゃないかしら」

質問が止まらない。

最初は一つずつ答えていたエリスも、途中から少し疲れた顔になった。

「クロード」

「なに?」

「町に着いてからも質問するのよね?」

「うん」

「そうよね……」

なぜか小さく息を吐かれた。

やがて馬車が町へ入る。

クロードはさらに忙しくなった。

石造りと木造の建物が並び、その間を大勢の人が行き交っている。

商人らしい者が声を上げ、荷車が道を通り、店先には野菜や布、金属製品が並んでいた。

鉄の道具がある。

銅らしき器もある。

見たことのない色の金属まである。

「あれ何?」

「今日はガラス職人に会いに来たのよ」

エリスに手を引かれた。

「あとで見る」

「全部見ていたら日が暮れるわ」

「じゃあまた来る」

「もう次の予定を立てているの?」

町を歩き、やがて一軒の工房へ入った。

中は屋敷とは比べものにならないほど暑かった。

奥に炉があり、その前で男が長い棒を扱っている。

先端には赤く柔らかな塊がついていた。

クロードの目が釘づけになった。

男が棒を回しながら息を吹き込む。

赤い塊がゆっくり膨らんでいく。

「……すごい」

石のことを忘れかけた。

熱されたガラスが形を変えていく。

前世でも知識としてガラスの製造方法は知っていたが、職人が実際に成形するところを間近で見る機会などほとんどなかった。

男は作業を終えると、ようやくこちらへやって来た。

「お待たせしました、奥様」

「突然お願いしてごめんなさい」

「いえ。それで、作ってほしいものがあると聞きましたが」

男の視線がクロードへ下がった。

「この子が欲しがっているの」

「坊ちゃんが?」

職人の顔に疑問が浮かぶ。

クロードは持ってきた紙を取り出した。

自分なりに描いた容器の絵だ。

細長い筒。

下は閉じている。

横には何本もの線がある。

職人が紙を見る。

「これは?」

「水を入れる容器」

「水差しではなく?」

「石を入れる」

職人がエリスを見る。

エリスは微笑んだ。

「私にもよく分からないの」

逃げた。

クロードは自分で説明するしかなかった。

「水をここまで入れる」

紙の線を指差す。

「石を入れると、水が上がる」

「まあ、上がりますな」

「どれくらい上がったか知りたい」

「それで線を?」

「うん」

職人は紙を見つめた。

「線の間隔は?」

クロードが止まった。

そこだった。

同じ間隔で線を引くだけでは意味がない。

一定の量を基準にしなければならない。

「同じ量ずつ」

「その同じ量というのは、どれほどです?」

答えられなかった。

前世ならミリリットルを使えばいい。

だがこの世界で使われている単位を、クロードはまだ十分に知らない。

自分の知識だけで前世の単位を持ち込んでも、それを作るための基準がなければ意味がない。

「……分からない」

職人が少し意外そうな顔をした。

クロードは紙を見る。

作りたい形は分かっている。

使い方も分かっている。

けれど、作るために必要なことを全部理解していたわけではなかった。

まただ。

分かったつもりになっていた。

「じゃあ、先に量を決めないと駄目?」

クロードが尋ねると、職人は頷いた。

「正確に測りたいのであれば、そうなりますな。ただ比較するだけなら、同じ間隔で線をつけるだけでも使えます」

「比較?」

「こちらの石を入れたときは三つ分、別の石なら四つ分水が上がった。それなら後の石の方が大きい、といった具合です」

クロードは考えた。

正確な体積は出せない。

だが同じ容器を使い続ければ、相対的な比較はできる。

今の目的には、それでも十分役に立つ。

「それ作れる?」

「できますよ」

「細い方がいい」

「なぜです?」

「水がいっぱい動くから」

職人は少し考え、やがて頷いた。

「なるほど。確かに細ければ、同じものを入れても水面の変化は大きく見えますな」

今度は職人の方から質問が始まった。

どれくらいの石を入れるのか。

どれくらいの長さが必要か。

倒れやすくてもいいのか。

口は広い方がいいのか。

クロードは一つずつ答えた。

途中で分からないことも出てきた。

そのたびに職人が選択肢を示し、クロードが考える。

最終的に、細長いだけでは倒れやすいため、底を広くすることになった。

石を入れるので、口もある程度広くする。

線については後から一定間隔で印をつける。

完璧ではない。

それでも最初の道具としては使えそうだった。

「できるまで少しかかります」

「どれくらい?」

「数日はいただきたいですね」

「待つ」

「そこは素直なのね」

隣でエリスが笑った。

工房を出る前に、クロードはもう一度炉を見た。

職人が新しいガラスを熱している。

砂のような原料が熱によって溶け、冷えれば透明で硬い物質になる。

知っている。

少なくとも前世ではそうだった。

けれど、この世界のガラスも同じなのだろうか。

使っている原料は何だ。

炉の温度はどうやって維持している。

燃料は。

魔法は使うのか。

また質問が増えた。

「聞いていい?」

クロードが職人を見る。

「ええ、どうぞ」

「ガラスって何から作るの?」

職人は少し笑った。

「坊ちゃんは容器を作りに来たんじゃなかったんですか?」

「それも知りたい」

「それも、ですか」

職人は炉の横に置かれていた原料を少し見せてくれた。

白っぽい砂。

細かな粉。

クロードには見ただけでは正体が分からない。

「主になるのは砂です。それだけでは扱いづらいので、他にもいくつか混ぜます」

「何を?」

職人が材料の名前を挙げた。

知っているものもあれば、聞いたことのないものもあった。

クロードは必死に覚えようとした。

「混ぜる量は?」

「それは教えられません」

「なんで?」

「職人の飯の種ですから」

クロードは口を閉じた。

何でも聞けば教えてもらえるわけではないらしい。

それも当然だ。

技術には、それを身につけるために費やした時間がある。

「分かった」

「怒らないんですな」

「だって職人のものなんでしょ?」

男は少し驚いたあと、笑った。

「変わった坊ちゃんだ」

帰りの馬車でも、クロードは窓の外を見続けた。

行きに見た水車。

煙を上げる工房。

畑。

店。

働く人々。

今までは本の中に世界が広がっていると思っていた。

けれど違った。

本に書かれているのは、誰かが知ったことの一部にすぎない。

町には本に載っていない知識がある。

職人の手の中にもある。

畑で働く人にも、厨房で料理をする人にも、それぞれが積み重ねたものがある。

全部を自分一人で知ることはできない。

だから聞く。

見せてもらう。

そして必要なら、一緒に考える。

数日後、注文していた容器が屋敷へ届いた。

クロードは受け取るとすぐに机へ持っていった。

細長い透明な筒。

底は広く、簡単には倒れない。

側面には一定間隔で線が刻まれている。

正確な体積を示すものではない。

それでも昨日までなかった測定の基準が一つできた。

クロードは水を入れた。

水面の位置を記録する。

木箱から石を一つ取り出して、そっと沈める。

水面が上がった。

「……三つ」

線三つ分。

紙に書く。

別の石を入れる。

今度は四つ分。

それも書く。

まだ密度は求められない。

線一つがどれほどの体積なのか分からないからだ。

それでも同じくらいの大きさに見える石同士なら、違いを比べる材料にはなる。

何より、昨日まで分からなかったことが一つ分かるようになった。

クロードは容器を眺めた。

最初から完璧な道具を作る必要はない。

使ってみて、足りないところがあれば直せばいい。

必要になったら、もっと正確な基準を考えればいい。

前世では完成した道具を使うことが当たり前だった。

この世界では、その当たり前から作らなければならないこともある。

面倒だ。

時間もかかる。

失敗もするだろう。

それなのに、なぜか楽しかった。

机の上には石と紙と、出来上がったばかりの細長いガラス容器がある。

工房と呼ぶにはあまりにも小さい。

道具らしい道具もほとんどない。

それでもクロードにとっては、自分で何かを確かめるための場所だった。

クロードは『石の記録』に新しい項目を書き加えた。

水に入れたとき、線三つ分。

それだけの記録だった。

けれど昨日までは書けなかったことだ。

知らなかったことを一つ知る。

そのために必要なものがなければ、どうすれば確かめられるかを考える。

自分で分からなければ、知っている人に聞く。

作れなければ、作れる人の力を借りる。

クロードは次の石を手に取った。

小さな机の上で、次の「分からない」が待っていた。

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