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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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見え方

目を覚ましてから、しばらく天井を見ていた。

いつもなら起きたあとに考えることはだいたい決まっている。

着替えて、食堂へ行って、それから授業へ向かう。

けれど今日は授業がない。

急いで起きる必要もなければ、教本を鞄へ入れる必要もなかった。

「……休みか」

呟いてから身体を起こす。

窓から入ってくる朝の光が、机の上まで伸びていた。

その先に、昨夜閉じたノートがある。

クロードはベッドから降り、椅子へ座った。

開いたままにしていたページをめくる。

『僕は、魔法のことをどれくらい知ってる?』

その下には昨日、図書館で調べたことが並んでいる。

『同じ属性でも、人によって魔力は違う』

『魔力だけで魔法の違いが決まるわけじゃない』

『どういう魔法だと思ってるかも関係する?』

最後に残っているのは、枝分かれした線と、その隣に描いた丸だった。

『僕は雷を、散るものだと思ってる?』

クロードはその一文を見つめた。

昨日はここまで考えたところでノートを閉じた。

今朝になって見ても、答えは出ていない。

「……どうなんだろう」

鉛筆を手に取る。

何も考えず、雷を描いてみた。

一本の線が途中で二つに分かれ、その先でもう一度枝分かれする。

少し眺めてから、もう一本描く。

今度も曲がった。

真っ直ぐではない。

丸くもない。

次に、その隣へ丸を一つ描いた。

「全然違うな」

見た目だけなら比べるまでもない。

前の世界で見た雷もそうだった。

空から地面へ真っ直ぐな線を引くのではなく、枝を伸ばすように光っていた。

自分が使う雷も、何も考えなければ似たように散っていく。

だから丸くできない。

そこまで考えて、クロードは鉛筆を止めた。

「……いや」

昨日読んだ本を思い出す。

魔力そのものの違い。

魔術操作への慣れ。

集中。

扱い方。

そして、魔法をどう捉えているか。

いくつも並んでいた。

自分が雷を散るものだと思っていることが、本当に関係しているのかはまだ分からない。

関係していたとしても、それだけで全部が決まるわけでもない。

クロードは枝分かれした線の横へ、小さく書いた。

『僕が思ってる雷?』

書いてから、もう一度丸を見る。

丸い雷。

考えようとしてみる。

丸い何かの表面に雷が走っているところなら想像できた。

以前考えた、小さな球へ雷をつける形も浮かぶ。

けれど雷そのものが一つの丸になっているところを思い浮かべようとすると、途中から線が外へ伸びていく。

「……やっぱり散る」

思わず笑いそうになった。

頭の中でまで言うことを聞かない。

もう一度やってみたが、今度も同じだった。

三度目を考えたところで、クロードは鉛筆を置いた。

今日は休みだ。

朝からずっとこれを続ける必要はない。

それでもノートを閉じる前に、丸と雷をもう一度見比べた。


◇


食堂へ行くと、いつもの朝とは空気が少し違っていた。

授業へ向かう生徒たちが一斉に食事を終える日とは違い、食べ終わっても友達と話している者がいる。

まだ眠そうな顔でゆっくり食べている者もいた。

外出するらしく、普段とは違う服を着ている生徒もいる。

クロードは朝食を受け取り、空いている席へ座った。

食べながら、今日何をするか考える。

図書館へ行くことはできる。

昨日の続きを調べてもいい。

ゴルダの工房へ行って、まだ決めていない球のことを考えることもできる。

けれど、どちらも今すぐ行かなければならないわけではない。

ジグレニスドも、まだ注文していない。

大きさも決めていなければ、どう使うのかも決まっていない。

急いで頼んでも仕方がなかった。

「……どうしよう」

食事を口へ運びながら考える。

何もしない。

その選択肢もある。

けれど部屋へ戻れば、たぶんまたノートを開く。

クロードは最後の一口を食べ終えると、食器を戻した。

外へ出よう。

何かを調べるためではない。

工房へ行くためでもない。

ただ、少し歩きたくなった。


◇


学園の門を出て、王都の街を歩く。

前にノーゼスやエクリアと出かけた時とは違い、今日は待ち合わせも目的地もない。

曲がり角があれば、その時に気になった方へ曲がる。

店先に並んでいる物を見たり、人の流れについて歩いたりする。

しばらくすると、焼いたパンの匂いが漂ってきた。

朝食を食べたばかりなのに、少しだけ足が遅くなる。

「……まだいらないか」

そのまま歩く。

道の脇には大小の桶が並び、その向こうでは金属の器が陽の光を反射していた。

丸い皿。

細長い瓶。

四角い箱。

形はどこにでもある。

クロードは丸い器を見て、朝描いた丸を思い出した。

丸そのものを想像するのは難しくない。

鉄の球も想像できる。

水滴なら、もっと簡単だった。

けれど雷になると、途端に線が伸びる。

「……なんでだろう」

小さく呟いてから歩き出す。

少し進むと、水の流れる音が聞こえた。

クロードはそちらを見る。

水が上から落ち、下に溜まった水面を揺らしている。

揺れた水面を眺めているうちに、実習場で見た水魔法が頭に浮かんだ。

エクリアの水。

ピアの水。

同じ水属性で、同じ《丸くする》を使っていたのに、少し違って見えた。

火もそうだった。

ザナトスとガレスでは同じ火属性でも、まったく同じには見えなかった。

昨日は、その違いがどうして生まれるのかを考えていた。

魔力が違うから。

扱い方が違うから。

慣れが違うから。

考え方が違うから。

どれか一つではないのかもしれない。

クロードは水面から目を離した。

「エクリアは、水をどう思ってるんだろう」

口に出してから、自分でも少し変な質問だと思った。

水は水だ。

そう答えられるかもしれない。

でも自分にとって雷は、ただ雷というだけではなかった。

光る。

一瞬で消える。

枝分かれする。

散る。

前の世界で何度も見た雷の姿が、今の自分の中にも残っている。

だったら、他の人にも同じようなものがあるのだろうか。

エクリアが思っている水。

ノーゼスが思っている土。

ザナトスが思っている火。

同じ属性を使う人同士でも、それは同じなのだろうか。

「……分からないな」

当然だった。

聞いたことがない。

それに、本人たちも考えたことがあるかどうか分からない。

クロードはまた歩き出した。

答えが出たわけではない。

ただ、朝より少しだけ気になるものが増えていた。

その後は何も調べなかった。

気になった店先を覗き、道の向こうを走っていく馬車を眺め、昼には目についた店で食事をした。

歩いたことのない道へ入ってみて、思っていた場所とは違うところへ出てしまい、少し戻った。

それも別に困らなかった。

今日は急ぐ理由がない。

気づけば、ずいぶん長い時間歩いていた。


◇


寮へ戻る頃には、窓から差し込む光も朝とは違っていた。

クロードは上着を脱ぐと、椅子へ座った。

机の上には、朝のままノートが置かれている。

ページを開く。

枝分かれした雷。

丸。

その横に書いた言葉。

『僕が思ってる雷?』

クロードはしばらくそれを見てから、下へ書き足した。

『僕が思ってる雷』

疑問符を外した。

自分の中にある雷の形なら、今はこれでいい。

それが魔法にどれくらい影響しているのかは分からない。

そもそも影響しているのかも、まだ確かめられていない。

少し考えて、その下へもう一行書く。

『でも、雷が本当にそうじゃないといけないわけじゃない』

鉛筆の先を止める。

前の世界の雷と、この世界の雷魔法が同じだとは限らない。

それはずっと分かっていたはずだった。

なのに自分が雷を思い浮かべる時には、いつも前の世界で知っていた形が出てくる。

クロードは朝描いた丸を指でなぞった。

そして最後に、新しい一文を書いた。

『じゃあ、他の人は魔法をどう思ってる?』

書き終えてから、少しだけ考える。

聞いてみたい。

誰に。

何を。

そこまではまだ決めなくていい。

今日はもう、十分歩いた。

クロードはノートを閉じると、椅子の背にもたれた。

休みの日は、思っていたより長かった。

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