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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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感じることから

 魔導の鐘が鳴ると、教室に残っていた話し声が少しずつ消えていった。

 ほどなくして扉が開き、ナターシャ・ミナルトアが教室へ入ってくる。

 教壇へ教本を置いたナターシャは、いつものように教室を見渡してから口を開いた。

「前回は《魔術操作》について話しましたね」

 クロードは教本を開きながら頷いた。

 魔術操作。

 学校へ来るまで、その言葉を知らなかった。

 けれど言葉を知ってから、父上とやってきたことの見え方が少し変わった。

 枝へ魔力を流したこと。

 雷を出した状態を保とうとしたこと。

 そして休日には、自分の魔力を何度も感じようとした。

「今日は、その続きをします」

 ナターシャは教本を開かなかった。

「まず皆さん、自分の魔力を感じてみてください」

 教室が静かになった。

 すぐに手を動かす者はいなかった。

 やがて、どこかから小さな声が聞こえる。

「……感じる?」

 ナターシャがそちらを見る。

 声を出したのはベン・ジャスターだった。

「魔法は使わなくていいんですか?」

「使いません」

「印も?」

「必要ありません。今は魔法を使うのではなく、自分の中にある魔力を感じてください」

 ベンは自分の手を見た。

 近くでは何人かが目を閉じ始めている。

 クロードも自分の中へ意識を向けた。

 何もしない。

 動かそうとしない。

 休日に何度も繰り返したことだった。

 意識した途端に魔力を動かしてしまったこともある。今も気を抜けば、いつものように自分から動かそうとしてしまいそうになる。

 それをせず、ただ感じる。

 しばらくすると、僅かな流れがあった。

 やっぱりある。

 昨日まで何度も確かめたものと似ている。

「……分からない」

 少し離れたところから声がした。

 ピア・マールコが目を開けて、自分の手を見ている。

「何が分かりませんか?」

 ナターシャが尋ねる。

「魔力があるのは分かるんです。でも、感じるって言われると……これでいいのか分かりません」

「では今は、魔力があることは分かる、というところまで覚えておいてください」

「それでいいんですか?」

「はい」

 ナターシャはすぐに頷いた。

「今ここで全員が同じようにできる必要はありません」

 その言葉に、目を開ける生徒が何人かいた。

「皆さんはすでに魔法を使ったことがあります。ですが、魔法を使えるからといって、自分がその時に何をしているのかをすべて理解しているとは限りません」

 クロードは前の授業を思い出した。

 魔法を使えることと、魔法を理解していることは同じではない。

 最初の魔法基礎で聞いた言葉だった。

「意識せずに魔力を扱っている人もいます。魔法を使う時だけ魔力を強く意識する人もいます。普段から自分の魔力を感じている人もいるでしょう。そこは人によって違います」

「先生」

 ガレス・ヴァンデルが手を挙げた。

「感じられないと、魔術操作はできてないってことですか?」

「いいえ」

 ナターシャは首を横に振った。

「今まで魔法を使えているのであれば、必要な操作をまったくしていないわけではありません。ただ、自分が何をしているのかを意識できているかは別です」

「じゃあ、できてるけど分かってないこともある?」

「あります」

 ガレスは少し考えてから、自分の手へ視線を戻した。

 クロードもその言葉を考える。

 できているけど、分かっていない。

 父上との訓練でも、そういうことはあったかもしれない。

 自分では何度も同じようにやっているつもりなのに、雷が出る時と出ない時があった。

 違いを探して、ようやく枝まで魔力がそのまま流れていくような感覚に気づいた。

「では、もう一度やってみましょう」

 ナターシャの声で、クロードは意識を自分へ戻した。

「今度は、魔力があることだけではなく、その魔力がどう動いているのかも感じてみてください。ただし、無理に動かそうとしなくて構いません」

 クロードは目を閉じた。

 何もしない時の魔力。

 僅かな流れ。

 それがどこへ向かっているのかは、まだ分からない。

 前より長く感じようとすると、また自分で動かしそうになる。

 一度意識を緩め、やり直す。

「……動いてる?」

 近くでノーゼスの声がした。

 クロードは目を開けた。

 ノーゼスは眉を寄せたまま自分の腕を見ている。

「分かった?」

 クロードが小さな声で聞く。

「分からん。あるのは分かる」

「僕も最初はそんな感じだった」

「最初は?」

 ノーゼスがこちらを見る。

 クロードが答える前に、ナターシャの声が飛んできた。

「話すのはあとにしてください」

「はい」

 ノーゼスが前を向く。

 クロードも姿勢を戻した。

 少しして、今度は別のところで手が上がった。

 マミヤ・シーナだった。

「先生。動かさないようにしてるのに、動かしてる気がします」

「では一度やめてください」

「え?」

「分からなくなったまま続けるより、一度意識を外してからもう一度試してみましょう」

 マミヤは頷き、一度大きく息を吐いた。

 それを見ていたクロードは、休日の自分を思い出した。

 流れを見ようとして、自分で動かしてしまう。

 同じだ。

 けれど、マミヤが感じているものまで自分と同じなのかは分からない。

 教室の中では十六人が、同じ説明を聞いて同じことを試している。

 それなのに、聞こえてくる言葉は少しずつ違っていた。

「あるのは分かる」

「動いてるのが分からない」

「これがそうなのかな」

 誰かの呟きが聞こえるたび、クロードは自分の感覚と比べそうになった。

 けれど、どれが同じでどれが違うのかは聞いただけでは分からない。

 やがてナターシャが全員を止めた。

「今日は、できたかどうかだけで考えないでください。何が分かって、どこから分からなかったのか。それを覚えておくことも大切です」

 クロードは鞄の中のノートを思い出した。

 あとで書いておこう。

「そして、自分の魔力を感じられるようになることには、もう一つ意味があります」

 ナターシャは続ける。

「自分がどれだけ魔力を使ったのか。あとどれくらい使えるのか。それを判断するためにも、自分の魔力を知る必要があります」

 教室の何人かが顔を上げた。

「魔力がなくなるまで使ってから気づいても遅いということです。慣れてくれば、自分が普段使っている魔法なら、今の状態であとどれくらい使えるかも判断しやすくなります」

「回数で分かるんですか?」

 カイル・ノルディアが尋ねた。

「最初から正確に分かるものではありません。同じ魔法でも、その時の使い方によって消費する魔力が変わることがあります。ですが、自分の魔力と普段使っている魔法を知っていれば、あと一度なら使える、二度くらいなら大丈夫だろう、と判断することはできます」

 クロードは少し考えた。

 今までは身体が重くなったり、疲れを感じたりすれば止めていた。

 父上も何度も体調を確認してくれた。

 けれど、その前に自分で分かるようになれば、危なくなる前に止められる。

 魔力を感じる。

 ただ魔法を上手く使うためだけではないらしい。

 その後も何度か繰り返しているうちに、授業の終わりを告げる魔導の鐘が鳴った。


◇


 ナターシャが教室を出ると、張り詰めていた空気がすぐに緩んだ。

「クロード」

 声と同時にノーゼスが近づいてくる。

「さっきの最初はって何だ?」

「休みの日にやってたんだ」

「本読んでたって言ってたやつ?」

「うん」

「本読んで、これやってたのか?」

「やってた」

 ノーゼスが少し黙った。

「……やっぱりずっと休んでなかっただろ」

「休みだったよ」

「そういう意味じゃない」

 近くから小さく笑う声がした。

 見ると、エクリア・ファインザードがこちらを見ていた。

「ファインザードさんは分かった?」

 クロードが聞くと、エクリアは少し考えた。

「魔力があることは分かります。動かすこともできます。でも、動かしていない時にどうなっているのかと言われると……今まで考えたことがありませんでした」

「俺も」

 ノーゼスが言う。

「魔法使う時は普通にやってたからな」

「普通って、どうやって?」

「どうやってって……」

 ノーゼスが止まった。

 クロードは待った。

 ノーゼスは自分の手を見て、それからもう一度口を開く。

「……使う感じ?」

「それでは分かりません」

 エクリアがすぐに返す。

「俺も今そう思った」

 ノーゼス自身が答えた。

 クロードは少し笑った。

 少し離れたところでも、同じような話が始まっている。

「分かった?」

「途中までは」

「途中ってどこ?」

「それが分かんない」

 別のところでは、さっきまで目を閉じていた生徒がもう一度机に手を置いている。

 休み時間なのに、まだ試しているらしい。

 クロードは教室を見渡した。

 一人でやっていた時にはなかったものが、今はたくさんある。

 でも、それが何かの答えになるのかはまだ分からない。

「クロードは?」

 エクリアに聞かれ、クロードは自分の手を見る。

「流れてるのは分かる」

「魔力が?」

「うん。でも、どこに流れてるのかは分からない」

「どこに?」

 ノーゼスが聞き返す。

「何もしてない時にも少し流れてるんだ。でも、それがどこへ向かってるのか分からなくて」

 ノーゼスもエクリアも少し黙った。

「私も、もう一度見てみます」

 エクリアが自分の手を見る。

「俺も」

 ノーゼスも続く。

「休み時間だけど?」

「気になるだろ」

 さっきまで休みの日にやっていたクロードへ何か言っていた気がする。

 クロードはそう思ったが、口には出さなかった。

 やがて次の授業を知らせる魔導の鐘が鳴った。


◇


 二度目の授業でも、ナターシャはすぐに新しいことへ進まなかった。

「先ほど感じられなかった人も、もう一度試してください。感じられたと思った人も、本当に同じように感じられるか確かめてみましょう」

 クロードは目を閉じた。

 一度目と同じように、まず何もしない。

 魔力を感じる。

 僅かな流れがある。

 今度はすぐに動かさず、そのまま待った。

 休日より、少し落ち着いて見られる気がする。

 けれど、どこへ向かっているのかはやはり分からない。

 クロードは目を開けた。

「先生」

「なんですか?」

 ナターシャがこちらを見る。

「何もしていない時にも、魔力が少し流れているように感じるんです」

「そう感じたんですね」

「はい。休みの日に何度か試しました。その流れを先に感じてから同じ方向へ動かすと、最初から自分で動かすより少し楽でした」

 ナターシャはすぐには答えなかった。

「何回試しましたか?」

「何度かです。毎回ではありません。流れを見ようとして、自分で動かしてしまった時もありました」

「では、楽だった時に共通していたことは?」

 クロードは少し考えた。

「先に流れを感じられた時です」

「それ以外は?」

「……まだ分かりません」

「では、今分かっているのはそこまでですね」

「はい」

 答えは教えてくれないのだろうか。

 そう思ったところで、ナターシャが続けた。

「意識して動かしていない時にも、自分の魔力に何らかの動きを感じる人はいます」

 クロードはナターシャを見る。

「でも、全員同じなんですか?」

「いい質問です」

 ナターシャは少し間を置いた。

「少なくとも、感じ方まで全員同じだとは言えません。先ほど話した通り、自分の魔力をどう感じるかには個人差があります」

「じゃあ、僕が感じてる流れが何なのかは……」

「今の話だけでは判断できません」

 クロードは黙った。

「あなたが何をどう感じているのかを、私は直接感じることができませんから」

 ムリヌと話した時のことを思い出した。

 覚えていることと、分かることは違う。

 先生なら答えを知っているかもしれないと思っていた。

 でも、先生にも見えないものはある。

「ただし」

 ナターシャが続ける。

「確かめることはできます」

「どうするんですか?」

「一度の感覚だけで決めず、条件を変えながら繰り返してください。自分で動かした時と、先に流れを感じてから動かした時。その違いが本当に続くのかを見ることです」

 クロードは頷いた。

 それなら、今までにもやってきた。

「それと、今は魔法を使わないでください」

「はい」

「許可証もまだありませんから」

「分かってます」

 近くでノーゼスが少し残念そうな顔をした。

 ナターシャがそちらを見る。

「ダグドラスタさん」

「何も言ってません」

「そうですか」

 教室のあちこちから小さな笑いが起きた。

 その後も授業は続いた。

 一度目より分かったと言う者もいた。

 まだ分からないと言う者もいた。

 さっきは感じたのに今度は分からなくなった者もいた。

 ナターシャはそのたびに、できたかどうかだけではなく、何をした時にどう感じたのかを聞いていた。

 クロードも何度か試した。

 流れを感じられる時。

 途中で自分から動かしてしまう時。

 同じようにやっているつもりでも、少し違う。

 やがて授業の終わりが近づくと、ナターシャが全員を止めた。

「今日できなかった人も、気にする必要はありません。魔術操作は、今日一度やっただけですべて身につくものではありません」

 教室が静かになる。

「何か感覚を掴めた人は、その感覚を忘れないようにしてください。掴めなかった人も、今日教えた基礎は忘れないこと。実際に魔法を扱う実習の中で、先生に見てもらいながら試した方が分かりやすい人もいます」

 クロードはその言葉を聞きながら、教室を見渡した。

 同じ授業を受けた。

 同じことを試した。

 でも、全員が同じように感じたわけではなかった。

 父上とやっていた時は、自分の感覚しかなかった。

 休日に一人で試していた時もそうだった。

 今日は違う。

 魔導の鐘が鳴った。

 クロードは鞄からノートを取り出した。

 書きたいことはいくつかある。

 けれど、その前にもう一度だけ教室を見た。

 まだ自分の手を見ている者がいる。

 隣の生徒と何かを話している者もいる。

 できたのか、できなかったのか。

 それだけでは分からないことが、思っていたよりたくさんありそうだった。

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