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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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世界の入口

休日が明け、クロードはいつもの時間に教室へ入った。

机へ鞄を置き、椅子に座る。

昨日まで読んでいた四冊の本は部屋に置いてきたが、記録用のノートは今日も鞄の中に入っている。

何もしていない時にも魔力は僅かに流れているように感じる。

その流れを先に感じてから動かした方が、少し楽だった。

そこまでは何度か確かめた。

けれど、その流れがどこへ向かっているのかはまだ分からない。

考え始めると、また試したくなる。

「おはよう、クロード」

聞き慣れてきた声に顔を上げる。

「おはよう、ノーゼス」

ノーゼスは自分の席へ行く前に、クロードの机のそばまで来ていた。

「休み、何してた?」

「本を読んでた」

「ずっと?」

クロードは少し考えた。

朝から本を読んで魔力を感じて、昼から図書館へ行った。部屋へ戻ってからも本を読み、また魔力を感じていた。

「……だいたい」

「休みだぞ?」

「うん」

ノーゼスが何か言いたそうな顔をする。

「ノーゼスは?」

「俺は外にいた」

「何してたの?」

「いろいろ」

「いろいろ?」

ノーゼスは少し考えた。

「……いろいろだな」

結局よく分からなかった。

魔導の鐘が鳴る。

ノーゼスも自分の席へ戻り、教室の話し声が少しずつ静かになっていく。ほどなくして、マーサ・ミレナインが教室へ入ってきた。

その手には、丸められた大きな紙が抱えられている。

「おはようございます」

「おはようございます」

挨拶を返す声が教室に広がった。

マーサは教卓へ持っていたものを置き、丸められた紙を広げ始めた。

「あ、ちょっと待ってくださいね」

広げた端が戻ってしまい、近くにいた生徒が小さく笑う。

マーサは丸まろうとする紙に少し手間取りながら、それを黒板へ貼った。

現れたのは大きな地図だった。

クロードは顔を上げる。

見覚えのある形がある。

「今日の1限目は世界史です」

マーサは地図の横に立った。

「世界史、と言っても、いきなり昔の出来事から始めるわけではありません。まずは皆さんがどこで暮らしていて、その周りにどんな国があるのかを見ていきましょう」

マーサが地図の中央付近を示す。

「では、ここは分かりますか?」

何人もの手が上がった。

一人の生徒が答える。

「ラクレシア王国です」

「はい。私たちが今いる国ですね」

ラクレシア王国。

それはクロードも幼い頃から知っている。

まだ文字も読めなかった頃、アルト兄様が持っていた歴史の本を見せてもらった。

そこに描かれていた地図を指して、ここが自分たちの住んでいる国だと教えてもらったのが最初だった。

「では、ラクレシア王国があるこの大陸の名前は?」

今度は先ほどより少しだけ手が減った。

「アゼステア大陸」

別の生徒が答える。

「正解です」

マーサは地図全体へ手を向けた。

「私たちが暮らしているのはアゼステア大陸です。ラクレシア王国はその中央にあります。そして当然ですが、大陸にある国はラクレシアだけではありません」

クロードは地図を見る。

昔見た地図にも、ラクレシアの外にいくつもの国があった。

あの頃はほとんど文字を読めなかった。

その後、少しずつ文字を覚えて、アルト兄様と子供向けの地理の本を開いた。

「では、北にあるこの国は?」

マーサが示した場所を見て、クロードはすぐに分かった。

手を上げる。

「クロード君」

「ザクラスです」

「はい。では、ザクラスにはどんな種族が多く暮らしているか分かりますか?」

「ドワーフです」

マーサが頷いた。

「その通りです。ザクラスは険しい山々の中にある国で、鉱山と鍛冶でよく知られています」

珍しい石。

その言葉と一緒に、昔アルト兄様と読み直した歴史の本を思い出した。

ザクラスの鉱山では、他では見られない珍しい石が採れることがある。

結局、あの本にはどんな石なのかまでは書かれていなかった。

今も少し気になる。

「クロード、行ったことあるのか?」

ノーゼスが小さな声で尋ねた。

「ないよ」

「詳しいから」

「昔、本で読んだ」

「やっぱり本か」

マーサが次の場所を示したため、二人とも地図へ目を戻した。

「では、東側には?」

今度はすぐに手が上がった。

「ファトルス王国」

「はい。ファトルス王国は騎士道や武勇を重んじる国として知られています」

マーサの指がさらに南東へ移る。

「そして、こちらがザルバドス帝国です」

クロードもその名は知っている。

けれど、どんな国なのか詳しく知っているわけではない。

「ザルバドス帝国は、大陸でも大きな力を持つ国の一つです。詳しい歴史については、これからの授業で扱っていきます」

マーサの指が南へ動いた。

「その南にあるのがズザリアです」

「魔族がいる国ですよね?」

一人の生徒が言った。

「そうですね。ズザリアには多くの魔族が暮らしています」

魔族。

クロードは以前、アルト兄様と古い歴史の本を読んだ時のことを思い出した。

人間とは異なる特徴を持ち、異なる文化や考えを持つ者たち。

過去には人間の国々と争ったこともある。

本に書かれていたのはそれくらいだった。

「先生」

一人の生徒が手を上げる。

「魔族って、人間と全然違うんですか?」

マーサは少し考えた。

「難しい質問ですね」

すぐに答えが返ってこなかったことで、教室の視線がマーサへ集まる。

「人間とは異なる特徴を持っています。ただ、それだけで魔族はみんな同じだと考えるのはよくありません。国や地域によって暮らしや文化が違うのは、人間でも同じですから」

クロードは地図の南を見る。

昔、本を読んだ時にも思った。

魔族とはどんな人たちなのだろう。

まだ、その答えは知らない。

「では、こちらは分かりますか?」

マーサの指が南西へ移る。

少し間があったあと、一人の生徒が手を上げた。

「ヴォルガ……ですか?」

「はい。獣王国ヴォルガです」

マーサが地図に書かれた国名を示した。

「ヴォルガは、多くの獣人が暮らしている国です」

獣人。

クロードはその名前を聞きながら地図を見た。

人間の国でも獣人が暮らしている場所があり、働いている者もいる。

アインハルト領にもいるとは聞いたことがある。

けれど、クロード自身は会ったことがなかった。

「獣人なら見たことある」

教室のどこかから声がした。

「俺も」

別の声が続く。

「うちの町にもいるよ」

クロードは少しだけそちらを見る。

自分は見たことがない。

けれど、他の生徒にとってはそう珍しい存在でもないらしい。

「ヴォルガにしか獣人はいない、ということではありませんよ」

マーサが言った。

「ラクレシアを含め、人間の国で暮らしている獣人もいます。働くために故郷を離れている者もいますし、そこで暮らしている者もいます」

クロードはもう一度ヴォルガを見る。

獣人が暮らす国。

けれど、そこにしか獣人がいないわけではない。

地図に引かれた国境と、そこで暮らす者たちは、同じようには分けられないらしい。

「先生、他にも人間じゃない種族っているんですか?」

別の生徒が尋ねた。

「いますよ」

マーサは答え、それから地図へ向き直った。

「ただ、ここで一つ覚えておいてください。世界史で学ぶことが、この世界のすべてではありません」

クロードはマーサを見る。

「私たちがよく知っている国もあれば、詳しく分かっていない場所もあります。昔の記録にしか残っていないこともありますし、同じ出来事でも国によって伝わり方が違うことがあります」

マーサの指が、地図の北東から東へ広がる巨大な森へ動いた。

「例えば、ここには《迷いの森》と呼ばれている大きな森があります」

「迷うんですか?」

すぐに声が上がった。

マーサは少し考える。

「そう言われています」

「先生も行ったことないんですか?」

「ありません」

教室に小さな笑いが起きた。

「その《迷いの森》の奥には、イーファという国があるとされています」

クロードは初めて聞く名前に意識を向けた。

イーファ。

地図を見る。

けれど、森の奥に国の形は描かれていない。

「どんな国なんですか?」

「《精霊の国》と呼ばれています」

精霊。

クロードはその言葉を頭の中でもう一度繰り返した。

「精霊が住んでるんですか?」

「それは――」

マーサは少し考えた。

「私たちの間では《精霊の国》と呼ばれています。ただ、イーファについて分かっていることは多くありません」

「じゃあ、本当に精霊の国なのかは分からない?」

「そうですね。呼ばれている名前と、実際に分かっていることは分けて考えた方がいいでしょう」

クロードは地図の森を見る。

そこに国名は書かれていない。

けれど、その奥に国があるという。

《精霊の国》。

どんな場所なのか。

そこに何があるのか。

今は何も分からない。

マーサの指が今度は大陸の西から南西の海沿いへ移った。

「そして、こちらがターシェリア共和国です」

共和国。

王国でも帝国でもない。

「ターシェリアは海運や商業が盛んで、さまざまな国と交易を行っています。それから、教会の本部があるのもターシェリア共和国です」

クロードは教会という言葉で、自分が五歳になった日のことを思い出した。

母さまと一緒に教会へ行き、《啓示》を受けた日。

雷属性。

そして《鉱物生成》。

あの日に分かった二つの力を知っている者は限られている。

「教会ってラクレシアのものじゃなかったんだ」

近くから声がした。

「ラクレシアにも教会はありますが、本部があるのはターシェリア共和国です」

「どうしてそこにあるんですか?」

マーサは少し考えてから笑った。

「それを話し始めると、今日は国の場所を覚える前に教会の話だけで終わってしまいそうですね」

教室に笑いが起きる。

「なので、それはまた別の機会にしましょう」

マーサは黒板に貼られた地図全体へ手を向けた。

中央にラクレシア王国。

北にザクラス。

東にファトルス王国。

南東にザルバドス帝国。

南にズザリア。

南西に獣王国ヴォルガ。

西から南西の沿岸にターシェリア共和国。

そして《迷いの森》の奥にあるというイーファ。

クロードは一つずつ目で追った。

昔も地図を見た。

まだ文字が読めなかった頃。

少しずつ読めるようになった頃。

アルト兄様と昔の歴史の本を開き直した時。

同じ世界を見ているはずなのに、知っていることが増えるたび、地図の見え方も変わっていった。

「今日はまず、この大陸にどんな国があり、どんな者たちが暮らしているのか。その入口を覚えてください」

マーサが言った。

「これから世界史では、国がどのように生まれ、どのように関わってきたのかも学んでいきます。でも、その前に――」

マーサは地図へ目を向けた。

「自分たちが暮らしている場所だけが、世界ではないということを知っておいてください」

クロードも地図を見る。

昔、アルト兄様に言ったことを思い出した。

世界って広いね。

あの頃より知っていることは増えた。

それでも、まだ知らない場所ばかりだ。

ザクラスの珍しい石も見たことがない。

魔族にも獣人にも会ったことがない。

《迷いの森》の奥にあるという《精霊の国》は、今日初めて知った。

知らないこと、いっぱいある。

昔と同じ言葉が頭に浮かぶ。

クロードは机の横に置いた鞄へちらりと目を向けた。

中には記録用のノートが入っている。

けれど、まだ手は伸ばさなかった。

今はもう少し、この地図を見ていたかった。

知らない場所が、また増えた。

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