留めるには
朝、ノートを開くと、昨日最後に書いたところが目に入った。
『今日は母さまとイリアと街へ行った。工房で二人に贈るものを買った。イリアも母さまも喜んでくれた。楽しかった。』
昨日は明日やることを書くつもりだったのに、今日のことを書いてそのまま閉じてしまった。
その上には、一昨日の雷の記録がある。
『魔力が自分の中から枝まで、そのまま流れる感じ。今日は四回とも同じ感じで雷が出た。』
昨日考えていたことを思い出す。
もっと強い雷を出すにはどうすればいいのか。
雷を何かに留めるにはどうすればいいのか。
どちらも試してみたい。
ノートを少し前まで戻していくと、前に書いた言葉が見つかった。
『雷を、何かに留められるか。』
あのときは、何に留めるかを考えていた。
枝や木の皿、フライパン、扇を見比べて、それから父上に枝へ魔力を流すやり方を教えてもらった。
あのときより、今の方が枝へ魔力を流す感覚は分かる。
雷も続けて出せるようになってきた。
今なら、前より試せるかもしれない。
僕はノートを閉じて、父上のところへ向かった。
「父上」
「なんだ」
「前に、剣に魔力を流して、そのまま炎にしていると言っていましたよね」
「ああ」
「父上の炎は、剣に出たあとも消えずに残っていますよね」
「ああ」
「どうやって残しているんですか?」
父上は少し考えてから答えた。
「出した状態を保っている」
「出した状態を?」
「ああ」
「どうやって保つんですか?」
父上はしばらく黙った。
「……その状態を崩さないようにする」
「崩さないように……」
「ああ」
出した状態を保つ。
その状態を崩さないようにする。
言っていることは分かる。でも、何をすればそうできるのかが分からない。
「そのとき、どんな感じなんですか?」
「どんな感じ?」
「僕は枝に魔力を流すとき、自分の中から枝までそのまま流れる感じがします。父上が炎を保っているときにも、何か感じるんですか?」
父上はまた少し考えた。
「炎がそこにある状態を、そのまま保つ感じだ」
「……そのまま?」
「ああ」
また、そのままだ。
前にアルト兄様から聞いたときも、同じ言葉だった。
あのときは何を言っているのか分からなかったけれど、何度も試しているうちに、自分の中から枝まで魔力がそのまま流れる感覚が少しずつ分かってきた。
今回も、試してみれば分かるかもしれない。
「雷でも同じようにできますか?」
「分からん」
父上に分かるのは炎のことだ。
雷でも同じようにできるのかは、やってみないと分からない。
「父上。試してみてもいいですか?」
「何をする」
「枝に雷を出して、その状態を保てるか試してみたいです」
父上は僕を見た。
「体調は」
自分の体を確かめる。
昨日感じていた重さは、もうなかった。
「大丈夫です」
「ならやってみろ」
「はい」
いつもの枝を持つ。
まずは雷を出してみる。
枝を握り、自分の中の魔力を意識する。
雷を出すつもりで動かして、そのまま枝まで流す。
魔力が自分の中から枝へ流れていく。
パチッ。
枝の先で雷が光り、すぐに消えた。
いつもと同じだ。
父上は、出した状態を保つと言っていた。
もう一度枝を握る。
自分の中で魔力を動かし、そのまま枝へ流す。
パチッ。
雷が光る。
今の状態を保つ。
そう意識してみる。
けれど、雷はすぐに消えた。
「……消えた」
今度は雷を出す前から、出た状態を保つことを意識してみる。
雷が出て、そこにある。
その状態を崩さない。
そう思いながら魔力を動かし、そのまま枝へ流す。
パチッ。
雷が光った。
消えないように、今の状態を保とうとする。
でも、やっぱり雷は消えた。
僕は枝の先を見る。
雷を出すところまではできる。
魔力が枝まで流れる感覚も分かる。
でも、そのあと何をすればいいのかが分からない。
「父上」
「なんだ」
「もう一度やってもいいですか?」
「体調は」
自分の体を確かめる。
少し疲れてきた気はするけれど、まだ大丈夫そうだった。
「まだ大丈夫です」
「ならやってみろ」
「はい」
枝を握り直す。
出した状態を保つ。
その状態を崩さないようにする。
父上の言葉を思い出しながら、魔力を動かす。
自分の中から枝まで、そのまま流していく。
パチッ。
雷が光った。
今だ。
雷がそこにある状態を、そのまま保つ。
消えないように意識する。
それでも雷は消えた。
「……だめだ」
何が違うんだろう。
父上は炎を出した状態を保つことができる。
僕は雷を出すことはできても、その状態を保つことができない。
前に「そのまま流す」が分からなかったときも、何度も試しているうちに少しずつ感覚が分かってきた。
今回も、まだ分かっていないだけなのかもしれない。
もう一度試したくなって枝を握り直した。
「クロード」
父上に呼ばれて顔を上げる。
「今日はそこまでにしろ」
「でも、もう少し――」
「疲れているだろう」
言われて、自分の体を確かめる。
さっきより体が重くなっていた。
まだ試してみたい。
でも、疲れているのは分かった。
「……はい」
僕は枝を置いた。
◇
部屋へ戻ってノートを開く。
今日試したことを書いていく。
『父上は、剣に炎を出した状態を保っている。状態を崩さないようにするらしい。』
その下に続ける。
『雷が出た状態を保とうとした。でも、雷はすぐに消えた。』
書いたものを読み返す。
雷を出すことはできる。
魔力を枝まで流す感覚も分かる。
でも、出した雷をどうすればそのまま保てるのかは分からない。
父上が教えてくれた感覚も、今の僕にはまだ分からなかった。
前に「そのまま流す」が分からなかったときは、何度も試しているうちに少しずつ分かってきた。
今回も、続けていれば分かるだろうか。
僕は最後に一つ書き足した。
『出した状態を保つには、どうすればいい?』
まだ分からない。
だから、また試してみよう。
僕はノートを閉じた。




