まだ書けないこと
部屋に戻ってから、僕は机の上にノートを開いた。
昨日から気になっていたことを、もう一度考えてみる。
枝から雷が出るときと、出ないときがある。
魔力が少なすぎるのかと思って少し増やしてみたけれど、それでも出るときと出ないときがあった。
出るまで魔力を流し続けてみても同じだった。
頭の中で考えているだけでは、何が違うのか分からない。
だったら、一度書いてみよう。
ペンを持って、これまで枝から雷を出そうとしたときのことを思い出す。
最初は、枝に魔力を送ってから雷を出そうとした。
あのときは出なかった。
次も同じだった。
父上に、剣へ魔力を流すことと炎を出すことは分けていないと教えてもらった。
それからは、最初から雷を出すつもりで魔力を動かして、そのまま枝へ送るようにした。
初めてそれをやったときは、雷が出た。
でも、その次は出なかった。
もう一度やったときは出た。
休んだあとも、出るときと出ないときがあった。
僕は思い出せるところから、一つずつノートに書いていった。
書き終わったところを上から見直す。
同じ枝。
同じ場所を持っていた。
雷を出そうとしていた場所も同じ。
途中からは、やり方も同じだった。
それでも、出たときと出なかったときがある。
昨日試したことも書いてみる。
魔力を少し増やした。
出た。
同じくらいの魔力でもう一度やった。
出なかった。
すぐに出なくても魔力を流し続けた。
少ししてから出た。
同じように流し続けた。
出なかった。
書いたものを見比べる。
やっぱり、魔力を増やせば出るわけじゃない。
長く流せば出るわけでもない。
「……何が違うんだろう」
ペンを置いて、昨日のことを思い出す。
父上には、自分で違いを覚えろと言われた。
出たときと、出なかったとき。
何が違ったのか。
もう一度、ノートを見る。
書いてあるのは、枝をどう持っていたか、どのくらい魔力を使ったか、どのくらい流していたか。
それと、雷が出たかどうか。
でも、昨日最後に考えたことが書いていない。
自分の中で、どう魔力を動かしていたのか。
空いているところにペンを置く。
雷が出たとき。
あのとき、僕はどうやって魔力を動かしていたんだろう。
書こうとして、手が止まった。
「……分からない」
思い出そうとしても、雷が出たことは覚えているのに、その直前に自分の中で魔力がどう動いていたのかまでは思い出せない。
出なかったときも同じだ。
同じようにやったつもりだったことしか覚えていない。
これでは比べられない。
僕はしばらくノートを見ていた。
だったら、次にやるときは覚えておけばいい。
雷が出るかどうかだけじゃなくて、自分がどう魔力を動かしたのかも気にしてみる。
そうすれば、出たときと出なかったときで比べられるかもしれない。
ノートを閉じる。
一人で試すことはできない。
僕は椅子から立ち上がると、父上のところへ向かった。
父上を見つけて、声をかける。
「父上」
「何だ」
「もう一度、枝で雷を出してみたいです」
父上が僕を見る。
「なぜだ」
「今までやったときのことを書いて比べてみたんです」
持ってきたノートを開く。
「魔力を少し増やしても、出るときと出ないときがありました。長く流しても同じでした」
「ああ」
「でも、自分がどう魔力を動かしていたのかは、ちゃんと覚えていなくて」
父上はノートに目を落とした。
「だから今度は、そこを気にしながらやってみたいです」
「体調は」
自分の体を確かめる。
今日はまだ魔力を使っていない。
「大丈夫です」
「ならやってみろ」
「はい」
父上と一緒に訓練場へ向かう。
昨日と同じ枝を握る。
今までは枝の先を見て、雷が出るかどうかを気にしていた。
でも今回は、それだけじゃない。
自分の中の魔力を意識する。
雷を出すつもりで魔力を動かす。
その魔力がどう動いているのかを忘れないようにしながら、手から枝へ送る。
パチッ。
枝の先で、小さな雷が光った。




