届いているもの
次の日、僕は木の枝を持って父上のところへ向かった。
昨日の夜、父上には八割ぐらいできるようになったと思うと話した。
すると父上は、明日少し見せてみろと言った。
昨日まで何度も握っていた枝を手に持ち、父上の前に立つ。
「これです」
父上は枝を見ると、僕が持っているところとは反対側を掴んだ。
「父上?」
「昨日と同じように流してみろ」
「はい」
どうして父上も枝を持つのだろう。
少し気になったが、まずは言われた通りにやってみることにした。
枝を握る手に意識を向ける。
自分の中だけで動かさない。
手の先で止めず、その先まで。
昨日まで何度も繰り返した感覚を思い出しながら、枝へ魔力を送る。
すぐには何も起きなかった。
もう一度意識する。
すると、手の先から何かが抜けていくような感覚がした。
昨日と同じだ。
「……今、できたと思います」
「ああ」
父上は枝から手を離さなかった。
「もう一度だ」
「はい」
もう一度、枝へ魔力を送る。
今度はさっきの感覚がない。
何かが手の中で止まっているような気がする。
「……今のは、できなかったと思います」
「そうだな」
僕は父上を見た。
「分かるんですか?」
「届けばな」
父上は短く答えた。
届けば分かる。
その言葉を聞いて、ずっと前のことを思い出した。
まだ《啓示》を受ける前、僕は父上に魔力とは何かを聞いたことがある。
そのとき父上は僕の手を握り、自分の魔力をほんの少しだけ流してくれた。
手のひらから何かが入ってきた。
熱いようで熱くない、不思議な感覚だった。
あのとき、僕は父上の魔力を感じた。
今はその逆なのだろうか。
僕が枝へ流した魔力を、反対側にいる父上が感じている。
「前に、父上の魔力を僕に流してくれたことがありましたよね」
「ああ」
「あれと反対ですか?」
父上は少しだけ枝へ目を落とした。
「似たようなものだ」
やっぱりそうらしい。
あのときは父上から僕へ。
今は僕から枝を通って父上へ。
そう考えると、父上が枝の反対側を持った理由も分かった。
「もう一度やってみます」
「ああ」
僕は枝を握り直した。
手の中だけで動かさない。
その先まで。
枝へ向かって魔力を送る。
今度はすぐに、手の先から何かが抜ける感覚があった。
「今は?」
「来ている」
やっぱり。
自分でできたと思ったときには、父上にも届いている。
もう一度試す。
今度も同じ感覚がした。
「来ている」
もう一度。
今度はうまくいかなかった。
父上も何も言わない。
「今のは来てませんか?」
「ああ」
僕の感じ方と、父上の答えが同じになっている。
昨日までは、自分の中で昨日と同じ感覚になったかどうかしか分からなかった。
本当に枝へ魔力が入っているのかは分からないままだった。
けれど今は違う。
僕の手から離れたものを、枝の反対側にいる父上も感じている。
それなら少なくとも、手のところで止まっているわけではない。
何度か繰り返した。
うまくいかないこともあったが、昨日と同じ感覚になることの方が多い。
そのたびに父上の答えを聞く。
できたと思ったときには届いていて、できなかったと思ったときには届いていない。
何度か試したあと、父上が枝から手を離した。
「もういい」
「できてますか?」
「ああ」
その答えを聞いて、少し嬉しくなった。
昨日までは、できていると思うとしか言えなかった。
でも今日は父上にも確かめてもらえた。
父上は僕の顔を見る。
「体調はどうだ」
僕は自分の体を確かめた。
少し魔力を流したが、昨日のような疲れはまだない。
「大丈夫です」
「そうか」
父上が枝を見る。
「なら次だ」
僕も枝を見る。
次。
何をするのかは分かっていた。
「雷ですか?」
「ああ」
ようやくここまで来た。
僕が最初に知りたかったのは、雷を何かに留めることができるのかということだった。
そのために剣の代わりになるものを探し、枝に魔力を送る練習をしてきた。
まだ、雷を枝に留められるかどうかは分からない。
そもそも、父上が剣に炎を纏わせるのと同じようなことが雷でもできるのか、それすら分からない。
でも、枝へ魔力を送ることはできた。
なら次を試せる。
父上が僕から少し離れた。
「枝から出すつもりでやれ」
「はい」
僕は枝を握り直した。
今までとは違う。
ただ魔力を送るだけではない。
枝へ魔力を流し、その先で雷を出す。
右手に持った枝を見る。
普通の木の枝だ。
これに雷を留めることができるのか。
まだ分からない。
僕は一度息を吐き、枝を握る手に意識を向けた。
まずは魔力を送る。
手の先から何かが抜けていく。
今度は、その先。
枝から雷を出す。
そう意識した。
けれど。
何も起こらなかった。
「……出ません」
「ああ」
父上はそれだけ答えた。
僕は枝を見る。
魔力を送るところまでは、さっきできていた。
でも雷は出なかった。
なら、何が違うのだろう。
「もう一回やってもいいですか?」
「体調に問題がないならな」
もう一度、自分の体を確かめる。
まだ大丈夫だ。
「大丈夫です」
「ならやってみろ」
「はい」
僕はもう一度、枝を握った。
一回できなかっただけでは、まだ何も分からない。
魔力を送ることだって、最初からできたわけではなかった。
だったら、これも試してみればいい。
僕は枝の先を見ながら、もう一度魔力を送り始めた。




