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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
幼少期編

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昨日と同じ感覚

机の上に開いた記録を、僕はもう一度読み返していた。

『触っているものに、魔力を送れる。』

『できるときと、できないときがある。』

『まず、木の枝に魔力を送れるようにする。』

 昨日、父上に教えてもらったことだ。

 枝を握って、自分の中にある魔力をその先まで動かそうとした。

 何度やっても分からなかったのに、途中から手の先から何かが抜けたような感じがすることがあった。

 父上は、その感覚を忘れるなと言った。

 でも、同じようにやったつもりでも何も感じないこともあった。

 どうすれば昨日と同じになるのだろう。

 記録を見ながら考えていると、扉を叩く音がした。

「クロード、入ってもいい?」

 母さまの声だ。

「はい」

 返事をすると扉が開き、母さまと一緒にイリアが入ってきた。

「おにいちゃん!」

 僕を見つけたイリアが嬉しそうに声を上げる。

「イリア」

 椅子から降りると、イリアはすぐに僕のところまでやってきた。

 その後ろから母さまがゆっくり歩いてくる。

「昨日のこと、お父様から聞いたわ」

「昨日のこと?」

「ええ。触っているものに魔力を送る練習をしたんでしょう?」

「はい」

 父上が母さまに話してくれたらしい。

 母さまは机の上に置いてある枝と、開いたままの記録を見た。

「続きをしたい?」

「したいです」

 すぐに答えると、母さまが少し笑った。

「いつからやりたい?」

「今からでもいいですか?」

「いいわよ。でも、お父様と約束したことは守るのよ」

「はい」

「それから、疲れたら休むこと」

「分かりました」

 僕は机の上に置いてあった枝を手に取った。

 昨日、修練場へ持っていったものと同じ枝だ。

 椅子に座り直して握ってみる。

 まずは、自分の中にある魔力を意識する。

 それを手まで動かして、その先へ。

 枝を握っている手の中だけではなく、もっと先まで。

 父上に言われたことを思い出しながらやってみる。

 けれど何も感じない。

 もう一度やってみる。

 やっぱり分からない。

 昨日も最初はそうだった。

 だから、もう一度。

 自分の中だけで動かさない。

 その先まで意識する。

 何度か繰り返したとき、指先から何かが抜けていくような感じがした。

「……今のは、少し似てた」

「昨日と?」

 母さまが聞く。

「うん」

 僕にしか分からない感覚だから、母さまには何が起きたのか分からないはずだ。

 それでも昨日と同じ感じがしたことは伝えられる。

 もう一度やってみようとしたところで、服の袖を引かれた。

「おにいちゃん」

「どうしたの?」

 イリアが僕の手を見ている。

「それ」

 小さな指が、僕の持っている枝へ向いた。

「これ?」

「うん」

 枝を少し持ち上げると、イリアの目がその動きを追う。

「イリアも」

「欲しいの?」

「ほしい」

 手を伸ばしてくる。

 でも枝は駄目だ。

 細くても硬いし、先も尖っている。

「これはだめ」

 そう言うと、イリアの手が止まった。

「だめ?」

「うん。危ないから」

 イリアは枝を見たまま動かない。

 何か代わりになるものはないだろうか。

 部屋の中を見回して、柔らかい布を見つけた。細く丸めて持ってみると、枝とは全然違うけれど、これならイリアが振り回しても危なくない。

「これならいいよ」

 渡してみると、イリアは両手で受け取った。

「おにいちゃん」

 僕の枝と自分の布を交互に見ている。

 気に入ったのかな。

 僕がもう一度枝を握ると、イリアも布を握った。

 少しして、また袖を引かれる。

「おにいちゃん」

「なに?」

「いっしょ」

「一緒?」

「うん」

 イリアは布を持ったまま僕を見ている。

 枝が欲しかったんじゃなかったのかな。

 そう思ったけれど、僕が枝を机に置くとイリアの顔がすぐに明るくなった。

「遊びたいの?」

「うん!」

 どうやら欲しかったのは枝ではなかったらしい。

 僕が持っていたから、自分も同じようにしたかっただけなのかもしれない。

 それなら練習はあとでもできる。

 母さまがいる間なら、また続けられる。

 僕は椅子から降りて、イリアと遊ぶことにした。

 イリアは僕の後ろをついてきたり、僕が触ったものを自分も触ってみたり、隣に座ったりしている。

 何をするかより、一緒にいることの方が楽しいみたいだ。

 しばらく遊んでいると、さっきまで元気に動いていたイリアの足が少しずつ遅くなってきた。

「イリア?」

「なあに?」

「眠い?」

「ねむくない」

 そう答えた直後に、大きなあくびをした。

「眠そうだよ」

「ねむく……」

 最後まで言わないうちに、イリアの身体が僕の方へ傾いた。

「わっ」

 支えようとしたけれど、その前に母さまがイリアを抱き上げた。

「もう眠いみたいね」

 母さまの腕の中で、イリアは目を閉じている。

「寝ちゃった」

「たくさん遊んだもの」

 母さまが小さく笑う。

 さっきまで僕の後ろをついてきていたのに、眠るのはあっという間だった。

 僕はイリアの寝顔を少し眺めてから、机の上に置いた枝を見る。

「続きをする?」

 母さまが僕の視線に気づいた。

「はい」

「疲れてない?」

 自分の身体を確かめてみる。

 昨日のような疲れは、まだ感じない。

「大丈夫です」

「そう。なら、やってみなさい」

 僕は椅子に戻り、もう一度枝を握った。

 母さまは眠ったイリアを抱いたまま、近くにいてくれる。

 枝を握って、魔力を手まで動かす。

 そこから、その先へ。

 一度目は何も分からなかった。

 二度目も分からない。

 三度目で、手の先から何かが抜けるような感じがした。

「……今のは、昨日と同じ感じ」

「そう」

 母さまはそれ以上何も言わず、僕のそばにいてくれた。

 もう一度やってみる。

 今度は分からない。

 次は少し似ている。

 その次も、同じような感じがした。

 昨日より増えている気がする。

 でも、毎回ではない。

 同じようにしているつもりなのに、何も感じないときもある。

 本当に魔力が枝へ入っているのかは分からない。

 今、自分に分かるのは、昨日と同じような感覚がすることが増えたということだけだ。

 何度か繰り返してから、僕は枝を机に置いた。

「今日はここまでにします」

「もういいの?」

「はい。続きはまたやります」

「そう」

 母さまは眠っているイリアを抱き直した。

「それなら、私たちは戻るわね」

「母さま」

「なあに?」

「一緒にいてくれて、ありがとうございました」

 母さまは少し笑った。

「どういたしまして。無理はしないのよ」

「はい」

 僕は扉のところまで母さまを見送った。

 イリアは母さまの腕の中で眠ったままだ。

「イリア、おやすみ」

 小さな声で言ってみたけれど、返事はなかった。

 母さまが部屋を出て、扉が閉まる。

 部屋の中が急に静かになった。

 さっきまでイリアが動き回っていたから、いつもより静かに感じる。

 僕は椅子へ戻った。

 もう枝には触らない。

 父上と、一人ではやらないと約束している。

 代わりに記録を開き、今日分かったことを書く。

『昨日と同じ感覚になることが増えた。』

 書いた文字を眺める。

 まだ、できるようになったわけではない。

 どうしてできるときとできないときがあるのかも分からない。

 けれど昨日より、少しだけ同じところへ近づけるようになった。

 僕は記録を閉じ、椅子の背にもたれた。

 一人になった静かな部屋で、今日のことをゆっくり思い返す。

 次も同じようになるか。

 それは、また試してみればいい。

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