似ているもの
翌日、クロードは机に置いていたノートを開いた。
昨日、最後に書いた一文が目に入る。
『雷を、何かに留められるか。』
父上は剣に炎を纏わせていた。
ただ魔力を出しているのではなく、どこまで出すか、どこに留めるかを自分で決めているという。
それなら雷でも同じことができるのか試してみたかったが、剣を使うことは父上に止められた。
クロードは五歳だ。剣を持って試すには危ない。
「安全なものならいいのかな」
剣そのものを使いたいわけではない。
確かめたいのは、雷を何かに留められるかどうかだ。
なら、剣ではないもので試せばいい。
そう考えたところで、クロードは手を止めた。
「でも、剣に似てるものってなんだろう」
長いもの。
硬いもの。
手で持てるもの。
いくつか思い浮かんだが、それが本当に剣に似ているのかは分からない。
そもそもクロードは、剣についてそれほど詳しくなかった。
誰かに聞こうとして、アルト兄様の顔が浮かんだ。
本のことや知らないことを教えてもらったことがある。剣についても、自分よりは知っているかもしれない。
クロードはノートを持って部屋を出た。
廊下で見かけた使用人にアルト兄様がどこにいるか尋ねると、今は本を読んでいると教えてくれた。
教えられた場所へ向かうと、アルト兄様は椅子に座って本を開いていた。
「アルト兄様」
「ん?」
アルト兄様が本から顔を上げ、クロードの持っているノートを見る。
「また何か実験か?」
「うん。ちょっと聞きたいことがあって」
「俺に分かることならな」
「剣に似てるものって、何かある?」
アルト兄様は少しだけ首を傾げた。
「剣に?」
「昨日、父上に剣を使うのは危ないって言われたんだ。でも、剣じゃなくても試せるかもしれないから」
「何を試すんだ?」
クロードはノートを開き、昨日書いた一文を見せた。
「雷を何かに留められるか」
アルト兄様の目がノートへ落ちる。
「それで剣の代わりか」
「うん。危なくないものがいい」
「だったら、棒とか?」
「棒?」
「木の枝でもいいんじゃないか。剣みたいに持てるだろ」
クロードは少し考えた。
確かに手で持てるし、剣より危なくなさそうだ。
「見てみたい」
「じゃあ庭に行くか」
二人で庭へ出ると、アルト兄様は地面に落ちていた枝の中から一本を拾った。
長さはクロードの腕よりずっと長い。太すぎず、片手でも持てそうだった。
「これくらいならどうだ?」
クロードは受け取ってみた。
「持てる」
「振り回すなよ。それなら普通に危ないからな」
「振らないよ」
クロードは枝を見ながらノートに書いた。
『木の枝』
最初の候補ができた。
けれど一つ見つかると、他にもないか気になった。
庭から屋敷へ戻る途中、壁際に立てかけられた箒が目に入る。
「箒も長い」
「まあ、持つところはあるな」
クロードは箒と手に持った枝を見比べた。
どちらも木でできた長い部分があり、手で持てる。
少し考えてから首を振った。
「でも枝と似てるから、これはいいかな」
「似てるものを探してたんじゃないのか?」
「そうなんだけど、同じみたいなのばっかりあっても分からない気がする」
「難しいこと考えてるな」
「まだ分かんない」
だから探している。
屋敷の中を歩いていると、前から使用人が木の盆を持ってきた。
クロードの目がそこへ向く。
枝とはまるで形が違う。
けれど、同じ木だ。
通り過ぎようとした使用人に声をかけ、少し見せてもらってもいいか尋ねる。
許可をもらって手にすると、枝よりずっと幅があり、持った感じも違った。
「これも木だ」
「剣には全然似てないぞ」
「でも枝と同じ木で、形が違う」
クロードはノートに『木の盆』と書いた。
同じ木なら、形が違ったときにどうなるのか見られるかもしれない。
二つ目を書いたところで、今度は別のことが気になった。
「木じゃないものも見たい」
「じゃあ台所でも行くか? 金属なら何かあるだろ」
二人で台所へ向かう。
邪魔にならないように中を見せてもらうと、クロードは置かれていたフライパンに気づいた。
持ち手がある。
持たせてもらうと、枝や盆よりずっと重かった。
「鉄?」
「たぶんな」
クロードはノートに『フライパン』と書き、その横に『鉄』『持ち手』『重い』と書き足した。
「これは剣に近い?」
「木の盆よりは近いんじゃないか? 金属だし、持つところもあるし」
クロードはフライパンをもう一度見てから返した。
屋敷の中をさらに歩いていると、暖炉のそばに細長い金属の棒があるのを見つけた。
「これも似てる」
「火かき棒だな」
長くて、金属で、持つところもある。
さっきのフライパンより剣に近そうに見える。
クロードはしばらく見ていたが、ノートには書かなかった。
「これはやめる」
「なんでだ?」
「危なそうだから」
先の方は細く、硬い。
父上が剣を危ないと言ったのに、別の危ないものへ変えたら意味がない。
「父上が剣を駄目って言ったのに、危ないものに変えたら同じだよ」
「それはそうだな」
近くにあった燭台にも目を向けたが、それも候補には入れなかった。
金属ではある。
けれど、落としたりぶつけたりすれば危ない。
似ているかどうかだけで決めるわけにはいかない。
それからも二人で屋敷の中を歩いた。
何かを見つけるたびに立ち止まり、持てるか、危なくないか、すでに見つけたものと同じではないかを考える。
そうしているうちに、クロードは一つの扇に目を止めた。
「……これ」
「扇?」
「うん」
「もう剣に似てないぞ」
「似てないね」
クロードは扇を見ながら考えた。
剣とは形が違う。
木の枝とも、盆とも、フライパンとも違う。
それでも手で持つことはできるし、危なくもなさそうだった。
「でも、これも入れてみる」
「似てるものを探してたんじゃなかったのか?」
「最初はそうだったんだけど」
クロードはノートを見た。
『木の枝』
『木の盆』
『フライパン』
そこへ『扇』を書き足す。
「何が同じなら雷を留められるのか、まだ分からないから。違うものもあった方が分かるかもしれない」
アルト兄様はノートを覗き込んだ。
「ずいぶん剣から離れたな」
「うん」
でも、それでいい気がした。
剣の代わりを一つ見つけるだけなら、木の枝で終わっていた。
けれど探してみると、同じ木でも形の違うものがあり、金属でも危なくて使えないものがあった。
持ち方も違う。
重さも違う。
長さも違う。
クロードは並んだ名前を見つめた。
「どう比べようかな」
「まだ試してないだろ?」
「だから、試す前に」
何を同じにして、何を変えるのか。
全部違うものをそのまま試したら、結果が違ったときに何が原因なのか分からなくなるかもしれない。
クロードはノートの空いたところに、それぞれ気づいた違いを書いていった。
木か、鉄か。
長いか、広いか。
重いか、軽いか。
どうやって持つか。
書いていくほど、今度はどれを比べればいいのか分からなくなる。
クロードは鉛筆を止めた。
「……いっぱいある」
「自分で増やしたんだろ」
「そうなんだけど」
アルト兄様が笑う。
クロードもノートを見ながら少し笑った。
分からないことが増えた。
でも昨日より、何を分かっていないのかは見えるようになった気がする。
「まず父上に聞いてみる」
「何を?」
「これで試してもいいか」
安全そうに見えるものを選んだつもりでも、雷を使って本当に安全なのかはクロードには決められない。
それに、全部を一度に試す必要があるのかも分からなかった。
クロードは候補の下に新しい一文を書いた。
『何を比べる?』




