↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
258/259

動いたと分かるには

授業を終えた教室で、クロードはノートの端に小さな丸を描いていた。

その両側へ短い線を引き、少し離れたところにもう一本線を足す。

「……これなら、少しくらい動いても」

呟きながら線を伸ばすと、後ろから声がした。

「何だ、また工具か?」

振り向くと、ノーゼスが鞄を肩に掛けて立っていた。

「うん。今度は球を置く道具なんだけど」

クロードがノートを見せると、ノーゼスは少し顔を近づけた。

「……足は何本あるんだ?」

「足じゃないよ!」

「前もそう言ってたな」

ノーゼスが笑い、クロードもつられて笑った。

「今回は、球がどれだけ動いたかを知りたいんだ」

「動かないように押さえるんじゃないのか?」

「少しは動けるようにしたい。でも、遠くまで転がったら危ないから」

クロードは丸の左右へ描いた線を指した。

「ここで止められたらと思ってる」

「だったら、ここまで動いて戻ったら?」

横から声がして顔を上げると、エクリアが教本を抱えていた。

「最初の位置に戻ったら、動かなかったのと同じに見えるでしょう?」

「あっ……」

クロードは描いた丸を見直した。

止めを置けば、外へ出るのは防げるかもしれない。

けれど、動いたことが分かるとは限らない。

「確かに。それじゃ見てないと分からないね」

「見るだけでも、速かったら見逃すかもしれないわ」

「そうだよね……」

ノーゼスがノートを覗き込んだ。

「じゃあ、動いた跡が残ればいいんじゃないか?」

「跡?」

「壁を出したあとなら、土が残るだろ。それと同じようにさ」

「でも、金属の球は跡を残してくれるかしら」

エクリアは首を傾げた。

クロードも、丸の隣に小さな線を書き足した。

「球が動いた時だけ、別のものがずれるようにできるかな」

「その別のものまで飛んでったら困るぞ」

「うん。そこも考えないと」

クロードが頷くと、エクリアは教本を持ち直した。

「私は授業で分からなかったところを見直すわ。二人はまだここにいる?」

「俺も少ししたら戻る。壁の記録を整理したいし」

ノーゼスが答えた。

「じゃあ、僕も今日はここまでにするよ」

クロードは丸の横へ『動いた跡を残す』と書き込んだ。

以前の絵よりは、何を描きたいのか自分でも説明できる。

ただ、それをどう作ればいいのかはまだ分からなかった。


◇


休みの日、朝の鍛錬を終えたクロードは、ノートを鞄へ入れて王都へ出かけた。

向かったのは、以前にも訪ねた裏通りの小さな工具屋だった。

擦れた看板を見つけ、開いている扉から声を掛ける。

「こんにちは、ネモさん」

「おや、クロード。今日は何を探してる?」

作業台の向こうから顔を上げたネモが、鞄へ目を向けた。

「また絵だけ持ってきたの?」

「今回は、何に使いたいか決まってます!」

「それはよかった」

ネモが笑ったので、クロードも少し笑ってノートを開いた。

「金属の球が少し動いたかどうか、確かめたいんです」

「球を測るんじゃなくて、動いたかどうか?」

「はい。今は浅い受けに置いているんですけど、そこから動かなくて」

「何かで押すの?」

「雷魔法を当てたらどうなるか、学園で調べているんです」

ネモは一度、クロードの顔を見た。

「ここで試すつもりじゃないよね?」

「もちろんです。先生に見てもらって、魔法演習場でやっています」

「なら、そのまま先生と相談して進めることだね」

ネモは頷き、ノートへ視線を移した。

「球の大きさは?」

「同じ大きさのものが二つあります。普通の鉄と雷鳴鋼です」

「重さも同じ?」

「いえ。雷鳴鋼の方が少し軽いです」

「だったら、動いた時の違いが材質だけのせいかどうかも分からないね」

「はい。それも気になっています」

ネモはノートの丸を指した。

「で、どこまで動ければいいの?」

「ほんの少しでいいんです。外へ転がるのは困るので」

「それなら、まず動ける範囲を決めないとね」

ネモは棚から小さな固定具を取り出した。

以前、細いねじの加工方法を質問した時に見せてもらったものだ。

「これは物を挟む道具だけど、位置を決めるのにも使える」

ネモがねじを回すと、向かい合う部分の間隔が変わった。

「ただ、球を挟んでしまったら、動けないよね」

「はい。だから、押さえつけたくはないんです」

「なら、球を置くところと、動きを止めるところは分けた方がよさそうだ」

クロードは頷いて、ノートへ線を二本描いた。

「ここまで動けるようにして、こっちで止める……」

「でも、それだけじゃ最初の話に戻るよ」

「動いて、また戻った時ですね」

「そう」

ネモは作業台の端から細い金属片を一枚取り、指でわずかに押した。

金属片は短く滑り、手を離しても元の場所へは戻らなかった。

「球が押したら、こっちだけ位置が変わって残るようにできれば、後からでも確かめられるかもしれない」

「あっ、それなら!」

クロードは思わず身を乗り出した。

「最初の位置に線を引いておけば、どれだけずれたかも見られそうです」

「ただし、球じゃなくて、その板だけが動くこともあるだろうね」

「……そうか。動いた理由も確かめないと」

「それに、動く仕組みが引っかかれば、球が押してもずれない」

ネモは金属片を元の位置へ戻し、固定具も作業台の端へ寄せた。

「どっちにしても、今の絵だけじゃ寸法が分からないよ」

「そこは、ちゃんと測ってきます」

クロードはノートの空いたところへ『球の大きさ』『重さ』『動ける幅』と書いた。

少し考え、『目印が戻らないこと』も書き足す。

「この方法なら、できそうですか?」

「それはまだ分からない。実際の球に合うかも、どんな力が加わるかも見てないからね」

「……ですよね」

「でも、何を確かめたいかは、前よりずっと分かるよ」

ネモはクロードのノートへもう一度目を向けた。

「今度の絵は、四本足じゃないし」

「そこ、まだ覚えてるんですか!」

「忘れにくい絵だったからね」

クロードが笑うと、ネモも笑った。

「ただ、上から見た図と横から見た図は分けて描いた方がいいよ」

「それ、ノーゼスとエクリアにも言われました」

「いいこと言うね」

クロードは新しい頁を開き、二つの向きから簡単な図を描いた。

今度は丸と線が重ならないよう、少し間を空ける。

ネモはそれを見て頷いた。

「うん。何を動かして、何を止めたいのかは伝わる」

「本当ですか!」

「寸法が入れば、使える道具をもっと絞れるね」

クロードは嬉しくなって、もう一度ノートを見た。

店にある道具だけで揃うかどうかも、まだ分からない。

必要なら加工を頼むことになるかもしれないが、今すぐ注文できる段階ではなかった。

「ネモさん、寸法を確かめてから、また相談してもいいですか?」

「店が開いてればね。今度は、球が入る大きさも分かるようにしておいで」

「はい。ありがとうございました!」

クロードはノートを鞄へ戻し、店を出た。

裏通りを歩きながら、さっき書き込んだ項目を思い返す。

球を動かす方法が分かったわけではない。

でも、動いた時に何を残せば確かめられるかは、前よりはっきりした。

「……まずは、寸法からだね」

クロードは鞄を軽く押さえ、学園への道を歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。