↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
256/259

当てた、その先

目を閉じていると、足の裏から膝へ続く疲れが少しずつはっきりしてきた。

柔らかい寝台に横になっているのに、身体のどこかでまだ斜面を上っているような気がする。

クロードは掛け布を軽く引き寄せた。

目の前には何も見えない。

それなのに、褐色の大きな身体が草を踏みつける光景が浮かんできた。

太い前脚が持ち上がる。

その下には、足を踏み直そうとしているガレスがいた。

クロードは右手の指を少し握った。

あの時、剣は左手へ移していた。

空いた右手で《印》を組み、竜の肩へ《サンダーボール》を放った。

青白い雷は、狙った場所に当たった。

鱗の上で光が弾け、竜の身体もわずかに揺れた。

けれど、振り出された前脚は止まらなかった。

ガレスが倒れた時の声まで思い出し、クロードは目を開けた。

天井が見える。

今いるのは、男子寮の自分の部屋だった。

「……当たったんだけどな」

口にしてから、クロードは自分の右手へ視線を落とした。

魔法実習では、狙ったところへ雷を届けるために何度も繰り返してきた。

途中で雷がほどけたり、地面へ曲がったり、狙いから外れたりしたこともある。

だから、あの肩に当たった瞬間は確かに分かった。

今度は届いたのだと。

それでも、ガレスの腕は折れた。

「……もっと強ければ、止まったのかな」

そう呟いてみたが、答えは出なかった。

雷を強くすれば、必ず竜が脚を止めるのだろうか。

肩ではなく別の場所なら、違ったのだろうか。

それとも、もう少し早く放っていれば、あの脚が上がる前に間に合ったのだろうか。

思いつくことはある。

けれど、どれも実際に確かめたことではなかった。

クロードは右手を布団の上へ戻した。

あの斜面で、好きなだけ試す時間があったわけではない。

ベンが段差の上へ退き、ガレスがまだ下にいるのを見てから、雷を撃てる位置へ動いた。

ガレスから離れた肩を狙ったのも、二人へ雷を向けたくなかったからだ。

その判断をしないまま放っていたら、どうなっていただろう。

クロードは小さく首を振った。

それも分からない。

ただ、仲間がいるところへ無理に雷を通してはいけないことだけは、以前から分かっていた。

ノーゼスに細い雷が触れてしまった時も、目の前で動く相手ばかり見ていたわけではない。

周りを見ているつもりで、間に合わなかった。

それからは、味方が射線へ入れば魔法を消すこともあった。

撃たずに終えた練習も、何度もある。

竜から逃げていた時にも、剣を持ち替えようとしてやめたことがあった。

あまりに近く、右手で《印》を組んでいる間にも頭が届きそうだった。

そこでは雷を使わず、足を動かした。

「……あれは、撃てなかったんじゃなくて……」

言いかけて、クロードは口を閉じた。

撃てるようにしたかったのは本当だ。

けれど、無理に撃てばよかったとも思えない。

使うのをやめる判断と、必要な時に使えるようになることは、同じではないのだろう。

右手を動かすと、少し重かった。

剣を握っていた腕も、ずっと軽いわけではなかった。

竜が近づくまでには、ラッシュボアとも戦っていた。

走る脚も、剣を持つ手も、いつもの練習の時とは違っていた。

それなのに、練習場でできることを、そのままあの場でもできるつもりになっていなかっただろうか。

クロードは考えた。

《サンダーランス》のことも頭に浮かぶ。

固定された的へ届いたことはあるが、急いで形を作ろうとすると先端が崩れることがあった。

普通の速さで《印》を組んでも、うまくまとまらない時がある。

あの竜を前にして、長い《印》を最後まで通し、狙いをつけて放つ余裕があったとは思えなかった。

強い魔法を覚えれば、それだけでどうにかなるわけではない。

「……まず、使えるようにならないと」

今の《サンダーランス》については、そうだった。

だが、使えるようになった後にも、相手と仲間が動く中で選ばなければならない。

そのことは、もう何度も経験している。

クロードは視線を天井から窓の方へ移した。

竜の前に立っていたノーゼスの姿が浮かんだ。

《ロックウォール》を出すと、竜は壁の端へ進路を変えた。

エクリアの《ウィンドボール》が顔の横へ当たった時には、脚を踏み直していた。

どちらも竜を倒したわけではない。

それでも、その間に自分たちは少し上へ離れられた。

「……止まらなくても、動きは変わるんだ」

クロードは小さく呟いた。

ただし、竜はまた追ってきた。

その後には地面まで盛り上がって、ベンが足を滑らせた。

ガレスが手を伸ばし、ノーゼスも助けに動いた。

誰かが一つ動けば、別の誰かの動きも変わる。

戦闘実践で何度も見てきたことだった。

けれど、竜の前では次に何が起こるのか、見てからでも追いつけないことがあった。

グレインはずっと竜の側へ回り、何度もこちらから注意をそらそうとしていた。

その間に、自分たちが逃げる道を選ばなければならなかった。

先生が何を考えて動いていたのか、クロードには全部は分からない。

それでも、あの剣がなければ七人で戻れたとは思えなかった。

ベンがガレスへ《ハイヒール》を使ったことも、何度も二人で身体を支えたことも思い出す。

ピアとエクリアは帰り道の足場を確かめ続けた。

ノーゼスはガレスの背を支えながら、危ない段差を何度も知らせてくれた。

クロード自身も、木立の道でゴブリンの棒を剣で受けた。

あの時は、前へ追いかけるより、ガレスたちの前から離れないことを選んだ。

できたことが、何もなかったわけではない。

クロードはゆっくり息を吐いた。

ガレスの左腕が、医務室で布と板に支えられていた光景が浮かぶ。

ベンの《ハイヒール》で痛みは軽くなった。

それでも骨折は残り、治療はまだ続いている。

当てられた雷にも、助けになった回復魔法にも、その先があった。

「……当てたら終わり、じゃないんだな」

言ってみると、少しだけ考えがまとまった気がした。

では、何を練習すればいいのだろう。

雷の形を崩さないこと。

右手だけでなく、左手でも《印》を安定させること。

剣を持つ手と、魔法を使う手を切り替えること。

狙う場所を決めるまでに、仲間がどこへ動けるかを見ること。

これまでやってきたことばかりだった。

ただ、今までは一つずつ確かめられたことが、あの斜面では続けて起こった。

その違いをどう練習すればいいのかは、まだ分からない。

クロードは身体を起こしかけた。

机の上のノートが視界に入り、右手が少し動く。

忘れないうちに書いておきたいことが、また増えていた。

けれど、肘をついた途端、肩から背中へ重さが戻ってきた。

「……そうだった」

クロードは身体を寝台へ戻した。

ノートは逃げない。

ガレスも今は医務室にいて、グレインと職員が診てくれている。

自分が今すぐ考え続けたところで、左腕の骨が元へ戻るわけではない。

目を閉じる前に、クロードはもう一度だけ右手を見た。

狙った場所へ届いたことは、忘れたくなかった。

届いたのに止められなかったことも、忘れたくなかった。

どちらも、あの斜面で実際に起きたことだ。

クロードは手を布団の上へ下ろした。

「……起きてから、書こう」

そう決めると、もう目を開けずに、身体の重さを寝台へ預けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。