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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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いつもの食堂

医務室を離れてしばらく歩くと、第1食堂の建物が見えてきた。

「……よかった、ちゃんと食べられそうだ」

入口の方を見て、ノーゼスがほっとした声を出した。

「さっきから、そればっかりだね」

ベンが笑う。

「お前だって腹減ってるだろ」

「減ってるよ。だから早く入ろう」

そう言って先へ出たベンの歩幅も、普段より少し小さかった。

クロードはその後ろを歩きながら、すれ違う生徒たちを見た。

教本を抱えている者もいれば、友人と話しながら食堂へ向かう者もいる。

そんな姿を見たのは久しぶりではないはずなのに、ずいぶん懐かしく感じられた。

「あっ、いい匂い」

ピアが扉の前で立ち止まる。

「まだ中に入ってないわよ」

エクリアが言うと、ピアは笑った。

「ここまで来たら分かるよ」

ノーゼスは扉へ手を伸ばしかけ、そのまま少し肩を動かした。

「……ああ、ここも疲れてるな」

「私が開けるわ」

エクリアが代わって扉を開く。

「助かる」

「ガレスを支えるのは終わったんだから、今はちゃんと休ませなさいよ」

「分かってるって」

五人が中へ入ると、食器の触れ合う音と話し声が聞こえてきた。

窓際では生徒たちが食事をし、その奥では教本を広げたまま話し込んでいる者もいる。

クロードは少しだけ足を止めた。

学園を出る前にも、ここにはこんな音があった。

「クロード、こっち」

ピアに呼ばれ、クロードは顔を上げた。

「うん」

五人は食事を受け取り、空いている卓へ向かった。

ノーゼスが席を選び、皿を置いてから腕を伸ばそうとする。

「……やめとこ」

「何を?」

向かいに座ったエクリアが尋ねた。

「肩。伸ばしたら余計に痛くなりそうだ」

「だったら無理しない方がいいわね」

ベンも自分の皿を置き、慎重に椅子へ腰を下ろした。

「僕も、腕を上げるのはちょっと嫌かな」

「二人とも、ずっとガレスを支えてたものね」

ピアが言う。

「そのガレスは、今頃何してるかな」

ノーゼスが食事へ目を向けた。

「診てもらってるんじゃない?」

ベンが答えると、ノーゼスは首を振る。

「いや、あいつなら絶対、飯のこと聞いてるだろ」

「さっきも聞いてたわね」

エクリアが笑った。

「右手で食べられるって分かって、少し元気になってたし」

クロードも思わず笑う。

「今のガレスなら、僕たちが先に食べてるって知ったら文句を言うかもね」

「言うだろうな」

ノーゼスが頷いた。

「でも、自分で先に行けって言ったんだよ」

ベンはそう言ってから、目の前の食事へ視線を戻した。

「……うん。言ってたね」

五人はようやく食べ始めた。

温かいものが口に入ると、クロードの手は思った以上に早く次の一口へ伸びた。

途中で水を飲むと、喉が冷たさを感じて、もう一度ゆっくり飲んだ。

「おいしい……」

ピアが小さく言う。

「いつもの食堂なのにね」

エクリアが返し、自分ももう一口食べた。

「いつもの食堂だからいいんじゃないか?」

ノーゼスは顔を上げずに言った。

「それは、ちょっと分かるわ」

クロードは頷きながら食事を続けた。

野営地では、食料の入った荷物を残して離れなければならなかった。

そのあとは何かを探すために列から離れることもできず、ただ王都まで歩いてきた。

今は目の前に食事があって、食べ終えたらまた歩き出す必要もない。

「クロード、急いでる?」

ピアの声に顔を上げると、三人がこちらを見ていた。

「え?」

「さっきから、すごい速さで食べてるよ」

「……あ、本当だ」

クロードは自分の皿を見た。

ほかの四人より、ずいぶん減っている。

「お腹が空いてたんだね」

ベンが笑う。

「うん。でも、もう少しゆっくり食べるよ」

「その方がいいわ。食べ終わっても、すぐ何かするわけじゃないんだから」

エクリアが水を飲んだ。

「それもそうだね」

クロードは手を止め、周囲の食器の音に耳を傾けた。


◇


食事が半分ほど進む頃には、ノーゼスも最初の勢いを落としていた。

「肩だけじゃなくて、脚も重いな」

「歩いてる時は、そんなに言ってなかったよね」

ピアが尋ねた。

「言っても歩くしかなかったからな」

ノーゼスは水を一口飲んだ。

「今は座っててもいいんだろ。それで余計に気になる」

「私も、地面が平らなのに足元を見ちゃいそうだったわ」

エクリアが言う。

「食堂の床で転んだら、別の意味で大変だね」

ベンの言葉に、ピアが笑った。

「でも、帰り道ではずっと下を見てたもの」

「ピアは前も見てただろ?」

ノーゼスが尋ねる。

「見てたよ。エクリアと、道の先がどこへ続くか何度も話したし」

ピアは少し考えて続けた。

「でも、ガレスたちが通れる場所を見つけても、その次がどうなってるかは分からなかったから」

「うん。木立の端が見えた時も、そこから本当に道へ出られるかは近づかないと分からなかったわね」

エクリアが頷く。

「私は、あの時はもう少し早く歩きたかったな」

「俺だって早く帰りたかったよ」

ノーゼスが答えた。

「でもガレスと歩いてたら、速くするより足を揃える方が大事だったからな」

「……そうだね」

ベンは自分の右肩を軽くさすった。

「途中から、ガレスの足がちゃんと前に出てるかばかり見てたよ」

「二人が支えてくれたから、あそこまで歩けたんだよね」

クロードが言うと、ノーゼスは肩をすくめた。

「ガレスも自分の足で歩いてたぞ。あいつ、何回もそう言ってただろ」

「うん」

ベンが笑った。

「でも、転ばないようにするだけで僕らも必死だったよね」

「そうだな」

会話が途切れると、食堂の向こうから誰かの笑い声が聞こえた。

クロードはその方を見た。

離れている間にも、学園では普段の時間が流れていたのだろう。

「そういえば、ほかの二班はどうしてるのかしら」

エクリアが口を開いた。

ノーゼスが顔を上げる。

「ラディス班とセリアナ班?」

「ええ。私たちとは違うところへ行ったでしょう」

「ザナトス、川の話をするって言ってたね」

クロードは王都の道で別れた時のことを思い出した。

「うん。あっちがどうだったか、僕も聞きたいな」

「ミナとも、帰ったら話そうねって言ったんだ」

ピアが続けた。

「また会ったら、どんなところだったか聞いてみようかな」

「俺たちの話をしたら驚くだろうな」

ノーゼスが言った。

「ブラウンドラゴンのこと?」

ベンが尋ねる。

「ああ。それに、荷物も置いてきたし」

ノーゼスは水を持った手を止めた。

「……そういえば、あれはどうするんだろうな」

「グレイン先生が、まずは戻ることを優先するって言ってたよね」

クロードが答える。

「今すぐ取りに戻れるわけじゃないわ」

エクリアも頷いた。

「それは分かってる。気になっただけだよ」

ノーゼスは水を飲み、皿へ手を戻した。

ベンは少し黙ってから口を開いた。

「ガレスの剣も、あそこにあるんだよね」

「うん」

クロードは頷いた。

ガレスが落とした剣を取りに行く余裕は、あの時はなかった。

「……まず腕を治してもらわないとね」

ピアの言葉に、ベンは顔を上げた。

「そうだね」

ベンは自分の食事へ目を落とした。

「食べ終わったら、一度医務室に戻ろうかと思ってたんだけど」

「ガレスに、先に休めって言われたじゃない」

エクリアが言う。

「うん。分かってる」

「俺たちが戻っても、今すぐ腕を治せるわけじゃないしな」

ノーゼスは右肩をさすった。

「先生もいる。今日は休んだ方がいいと思う」

ベンはすぐには答えなかった。

それから顔を上げる。

「……そうするよ。ガレスにまた怒られそうだしね」

「絶対言うぞ。『お前ら、もう戻ってきたのか!』って」

ノーゼスが少し大きな声で真似すると、ピアが吹き出した。

「似てる!」

「そうかな?」

クロードが笑うと、ノーゼスは首を傾げた。

「俺の方が静かだろ」

「そこは比べるところじゃないわ」

エクリアが言い、五人は笑った。

その後は食事を続け、皿を空にしていった。

食べ終わる頃には、先ほどまでの空腹に代わって、眠気が少しずつ強くなっていた。


◇


食堂を出ると、ノーゼスが立ち止まって脚を伸ばした。

「食ったら元気になると思ってたんだけどな」

「元気にはなったんじゃない?」

ピアが笑う。

「腹は元気だよ。でも脚は別だ」

「ずっと歩いてきたんだから、すぐには戻らないわよ」

エクリアが答えた。

五人は寮の方へ向かい、途中で男子寮と女子寮への道が分かれる場所まで来た。

「じゃあ、私たちはこっちね」

エクリアが言うと、ピアも足を止めた。

「みんな、ちゃんと休んでね」

「ピアたちもね」

ベンが答える。

「ノーゼス、肩を無理に動かさないようにね」

エクリアが付け足した。

「分かってるって。お前たちも脚、休ませろよ」

「もちろん」

エクリアは笑って手を振り、ピアと並んで女子寮へ歩いていった。

クロードも手を振り返してから、ベンとノーゼスの方へ向き直る。

「僕らも戻ろう」

「そうだな」

男子寮へ向かう三人の歩幅は、いつもよりゆっくりだった。

入口まで来ると、ベンがもう一度医務室の方を振り返った。

「……休んでから、また考えるよ」

「うん」

クロードが頷くと、ノーゼスも短く答えた。

「その方がいい」

男子寮へ入って廊下を進み、三人はそれぞれの部屋へ向かうところで別れた。

「じゃあ、またな」

「うん、またね」

自室に入ったクロードは、扉を閉めて静かに息を吐いた。

机と椅子、いつもの寝台が目に入る。

しばらく動かずにいると、足の裏からじわじわと疲れが上がってくるようだった。

クロードは身につけていた装備を外し、寝台の端へ腰を下ろした。

目の前には、使い慣れた机とノートがある。

あの竜の動きも、ガレスの腕に届かなかった雷のことも、思い出せば書きたいことはいくらでもあった。

けれど、ノートへ手を伸ばそうとして、クロードはそのまま手を止めた。

「……今日は、先に休もう」

横になると、背中が柔らかく受け止められた。

草地で眠った夜には、どこへ身体を向けても地面の硬さが気になった。

今は足を伸ばしても、木の根に当たることはない。

クロードは一度だけ目を開け、静かな部屋を見回した。

ガレスはまだ医務室にいる。

そのことは気に掛かっていたが、グレインと職員に任せて、今は自分も休む必要があった。

クロードはもう一度目を閉じた。

誰かの歩幅を確かめることも、道の先を探すこともせず、しばらくそのまま身体を休めた。

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