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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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痛みの先

医務室の職員はガレスの話を聞き終えると、左腕を支えている上着へ目を戻した。

「動かすと痛むんですね」

「はい。じっとしていれば、さっきよりは楽です」

「分かりました。今は腕を動かさず、こちらから少しずつ確認します」

ガレスが頷くと、職員は上着の位置を確かめた。

「これは、どなたが?」

「俺が巻いた。現地では使えるものがなくてな」

グレインが答える。

「腕が揺れるたびに痛がっていたので、下から支えるようにした」

「そうでしたか。では、いったんこのままにしましょう」

職員は上着を外そうとはせず、ガレスの右側へ回った。

「今から手の先を確かめます。痛いところがあれば、すぐに言ってくださいね」

「はい」

クロードは壁際から二人の様子を見ていた。

ガレスは右手を膝の上に置き、左腕へ視線を落としている。

職員が指先へそっと触れると、ガレスが少し顔を上げた。

「触られているのは分かりますか?」

「分かります」

「では、こちらは?」

職員は場所を変え、返事を聞くたびに手を止めた。

ガレスも触れられたところを確かめながら、一つずつ答えていく。

「腕の途中は、あまり触らないでほしいです」

「そこが痛みますか?」

「はい。近くに触られると、ちょっと……」

「分かりました。無理には触りません」

職員が手を離すと、ガレスの肩から少し力が抜けた。

その横で、ベンが自分の右手を見ていた。

竜から離れる途中、あの手で《印》を組んだことをクロードは覚えている。

淡い光がガレスの腕を包み、ガレスが少しだけ息をつけるようになった。

けれど、上着の下にある腕の形は変わっていない。

「ベン君でしたね。使った回復魔法について、もう少し教えてください」

職員に呼ばれ、ベンは顔を上げた。

「《ハイヒール》です。ガレスが立って歩き始めてから、一度だけ使いました」

「その時、変わったことはありましたか?」

「痛みが減ったって言ってくれました。でも、腕は動かせなかったです」

ガレスがすぐに口を開いた。

「効いてましたよ。あれがなかったら、ここまで歩くのはもっと大変だったと思います」

「そうだったんですね」

職員は頷き、ガレスに向き直った。

「魔法を受けた後から、痛みがまた強くなったことは?」

「歩いて腕が揺れた時は痛かったです。でも、最初みたいにずっと痛いわけじゃありません」

「分かりました」

ベンはその返事を聞いてから、もう一度ガレスの左腕を見た。

「……もっと良くなると思ったんだけどな」

ガレスが横を向く。

「十分助かったぞ」

「でも、腕はまだ……」

「それは俺も分かってるって」

ガレスは一度言葉を切り、ベンの顔を見た。

「痛いのが少しましになっただけでも、助かったんだよ」

ベンはすぐには返事をしなかった。

それから小さく頷く。

「……うん」

「それに、あの後はお前とノーゼスに散々歩かせてもらったしな」

「歩かせてもらったって、何だよ」

ノーゼスが肩を押さえたまま言った。

「お前も自分で歩いてただろ」

「そうだけど、二人がいなきゃ転んでたぞ」

「それはそうだな」

「そこは否定しないのかよ!」

ガレスが言い返すと、職員が少し笑った。

「話せる元気があるのはいいことですが、腕はそのままにしてくださいね」

「はい……」

ガレスは左肩を動かしかけて止め、右手を膝へ戻した。

クロードも思わず口元を緩めたが、職員が再び上着の位置を確かめるのを見て黙った。


◇


「ノーゼス、そこに座れば?」

エクリアが壁際の椅子を指した。

「いや、ずっと歩いてたし、今度は立ってる方が楽な気もする」

「さっきから肩を押さえてるじゃない」

「それと脚は別だろ」

ノーゼスはそう言いながらも、椅子の方へ歩いた。

腰を下ろした途端、長く息を吐く。

「……やっぱり座った方が楽だな」

「ほらね」

エクリアの声に、ピアが笑った。

ベンも近くの椅子へ腰を下ろした。

右腕を下ろし、手のひらを開いては閉じる。

「まだガレスの重さが掛かってる感じがするよ」

「俺だって、そんなに重くないだろ!」

ガレスが離れたところから言う。

「今は静かにしてろよ。診てもらってるんだろ」

ノーゼスが返した。

「お前から言ったんじゃないか!」

「ガレス、腕」

ベンが短く知らせる。

ガレスは身体を動かしかけたところで止まり、右手だけを小さく上げた。

「分かってるよ」

クロードは椅子に座った二人を見た。

歩いている間は何度も休んでいたが、二人ともガレスから離れられなかった。

今になって、ようやく肩を下ろしている。

「クロードも座ったら?」

ピアが尋ねた。

「うん。少し脚が重いから、そうするよ」

クロードが腰を下ろすと、脚の裏側がじんわりと伸びた。

ずっと歩いていた時には気づかなかった場所まで、疲れている気がする。

隣に座ったエクリアが、自分の膝を軽くさすった。

「なんだか、急に疲れが出てきたわね」

「帰ってきたからかな」

「そうかもしれないわ」

その時、ノーゼスの腹が小さく鳴った。

ピアがそちらを見る。

「……今の、ノーゼス?」

「ああ、俺だ」

「ずいぶん正直ね」

エクリアが笑うと、ノーゼスは肩をすくめた。

「昨日からまともに食べてないんだから、鳴るだろ」

「私もお腹は空いてるよ」

ピアが答える。

クロードも頷いた。

「僕も。でも、まずはガレスだね」

「お前たちも休まないと駄目だぞ」

近くで様子を見ていたグレインが言った。

「ガレスの診察が落ち着いたら、食事と休息のことも考える。今はここで待っていろ」

「はい」

クロードが答えると、ほかの四人も頷いた。

グレインはガレスの方へ向き直り、職員の説明を待った。

医務室には、ガレスが質問へ答える声が続いていた。


◇


「……それで、腕はどうなんですか?」

ガレスは職員が手を離したところで尋ねた。

「まだ、よく分からないですか?」

職員はガレスの左腕を見てから、本人へ視線を戻した。

「強く打たれているのは確かですし、今も腕の形と動きに異常があります」

ガレスが唇を結ぶ。

「骨が傷んでいる可能性もありますが、ここで無理に動かして確かめることはしません」

「……はい」

「まずは今の状態を保ったまま、必要な確認と処置を進めます」

ガレスは上着に包まれた左腕を見つめた。

それから、右手を少し握る。

「俺、また普通に動かせるようになりますか?」

クロードは思わず顔を上げた。

ガレスの声は、さっきまでの軽口とは違っていた。

職員はすぐには答えず、ガレスがこちらを見るのを待った。

「今の確認だけでは、いつ、どこまで回復できるかはお答えできません」

「そうですか……」

「ですが、痛みが和らいだからといって、もう大丈夫だと考えるのも早いです。これからきちんと状態を見ていきましょう」

ガレスはゆっくり頷いた。

「じゃあ、今は動かさない方がいいんですよね」

「はい。腕を支えたままにしていてください」

「分かりました」

職員が上着の支えをもう一度確かめる間、ガレスは右手を膝に置いて待った。

ベンが椅子から少し身を起こす。

「ガレス」

「ん?」

「何かいる時は言ってね」

「お前、もう肩を休ませてろよ」

「肩は休ませてるよ。口まで休ませなくていいでしょ」

ノーゼスが横から笑った。

「それなら俺も口だけは手伝えるぞ」

「お前の口は、さっきから休んでないだろ」

ガレスが返すと、ノーゼスはようやく肩から手を離した。

ピアが二人を見て笑い、エクリアも小さく息を吐いた。

クロードはガレスへ目を向けた。

左腕のことを聞いた時、ガレスは一度だけ言葉に詰まった。

けれど、何も聞かずに済ませようとはしなかった。

今は職員の指示を聞きながら、痛まない位置で身体を落ち着かせている。

グレインが職員に声を掛けた。

「ほかの生徒も長い帰路で疲れている。ガレスのことが落ち着いたら、順に休ませたい」

「分かりました。こちらも、まず腕を動かさずに済むよう確認を進めます」

職員はガレスへ向き直った。

「もう少し時間を掛けますが、大丈夫ですか?」

「はい。お願いします」

ガレスは右手を膝に置いたまま、職員の次の言葉を待った。

クロードも椅子に座り直し、目の前で続く診察を見守った。

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