↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
252/259

帰り着いた先

遠くに見えていた王都の建物が、歩くにつれて少しずつ大きくなっていった。

クロードは街道の先と、少し前を進むガレスたちを交互に見た。

ベンとノーゼスに支えられたガレスは、二人に歩幅を合わせながら自分の足を動かしている。

だが、さっきから三人が立ち止まる間隔は少しずつ短くなっていた。

「……また少し休もうか」

ベンが言うと、ガレスは顔を向けた。

「俺はまだ歩けるぞ」

「僕が休みたいんだよ」

「えっ」

ベンが肩を動かそうとして、ガレスの右腕を支えていることに気づき、途中でやめた。

「ずっと同じところに力が入ってるからさ」

「それなら、早く言ってくれよ」

「今言ったでしょ」

ノーゼスが二人のやり取りを聞いて息を吐いた。

「俺も休みたい。今なら三人とも同じ意見だな」

「分かったって!」

グレインは道の端を確かめ、七人を一度止めた。

ガレスは二人に支えられたまま、左腕を揺らさないよう足の位置を整える。

クロードも立ち止まり、実剣を持った左手の指を少し動かした。

「クロード、まだ手が疲れてる?」

エクリアが隣から尋ねた。

「ちょっとね。でも、持てなくなるほどじゃないよ」

「私も同じくらいかしら」

エクリアは自分の剣へ目を落とし、握りを直した。

少し前でピアが王都の方を見ている。

「あそこまで行けば、人も増えるかな」

「そうだろうね」

クロードは答えたが、建物が見えてからも、なかなか近づいた気がしなかった。

ガレスが再び顔を上げる。

「さっきより大きく見えるよな、王都」

「ちゃんと近づいてるってことだよ」

ベンが笑った。

「じゃあ、もう少しだな!」

「その『もう少し』が長いんだよ」

ノーゼスの言葉に、ガレスは少しだけ笑って頷いた。

グレインが六人を見渡す。

「歩けるか?」

「はい」

返事を聞き、グレインはガレスたちが動き出すのを待った。

七人は再び街道を進んだ。

道の向こうから歩いてくる人とすれ違い、遠くで荷車の車輪が鳴るようになった。

それまで草と風の音ばかり聞いていたクロードには、その音が妙に大きく感じられた。

やがて、道の両側に建物が並び始める。

「……戻ってきたね」

ピアが小さく言った。

「うん」

クロードは見覚えのある通りへ目を向けた。

出発した時には、ここをまた通る頃には皆で遠征の話をしていると思っていた。

今はガレスの左腕を見て、足を止める場所を考えている。

グレインが剣を鞘へ収めた。

「クロード、エクリア。街へ入ったら剣は収めておけ」

「はい」

クロードは左手の実剣を慎重に鞘へ戻し、エクリアも剣を収めた。

ピアはその間に、ガレスたちの前を通る人がいないかを確かめていた。


◇


王都の通りへ入ると、人の声があちこちから聞こえてきた。

店先で話している人や、荷車を引いて歩く人の姿がある。

ガレスの腕を支える上着を見て振り返る人もいたが、グレインは足を止めなかった。

「道の端を進むぞ。三人は無理に避けようとするな」

「はい」

ベンが答える。

曲がり角ではグレインが先に道を確かめ、ガレスたちが通れるように立つ位置を変えた。

ノーゼスは背中へ添えていた手を少し持ち直す。

「ここ、段差があるぞ」

「見えてる」

ガレスが右足を出し、ベンも歩幅を合わせた。

「よし」

三人が段差を越えると、ピアが息を吐いた。

「街の中でも、足元は気をつけないとね」

「木の根がなくなっても、楽ばかりじゃないわね」

エクリアも頷く。

クロードは通りの先を見た。

見慣れた建物が少しずつ増えている。

学園へ戻る時に通った角も、もう思い出せる。

「あと、あの道を曲がったら……」

クロードが言いかけると、ガレスが顔を上げた。

「学園か?」

「まだ少し歩くよ」

「そうか」

ガレスは落ち着いて答えたが、肩がわずかに下がった。

その動きに左腕の上着が引かれ、すぐに顔をしかめる。

「ガレス、止まろう」

ベンが声を掛けた。

「……悪い」

「謝らなくていいから、腕を動かさないでね」

ノーゼスも足を止め、ガレスの背を支えたまま待った。

グレインは三人の状態を確かめ、通りの端で少し休ませた。

クロードも近くで立ち止まる。

人が行き交う通りにいるのに、ガレスの息が落ち着くまでの間は、七人だけが別の速さで動いているようだった。

「ガレス、歩けそうか?」

グレインが尋ねる。

「はい。まだ行けます」

ガレスは自分の足元を見てから頷いた。

「でも、また止まるかもしれません」

「それでいい。無理に続けるな」

ガレスは短く返事をした。

ベンとノーゼスも肩の位置を確かめ、三人で動き始める。

しばらくして、前方の建物の間に、見慣れた正門が見えてきた。

「あっ、学園!」

ピアが指さした。

エクリアも前を向く。

「やっと着いたわね」

「まだ門の前だけどな」

ノーゼスが言うと、ガレスがすぐに返した。

「今度の『もう少し』は、本当にもう少しだろ!」

ベンが笑った。

「それはそうだね」

クロードは正門を見た。

出発の朝、ガレスは荷物を背負って、今日も坂道があるのかと楽しそうに話していた。

その肩には今、荷物がない。

ガレスの剣も、あの草地に置いてきたままだ。

「……ガレス」

「ん?」

「着いたら、まず腕を診てもらおう」

「ああ」

ガレスは前を向いた。

「俺も、そうしたい」


◇


王立学園の正門をくぐったところで、クロードは一度足を止めかけた。

前の一泊遠征から帰った時も、ここを通った。

あの時は荷物を下ろし、道具が揃っているかを皆で確かめていた。

今日は、すぐそばを歩くベンとノーゼスがガレスを支え続けている。

「クロード、行くぞ」

グレインの声に、クロードは前を向いた。

「はい」

グレインは六人を見てから、学園内の通路へ向き直った。

「ガレスを医務室へ連れていく。全員、一緒に来い」

「はい!」

ガレスの返事は少しだけ大きかった。

ベンが横を見る。

「そんなに声を出さなくても聞こえてるよ」

「やっと学園に着いたんだぞ」

「着いたけど、まだ歩くからね」

ガレスは苦笑いして、足元へ視線を戻した。

中央広場の横を通り、医務室のある方へ進む。

普段なら何も考えずに歩いている学園の道が、今はずいぶん長く感じられた。

ノーゼスがガレスの背へ添えていた手を持ち直す。

「もうちょっとだ」

「分かってる」

「今度は本当にそうだからな」

「お前まで言うのかよ」

ベンも笑ったが、口元の疲れは隠せていなかった。

クロードは二人の肩と、上着で包まれたガレスの左腕を見た。

ここまで三人は何度も立ち止まりながら歩いてきた。

それでも、誰も途中で支えるのをやめなかった。

医務室の前まで来ると、グレインが先に中へ声を掛けた。

「負傷した生徒がいる。診てもらいたい」

室内から返事があり、グレインがベンとノーゼスへ合図する。

二人はガレスの歩幅に合わせ、慎重に中へ入った。

クロードたちもその後に続く。

中にいた職員が、ガレスの左腕を見て近づいてきた。

「こちらへ。歩けますか?」

「はい。二人に支えてもらえば」

ガレスが答える。

職員の示した場所へ、ベンとノーゼスがガレスを連れていった。

「座るぞ、ゆっくりな」

ノーゼスが言う。

「分かった」

ガレスは二人と動きを合わせ、右手も使いながら慎重に腰を下ろした。

左腕の上着が引かれない位置を確かめると、ようやく息を吐く。

「……着いた」

ベンはガレスの右腕が肩から離れたのを確かめ、それから自分の腕をゆっくり下ろした。

ノーゼスも背中へ添えていた手を離し、指を何度か曲げ伸ばしする。

「肩が、変な感じだ」

「僕も」

ベンは右肩を軽く動かした。

ガレスが二人を見上げる。

「……ありがとうな、二人とも」

「どういたしまして」

ベンが返した。

ノーゼスは肩をさすりながら笑う。

「次は普通に一人で歩いてくれよ」

「そうするさ」

ガレスも笑ったが、左腕は上着に支えられたままだった。

職員がその位置を確かめ、グレインへ向き直った。

「どのように怪我をしたのですか?」

「遠征中、ブラウンドラゴンの前脚が左腕に当たった。肘の下から先の形が変わり、今も動かせない」

グレインはガレスの様子を見ながら続けた。

「途中でベンが一度《ハイヒール》を使った。痛みは少し軽くなったが、腕の状態は変わっていない」

「この上着で揺れないように支えていたんです」

ベンが言うと、職員は頷いた。

「分かりました。腕はそのままにしていてください」

ガレスは職員の方を向いた。

「動かすと痛いです。じっとしていれば、さっきよりは大丈夫ですけど」

「分かりました。これから状態を確かめます」

グレインが頷く。

「頼む」

クロードは少し離れたところから、座っているガレスを見た。

帰り道では何度もその背中を追い、左腕が揺れないかを気にしていた。

今はベンとノーゼスの肩を借りずに、ガレスが同じ場所へ座っている。

ピアが隣で小さく息を吐いた。

「帰ってこられたね」

「うん」

クロードは頷いた。

エクリアもガレスの方を見たまま、少し肩を下ろした。

グレインは六人へ振り返った。

「お前たちも疲れているだろうが、まだ勝手に散るな。ここで待っていろ」

「はい」

クロードは答え、壁際の空いた場所へ寄った。

ノーゼスはまだ右肩をさすり、ベンも同じように腕を動かしている。

ガレスは職員の問いに答えながら、左腕を動かさないようにしていた。

クロードは自分の足元を見た。

あの草地から、ここまで歩いてきた。

七人全員で学園へ戻ってくることができた。

けれど、ガレスの左腕がどうなっているのかは、まだ分からない。

クロードは顔を上げ、職員の声を聞いているガレスの方へ目を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。