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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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王都が見える

ゴブリンのいた場所から離れても、クロードはしばらく後ろの木々が気になっていた。

葉が揺れるたびに振り返り、そのたびに前を歩く仲間との距離が少し開く。

「クロード、足元」

ピアの声に、クロードは前を向いた。

道を横切る木の根が、ちょうど靴の先に出ている。

「ありがとう」

「後ろは先生も見てるよ」

「うん、でもさっきのが二体だけだったかは分からないから」

「そうだね」

ピアも一度木々へ目を向けたが、すぐに先の道へ戻った。

グレインは七人の少し後ろから、道の両側を確かめていた。

「クロード、後ろばかり見なくていいから、自分の足元も見ろ」

「はい」

クロードは左手の実剣を握り直した。

さっき棒を受けた時の衝撃が頭に残っているが、指を動かしても痛みはなかった。

少し先では、ベンとノーゼスがガレスの歩幅に合わせていた。

「そこ、右足からの方がいいよ」

エクリアが木の根の手前を指した。

ガレスは足元を確かめてから、ゆっくり右足を出す。

「よし、越えたぞ」

「まだ左足が残ってる」

ノーゼスが言うと、ガレスは口を曲げた。

「分かってるって」

「さっきも同じこと言ってたな」

「言わないと、お前が急がせるだろ」

「急いでるのはどっちだよ」

ベンが二人の肩を支える位置を直した。

「ねえ、話しながらでもいいから、足は揃えてね」

「はいはい」

ガレスとノーゼスの返事が重なり、ベンは小さく笑った。

それからも七人は曲がり角や根のある場所で何度か歩みを緩めた。

いつもなら気にしない石でも、ガレスが足を置く場所によっては三人とも立ち止まる。

クロードはそのたびに前の様子を見て、少しだけ間隔を詰めた。

木々の向こうから差し込む光が、先ほどより広く地面を照らしている。

「……あっち、明るくなってない?」

ピアが少し先を指した。

エクリアは道の曲がり方と、その先の草を見比べた。

「木立が終わるのかもしれないわ」

「やっとか!」

ガレスが顔を上げる。

「まだ出たわけじゃないよ」

ベンが返すと、ガレスは笑おうとして息を吐いた。

「それでも、見えてるだけで違うだろ」

グレインが先へ視線を向けた。

「近づいて確かめよう、先へ走るなよ」

「走れませんって」

ガレスが答えると、ノーゼスが肩越しに見た。

「今は、な」

「今はって何だよ!」

声はいつもより小さかったが、ガレスはちゃんと言い返した。

道の片側に並んでいた幹が少しずつまばらになっていく。

最後の曲がり角を抜けると、木の根が途切れ、草の生えた緩い道が前に続いていた。

ピアが先に足を止めた。

「……出たね」

エクリアも頷く。

「うん、ここからは足元が見やすそう」

七人は木立の端を離れ、開けた場所へ出た。

風が横から吹き抜け、クロードの頬に当たる。

先ほどまで頭の上を覆っていた枝がなくなり、空がずっと広く見えた。

「眩しいな」

ノーゼスが片目を細めた。

「来た時もここで同じこと言ってなかった?」

ピアが聞く。

「言ったか?」

「たしか、坂が嫌だって話の途中で」

「それは何回も言った気がする」

ベンが笑うと、ノーゼスは肩をすくめた。

ガレスも顔を上げ、木立のない方へ目を向けた。

「こうして見ると、帰ってきたって感じがするな」

「まだ王都じゃないわよ」

エクリアが言う。

「分かってるって、さっきまで木ばっかりだったからさ」

ガレスは右腕をベンの肩に預けたまま、ゆっくり息を吐いた。

その拍子に左腕を包む上着がわずかに動き、表情が変わった。

「ガレス?」

ベンが足を止める。

「……大丈夫、今のは少し響いただけだ」

グレインはすぐに近づき、布の位置を目で確かめた。

「腕は動かさずに、そのまま立っていられるか?」

「はい、でも少し休めるなら助かります」

「分かった、道から離れすぎないところで止まろう」

エクリアとピアが近くの地面を見て、根や大きな石の少ない場所を示した。

ベンとノーゼスはガレスの身体を支えたまま、そこまで歩く。

グレインが周囲を確かめ、三人が腰を下ろせるのを待った。

ガレスは右手を地面について身体を下ろし、左腕を揺らさないよう姿勢を整えた。

「……ふう」

ベンも横に座って、使っていた肩をゆっくり動かす。

ノーゼスは腕を伸ばしかけて、途中で止めた。

「肩が固まったみたいだ」

「ずっと同じところで支えてるからね」

ベンが答える。

「交代できたらいいんだけどな」

ガレスが申し訳なさそうに言うと、ノーゼスは首を振った。

「交代してくれるなら、まずお前が元気になってくれ」

「それができたら苦労しないって」

「だから今は休んでるんだろ」

ベンが二人を見て笑った。

「次に立つ時も、ゆっくりでいいからね」

ガレスは頷いてから、空いた右手で腹の辺りを押さえた。

「……腹、減ったな」

「昨日からまともに食べてないものね」

エクリアも口元へ手を当てた。

「荷物を置いてきた時は、こんなに困ると思わなかった」

ピアが呟く。

クロードも喉の渇きと空腹を感じていた。

木立の向こうに置いてきた荷物の中には、食料も水も入っていた。

今から取りに戻れる距離なのかさえ分からない。

グレインは木立の方を一度見てから、六人へ向き直った。

「今は帰ることを優先するから、食べ物を探して別々には動かないぞ」

「はい」

クロードは答え、道の先を見た。

開けた場所へ出たことで見える距離は伸びたが、王都の建物はまだ見えていなかった。

それでも、歩いてきた方とは違う景色が広がっている。

ここからも帰る道が続いているのだ。


◇


休んでから歩き始めると、七人の進み方は少し変わった。

木の根を一つずつ越える必要はなくなったが、今度は草に隠れた石や地面の傾きを確かめなければならない。

エクリアとピアは、先へ離れすぎない位置から歩きやすいところを知らせる。

ガレスはその声を聞き、足を出す前に一度地面を見るようになった。

「そっちの方が平らだよ」

ピアが道の中央を示した。

「助かる」

ガレスは右足をそちらへ運んだ。

ベンとノーゼスも一緒に位置を変える。

歩くうちに、三人の間から言葉が少なくなった。

ガレスが何も言わずに足を止めると、ベンが先に気づいて立ち止まる。

ノーゼスも背中を支え直し、三人で呼吸を整えてからまた歩き出す。

グレインは先の地形と六人の様子を見比べ、何度か短い休息を挟ませた。

クロードも脚に重さを感じていたが、ガレスたちの歩みが遅いからといって楽になったわけではない。

長く立ち続ける時間が増え、止まった後にもう一度足を動かすのが少しずつ面倒になっていく。

それでも、左手の実剣は手放さなかった。

「クロード、手は平気?」

隣へ来たエクリアが尋ねた。

「うん、さっきの後も動かせてるよ」

クロードは指を一度握ってみせた。

「でも、長く持ってると重いね」

「そうね、私もそろそろ腕が疲れてきたわ」

エクリアは手に持っていた実剣を見下ろした。

二人が話している間も、グレインは道の前後から目を離さない。

魔物の姿は見えず、木立も少しずつ遠ざかっていた。

やがて道の傾きが緩み、遠くへ伸びる幅の広い道が見え始めた。

「……あれ、街道じゃない?」

ピアが声を上げた。

クロードが目を凝らすと、草の道の先で地面の色が変わり、道幅もずっと広くなっている。

出発した日に通った道と、続く方向が似ていた。

「たぶん、そうだと思う」

クロードが言うと、グレインが頷いた。

「近くまで行って確かめよう」

「あと少しだな!」

ガレスが顔を上げた。

「何の、あと少し?」

ベンが尋ねる。

「街道までだよ!」

「それならそうかもね」

ノーゼスは笑わずに、ガレスの背へ添えた手を直した。

「着いても休ませてもらうからな」

「分かってるって」

足場を確かめながら進むと、道は少しずつ広がり、七人は以前歩いた街道へ戻った。

木の根を避けて身体を横へ向ける必要がなくなり、ベンが小さく息を吐いた。

「ここなら、さっきより歩きやすいね」

「そうだな」

ノーゼスも道の先を見た。

ガレスは二人の肩を借りたまま足を運んでみる。

「……ああ、これなら三人で並んでも大丈夫そうだ」

「だからって速く歩かなくていいよ」

ベンが言うと、ガレスは素直に頷いた。

「分かった」

いつもなら言い返していたかもしれない。

クロードはその返事を聞き、ガレスの横顔を見た。

上着に包まれた左腕は、朝と同じ位置で支えられている。

痛みがなくなったわけではないし、二人の助けが要らなくなったわけでもない。

グレインは七人を街道の端へ寄せ、改めて人数と様子を確かめた。

「ここまで来たが、まだ終わりじゃないぞ」

「はい」

六人が答える。

グレインはガレスに目を向けた。

「歩けなくなってからじゃ遅いから、辛くなったらその場で言え」

「はい、ちゃんと言います」

ガレスの声に、ベンとノーゼスが顔を見合わせた。

「聞いたからね」

「俺も聞いたぞ」

「二人とも、分かってるって!」

今度はガレスも少し笑った。

街道を歩く間、クロードは何度か来た道を振り返った。

木立の奥へ入った時には、これほど長く帰り道を歩くとは思っていなかった。

高台から見た景色も、途中で選んだ草地も、今は遠くの丘の向こうに隠れている。

それでも、荷物を背負っていた時より、今の足取りの方がずっと重かった。

風が道を渡り、草の先を揺らした。

先の方に目を向けていたピアが、急に歩みを緩める。

「あっ……」

「どうしたの?」

エクリアが尋ねた。

ピアは道のずっと先を指した。

「ほら、あそこ!」

クロードも顔を上げた。

遠くの景色の中に、見覚えのある建物のまとまりが小さく見えている。

「あれ……王都?」

「そうね」

エクリアの声が少し明るくなった。

「見えたわ」

ガレスも顔を上げ、しばらく遠くを見つめていた。

「……本当に見えたな」

ベンが笑いかける。

「まだ歩くよ?」

「分かってる」

ガレスは頷き、右腕をベンの肩へ預け直した。

「でも、見えたら少し元気が出た」

「足も元気になってくれると助かるんだけどな」

ノーゼスが言うと、ガレスは息を漏らして笑った。

グレインは王都の方と、六人の足元を順に見た。

「ここからも全員で歩くぞ、焦るなよ」

「はい!」

クロードは左手の剣を握り直して、前を見た。

王都は確かに見えている。

けれど、その手前にはまだ歩く道が長く続いていた。

七人は互いの歩幅を確かめながら、その道をゆっくり進んでいった。

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