予想した結果
翌日、僕は鉄と鉛を持っていつもの場所へ向かった。
『雷の記録』には、昨日書いた文字が残っている。
鉄と鉛。
鉄の方に落ちやすいと思う。
今までは雷を使って、その結果を見てから考えていた。
でも今日は違う。
まだ一度も試していないのに、僕は鉄の方に落ちやすいと考えている。
もし違ったら、昨日考えたことのどこかが違う。
もし合っていたら――。
「クロード」
父上の声に顔を上げる。
「始める前から考え込むな」
「……うん」
僕は『雷の記録』を閉じた。
昨日までと同じように鉄と鉛を並べる。
大きさは揃っている。
置く場所も途中で入れ替えるつもりだ。
狙うのは二つの間。
僕は右手を前へ出し、いつもの低い出力で雷を放った。
短い光が走る。
雷が落ちたのは――鉄だった。
「……鉄」
思わず声が出た。
父上は何も言わない。
僕もすぐには次を撃たず、『雷の記録』に結果を書く。
一回目、鉄。
予想は当たった。
でも、一回だけだ。
昨日だってアルミだけに落ちたわけじゃない。
少し休んでから、もう一度二つの間を狙って雷を放つ。
今度は地面だった。
「……うん」
少しだけ残念だった。
でも、おかしくはない。
アルミと鉄を比べた時も、アルミと鉛を比べた時も、全部が金属へ落ちたわけじゃなかった。
二回目、地面。
父上が僕の顔を見る。
「予想が外れたか?」
「まだ分からない」
「そうか」
三回目。
雷は鉄へ落ちた。
記録する。
鉄。
これで二回。
僕は一度しゃがみ、鉄と鉛の場所を入れ替えた。
昨日までと同じだ。
もし右や左に落ちやすいだけなら、金属の違いを比べたことにならない。
左に鉄。
右に鉛。
立ち上がって、少し休む。
父上が僕の手を見る。
「まだ大丈夫か?」
「うん」
「なら続けろ」
四回目。
短い光が走る。
「……鉄」
場所を入れ替えても鉄だった。
胸の奥が少しだけ騒ぐ。
三回。
まだ決められない。
でも、昨日書いた予想に近づいている。
もう一度試したくなって父上を見ると、父上は僕の顔と手を確かめた。
「これで最後だ」
「うん」
五回目。
僕は二つの間を見る。
鉄の方へ行ってほしい。
そう思っている自分に気づいて、少しだけ息を吐いた。
違う。
鉄に落ちてほしいんじゃない。
何が起きるのかを見たいんだ。
僕は二つの間を狙って、雷を放った。
落ちたのは地面だった。
しばらくそこを見てから、『雷の記録』を開く。
鉄。
地面。
鉄。
鉄。
地面。
鉄が三回。
鉛は一度もない。
地面が二回。
昨日、自分で書いた文字を見る。
鉄の方に落ちやすいと思う。
「……当たった」
小さく呟いた。
父上が僕を見る。
「昨日の予想か?」
「うん」
嬉しい。
でも、それだけじゃなかった。
僕は鉄と鉛、それから昨日使ったアルミを見る。
アルミと鉄なら、アルミ。
アルミと鉛でも、アルミ。
鉄と鉛なら、鉄。
光哲だった頃に知っていたことと、順番が同じだ。
金属は、それぞれ電気の通しやすさが違う。
雷魔法が前の世界の雷と同じものなのかは分からない。
それでも、ここまで同じ順番になったなら。
「……関係してるのかもしれない」
「何がだ?」
父上に聞かれて、僕は少し考えた。
昨日は説明できなかった。
今日も、この世界の言葉でうまく説明できる自信はない。
「金属には、それぞれ違うところがあるんだと思う」
「違うところ?」
「うん。それが、雷の落ちる場所に関係してるのかもしれない」
父上は三枚の金属を見た。
「だから昨日、鉄に落ちると思ったのか」
「うん」
「なら、分かったのではないか?」
僕は返事をしようとして止まった。
分かった。
確かに一つは分かった気がする。
今までよりずっと大きな手がかりだ。
でも。
僕は地面に残った二つの跡を見る。
鉄に落ちやすいと予想して、その通り鉄に三回落ちた。
それでも二回は地面だった。
アルミの時も同じだった。
落ちやすい。
ただ、それだけだ。
「……違う」
「何がだ?」
「まだ、できてない」
父上が僕を見る。
僕は鉄を拾い上げた。
最初に雷を調べ始めた理由。
何に落ちやすいのかを知ることが目的だったわけじゃない。
僕の雷は、狙ったところに落ちない。
だから調べ始めた。
木を置いた。
石と比べた。
鉄を置いた。
距離を変えた。
何度も同じ条件で試した。
違う金属も比べた。
少しずつ分かってきた。
でも――。
「落ちやすいものが分かっても、そこに必ず落ちるわけじゃない」
父上は何も言わなかった。
僕は鉄を握ったまま、地面に落ちた跡を見る。
今は、僕と父上しかいない。
二つの金属を置いた場所からも、父上は離れている。
だから外れた雷が地面に落ちても、それで済んでいる。
でも、もし人がたくさんいる場所だったら。
もし目の前に敵がいて、その近くで誰かが一緒に戦っていたら。
狙った相手に落ちなかった雷が、地面へ行くとは限らない。
隣にいる誰かへ落ちるかもしれない。
「……危ない」
父上の表情が変わった。
「何がだ?」
「外れた雷」
僕は地面を指した。
「今は地面に落ちてる。でも、人がいたら……その人に落ちるかもしれない」
口にしてみると、それまでとは違う怖さがあった。
当たらないだけじゃない。
狙ったところに落ちないということは、どこへ行くのか僕にも分からないということだ。
敵に当たらないだけなら、失敗で済む。
でも、一緒にいる人へ落ちたら。
それは失敗では済まない。
父上はしばらく地面の跡を見ていた。
「そこまで考えたのなら、覚えておけ」
「うん」
「分からないまま人の近くで使うな」
父上の声はいつもより低かった。
僕は鉄を握ったまま頷く。
「うん。使わない」
『雷の記録』を開く。
たくさん書いた。
最初の頃より、雷のことは分かってきた。
それなのに、最初に困っていたことはまだ残っている。
いや。
前より分かったからこそ、困っていることも増えた。
ただ当てたいだけじゃない。
外れた雷が、誰かに当たるような使い方もしたくない。
「……どうしたらいいんだろう」
答えは浮かばなかった。
でも、何が必要なのかは前よりはっきりしていた。
落ちやすいものを知るだけじゃ足りない。
僕が本当に知りたいのは――。
狙ったところへ、安全に雷を届ける方法。
僕は『雷の記録』に、その言葉を書き加えた。




