↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
243/259

引き戻す手

ブラウンドラゴンの前脚が、ガレスの頭上で止まった。

「ガレス、横へ!」

クロードが叫ぶと、ガレスは右手で地面を押した。

左腕を身体に寄せたまま横へ倒れ、動く方の脚で土を蹴る。

振り下ろされた前脚が、ついさっきまでガレスのいた場所を踏み砕いた。

土の塊が跳ね、クロードの足元まで転がってくる。

「ぐっ……!」

ガレスは痛みに顔を歪めながら、もう一度右手をついた。

少し離れられたものの、立ち上がるには足場が悪すぎた。

「こっちへ来られるか!」

ノーゼスが段差の上から声を掛ける。

「行きたいけど……っ!」

ガレスは膝を立てようとして、左腕が揺れた途端に息を詰めた。

ブラウンドラゴンが爪を土から引き抜く。

その頭がガレスの方へ下がりかけた。

「ガレスから離して!」

エクリアが剣を構えて一歩横へ動いた。

竜の目が、斜面の上にいる五人へ向く。

大きな頭が持ち上がるのを見て、クロードもガレスから離れた側へ足を運んだ。

「こっちだ!」

竜が首を伸ばした。

クロードは飛びかかるのではなく、顎の向きが変わるのを見て後ろへ下がった。

牙が地面近くを通り、土が削られる。

「クロード、そっちの端、崩れてる!」

ピアの声で足を止めると、すぐ横の草が土ごと滑り落ちた。

クロードは踏み直し、左手の剣を握り直した。

右手はまだ空いている。

けれど、竜のすぐ横にガレスがいる以上、雷を放つために動きを止めるわけにはいかなかった。

「ノーゼス、あそこからガレスに行けない?」

ベンが土の段差の端を指した。

段差は途中で低くなり、その先には草の残った斜面が続いている。

「行けそうだ。でも竜が近すぎる!」

ノーゼスは下を見て、すぐには飛び降りなかった。

「先に通れる方を確かめよう!」

ピアが少し上へ動き、二人が戻ってくるための場所を探した。

「右側は草が残ってるよ!」

「分かった!」

ベンは返事をしたが、目はガレスから離せなかった。

さっき使うと言った《ヒール》も、竜が目の前にいる間は試すことさえできなかった。

「ベン、上にいろって……言っただろ!」

ガレスは右手を地面につき、何とか腰を浮かせた。

「今度は僕が手を貸すよ!」

「待て、まだ行くな!」

ノーゼスがベンの肩を押さえる。

竜の前脚が踏み替えられ、ガレスの近くで土が沈んだ。

そのたびにガレスは身体を引き、左腕を揺らさないようにしていた。

クロードは斜面の下を見た。

竜の向こう側に、剣を持ったグレインの姿が見える。

さっきよりは近い。

それでも、まだ竜と六人の間には入れていなかった。

「先生!」

クロードが声を張った。

グレインがこちらへ顔を上げる。

竜の太い尾が動き、グレインは近づく足を一度止めた。

そのまま尾が通り過ぎるのを待たず、地面の高い側へ回り込む。

「ガレスを動かせるか!」

「まだ、竜が近くて!」

ノーゼスが答えた。

「無理に前へ出るな!」

グレインは竜の後脚へ目を向け、剣を構えたまま距離を詰める。

竜は上方の五人へ首を伸ばし、再びガレスの方へ頭を下げた。

「ガレス、少しだけ上を向いて!」

エクリアが叫ぶ。

ガレスが顔を上げると、段差の切れ目が見えた。

「そっちへ行く!」

右手で土を掴み、膝を立てる。

一歩分だけ上がったところで、左腕が身体に触れて声が漏れた。

「くっ……!」

足が止まる。

竜の鼻先が再びこちらへ向きかけた。

その時、後方で鋼の擦れる音がした。

グレインの剣が、竜の後脚の内側へ伸びる。

竜は傷のある脚を引き、身体をひねった。

刃は届かなかったが、竜の頭がガレスから離れた。

続いて太い尾がグレインへ振られる。

グレインは足を引いて避け、剣を構え直した。

「今だ! ガレスを連れて離れろ!」

「ベン、右から行くぞ!」

ノーゼスが段差の切れ目へ向かう。

ベンは右手の剣を鞘へ収め、すぐに後を追った。

二人は崩れた土を踏まないように斜めに下り、ガレスのすぐ上まで近づく。

「ガレス、右手を貸して!」

ベンが手を伸ばす。

ガレスは一度竜の方を見たが、竜はグレインへ首を向けていた。

「……頼む!」

ガレスが右手を差し出す。

ベンはその手を掴み、ノーゼスがガレスの背中へ手を添えた。

「左腕には触るなよ!」

「分かってる!」

二人は一度に引き上げようとせず、ガレスが右足を置ける場所を待った。

「ここ、踏めるか?」

ノーゼスが固い土の端を示す。

「ああ……!」

ガレスはそこへ足を載せ、右手でベンに掴まったまま身体を起こした。

左腕が揺れないようにしていても、顔色はよくなかった。

「立てた……!」

ベンが息を吐く。

「まだ喜ぶな、上まで行くぞ!」

ノーゼスが促した。

ガレスは返事の代わりに頷き、短い一歩を踏み出した。

上方ではピアが三人の進む先を見ていた。

「そのまま来て! こっちなら足を置けるよ!」

エクリアは少し下へ移り、三人の前に残っていた土の塊を避けるように道を空けた。

クロードは三人の横へ戻り、グレインと竜の位置を見た。

竜が斜面の上へ首を向けたのを見て、グレインは横から一歩踏み込んだ。

竜の首が向き直り、牙がグレインのいる場所へ迫った。

グレインは身体を横へ逃がし、斜面の下側へ回る。

「先生!」

「振り返るな! 六人で上がれ!」

グレインの声が返った。

クロードは唇を噛み、ガレスたちへ向き直った。

「ピア、先の道は?」

「少し広くなってる! でも右の端は避けて!」

「分かった。ベン、そこへ向かって!」

ベンがガレスの右側に入り直した。

ガレスはベンの肩に右腕を預け、ノーゼスに背中を支えられながら歩き始める。

一歩進むごとに息を詰めるが、足は動いていた。

「無理するなよ」

ノーゼスが言う。

「無理しなきゃ……ここから出られないだろ……」

ガレスが歯を食いしばって返した。

ベンは何も言わず、ガレスの歩幅に合わせた。

段差を越えたところで、ガレスは一度振り返ろうとした。

「剣が……」

落とした実剣が、竜の近くの草地に見えた。

「今は取りに行けない!」

クロードが言うと、ガレスは悔しそうに顔を歪めた。

「……分かってる」

再び前へ向き直り、ベンとノーゼスに支えられて歩き出す。

ピアとエクリアも少し先へ移動し、六人の通れる幅を確かめた。

その時、ガレスの足が止まった。

「……悪い、少し待ってくれ」

ガレスが左腕を身体へ寄せようとして、息を詰めた。

ベンはガレスの顔を見た。

「ガレス、《ハイヒール》を使うよ」

「……さっき言ってた《ヒール》じゃないのか?」

「その腕なら、こっちの方がいい」

ノーゼスが竜の方を見た。

グレインはまだ竜の注意を引きつけている。

「長くは止まれないぞ」

「分かってる」

ベンが答えると、ノーゼスはガレスの背を支え直した。

ベンはガレスの右腕を自分の肩に預けさせたまま、空いている右手を上げる。

一つずつ指を動かし、中級回復魔法の《印》を組んだ。

「《ハイヒール》!」

淡い光がガレスの左腕を包んだ。

「……あ」

ガレスの強張っていた肩から、少し力が抜けた。

「痛みが……さっきより、ましだ」

ベンはその顔を見て息を吐いたが、左腕の形は変わっていなかった。

「まだ動かしちゃ駄目だよ」

「分かってる。……でも、助かった」

「お礼は、もっと離れてからにして」

ノーゼスが短く笑い、すぐに斜面の下へ目を戻した。

「行くぞ。先生が引きつけてくれてる間に!」

ガレスは頷き、ベンに体重を預け直した。

クロードは最後尾で剣を握り、下方を見た。

竜はまだグレインの剣に向き直っている。

だが、グレインも少しずつ後ろへ動かなければ、六人との距離が開いてしまう。

「行くぞ!」

クロードが声を掛けると、ガレスは短く返事をした。

「……ああ!」

六人は歩幅を落としながら、斜面の上へ進んだ。

ガレスの左腕は痛みで動かせず、右手も仲間の肩から離せなかった。

それでも、竜の足元に倒れていた場所からは離れられた。

下から低い唸り声が響く。

グレインの剣がまた動き、竜の身体がその方へ向いた。

クロードは仲間の背中を見て、一歩遅れないように足を運んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。