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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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届かない一歩

クロードは前を走るノーゼスの背中を追いながら、斜面を上っていた。

草の短い場所を選んでも、踏み出すたびに脚が重くなる。

その後ろでは、ブラウンドラゴンの足音が途切れなかった。

「……また近づいてる!」

ベンが振り返って叫んだ。

クロードも肩越しに下を見る。

先ほどは草の向こうに頭だけが見えていた竜が、今は胸の古傷まで見えるところへ来ていた。

太い後脚が地面を蹴るたび、六人との距離が狭まっていく。

「このままじゃ追いつかれるぞ!」

ガレスが声を上げた。

「分かってる!」

ノーゼスは前を向いたまま答えたが、少しして足を緩めた。

「俺の壁で、あいつを回り道させられないか?」

「止められるの?」

ピアが聞く。

「止めるのは無理かもしれない。でも、回るならその間に離れられるだろ」

エクリアは進む先と竜の位置を見比べた。

「右の方なら上れそうよ。竜を左へ回せれば……」

「壁を出す間、こっちは見てるよ」

クロードが言うと、ノーゼスが頷いた。

「頼む!」

六人は走りながら少しずつ位置を変えた。

エクリアとピアが先に右へ寄り、ベンがその後を追う。

ガレスはベンのすぐ後ろで、斜面の下を見ていた。

クロードはノーゼスの横へ残り、右手の剣を構える。

ノーゼスが剣を左手へ持ち替えた。

空いた右手の指を動かし、《印》を組み始める。

「来てるよ!」

ベンの声が飛んだ。

竜が首を下げ、六人の方へ歩幅を広げた。

「《ロックウォール》!」

斜面の下方で土が盛り上がった。

竜の進む先を斜めに遮るように、土の壁が立つ。

ブラウンドラゴンは壁の手前で頭を振り、足を踏み替えた。

「動きが変わった!」

ピアが叫ぶ。

竜は壁へ突っ込まず、左の端へ身体を向けた。

「今のうちに上がろう!」

クロードが言った。

ノーゼスが剣を右手へ戻し、クロードと一緒に斜面を駆け上がる。

前を走るガレスが振り返った。

「こっち、まだ通れる!」

「ええ、でも竜も回ってくるわ!」

エクリアが剣を左手へ持ち替えた。

壁を回る竜の頭が、六人のいる側へ向き直る。

エクリアは横へ移動しながら右手で《印》を組んだ。

「《ウィンドボール》!」

風の球が竜の顔の横へぶつかった。

大きな頭がわずかに振られ、竜は一歩を踏み直した。

「今、離れて!」

エクリアも剣を持ち直し、仲間と同じ方向へ走った。

竜はすぐに首を戻した。

そのまま土壁の端を回り込み、また斜面を上り始める。

「効いてないのかよ……!」

ガレスが息を吐いた。

竜の向こう、斜面の下で剣を持った人影が動いた。

グレインだった。

「先生!」

ベンが叫んだが、その声に返事はなかった。

グレインはこちらへ向かっている。

それでも、竜との距離の方がずっと短かった。

「少しは向きが変わったよ!」

ベンが返した。

クロードにも、そのわずかな違いは見えていた。

ノーゼスの壁で竜は進路を変え、エクリアの風で一度だけ足を踏み直した。

けれど、開いた距離はほんの少しだった。

「もっと右へ行ける?」

クロードが尋ねる。

「ここなら――」

ピアが答えかけたところで、足元から低い音がした。

草の下の土が、ゆっくりと押し上がり始めていた。

「待って、足元!」

ピアの声に、六人が動く向きを変える。

次の瞬間、斜面の土が大きくせり上がった。

「うわっ!」

ベンの足元に段差ができ、身体が下側へ傾く。

剣を持った右手を広げても、踏ん張る場所がない。

「ベン!」

ガレスが叫んだ。

ベンは盛り上がった土の端に片足を掛けたが、崩れた土ごと斜面の下側へ滑った。

ガレスはすぐ近くの固い地面へ足を移し、空いている左手を伸ばした。

「掴まれ!」

ベンがその手を掴む。

ガレスは腕を引き、ベンを段差の上へ戻そうとした。

「こっち!」

ノーゼスも反対側から手を伸ばす。

ベンの身体がようやく土の上へ上がった。

その向こうで、ブラウンドラゴンが地面を踏みしめる。

先ほどの土壁を回った竜は、もうすぐそこまで来ていた。

「ガレス、離れろ!」

ノーゼスが叫ぶ。

ガレスも竜の前脚が上がるのを見た。

ベンの手を離して身体を引こうとしたが、片足はまだ段差の下側にあった。

上へ踏み直そうとすると、土が靴の下で崩れる。

クロードは二人の姿と竜の位置を見比べた。

このままでは、ガレスが避けきれない。

右手には剣がある。

雷を使うには、持ち替えなければならない。

クロードは剣を左手へ移し、右手を上げた。

けれど、竜とガレスの間にはベンもいた。

「ベン、上へ!」

叫ぶと、ベンはノーゼスに腕を引かれて段差の上へ退いた。

ガレスはまだ下側にいる。

クロードは足を横へ運び、ガレスから離れた竜の肩へ向きを変えた。

右手で、何度も練習した《印》を組む。

指が動く間にも、竜の前脚は上がっていく。

「《サンダーボール》!」

青白い雷の球が飛んだ。

竜の肩の鱗に当たり、光が弾ける。

褐色の身体がわずかに揺れた。

けれど、振り出しかけた前脚は止まらなかった。

「ガレス!」

クロードの声と、鈍い音が重なった。

竜の爪が土を抉り、その前脚の外側がガレスの左腕を打った。

ガレスの身体が横へ弾かれ、草地へ倒れ込む。

右手から剣が離れ、斜面を少し滑って止まった。

「ぐっ……ああっ!」

ガレスが左腕を抱え、身体を丸めた。

「ガレス!」

ベンが段差の上から叫んだ。

クロードは右手を下ろした。

さっきの雷は竜に当たった。

狙った方へ飛んだ。

それでも、あの前脚を止められなかった。

ブラウンドラゴンが頭を上げ、六人のいる方へ向き直る。

「みんな、下がって!」

ピアが声を張った。

エクリアは剣を構え、竜の頭から目を離さない。

「ガレスを置いていけないわ!」

「分かってる!」

ノーゼスが返し、ベンを背後へ押しやった。

「お前は上にいろ!」

「でも、ガレスが……!」

「俺も見えてる!」

ガレスは起き上がろうとしたが、左腕を動かした途端に顔を歪めた。

肘の少し下から先が、不自然な向きになっていた。

「……くそ、腕が……」

右手を地面につき、何とか身体を起こそうとする。

クロードは剣を右手へ戻すのも忘れ、倒れたガレスと竜を交互に見た。

すぐ下では、太い後脚がまた土を踏みしめていた。

ベンがガレスの方へ一歩動く。

「俺が《ハイヒール》を使う!」

「待って、まだ近い!」

ピアが止めた。

ガレスは顔を上げ、ベンを見た。

「来るな……お前は、上にいろ……!」

ベンの足が止まる。

クロードは左手の剣を握り直し、段差の下へ目を向けた。

ガレスのところまで行くには、竜の前を通らなければならない。

その竜が、もう一度前脚を持ち上げた。

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