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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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離れるための間合い

土壁の向こうで、また鋼のぶつかる音がした。

クロードは振り返りかけた顔を前へ戻し、斜面を上り続けた。

細い道を抜けてからは横へ動ける場所も増えたが、草に覆われた地面は平らではない。

「こっち、少し歩きやすいわ!」

エクリアが前方の草の薄いところへ進んだ。

ガレスがその後を追い、途中で振り返る。

「ノーゼス、来てるか!」

「来てるって! お前こそ前見ろよ!」

「見てるよ!」

そう返しながらも、ガレスの視線は一度だけ斜面の下へ向いた。

竜の姿は見えない。

盛り上がった土壁と、そこから続く傾斜が邪魔をしていた。

「ガレス、止まらないで」

ピアが言った。

「……分かってる」

今度は戻ろうとせず、ガレスは上りへ向き直った。

ベンが剣を握った手を少し下げ、息を吐く。

「さっきより、音が遠くなってない?」

クロードも耳を澄ませた。

確かに剣の音は、先ほどほど続けて聞こえない。

「距離が開いたからじゃないか?」

ノーゼスが言う。

「そうかもしれないけどさ」

ベンはそれ以上続けず、足を動かした。

先生が竜を止めたのか、それとも別の場所で戦っているのか。

クロードには分からなかった。

「上まで行ったら、一度みんなの位置を見よう」

クロードが声を掛けると、エクリアが前から答えた。

「ええ。でも、ここでは止まらないわよ」

「うん」

その時、下の方から低い唸り声が響いた。

ガレスが肩を揺らしたが、足は止めなかった。

六人は互いの姿が見える距離を保ちながら、さらに斜面を上っていった。


◇


グレインは土壁の端から、ブラウンドラゴンの頭が動くのを見ていた。

竜が首を伸ばした先は、六人の逃げていった斜面だった。

すでに生徒たちの姿は見えない。

細い道を全員が抜けたことまでは確かめている。

それでも、この竜が斜面を追い上がれば、再び追いつくかもしれなかった。

グレインは剣先を竜へ向けたまま、横へ一歩動いた。

竜の目がこちらへ戻る。

グレインは踏み込まず、さらに斜面とは反対の側へ移った。

竜が前脚を出し、壁の端へ寄る。

その大きな顎がこちらを向いたところで、グレインは剣を振った。

狙いは頭ではない。

先ほど傷をつけた後脚の方へ、踏み込む気配を見せる。

竜は脚を引き、身体の向きを変えた。

グレインの剣は届かない。

だが、竜が斜面へ向けかけていた身体は、横を向いた。

グレインはそのまま距離を取った。

「……追ってくるか」

ブラウンドラゴンが低く唸る。

傷ついた後脚を地面へつき直し、今度はグレインへ頭を下げた。

大きく開いた顎が迫る。

グレインは横へ抜け、剣を自分の身体の前へ戻した。

牙の先が、わずか前の空間を通り過ぎた。

すぐに竜の首が戻ってくる。

その動きを追っていたグレインは、もう一歩後ろへ下がった。

今度は反撃しない。

竜が前へ出ようとすると、グレインも土壁に沿って位置を変えた。

自分が斜面へ退けば、竜もそちらへ向かうかもしれない。

六人と同じ道を使うつもりはなかった。

土壁は、さっきまで剣を振るう邪魔だった。

けれど、壁を挟めば竜の顎も前脚も、そのまま真っすぐには届かない。

グレインは壁の端を見ながら、足を運んだ。

竜が追ってくるなら、壁を回らなければならない。

その動きに合わせれば、こちらも離れる時間を作れる。

ブラウンドラゴンが壁の端へ踏み込んだ。

グレインは剣を構え直し、竜が回り込む側とは反対へ動く。

土壁が二つの身体の間に入った。

竜の全身が見えなくなる。

次の瞬間、壁の向こうから重い足音が近づいた。

グレインはそこで立ち止まらなかった。

見えない相手を待つよりも、足音の向きに合わせて距離を保つ。

壁の端から褐色の鼻先が現れる。

グレインはその正面へ入らず、もう一度横へ抜けた。

竜の顎が空を噛む音がした。

背後から尾が回ってくる。

グレインは大きく跳ばず、身体を低くして足を引いた。

尾が土壁の端を擦り、土くれが崩れ落ちた。

細かな土が肩へ降りかかる。

グレインは目を細めながらも、剣を手放さなかった。

土壁の高さも厚みも、場所によって違う。

向こう側が見えないところへ不用意に近づくわけにはいかない。

竜が再び顔を出した時、グレインはすでに少し離れた場所へ移っていた。

竜の足が止まる。

グレインは剣を下ろさない。

一度傷をつけたからといって、あの脚が使えなくなったわけではなかった。

竜は後脚で地面を蹴り、こちらへ向き直る。

その動きに、先ほどの勢いが残っている。

グレインは壁の向こうへ回り込み、竜の視線から外れた。

今なら、少し下手へ動ける。

六人が逃げた斜面から離れる方向だった。

グレインは足音を殺そうとはせず、足場を確かめながら距離を取った。

背後で土を踏む大きな音がする。

竜も壁を回り始めたらしい。

ここで背中を向けて一気に走れば、次の動きを見失う。

グレインは短く振り返り、竜がどちらの端へ出るか確かめた。

褐色の頭が土壁の上に現れ、すぐに消えた。

「そっちか」

グレインは剣を持ち直し、さらに横へ歩を移した。

戦う距離を広げながら、竜に斜面の方へ抜けられない位置を選ぶ。

竜の足音が一度遠ざかり、また近づいた。

まだ振り切れてはいない。

それでも、六人のいる方向からは少しずつ離れていた。


◇


斜面の上では、六人が草の途切れた場所へ出ていた。

エクリアが足を緩め、後ろを確かめる。

「全員いるわね」

「いるよ」

ピアは返事をしてから、胸を大きく上下させた。

ガレスは膝へ手をつきかけ、剣を持っていることを思い出して姿勢を戻した。

「……さすがに、きついな」

「さっきからずっと走ってるからね」

ベンの声にも息が混じっていた。

「まだ上へ行けるぞ」

ノーゼスが先を指す。

道は続いているが、すぐ先からは下の様子がほとんど見えなくなりそうだった。

クロードは背後を振り向いた。

土壁は遠くなり、上から見えるのは盛り上がった土の一部だけだ。

剣の音は、しばらく聞こえていなかった。

「先生、どうしたんだろう」

思わず口にすると、ガレスも下へ目を向けた。

「……見に戻った方がいいんじゃないか?」

言い終わる前に、ガレスは小さく首を振った。

「いや、駄目だな。戻るなって言われてた」

ピアは何も言わずに頷いた。

エクリアが道の先を見た。

「ここで立ち止まっても、先生がどこにいるかは分からないわ」

「それは、そうだね」

クロードは答え、剣の柄を握り直した。

土壁の向こうから、かすかな竜の唸り声が届く。

続いて、少し間を置いて鋼の音がした。

「……聞こえた」

ベンが言った。

ガレスも顔を上げる。

クロードはその音のした方を確かめようとしたが、斜面の下は見えなかった。

「行こう」

エクリアが言い、先へ進み始める。

六人は互いに間隔を取り直して、その後を追った。

離れていく足音の向こうで、もう一度竜の唸り声が響いた。

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