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『異世界転生した製鉄所主任、雷魔法と鉱物生成で成り上がる ~未知の世界は面白いことだらけでした~』~幼少期・王立学園編~  作者: 黎明の星
王立学園編

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くための戦い

「黄札……?」

グレインの呟きが聞こえ、クロードはもう一度、立ち上がった土の壁を見た。

さっきまで草が生えていた場所に、崩れた土をこぼしながら壁が立っている。

ノーゼスの《ロックウォール》とは違い、誰も《印》を組んでいなかった。

「先生、あれは……」

「今はいい。全員、斜面の方へ下がれ」

グレインは剣を構えたまま、振り返らずに答えた。

「荷物もそのままでいい。取りに戻るな」

「はい!」

クロードは仲間と顔を見合わせ、右手の剣を握り直した。

六人の少し前にはグレインがいる。

その向こうには新しくできた土壁があり、さらに木立の側にブラウンドラゴンが立っていた。

胸の大きな傷は、身体が呼吸するたびにわずかに動いて見える。

「こっち、上へ戻る道が見えるわ」

エクリアが斜面を指した。

「でも、走ったら足を取られそう」

「離れながら、足元も見よう」

ピアの言葉に、ガレスが頷く。

「分かった。先に行くぞ!」

「一人で行くなよ」

ノーゼスに言われ、ガレスはすぐに歩調を緩めた。

「分かってるって!」

いつもなら笑い声が返るところだった。

けれど、ベンは木立の端から目を離さなかった。

「……まだあいつがいる」

そこには、先ほど逃げ遅れたラッシュボアがいた。

落ち着かない様子で足を動かし、竜と六人を交互に見ている。

「見てる。こっちへ来たら知らせて」

ピアが応じる。

六人は背を向けず、斜面に向かって少しずつ下がり始めた。

クロードも足を運びながら、グレインの位置を確かめる。

グレインは土壁の端へ動き、ブラウンドラゴンが六人へ向かうなら、その間へ入れる位置を取っていた。

竜はすぐには追ってこなかった。

倒れたラッシュボアの一体へ頭を寄せ、低く鼻を鳴らしている。

血の匂いが風に乗って届いた。

クロードは顔をしかめ、剣の柄を握る手に力を込めた。

あの竜は、倒れた魔物を目当てに来たのだろうか。

そうだとしたら、このまま離れられるかもしれない。

「止まるな。ゆっくりでいい」

グレインの声が飛ぶ。

クロードたちは足を動かし続けた。

だが、ブラウンドラゴンが頭を上げた。

その目がグレインの方へ向く。

グレインは剣を下げず、土壁の端からさらに横へ移った。

竜も身体の向きを変える。

「……先生の方を見てる」

ベンが小さく言った。

「うん」

クロードは返事をしながら、斜面へ一歩足を掛けた。

背後からは仲間の靴が草を踏む音が聞こえる。

その時、低い唸り声が響いた。

竜が土を踏み、グレインの方へ歩き出す。

「そのまま下がれ!」

グレインは剣を構え直し、六人と竜の間から離れなかった。

ブラウンドラゴンの歩幅が大きくなる。

さっきまでゆっくり動いていた身体が、急に前へ出た。

「先生!」

ガレスの声が上がる。

グレインは竜の真正面から外れ、開いていた側へ身体を滑らせた。

竜の頭が低く振られ、太い顎が先ほどグレインのいた場所を通り過ぎる。

そのまま伸びた首を追いかけず、グレインは足の位置を変えて剣を振った。

刃が褐色の身体の側面をかすめる。

竜は声を上げ、長い尾を大きく振った。

グレインは一歩引いて尾をやり過ごす。

「うわ……!」

ノーゼスが息を呑んだ。

「今の、危なかったね……」

ベンが呟く。

グレインは再び竜の横へ動こうとした。

だが、その足元の草が不自然に持ち上がった。

「……っ!」

グレインは踏み込むのをやめ、身体を引く。

直後、土が盛り上がり、先ほどより低い塊が進む方向を塞いだ。

剣先が届くと思った場所に、もう入れない。

ブラウンドラゴンはそこで止まらず、頭をグレインの方へ向け直した。

「また地面が!」

エクリアが声を上げる。

クロードも思わず足を止めかけた。

あんな近くで土が盛り上がったら、剣を振るうより先に足を取られるかもしれない。

「クロード、行こう!」

ピアに呼ばれ、クロードは斜面へ視線を戻した。

「うん!」

今はグレインのそばへ駆け寄っても、邪魔になるだけだ。

六人はさらに距離を取ろうとした。

「待って、そっち!」

ベンが木立の端を指した。

残っていたラッシュボアが、急に頭を低くして走り出していた。

竜のいる方を避けるように、草地を斜めに横切ってくる。

「こっちに来るぞ!」

ガレスが声を上げる。

逃げるつもりなのか、向かってくるつもりなのか、クロードには分からなかった。

ただ、その先には六人が上がろうとしている斜面がある。

「上へ行けない!」

ノーゼスが立ち止まった。

ガレスも剣を構え、ベンが横へ位置を変える。

「正面に入らないで!」

エクリアの声が飛ぶ。

ピアは斜面の上とラッシュボアを見比べた。

「ここで避けても、上を通られたら危ないよ」

「じゃあ、少し横へずれよう」

クロードは草地の開けた側を示した。

六人がそこへ動こうとすると、ラッシュボアも鼻先の向きを変えた。

「こっちを見た!」

ベンは剣を持ち直した。

これまで何体ものラッシュボアを相手にしてきた。

それでも、腕は疲れ、足にも重さが残っている。

クロードは魔物との距離を測った。

ここで剣を左手へ持ち替えても、《印》が終わるより先に近づかれるかもしれない。

右手の実剣を握ったまま、前へ出ずに動きを待つ。

その向こうでは、グレインがもう一度ブラウンドラゴンの突進を横へ避けていた。

竜の大きな身体が草を押し倒す。

グレインは六人の方を一度だけ確かめた。

「そっちは下がれ! 無理に近づくな!」

「はい!」

クロードは返事をした。

だが、ラッシュボアが斜面の上り口を横切るように走り、六人の足は止まった。

「……これじゃ下がれないだろ!」

ガレスが剣を構え直す。

「ここで止めるしかないのか」

ノーゼスがラッシュボアの動きを追う。

「みんな、離れすぎないで」

ピアが言った。

クロードは頷き、エクリアとベンの位置を確かめた。

少し先では、ブラウンドラゴンがまた地面を踏み鳴らした。

グレインの剣がその前で動く。

六人の目の前では、ラッシュボアが脚を踏ん張り、こちらへ顔を向けた。

グレインを助けに行くことも、荷物を取りに戻ることもできない。

クロードは剣を構え、仲間と一緒にその場で踏みとどまった。


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