高台からの景色
斜面を上り始めると、さっきまで足元に広がっていた草地が少しずつ低くなっていった。
道は途切れていないが、平らなところを歩く時よりも一歩が重い。
クロードは前へ足を出し、荷物の重さを背中で受けながら上っていった。
「おっ、もう少しで上だな!」
ガレスが顔を上げた。
斜面の先には空が広がり、どこから道が平らになるのかはまだ見えない。
「さっきもそう言ってなかった?」
ベンが後ろから声を掛けた。
「今度は本当に近いだろ!」
「それ、また聞いたよ」
「じゃあ、着くまで言わない!」
「言わなくても、顔に出てるけどね」
ガレスが笑うと、ノーゼスもつられて笑った。
「俺は着いたら、まず荷物を下ろしたいな」
「さっき休んだばかりじゃない?」
ピアが言う。
「休んだあとも歩いてるからな」
「それはそうだね」
ピアは笑ってから、少し高くなった道の先へ目を向けた。
エクリアは上りの途中で一度振り返った。
「もう、あの木立がこんなに下に見えるのね」
クロードも横へ顔を向ける。
先ほど休憩した場所は草の斜面に紛れ、その向こうに木々の集まりが見えていた。
「歩いてる時は、少しずつしか上ってない気がしたのに」
「積み重なると結構違うんだな」
ノーゼスが答えた。
道の傾きが増したところで、先を歩いていたガレスが少し速度を落とした。
後ろの五人が追いつくと、六人はまた同じくらいの歩調で進む。
グレインは斜面と周囲を見ながら、六人の後方についていた。
やがて、クロードの目の高さにあった草の斜面が途切れた。
「……あ」
一歩進むと足元の傾きが緩くなり、その先には広い空が見えた。
ガレスが立ち止まる。
「着いた!」
クロードたちも続いて上り切った。
高台の上は思っていたより広く、背の低い草が風に揺れている。
上ってきた方とは反対側にも、緩やかな斜面が続いていた。
その向こうには小さな丘が連なり、低いところに木々が集まっている。
「うわあ……」
ピアが思わず声を漏らした。
「すごいね。向こう側にも、こんなに続いてるんだ」
クロードは返事をするのも忘れ、しばらく景色を眺めていた。
木立を抜けた時にも、遠くまで見えると思った。
けれど今は、その木立さえ丘の下の一部分になっている。
見える場所が変わるだけで、同じ土地がこんなに違って見えるのか。
「おい、あっちも見ろよ!」
ガレスの声に、クロードは顔を向けた。
少し離れた先に、丘と丘の間を縫うように細い道が見えている。
「道だ!」
「うん。あそこを通れば、向こうの丘へ行けそうだね」
ピアが答えた。
「いや、そこまで行くとは言ってないからね」
ベンが付け加えると、ガレスは振り返って笑った。
「分かってるって! 見えたから言っただけだよ!」
グレインは六人の少し横で周囲を確かめてから、上ってきた道へ一度目を向けた。
「ここが、今回の指定地点だ」
六人はグレインの方を向いた。
「じゃあ、着いたんですね!」
ガレスが言う。
「ああ。全員そろってな」
その言葉に、クロードは仲間の顔を順に見た。
ガレスもベンも、ノーゼスもエクリアもピアも、少し息を弾ませながら笑っている。
「やったな!」
ガレスが両手を上げた。
「まずは一つ達成、だね」
ベンも笑った。
「『まずは』って?」
ノーゼスが尋ねると、グレインが答えた。
「着いたから終わりじゃないぞ」
「あっ、帰るのもあるんだった!」
ガレスが頭をかく。
「忘れてたの?」
エクリアが笑った。
「忘れてたわけじゃないって。今、着いたのが嬉しいんだよ!」
「それは分かるわ」
エクリアも高台の向こうへ視線を戻した。
「私も、ここまで来られて嬉しいもの」
グレインは六人が落ち着くのを待ってから、荷物を下ろして少し休むよう伝えた。
クロードは道の通り道を避けた場所で荷物を下ろし、肩を軽く動かした。
ノーゼスは息を吐きながらその場に腰を下ろした。
「やっと上り終わった……」
「上る前は、着いたら荷物を下ろすって言ってたね」
ピアが笑う。
「ほら、ちゃんと実行しただろ」
「そこは有言実行なんだ」
ベンの言葉に、ノーゼスも笑った。
クロードは水を一口飲んでから、上ってきた方向へ歩いて視線を向けた。
足元には草の斜面が下り、遠くに木立が見える。
その手前には、自分たちが回り込んできた道が細く続いていた。
「こうして見ると、結構歩いたんだね」
エクリアが隣へ来た。
「そうね。あの道、上から見ると曲がり方がよく分かるわ」
「最初に見た急な坂の道は、どこへ続いてたんだろう」
クロードが言うと、エクリアは少し考えてから目を凝らした。
「木が重なってるところがあるから、全部は分からないわね」
「そっか」
「でも、私たちが通ったところなら見えるわ」
エクリアは丘の裾に沿った道を指で示した。
クロードもその先を目で追う。
道は途中で木々に隠れ、また草地に出て高台へ向かっていた。
「歩いてる時は、こんなに曲がってると思わなかった」
「上から見ると不思議ね」
二人が話していると、ピアも近くへやってきた。
「ねえ、反対側も見てみない?」
「うん、行こう」
三人が振り返ると、ガレスとベンも景色の方へ歩いていた。
ノーゼスは荷物のそばで休んでいたが、二人に呼ばれて立ち上がった。
「俺も行くよ。せっかく登ったんだからな」
六人は見通しのよいところまで移り、しばらく向こう側の丘陵地を眺めた。
風が強くなり、草が同じ方向へ倒れては起き上がる。
その先には、今まで見えなかった木々の広がりがあった。
「向こうにも森があるんだな」
ガレスが言った。
「でも、こっちの木立とは少し違って見えるね」
ピアは葉の色が濃く見える場所へ目を向けた。
「遠いからそう見えるのかな」
「近づいてみないと分からないわね」
エクリアが答えた。
ベンは何も言わずにその景色を眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。
「これ、学園にいたら見られない景色だね」
「うん」
クロードも頷いた。
「同じ丘陵地でも、上に来るとこんなに広いんだ」
ノーゼスは草の揺れる向こうを見て、少し笑った。
「今度は下りがあるんだよな」
「さっきまで上りが終わらないって言ってたのに」
ベンが返す。
「終わったから思い出したんだよ」
ガレスが笑い、ピアもつられて笑った。
クロードはもう一度、周囲の丘とそこに続く道を見渡した。
遠くから目指していた高台に、今は自分たちが立っている。
これから戻る道も、まだ見たことのない向こう側の景色も、同じ空の下に広がっていた。
風が吹き抜け、六人の足元で草がさわさわと音を立てた。




