高台を目指して
右へ曲がった道を進むと、木々の間から差し込む光が少しずつ増えてきた。
地面にはまだ根が張り出しているものの、道の幅はさっきより広くなっている。
ガレスは前方を見ながら、時々足元に目を落として歩いていた。
「おっ、向こうが明るいぞ!」
その声に、クロードも顔を上げた。
木の枝が途切れたところから、青い空が覗いている。
「そろそろ木立を抜けるのかな」
「そうみたいね」
エクリアが答える。
道の先から吹いてくる風が、葉を小さく揺らしていた。
「ずっと木の下だったから、外に出たら眩しそうだな」
ノーゼスが言うと、ベンが笑った。
「それより、上り坂が増えそうな気がするよ」
「今は坂のことを忘れさせてくれ」
「まだ高いところまで来てないのに?」
「だからだよ」
二人のやり取りを聞きながら、ピアが少し先へ視線を向けた。
「でも、向こうは歩きやすそうだね」
道の先では木の根が減り、代わりに草の生えた地面が広がり始めている。
クロードたちはそのまま歩き、やがて木立の外へ出た。
「うわあ!」
最初に声を上げたのはガレスだった。
目の前には、緑の丘がいくつも重なっていた。
低いところには木々が集まり、丘の斜面には背の低い草が風に揺れている。
その奥に、周りより一段高くなった場所が見えた。
クロードは思わず足を止めた。
木立の中では、近くの道と幹しか見えなかった。
そこを抜けただけで、こんなにも遠くまで見渡せる。
「結構広いんだね」
「丘が一つじゃないもの」
エクリアも立ち止まり、奥の斜面を眺めた。
「向こうの高いところまで、道が続いてるのかな」
「続いてるなら、登ってみたいな!」
ガレスが笑う。
その少し後ろで周囲を確かめていたグレインが、奥の高台へ目を向けた。
「あそこだ」
六人が振り返る。
「今回の目標地点は、あの高台だ」
「えっ、あそこですか?」
ガレスは指さされた先をもう一度見た。
「思ったより遠いな!」
「さっきは登りたいって言ってたのに」
ベンが返す。
「遠いのと登りたいのは別だろ!」
「そういうことにしておくよ」
ガレスは笑いながら、高台へ視線を戻した。
クロードもその方向をじっと見た。
高台の手前には、緩やかな丘がいくつか続いている。
ここから見える部分だけでも、まっすぐ歩いて着けるような場所ではなさそうだった。
「でも、目指す場所が見えると、ちょっと嬉しいね」
ピアが言った。
「うん。どこへ向かってるのか、分かりやすくなった」
クロードが答えると、ノーゼスも頷いた。
「近くなった気はしないけどな」
「それは歩いてからだね」
エクリアが笑い、六人は再び道を進んだ。
木立を離れるにつれ、足元の様子も変わっていった。
地面から浮き出た根は少なくなったが、今度は小さな石が増えている。
草に隠れた石を避けるため、クロードは歩幅を少し変えた。
鞘が脚に当たらないようにしながら、前を行く仲間との距離も確かめる。
「こっちは木の根がないと思ったら、石かあ」
ノーゼスが足元を見て言った。
「歩く場所によって違うんだね」
ピアは草の薄いところを選んで歩いていた。
ガレスは少し前の地面を見てから、振り返った。
「ここ、石が転がってるから気をつけろよ!」
「ありがとう、ガレス」
ピアが声を掛けると、ガレスは前を向いたまま片手を上げた。
クロードも教えられた石の横を通った。
歩くうちに道は少しずつ高くなり、木立の上の方が見えるようになってきた。
さっきまで横に広がっていた木々が、今は背後にまとまって見える。
「ねえ、あそこ」
エクリアが振り返って言った。
「私たち、あの木の近くを歩いてきたのよね」
彼女の視線の先には、丘の裾を囲むように木立が伸びていた。
クロードも来た方向を眺めた。
道の途中は枝に隠れているが、木々の並び方から、丘を回り込んできたことが分かる。
「遠回りしてるように見えたけど、本当に回ってたんだね」
「それでも、急な坂より歩きやすかったんじゃない?」
ピアが言う。
「少なくとも、ここまではね」
エクリアが答えた。
ガレスは木立と前方の丘を見比べてから、口を開いた。
「でも、上の道だったら、どこに出たんだろうな」
「それも気になるね」
クロードは頷いた。
歩いていない方の道がどこへ続くかは、ここからでは分からない。
ただ、目の前には自分たちが選んだ道が続いていた。
六人は時折景色を眺めながら、その道を歩いていった。
やがて、道の脇に少し平らな場所が現れた。
グレインが周囲を見回し、六人へ声を掛けた。
「ここで少し休むぞ」
「はい!」
ガレスは元気よく答えたものの、荷物を下ろすと大きく息を吐いた。
「やっぱり、ずっと上ってると疲れるな!」
「さっきまで元気だったのに」
ベンも荷物を下ろし、笑いながら肩を回した。
「元気だけど疲れるんだよ!」
「それなら僕も同じだね」
ノーゼスは腰を下ろす前に、鞘の位置を直した。
クロードも荷物を下ろし、水を飲んだ。
木立を抜けてからは、風が直接顔に当たる。
汗ばんだ額に風が触れ、少し気持ちよかった。
「ここからだと、来た道がよく見えるね」
ピアが木立の方を眺めていた。
クロードもそちらへ顔を向ける。
自分たちが通ってきた道は、丘の斜面に沿って細く伸び、途中から木々の陰へ消えている。
「歩いてる時は、こんな形だと思わなかった」
「私も」
エクリアが頷いた。
「木の中にいると、目の前しか見えないものね」
「向こうから俺たちのこと、見えてたのかな?」
ガレスが少し離れた木立を指した。
「何に?」
ベンが尋ねる。
「いや、鳥とかさ!」
「鳥なら上から見てるかもしれないね」
ピアが笑いながら答えた。
ちょうどその時、木立の上を小さな鳥が飛び越えていった。
ガレスが目で追うと、鳥は丘の向こうへ姿を消した。
「いいなあ。あっという間だ」
「荷物も持ってないしね」
ベンの言葉に、ノーゼスが笑った。
「俺たちも飛べたら楽だろうな」
「その荷物ごと?」
「……それはどうだろう」
クロードも笑い、もう一度高台へ目を向けた。
遠くから見た時より、その斜面の広がりが少し分かるようになっている。
あそこまで歩いて登れば、今とはまた違う景色が見えるのだろう。
「そろそろ行くぞ」
グレインの声に、六人は荷物を背負い直した。
休んだばかりの肩に重さが戻る。
「あそこからは、何が見えるんだろうな!」
ガレスが高台を見上げた。
「向こう側にも丘が続いてるのかな」
クロードも同じ方を見た。
「登ったら分かるかもしれないわね」
エクリアが答えると、ガレスは楽しそうに頷いた。
道は草の斜面を緩く横切り、やがて高台へ向かう坂の手前に出た。
ここまでと違って、少し先の地面が足元より高く見える。
ガレスが一歩進み、上りの具合を確かめた。
「おっ、ここからは少し登るな!」
「急に走り出さないでよ」
ベンが言う。
「走らないって!」
ガレスは笑い、仲間が並ぶのを待った。
ピアも坂の先を見上げた。
エクリアは荷物の肩紐を引き直し、ノーゼスも鞘が脚に触れない位置を確かめている。
クロードは一度だけ背後の木立を振り返った。
そこから高台まで、まだ歩く道が続いている。
六人はグレインとともに、目の前の斜面を上り始めた。




